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いかに睡眠が重要か雄弁に語るTEDトークを紹介します。
タイトルは、Sleep is your superpower(睡眠はあなたのスーパーパワー)。睡眠を専門とする脳科学者のMatt Walker(マット・ウォーカー)さんの講演です。
邦題は、「睡眠はスーパーパワー」
睡眠のパワー・TEDの説明
Sleep is your life-support system and Mother Nature’s best effort yet at immortality, says sleep scientist Matt Walker. In this deep dive into the science of slumber, Walker shares the wonderfully good things that happen when you get sleep — and the alarmingly bad things that happen when you don’t, for both your brain and body. Learn more about sleep’s impact on your learning, memory, immune system and even your genetic code — as well as some helpful tips for getting some shut-eye.
睡眠は生命をサポートするシステムで、自然がどこまでも死なないことを目指した努力の結果だと睡眠科学者のマット・ウォーカーは言います。
睡眠の科学に深く切り込むこのトークで、彼は、睡眠を取ると起きる素晴らしいことと、睡眠不足だと起きる驚くほどよくないことをシェアします。脳に対しても肉体に対しても。
学習、記憶、免疫システム、遺伝子コードに睡眠が与える影響と、睡眠を取るコツを学びましょう。
収録は2019年の4月。動画の長さは19分ですが、スピーチは17分ちょっとで、残りは質疑応答です。日本語字幕もあります。動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプトはこちら⇒Sleep is your superpower
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ウォーカーさんはゆっくり、はっきり発音しているので、聞き取りやすい英語です。
睡眠の生殖機能への影響
睾丸の話から始めます。
睡眠時間が5時間の男性は、7時間以上の男性に比べて、かなり睾丸が小さくなります。
さらに、日常的に4~5時間しか寝ていない男性は、テストステロン(男性ホルモン)のレベルが、10歳年上の人と同じぐらいです。
つまり睡眠不足は、健康面において、男性を10歳も老けさせるのです。
女性の生殖機能の健康も、睡眠が不足していると損なわれます。
さて、これから、睡眠をとると起きる素晴らしいこと、逆に不足していると脳にも体にも驚くほど悪いことが起きることを、お話しします。
学習・記憶への影響
脳や学習、記憶に関して、過去10年でわかったことから始めましょう。
学習したあとは、新しい記憶を保存するために睡眠が必要です。
しかし、最近、学習する前も睡眠が必要だとわかりました。
睡眠を取ると、脳は乾いたスポンジのように、新しい情報を吸収する準備ができます。
睡眠を取らないと、記憶回路は水浸しになり、新しい記憶を吸収できないのです。
「徹夜はよいことである」という仮説を検証するためにした実験のデータをお見せします。
被験者を2つのグループに分けました。8時間寝るグループと、全く眠らせないグループです。昼寝もカフェインもありません。
翌日、被験者の脳をMRIのスキャナーで、写真を取りながら、新しい事実のリストを覚えてもらい、どのぐらい覚えられるか調べました。
その結果、睡眠を取らないグループは、新しい記憶を作る脳の能力が40%劣っていました。
現在、教育を受けている人たちがどのぐらい寝ているか考えてみると、これはやっかいな問題ですね。40%も違えば、試験の合格、不合格にもかかわります。
海馬の機能が衰える
このような学習障害を引き起こす脳の異常が何であるのか、発見されつつあります。
脳の左側と右側に海馬と呼ばれるものがあります。海馬は情報を受診する箱(インボックス)だと考えてください。
海馬は、新しい記憶ファイルを受け取り、それを保持することに長けています。
しっかり寝た人の海馬には、学習にかかわる健全な活動がたくさん見られます。
寝ていない人たちの脳には、意味のあるシグナルが見受けられません。
睡眠を取らないと、記憶の受信箱がシャットダウンされ、新しい情報が入ってきても、跳ね返してしまうのです。
そのため、新しい経験を効果的に記憶できません。
これが睡眠不足のデメリットの1つですが、8時間寝たほうのグループの話もしましょう。
深い睡眠のとき、記憶が強化される
睡眠の生理学的な質の良さは、毎日、記憶や学習の能力を回復し、向上させるでしょうか?
