ページに広告が含まれる場合があります。
世界のあちこちで、世帯収入ごとの生活ぶりわかる写真を撮影し、データとしてまとめたDollar Street(ダラーストリート)という名のツールがあります。
このツールを作った、Anna Rosling Rönnlund (アンナ・ロスリング・ロンランド)さんのTEDのプレゼンを紹介しますね。
タイトルは See how the rest of the world lives organized by income (収入によって区別した世界の人々が、どんなふうに暮らしているのか見てください)。
邦題は、「世帯収入ごとの世界の暮らしを覗いてみよう」。
このツールを使うと、国は違っても、収入が同じなら、きわめて似た生活ぶりになることがわかります。
世帯収入ごとの世界の暮らしを覗いてみよう:TEDの説明
What does it look like when someone in Sweden brushes their teeth or when someone in Rwanda makes their bed?
Anna Rosling Rönnlund wants all of us to find out, so she sent photographers to 264 homes in 50 countries (and counting!) to document the stoves, bed, toilets, toys and more in households from every income bracket around the world.
See how families live in Latvia or Burkina Faso or Peru as Rosling Rönnlund explains the power of data visualization to help us better understand the world.
スエーデンの人が歯磨きをするところや、ルワンダの人がベッドメイキングをしする様子はどんなふうでしょうか?
アンナ・ロスリング・ロンランドは、こういうことを、皆に知ってもらいたいと思い、50カ国、264の家庭にカメラマンを送り込み(その数は今も増えています)、コンロ、ベッド、トイレ、おもちゃ、その他の家財道具の写真を、その家庭の収入ごとに分けて記録しました。
ラトヴィアやブルキナファソ、ペルーの家族を見てください。データを可視化することは、世界をより理解するのに役立つと、ロスリング・ロンランドは説明します。
収録は2017年の4月、プレゼンの長さは11分42秒です。
動画のあとに抄訳を書きますが、このプレゼンは写真を見ないとピンと来ないので、できれば実際に動画を見てください。
日本語字幕もあります。英語や字幕なしがいい方は、プレイヤーで調節できます。
☆トランスクリプトはこちら⇒Anna Rosling Rönnlund: See how the rest of the world lives, organized by income | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
メディアが伝える世界はとても奇妙だ
皆さんは、世界を表すどんな写真を見ていますか?
天災、戦争、恐怖、難民、恐ろしい病気の写真を見ていますよね。一方で、美しいビーチやかわいい動物、すばらしい自然、その文化特有の儀式や物も見ています。
そのような写真を頭の中で組み合わせ、「世界ってこんなふうなんだ」と判断することになっています。
ですが、そんなことできないですよね。そうしようとすると、世界はずいぶん奇妙な場所になってしまうでしょう。
実際は、世界はそんなに不思議なところではありません。
世界を1つの通りだと考えてみると
世界が1つの通りだと想像してみてください。通りの一方にはもっとも貧乏な人たちが住んでいて、もう片方にはもっとも豊かな人たちが住んでいます。
世界の誰もがこの通りに住んでいます。
自分の隣人は自分とほぼ同じ収入の人たちです。
隣に住むのは、別の国の人や、別の文化を持つ人です。通りはこんな感じです。
私はスエーデンに住んでおり、沢山の学生に会っています。彼らに、「この通りに住んでいるとしたら、あなたはどのへんにいると思う?」と聞いてみました。
スエーデンに住んでいるなら、右側のいちばん金持ちのエリアのはずですよね?
ところが、学生は、「真ん中へんだと思う」と答えるのです。
世界中のおそろしい写真ばかり目にしていたり、本当は、金持ちエリアに住んでいるのに、真ん中あたりだと思っていたら、世界をきちんと理解することは難しいです。
世界の家庭の生活ぶりがわかる写真を集めた
そこで、私は、50カ国、264の世帯にカメラマンを送り込みました。いまもこの数は増えています。
そして、それぞれの家庭で、同じ物の写真をとってもらいました。ベッド、コンロ、おもちゃなど135個の物です。
こうして4万枚ほどの写真が集まりました。こんな感じのものです。
一番上に、「世界における、収入ごとにわけた家族」とあります。その下にあるのは、通りを表すもの。その下に、写真を撮影した家族の写真があります。
通り(バー)の左に行くほど貧しく、右に行くほど裕福です。それぞれの家庭の様子を見ることができます。
たとえば、ジンバブエの家族、インドの家族、ロシア、メキシコというように。地域や国の名前から絞り込むこともできます。
