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仕事や人生で困難に直面している人、限界を感じている人の参考になるTEDトークを紹介します。
タイトルは、How to Conquer Stress and Do Hard Things(ストレスを克服して難しいことをする方法)
Customer Successという企業の副社長で、講演者としても活躍している Sangeetha Rai(サンギータ・ライ)さんのトークです。
タイトルの「ストレス」は、「ストレスになるできごと」「ストレス要因」と考えてください。
ストレス要因の克服:TEDの説明
Through her wealth of experience, Sangeetha will deliver a compelling talk on the creation of Customized Resiliency Kits, designed to empower individuals to conquer stressors.
豊富な経験から、サンギータはストレスになるものを克服し、個人に力を与えるためにデザインされた、カスタマイズされたレジリアンスのキットを作ることを説得力をもって語ります。
収録は2024年4月、動画の長さは15分。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
サンギータさんの個人的体験に基づく力強いプレゼンです。
用語の説明
最初にトークに出てくる用語の説明をしておきます。
resilience レジリアンス、回復する力、立ち直る力
glass ceiling ガラスの天井、職場でキャリアをはばむ見えない壁。特に女性やマイノリティがリーダーや上級管理職になるのを妨げる構造的、文化的要因。
bamboo ceiling 竹の天井、アジア系の人々が感じるガラスの天井に類したもの
imposter syndrome:インポスターシンドローム、自分の成功や能力を正当に評価できず、「自分はまぐれで成功している」「本当は無能なのに周囲をだましている」と感じること
この世で一番幸せな場所
私にとってこの世で一番幸せな場所は、南インドのトゥルナドゥの小さな海辺の村にある祖父母のココナツ農場です。
200本以上のココナツの木に取り囲まれたそこは、愛とポジティブなエネルギーで満ちていました。
潮風と、祖母が作ってくれた魚のカレーと混ざった匂いを今も覚えています。
祖母が私の肩を叩きながら「もう少しのしんぼうよ、サンギ、もうすぐカレーができるから」と言ったことや、祖父がしてくれたインドに伝わる英雄たちの話も覚えています。
この場所の生活はシンプルで、祖父母は、限られたリソースしかありませんでした。電気があるのは1日6時間だけ、トイレは外にあり、食事はいつも米と魚。
でも、祖父母は問題なく暮らし、私だけでなく周りの人みんなに無条件の愛や明るさを与えていました。
祖父母は、最良の人生を送るための自分たちなりのレジリアンスのキットを持っていたかのようでした。
私はいとこたちと農場を走り回り、祖父母に愛されながら、幸せな時間を過ごしました。10代のときは、多くのインドの少女たちと同じように、学校でいい成績を取る一方で、将来、私を養ってくれるであろう男性とのお見合い結婚の準備をしていました。
アメリカ生活
大学を卒業して、自分の夫を含め、知る人のいないアメリカに来ました。人脈はゼロ。アメリカで教育を受けたことがなかったし、感情的に支えてくれるネットワークもありませんでした。
私は男性優位のテクノロジーの世界に入りました。ずっと女子校だったので男性と話をしたことがなく、私には強いアクセントがあったので、人は私が話す言葉を理解しませんでした。
ニューヨークにいましたが、私はベーグルすら知らなかったのです。
はじめての仕事はニューヨークでのスタートアップでした。ハングリー精神と好奇心でいっぱいだった私は、仕事が大好きでしたが、数年後に、自分のキャリアが悪夢のようになりました。
ガラスの天井と竹の天井にぶつかったのです。
アジア人女性として、職場では期待されていましたが、リーダー候補としては見てもらえませんでした。
同僚にフィードバックを求めるたびに、「きみはロックスターだ。この調子でがんばれば、そのうちチャンスが来るよ」と言われ、不満がつのりました。
すごくがんばったおかげで、ようやくはじめて昇進しましたが、チームのみなの反応はひどいものでした。ある人は、私は拒絶しました。「きみのようなリーダーの元で働きたくない」と言った彼は、別のチームに移りました。
別の人は、私のことを低く見て、ことあるごとに批判しました。別の人は、私のご機嫌を取り、「サンギータ、いい仕事しているね。誇りに思うよ」と言いましたが、彼は友達ではなく部下でした。