頭全体に電極を置いて実験したところ、睡眠のもっとも深い段階で、大きくて強力な脳波が流れることがわかりました。
この脳波のパターンは、睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは、sleep spindles)と呼ばれます。
深い眠りのときに得られる脳波の組み合わせは、夜間のファイル転送システムのような働きをします。
つまり、覚えたことを、あやうい短期記憶の場所から、永続的な長期記憶をする場所に送っているのです。だから、記憶を安全に保護できます。
睡眠中にどんな仕組みで、記憶の伝達が行われているのか理解することは、医学的にも社会的にも重要な意味を持ちます。
深く眠れないから認知が衰える
この研究を臨床に応用している例として、老化と認知症について紹介します。
年をとると、学習能力や記憶力が衰え、低下していくのは、周知の事実です。しかし、加齢によって、生理的に睡眠の質、特に深い眠りの質が悪くなることもわかってきました。
昨年、記憶力の衰えと睡眠の質の衰えに大きな関連がある証拠を発表しました。
深い眠りが阻害されてしまうことが、加齢による、認知機能や記憶力の低下、そして、アルツハイマー病につながっていることが、過小評価されています。
ゆううつなニュースですが、誰もが、向かう道です。しかし、いいニュースもありますよ。
老化にかかわる他の要因、たとえば、とても治療が難しい、脳の物理的な構造の変化とは違い、睡眠ならば、改善することができそうです。
私たちの睡眠センターでは、睡眠薬は使いません。睡眠薬では自然な眠りを作り出せないからです。
その代わり、直流脳刺激法という方法を開発しています。
脳に少量の電流を流す方法です。本当に少量で、感じることができないほどですが、測定はできる分量です。
健康な若者の深い眠りの脳波に合わせて、電流の刺激を与えると、眠りの脳波が増幅されるだけでなく、睡眠から得られる記憶の効果がほぼ2倍になります。
問題は、このリーズナブルで、持ち運びも可能な技術を、高齢者や認知症の患者に応用できるかどうかです。
深い睡眠という質を取り戻し、学習や記憶機能を回復させる。
これが、今私が望んでいることです。
以上が、脳のために睡眠が必要な例の1つですが、睡眠は、体にとっても必要不可欠です。
睡眠不足は免疫不全状態
睡眠不足が生殖機能に及ぼす影響はすでにお話ししました。
睡眠不足は心臓血管系にもよくありませんが、1時間違うだけで、影響があります。
年に2回、70カ国、16億人の人を対象にした世界的な実験があり、サマータイムと呼ばれています。
春、睡眠時間が1時間減ると、翌日心臓発作が24%増加することがわかっています。逆に秋、睡眠時間が1時間増えると、心臓発作が21%減少します。
同じことが、自動車事故、交通事故、自殺率でも見られます。
ここでは、睡眠不足が免疫系にどんな影響を与えるか説明します。
この画像の青いものは、ナチュラルキラー細胞で、免疫系におけるシークレットサービスのエージェントみたいなものだと考えてください。
ナチュラルキラー細胞は、危険なものや、不用なものを見つけて、排除します。
この画像は、ナチュラルキラー細胞が癌性の腫瘍を破壊しているところです。
ナチュラルキラー細胞には、いつも元気でいてほしいですよね。
ところが、睡眠が十分でないと、そうはいきません。
睡眠を4時間に制限して、免疫系の活動がどれだけ低下するか調べたら、ナチュラルキラー細胞の活動が70%も低下しました。
この免疫不全状態を見れば、睡眠時間の短さと、さまざまながんの発症に重大な関連があることが理解できるでしょう。
今のところ、大腸がん、前立腺がん、乳がんなどがそのリストに含まれています。
実際、睡眠不足とがんの関連性はひじょうに高く、世界保健機関は、夜勤の仕事は、発がん性の可能性があるとしています。睡眠と覚醒のリズムを乱すからです。
睡眠不足は遺伝子にも影響を与える
睡眠時間が短ければ短いほど寿命が短くなります。あらゆるものの死亡率が上がるのです。
がんやアルツハイマーのリスクが高まるだけでなく、生物の生命そのもの、つまりDNAの遺伝コードも損なわれます。
健康な大人の遺伝子のプロファイルを、1週間、1日6時間の睡眠をとったときと、同じ人が1日8時間の睡眠をとったときとで比べた研究で、重大な発見が2つありました。
まず、711個の遺伝子の活動が睡眠不足によって変わりました。それらの遺伝子のうち半分は活動が増加し、もう半分は活動が低下しました。
睡眠不足によって活動が低下した遺伝子は、免疫系にかかわる遺伝子で、免疫不全が促進されます。
睡眠不足によって活動が増加した遺伝子は、腫瘍を増やすことや、体内の長期的な炎症、ストレスにかかわるもので、その結果として、心血管疾患を引き起こす遺伝子でした。
睡眠不足のせいで、健康になるなんてありえせん。それは家の中にこわれた水道管があるようなものです。
睡眠不足は、生理機能のあらゆるところに影響を与え、日々の健康の物語を語るDNAの核となる文字まで、書き換えてしまうのです。
睡眠の質をあげるには?