まず、玄関を見てみましょう。収入順に並んでいます。
インドやフィリピン、中国、ウクライナなど、ずいぶん違いますね。家のなかに入るとベッドがあります。ベッドはこんな感じです。
インテリア雑誌の写真みたいじゃないし、メディアが見せる恐ろしい写真とも違います。
リアルな写真をデータとして使う
スエーデンの学生たちは、自分はまんなかへんと言っていたと話しましたよね。そこで、この通りの真ん中の収入でフィルタリングすると、こんな感じです。
これを学生たちに見せると、「ちょっと自分の家とは違う」と答えます。通りの左側の家庭のベッドを見せるとますます違います。右側のほうのベッドを見せると、彼らは、「ああ、自分の家に近い」と感じます。
ここにあるのは、中国、オランダ、韓国、フランス、アメリカなどの寝室の写真です。
写真をクリックすると、その家庭の詳細を見ることができます。ここから、この家庭にある物の写真も見られます。
このツールは誰でも無料で使え、写真を追加することもできます。
特に私が好きなのは、トイレの画像です。ふつうの人はなかなか見せたがらないのですが。いろいろなトイレがありますね。
中国やオランダ、アメリカ、ネパール、ウクライナ、フランスの家庭のトイレです。私たちが使っているのと似ています。こちらは、通りの右はじ、トップ(最裕福層)の家庭のトイレです。
左側に行くと、私たちが使っているのとちょっと違ってきます。このツールを使えば、データとして写真を見ることができるのです。
収入ごとにみる歯磨きのやり方
もちろん、写真では表わせないこともありますよね。
日常、行っていることは、人が実際やっているのを見たほうがわかりやすいです。手を洗う、洗濯をする、歯磨きをする、など。
ここで、歯磨きをしているごく短い動画をお見せします。おもしろいことに、みんな同じようなプラスチックの歯ブラシを使っています。
貧乏な家庭を見てみると、棒きれや指をつかって歯を磨いています。マラウイのこの女性は歯を磨くとき、壁の土をひっかいて、それを水と混ぜて歯磨き粉として使っています。
ですから、Dollar Street のデータとして、この写真は、「壁」だけでなく「歯磨き粉」というタグ付けをしています。
収入が少ないと、棒や指を使いますが、まんなかへんの収入になると、みな、歯ブラシを使い始めます。一番右の、裕福な人たちは、家族全員がそれぞれの歯ブラシを持っています。もうおばあさんと歯ブラシをシェアしなくてもいいわけです。
国ごとにフィルタリングしてわかること
国ごとに見ることもできます。
これはアメリカの家庭を、収入ごとに並べたグラフです。ほとんどの家がこのグラフのまんなかに来ます。
もっとも裕福な場所に来る、ハワードさんの家はこんな感じです。
このグラフの一番左に来る、貧乏な家庭もあります。この2つの家庭の写真を簡単に見比べることができます。
カトラリー(ナイフやフォーク、スプーンなど)を入れる引き出しの写真を比べてみましょう。ハドリー家では、すべてのカトラリーを緑色のプラスチックの容器に入れています。中にはプラスチックのカトラリーもありますね。
ハワードさんの家では、カトラリーの種類ごとにおさめることができる区分けのついた木製の引き出しを使っています。
ここに別の家庭の写真を表示させることもできます。
こちらは台所のシンクの写真です。これは居間の写真。同じことを別の国でもできます。中国から、3つの家庭を選んで、家やソファー、コンロを見ることができます。
私たちは、「あの国では、こんなコンロを使っているはずだ」と考えがちですが、同じ国の家庭なのに、こんなに違うのです。この違いは、収入の違いから生まれます。
別の国の家庭と比較することもできる
ある国の家庭と別の国の家庭を比較することもできます。
これは中国とアメリカの家庭を収入ごとに並べたグラフです。かなり重なっている部分があります。この2つの国の、右側に来る収入の高い家庭の写真を見比べてみましょう。
寝室の写真です。両方ともよく似ています。
居間には両方とも、茶色い革のソファーがあります。遊具(play structure)も似ています。たぶん、両方ともメイドインチャイナでしょうから似ているのかもしれませんが。
もちろん、一番左側の家庭の写真をいっしょに表示させることもできます。ナイジェリアと中国の家庭を比べてみましょう。
家族の写真を見ると、ろくに共通点はないように見えます。ですが、天井をみると、プラスチック(ビニール)や草でおおわれています。
同じタイプのソファ(プラスチックの椅子)を使っているし、穀物の収納方法も同じです。夕食に魚を食べ、お湯をわかす方法も同じです。
中国やナイジェリアには特定の生活様式があると思うのは大きな間違いです。収入レベルが同じだと、同じような生活になるのです。
収入が同じなら、生活ぶりも同じになる
世界には70億の人がいます。もっとも貧しい人たちの生活を再度見てみましょう。ベッド、屋根、調理方法。
これらの写真は、まったく違う国で撮影されましたが、みなとてもよく似ています。
極貧の10億の人たちは、みな、こんなふうに料理をするのです。
靴はないだろうし、スプーンがないから手で食べるだろうし、アジアであろうとアフリカであろうと、こんなふうに塩をビニール袋に入れています。トイレも似たようなものでしょう。ナイジェリアだろうとネパールだろうと。
まんなかに来る人は、50億人です。この人たちの家の電気はこんなふうで、もう床には寝ません。塩は入れ物に入れて、スプーンも1本以上あります。