このような人たちに囲まれて、私はだんだんやる気がなくなりました。
どん底に落ちる
自分の周囲の人を含め、何もかも信じられなくなっていきました。
週が始まる前日に胃が痛くなり、日曜日は起き上がれず、毎晩ベッドの中で、自分の上にある天井と周囲の人々によって囚われた気分でした。
一人ぼっちでした。レジリアンスを養うためにいろいろ試しました。人気のメディアを見たり、ヨガや瞑想、アファメーションをしました。でも、どれも助けにならず、日々、ストレスはたまる一方でした。
自分がどん底に落ちた日のことをよく覚えています。紅茶を淹れていたとき、自分でもわからないのですが、狂ったようにキッチンをぐるぐる歩き始め、涙があふれてきました。
呼吸ができず、背中がけいれんして動けなくなりました。
その晩、泣きながらベッドに横になっていました。窓の外で降っていた雨は、祖父母が住む村のモンスーンを思い出させました。
祖父母のレジリアンス
その瞬間、困難なことがあっても、決して変わらない祖父母の前向きな態度が心に浮かびました。
何日も雨で、雨漏りしたとき、祖父はバケツを置いて、雨水を集めました。いつも魚を売りに来る女性が来ないときは、祖母は乾燥した魚で食事を作りました。
何日も電気がなかったとき、祖父は家の周りにランタンを灯し、明るくしてくれました。
そして気づきました。祖父母は、私が見ていたメディアのような、よくある解決策に頼らず、自分たちができることをしていたのです。
困難なことが起こるたびに、それを乗り越えるためにカスタマイズしたレジリアンスのキットを使っていました。
私も、自分が直面している問題を乗り越えるために、それぞれの問題を克服できるレジリアンスのキットを作ることにしました。
個別のレジリアンスキット
私の最初のストレスの元は人前で話すことでした。70%の人が、私と同じ恐怖を持っていますが、私には、人々が私の言葉を聞き取れないという問題もありました。
いいリーダーになるためには、いいスピーカーになる必要があると思い、この問題を克服するキットを作りました。
中身はしっかりした準備、舞台でカリスマ性が出るような特別な瞑想、緊張したときに指を押すことです。
このキットがあれば、私は人前でいろいろな話題で講演できます。技術、AI、リーダーシップ、顧客体験などについて。
これまで世界で一番大きな、女性のコンファレンス、インスタグラムのようなストリーミングサービスで話をしました。そして今、TEDでも講演しています。
人前で話すことができるようになったら、よいリーダーになるために、レジリアンスのキットを使ってみたくなりました。
その結果、大胆に交渉できるリーダーの自分と、家庭をもつ母親としての自分のバランスを取れるようになりました。
自分の問題がうまく解決したあと、他の人を助けたくなりました。
他の人をサポートする
そこで私はリサーチをしました。セリーナ・ウィリアムズ(テニス選手)は試合をする前に、幸運のソックスを履くし、ビヨンセはステージに出る前に、ストレッチをし、バンドのメンバーと祈りを唱え、マッサージチェアに座ります。
成功した人々は、本人が気づいているかどうかは別にして、皆、自分むけにカスタマイズしたレジリアンスのキットを持っているのです。
そこで私は自分のメンティ(メンターから指導を受けている人)たちに、同じことをするよう勧めました。
30%の人々が飛行機に乗るのが怖いのですが、友人のデイヴィッドもその1人でした。
彼は飛行機に乗る前はすごく不安で前の晩は眠れませんでしたが、仕事でどうしても飛行機に乗る必要がありました。
そこで私たちは一緒に、レジリアンスのキットを作りました。中身は飛行機の安全性を示したデータ、搭乗するまえに使うストレスをやわらげるスプレー、ピンチのときのために彼の母親がくれたキーチェーンです。
このキットを何度も使った結果、彼は脳をトレーニングして飛行機に乗る前もぐっすり眠れるようになりました。
彼は写真に撮られることも怖かったのですが、これもレジリアンスキットを用意して克服しました。
レジリアンスキットのパワー
私は何百人もの人々にそれぞれの問題用にカスタマイズしたレジリアンスキットを作ることを勧めましたが、皆、コンフォートゾーンから出て、より充実した人生を送るようになりました。
カスタマイズしたレジリアンスのキットがあれば、脳の神経可塑性を高めてトレーニングできます。
レジリアンスキットに5つ以上のものを入れるべきではありません、そして、自分がコントロールできることにフォーカスしましょう。
おすすめの内容は、準備、ラッキーアイテム、アファメーション、練習、データです。
どんなふうにキットを作ればいいのかわからないときは、オンラインでリサーチできるし、すでにストレスになる状況を乗り越えた人や、メンター、友人に聞いてください。
