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毎日やることが多すぎて、気づけば時間に追われている。
そんな日々にストレスを感じていませんか?
今回紹介するTEDトークは、そんなあなたに、もっと幸せになれる時間の使い方を教えてくれます。
タイトルは You can be happy without changing your life(人生を変えなくても幸せになれる)。
幸福学の教授 キャシー・ホームズ(Cassie Holmes) さんの講演です。
人生を変えなくても幸せになれる·TEDの説明
Many feel time poor—like there aren’t enough hours in the day to get it all done. And a common belief is that if we had more free time, we would be happier. Cassie Holmes, a UCLA professor who studies the relationship between time and happiness, found it’s not about having more. She uncovers myth-breaking results and ways to spend the time we do have to bring greater joy into our lives.
和訳:多くの人が「時間が足りない」「1日にやるべきことをすべて終わらせる時間がない」と感じています。
一般に、もっと自由な時間があれば、幸せになれると考えられていますが、UCLAの教授であり、時間と幸福の関係を研究するキャシー・ホームズは、重要なのはもっと時間をもつことではないと発見しました。
彼女は、通説をくつがえし、今ある時間を使って、人生に喜びをもたらす方法を紹介します。
収録は2024年3月。動画の長さは15分30秒。英語の字幕があります。動画の後に抄訳を紹介します。
☆TEDトークについて詳しく知りたい方はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
身近な例を用いて分かりやすく説明されているプレゼンです。聞いているだけで幸せな気分になります。
時間に追われていた私
時間はとても重要です。1日の過ごし方が積み重なって、人生そのものになります。
幸福学の教授として私は時間を研究していますが、皮肉なことに、私自身にとって時間が最大の障害となっていました。
ウォートン校の助教授だった頃のことです。ある日、ニューヨークで講演をするために出張しました。その日は、いつもと同じように、目の回るような忙しさでした。
私のプレゼンテーションは、次々と続く会議の合間に挟まれていました。
会議が終わるとすぐに同僚との食事会に向かい、その後、家で眠っている生後4か月の赤ちゃんと夫のもとへ帰るため、最終列車に飛び乗ろうと必死で駅へ急ぎました。
なんとか電車には間に合いましたが、その時のことは今でも鮮明に覚えています。
すっかり疲れ果て、シートに沈み込み、額を窓に押し当てながら、流れる夜の街の光をぼんやりと眺めていました。
そして心の中でこう思ったのです。「こんなことをいつまで続けられるかどうかわからない」と。
仕事のプレッシャー、良い親になりたいという思い、良いパートナーや友人でありたいという願い、終わりのない家事の山…。
すべてこなすには、1日の時間があまりにも足りませんでした。ちゃんとやるどころか、その瞬間を楽しむ余裕すらなかったのです。
時間への渇望
私は、もっと多くのことをこなしたくて時間を求めていたのではありません。
そうではなく、日々の時間をじっくりと味わう余裕が欲しかったんです。
目の前の時間をしっかりと過ごして、人生が今見ているようなぼんやりとした流れの中で過ぎ去ってしまわないように。
後になって気づきましたが、私が感じていたのは「時間貧乏(Time Poverty)」でした。
時間貧乏は、「やるべきことが多すぎて、それをこなす時間が足りない」と強く感じる状態です。
おそらく皆さんにも身に覚えがあるのではないでしょうか?
事実、私の研究チームが行った全国調査では、アメリカ人の約半数が「時間が足りない」と感じていることが分かりました。
これはアメリカに限った話ではなく、世界中で同じ悩みを抱える人がたくさんいます。
あの電車の中で時間貧乏に悩み、幸福とはほど遠い気持ちになっていた私は、明白な解決策にたどり着きました。
「仕事を辞めて、どこか南の島に引っ越せばいいんじゃないの?」
毎日好きなことをして、思う存分リラックスできる時間があれば、きっと幸せになれるはず。そう考えたのです。
幸福と時間の関係
でも自由時間がたくさんあれば本当に幸せなのか、ふと疑問に思いました。そこで仕事を辞める決断をする前にきちんと検証することにしました。
共同研究者たちとチームを組み、自由に使える時間の長さと幸福度の関係を調べてみました。
アメリカ人の時間の使い方を記録した大規模な調査(American Time Use Survey) を含む複数の研究を分析しました。
この調査では、働いている人も働いていない人も含めた何万人もの人が、日常をどのように過ごしているか記録されています。
その結果、興味深いパターンが明らかになりました。
幸福度の傾向は「逆U字型」を描いていたのです。
予想通り、1日の自由時間が2時間未満の人は幸福度が低いことがわかりました。
これは私自身の経験からもわかる当然の結果です。時間貧乏のストレスが幸福度を下げるのです。
驚いたのはこの逆の結果もあったことです。1日に自由時間が5時間以上ある人も幸福度が低かったのです。
時間がありすぎることも問題なのです。
でもなぜでしょう? 自由に使える時間がたっぷりあれば、リラックスして好きなことができるはずなのに、なぜ時間があることが幸福度を下げるのでしょうか?