ここまで聞いて、あなたは、「これは大変だ。どうやったら睡眠の質がよくなるのだろう? コツはなんだろう?」と思っているかもしれませんね。
アルコールとカフェインを避けること、うまく眠れない人は、昼寝をしないこと、というアドバイスの他に、もう2つ助言があります。
1つめは、規則正しい生活をすること。
平日も週末も関係なく、同じ時間に寝て、同じ時間に起きてください。
規則正しい生活をすることは王道で、睡眠を定着させ、その質と量を向上させます。
2つ目は、涼しいところで寝ること。体が眠りに入り、眠り続けるために、体のコアの体温を華氏で2~3度(摂氏では0.56~1.11度ぐらい)に下げなければなりません。
暑すぎる部屋より、涼しすぎる部屋のほうが眠りにつきやすいと感じるのはそのせいです。
寝室の温度は華氏65度、摂氏で18度前後を目安にしてください。それが多くの人の睡眠に最適な温度です。
最後に、睡眠に関して、もっとも重要な宣言(mission-critical statement、ミッションクリティカルな宣言)をします。
残念ながら、睡眠は、ライフスタイルにおける、ぜいたくなオプション品ではなく、生物として絶対必要なものです。
それはあなたの生命維持システムで、死なないことをめざす自然の最善の努力なのです。
先進国における睡眠の大量破壊は、私たちの健康、幸福(ウエルネス)、さらには子どもたちの安全や教育にも、壊滅的な影響を与えています。
それは、静かに進行する、睡眠不足という伝染病であり、21世紀に私たちが直面する公衆衛生上の最大の課題となりつつあるのです。
今こそ、私たちは、一晩ぐっすり眠る権利を取り戻すべきです。恥じることなく、なまけものだという汚名を着せられることなく。
そうすれば、もっとも強力な不老長寿の霊薬であり、健康のアーミーナイフを手に入れることができるのです。
//// 抄訳ここまで
マット・ウォーカーさんの本です。
常に睡眠不足の人は、ぜひ読んでください。
英語版はこちら
睡眠や健康に関する他のプレゼン
睡眠と日中の生産性の関係(TED)夜しっかり寝ることは昼間の生産性をあげること。
なぜ人は眠るのか?睡眠の大切さを忘れていませんか?(TED)
脳をだまして上手に眠りにつく方法(TED)~不眠に悩む人へ。
なぜストレスは身体によくないのか、どうやってストレスに強くなるか(TED)
正しい呼吸の仕方~多くの人が間違った呼吸法をしています(TED)
睡眠の優先順位を上げる
今回私がいいたいのは、1つだけで、
睡眠はちゃんととったほうがいいですよ、
です。
健康になるし、昼間のパフォーマンスもあがります。
まあ、この話はこれまでにも何度も書いています。
特に初期の頃、睡眠の記事をたくさん書いているので、興味のある方は、「睡眠」で検索してみてください。
昔書いたまとめ記事⇒睡眠不足や不眠に悩むなら読んでほしい眠りに関する記事のまとめ。
しかし、どんなに私が、「しっかり寝たほうがいよ」と書いたところで、睡眠不足の生活をよしとしている本人の意識が変わらない限り何も変わらないでしょう。
ただ、マット・ウォーカーさんの言葉は、私の言葉より説得力があるのではないでしょうか?
過労死するのは、睡眠不足だからですし、生活習慣病になるのも、睡眠不足が大きな影響を与えています。
ウォーカーさんのプレゼンを見たり、本を読んだりすれば、「寝るのはもったいない」と思って暮らすのは、大きな勘違いだとわかるでしょう。
寝ないほうがもったいない、というか、命を粗末に扱っています。
睡眠不足でいることは、少しずつ自分を殺すようなものですから。
物がいっぱいあるのが普通になっている人は、物の少ない暮しのよさにピンと来ませんが、睡眠不足が普通になっている人も、しっかり睡眠をとったあとの自分の状態を知りません。
睡眠をないがしろにしている人は、一度、睡眠を優先順位のトップに置いて半年ぐらい暮してみてはどうでしょうか?
断捨離以上に人生が変わるでしょう。
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私はふだんは、わりと寝るほうなのですが、忙しくて、睡眠不足気味になると、とたんに、昼間の仕事のパフォーマンスが落ちます。
関係ないことをやって、だらだらしてしまうのです。
しかも、やたらとおやつを食べてしまいます。
あなたにも、同じような影響が出ているはずです。