ここで、私の娘のソニアの例をあげて、カスタマイズしたレジリアンスキットを作る方法を紹介します。ソニアはカレッジの2年生です。
レジリアンスキットの作り方
ステップ1:一番大きなストレス要因(ストレッサー)を見つける
ソニアのストレッサーは、学業と、いろいろな機会への対応のバランスを取ることでした。
70%の人々と同じように、ソニアはチャンスをつかんで行動すると、インポスター症候群(imposter syndrome 自分の能力をきちんと評価できないこと)に陥りました。
ステップ2:カスタマイズする
リサーチして、特定のストレス要因を克服するキットを作ります。
ソニアのキットには、20分のランニング、意思決定をするときに使う「意思決定ツリー」、インポスター症候群の恐怖を乗り越えるための運動が含まれていました。
ステップ3:練習する
キットの内容を何度も練習して、脳をトレーニングします。
ソニアがキットを作って何度も練習したら、前よりずっと明確に、自信を持って、巡り合った機会にアプローチできるようになりました。
ソニアも友人に、このレジリアンスキットのことを紹介しました。
つまり、うまくレジリアンスキットを作れば、もっと冷静で地に足がついた、自信のある自分になれるだけでなく、ほかの人を助ける力も生まれるのです。
ストレスマネジメントの重要性
レジリアンスのスキルを身につけるのは重要です。というのも、医者に行く理由の75%~90%は、ストレス関連の問題だからです。
さらに、これまで自分がしてきた人生の選択について聞かれると、10人のうち4人が、違う選択をするべきだったと答えています。
だから、私たちが人生の緊急事態のためにさまざまな保険、たとえば生命保険、医療保険、車両保険などを買うように、特定のストレス要因に備えるためにレジリアンスキットを用意すべきです。
自分は何でもできるというマインドセットとレジリアンスキットがあれば、ストレス要因を克服し、難しいことができるようになります。
11歳のとき、祖父と大きなお寺に行ったことがあります。
そこには、鎖につながれて大人しくしていた像がいました。私は祖父に聞きました。「像はとても強いのに、なぜ逃げ出さないの?」と。
祖父は、私にトゥル語でスワミ・ブラフマナンダの深い言葉を教えてくれました。
「あなたの言葉は暗示に影響されやすい。自分が自分に教えたことを学ぶのだ」。
//// 抄訳ここまで ////
象の逸話について
最後の像の教訓について補足説明します。
幼い頃から象は鎖につながれて育てられ、自分の力では鎖を引きちぎれないと思い込まされています。
そのため、大人になって鎖を引きちぎる力がついても、そうできると信じられないため、逃げようとしません。
人間も同じで、自分や人の言葉によって、「できない」と思い込み、それを疑わない結果、できるのにできないことがよくあります。
問題解決に関する他のプレゼン
なぜ変化はこんなに怖いのか? どうしたら変化から可能性を引き出せるか?(TED)
問題を解決するために、まずはトーストの作り方を描いてみる(TED)
問題の前で立ち止まったままでいるか、それとも前に進むか(TED)
問題ごとに解決策を用意する
少し前に、人生に行き詰まりを感じている人から相談をいただき⇒気持ちが落ち込むとものを買いたくなる~この問題を解決するには?
先日は、次の目標を何にしたらいいのかわからない読者からのメールをいただきました⇒禁酒1年達成! 次の目標の探し方。
両者ともに、ストレス要因にカスタマイズしたレジリアンスキットを作ることが役立つと思ったので、今回、サンギータさんの動画を紹介しました。
それぞれの問題ごとにレジリアンスキットを作るのは、ありそうでない方法だと思います。
多くの人は、困難なことにぶつかったときの対処法を用意しています。
とりあえずのんびりする、瞑想や散歩する、好きな映画を見る、人に相談する、自己啓発系のYoutubeを見る、本を読むなど。
でも、各問題に対する解決法を考えるほうが効果的です。というのも、問題ごとにカスタマイズすれば、
・何が問題なのか明確化できる
・カスタマイズすることが自分のかかえる問題の細分化につながるので、問題解決に取り組みやすい(怖気づくことなく、ひとつひとつ解決できる)
こんなメリットがあるからです。
今、なんとなく低調だ、限界を感じている、行き詰まっている。そんな人は、ぜひ、一番大きな問題を明確にして、その問題を解決するのにカスタマイズしたレジリアンスキットを作るのを試してください。
キットを作ったあと、何度も練習が必要ですが、粘り強くやればいい結果を得られると思います。
*****
サンギータさんがアメリカに来た事情はわかりませんが、最初はすごく苦労したでしょうね。
レジリアンスキットを作って、職場での差別を乗り越えられたのは、本当に素晴らしいと思います。