ボールペンも1本以上持っています。天井からはもうそんなに雨漏りしないし、靴もあるし、携帯電話もおもちゃもあるし、こんなふうにゴミを作り出しています。
一番右側の裕福なグループの人たちは、ヨルダンでもアメリカでも同じような靴をはいて、ソファを持ち、フルーツを食べ、ヘアブラシを使います。
本棚があり、タンザニアでもパレスチナでもアメリカと同じようなトイレットペーパーを使います。
洋服ダンスがあり、照明はこんなふうで、黒い犬がいて、床やリキッドソープがあり、洗濯機もあるし、時計やパソコンがあり、スマホもあります。
国は違ってもたくさんの共通点があるのです。メディアが見せる写真を見ると、世界はとても奇妙な場所に思えます。
Dollar Streetの写真を見ると、メディアの写真とは違います。Dollar Streetで写真をデータとして使うと、それぞれの国に対する固定概念(ステレオタイプ)は、簡単にこわれるのです。
世界の反対側から、私たちを見ている人は、じつは、皆さんととてもよく似ています。
これがわかれば、行動を起こす気になるし、希望を持つこともできます。
//// 抄訳ここまで ////
誰でも無料で使える Dollar Street
アンナさんが作った、Dollar Street は誰でもネット上で簡単に閲覧できます。
こちらは、このツールにいたく感心したビル・ゲイツが紹介する動画です。2分30秒、英語字幕あり。
Dollar Streetはこちら⇒Dollar Street 日本の家はまだないですね。韓国の家庭がたくさんあります。
実際にDollar Streetで写真を見てみるといろいろな発見があると思います。
リアルな写真を見て思い込みをはずす
このプレゼンは、よその国のことに偏見を持ってはいけない。実は、経済状況が同じなら、生活ぶりもかなり似ているのだ、と主張しております。
まあ、そうだと思います。メディアの写真はリアルな写真というよりも、メディアが伝えたいと思っていることに、説得力をもたせるために選ばれた写真ですよね。
写真には影響力があるし、人は簡単に写真にだまされることもある、ということは覚えておいたほうがいいでしょう。
以下に、この講演を聞いて、私が改めて思ったことを3つにまとめました。
1)雑誌の写真にだまされてはいけない
Dollar Streetに集めてある写真は、どれもふだんの生活ぶりを伝えるもので、インテリア雑誌の写真とは違います。
生活雑誌やインスタグラムなどのSNSの写真は、たいてい、実物よりよいものをのせているので、こういう写真を見て、「私もこんなふうにしなくちゃならない」とか、「こういう物を買って、こんなふうに飾れば生活の質があがる」と思うべきではないですね。
2)写真を使って部屋を視覚化すると断捨離がすすむ
前も書きましたが、自分の部屋の様子を写真にとると、ふだん気づかないことに気づけるので、断捨離が進みます。
私もよく本棚の写真をとって見ていますが、1枚の写真として切り取ると、本が多すぎる現実が身にしみます。
3)よく考えたら自分はとても恵まれている
Dollar Street の一番上のバーは、収入ごとに家が並んでいる通りを示しています。「このバーの真ん中ってどのぐらいの収入なのかな?」と思い、矢印を持っていったら、530ドルでした。
これを単純に、きょうのレートで換算すると、58660円です(1ドル、110.68円)。
日本に住んでいる多くの人が、月収58000円以上ですよね? 私たちはとても恵まれているのに、「お金がない」とか、「あれがない」とぶつぶつ文句を言ったり、暗い気分になったりします。
これは、現実をしっかり見ていない、ということになります。
物価の違いもあるので、一概に比べることはできませんが、Dollar Street の写真に出てくる生活雑貨の大部分は、日本ならば100均で買えます。
「お金がない」と言っている人たちは、自分が持っているものに目を向けていない、と言えそうです。
*****
ちょっと前のことですが、読者が送ってくれた部屋やノートの写真を記事にのせたことがあります。
この記事に対して、べつの読者(匿名希望さん)からメールをいただきました。
筆子さんのブログは、「私ってこんなに素敵」感がないから好きなのに、あのように読者の写真をのせてしまうと、これから、承認欲求の強い人たちの写真でブログが埋まるかもしれない。
それはとってもいやで、恐怖すら感じる、という内容でした。
私は、全然そんなふうに考えていなかったので、「へ~、こんなふうに考える人もいるのか」と興味深く拝見しました。
実際、あのあと、読者から部屋の写真が殺到したかというと、そんなことはありません。
写真を送ろうとしたけど、何度やっても「サイズが大きすぎる」とエラーになるので断念した、とメールをくださった方がいます。「私も早く写真を送れるように断捨離をがんばります」というメールをくださった方もいます。
それぐらいですかね。
写真を見て何を感じるかは人さまざまですが、確かに写真は情報量が多いですね。今後は読者の部屋の写真はのせない方針なので、匿名希望さん、ここを読んでいるかどうかわかりませんが、ご安心ください。
考えてみれば、写真を投稿する場所はほかにいくらでもあります。インスタグラムとか。
このブログの読者より、インスタグラムを見ている人のほうが、1枚の写真に価値を感じるでしょう。よって、写真の掲載はインスタグラムにお任せすることにします。