人間は、ある程度生産的であることを求める性質を持っているからです。
研究によれば、人は何もしない状態を嫌う傾向があります。1日中何の成果もないまま過ごしてしまうと、目的を持って生きているという感覚が薄れて、満足感が下がります。
これはとても重要なポイントです。
忙しすぎて大変だと感じる日には、「何もかも投げ出して、のんびり暮らせば幸せになれる」と思いがちですが、実際はそうではありません。
自由時間の最適解
つまり、全てを止めてビーチでのんびり過ごすことは解決策ではないのです。
研究からわかったことは、もし1日に自由に使える時間が約2時間あれば、ちょうど良い幸福度のスイートスポット(最適なバランス)に到達できます。
はじめ、私は1日2時間も自由時間を確保するなんて、そんな贅沢はありえないと思いました。
でも1日の時間を冷静に振り返ってみると、すでにそれに近い時間を確保できていたんです。
忙しかったあの頃でも、
・朝、子どもを抱きしめながら過ごした15分
・仕事からの帰り道、親友と話した25分
・夫と3夕食を楽しみながらワインを飲んだ30分
・夜、子どもを寝かしつけるときに子守唄を歌った20分
合計すると、90分になります
この時間は、どれも他のことには置き換えられない大切な時間でした。
計算して初めて、すでに私の1日にはたくさんの幸せな瞬間があると気づきました。
つまりこの研究が教えてくれるのは幸福の鍵は自由時間の量ではなく、その時間をどう使うかということなんです。
もっと幸せになる時間の使い方
幸福を決めるのは時間がたくさんあることではなく、今ある時間をどのように使うかです。
手持ちの時間をより豊かなものにすれば、本当の幸せにつながります。
ではどうすれば、時間を豊かにできるのでしょうか?
私は仕事を辞める代わりに、この問いに答えるため研究の方向を変えました。
日々の時間をどのように使えば、もっと喜びを感じられるのか? そして人生の終わりに振り返った時、後悔をしなくて済むのか?
こんな研究を始めたのです。
そして分かったことは、時間は問題ではなく、むしろ解決策になり得ることでした。
意図を持ち、意識を向ける
日々の過ごし方は、人生に対する満足度に大きな影響を与えます。
そして時間の過ごし方を変えるのに、大きな決断をしたり、劇的に人生を変える必要はありません。
ほんの少しの「意図(Intention)」と「意識(Attention)」を持つだけで、私たちはより幸せを選べるのです。
本当に価値のある時間
具体的にどうすればいいのか説明しますね。
重要なのは、本当に価値のある時間を見極めてそれを確保することです。
価値のある時間とは、充実感があり自分の価値観や人生の目的にあった活動をしている時間です。
その時間を見つけるひとつの方法は、時間の使い方を記録することです。
1週間どんな風に時間を過ごしたか30分ごとに記録して、それぞれの活動が終わった後に、どれだけ満足を感じたか10点満点で評価してください。
過去数週間を振り返ることもおすすめです。
最近どんな瞬間が一番幸せだったのか考えてみてください。
私は、娘とのコーヒーデートが印象に残っています。
特別なものではなく日常のルーティンから生まれた時間です。
娘が小さい頃から、毎週木曜日に保育園へ連れて行く途中、コーヒーが飲みたくて近所のカフェに立ち寄っていました。
最初はただの習慣でしたが、いつのまにか大切な、毎週楽しみな特別の時間に変わっていったのです。
毎週、30分は、娘と2人きりでクロワッサンを頬張りながら、娘はホットチョコレート、私はコーヒーを飲んで会話を楽しんでいます。
こうした日常の何気ない活動が、実は最も大きな幸福をもたらしていることが、私の研究でも確認されています。
たくさんの人々に調査を行った結果、最も幸せを感じる時間は意外にも特別なイベントではなく、ごく普通の日常の中にあることが分かりました。
なぜ幸せな時間に気づけないのか?
注意しなければならないのは、こうした日常の小さな喜びは、忙しさの中で簡単に忘れ去られてしまうことです。
仕事や家事に追われていると、こうした時間を後回しにします。
たとえ時間を確保しても、気がせいて落ち着いて味わう余裕がありません。
せっかくの大切な時間にスマホを見たり、頭の中で次にやることを考えてしまって。
こんな風にして、私たちは幸せな瞬間を見過ごしてしまうんです。
私たちには「快楽適応(Hedonic Adaptation)」 という心理的な傾向があります
同じことを繰り返すうちに、最初の感動が薄れてしまう現象です
どんなに楽しいことも、何度もやっているうちに、当たり前になってしまいます。どんなに大切な人でも、一緒にいることが特別なことではなくなってしまうのです。
この適応力のおかげで、辛い出来事に対しても適応できるというメリットはあります。
しかし、その一方で人生の幸せな瞬間にも慣れてしまい、見過ごしてしまいます。
例えば、大切な人から初めて「I love you(愛してる)」と言われた時、心の中で花火が打ち上がったようなとても特別な感情が湧き上がりますよね。
でも数年も経つと。その 「I love you」 は、いつの間にか 「Love you」 に縮まり、電話を切るときや家を出る時に何気なく口にするだけの言葉になってしまいます。
これほど深くて素晴らしい愛の言葉ですら、聞き流すフレーズに変わってしまうのだとしたら、それこそが快楽適応の力です。
快楽に慣れてしまう仕組みを理解して、意識的に対策をしなければ、人生の喜びを十分に感じ続けることは難しいのです。
幸せに慣れないための方法
適応してしまうことを防ぐ方法の1つが、その活動をあと何回できるか数えることです。
今は毎日のように続いている習慣でも永遠に続くわけではありません。
いつか必ず終わります。
その終わりは思ったより早く訪れるかもしれません
私も娘とのコーヒーデートの回数を数えてみました。
まずこれまでに何回この時間を過ごしてきたか計算しました。
育児休暇中はほぼ毎日、その後は毎週欠かさず続けてきたので、これまでに約400回のコーヒーデートをしてきたことになります。
次のステップはこれから先あと何回できるか計算することです。
現在娘は8歳です。
12歳になれば、きっと友達とカフェに行くようになるでしょう。そうなるとコーヒーデートの回数は減るはずです。
そして大学に進学し、私と同じようにニューヨークへ移り住むかもしれません。
こうした変化を考えると、娘と過ごせるコーヒーデートの残りの回数は230回ほどという計算になりました。
最後にこの数字を全体の割合で考えてみました。
これまでの400回と比べると、私たちがこれから過ごせる時間は全体のおよそ36%に過ぎません。
つまりもう半分以上が終わってしまったんです。
娘はまだ8歳なのに、私たちのコーヒーデートはすでに残り少ないのです。
こんな話をすると、切なく感じるかもしれません。
でも、この計算をすることに大きな意味があります。
なぜなら限りがあると実感すれば、「今この瞬間をもっと大切にしよう」という気持ちが生まれるからです。
計算して、もう残り少ないと分かってから、私はどんなに忙しくても、娘とのコーヒーデートの時間を最優先して確保するようになりました。
今は週末にコーヒーデートをしていますが、必ずこの時間を娘と共有するようにしています。
大事な時間は集中して過ごす
時間を確保するのと同じぐらい大切なのが、どれだけ、その時間に集中するかです。
残りの回数を意識するようになってから、私はコーヒーデート中はスマホをしまって、頭の中で次にやるべきことを考えるのやめました。
心ここにあらずの状態で過ごしてしまったら、大切な時間の意味が失われてしまうからです。
週にたった30分の時間ですが、このわずかな時間が私の1週間全体の気分に、さらには人生そのものの満足度に大きな影響を与えています。
コーヒーデートの時間は、その瞬間だけ楽しいのではなく、その前は楽しみにしてワクワクしますし、終わった後は「素敵な時間だった」と思い出して、幸せな気分になります。
楽しみにする時間や、振り返って幸せをかみしめる時間も含めて、人生の満足度を高めています。
今でも私は、プレッシャーの大きい仕事を続けていて、夫もいるし、子供は2人に増え、家事は相変わらずきりがありません。
でも、「幸せだ」と心から言うことができます。
幸福にとって重要なのはどれだけ自由な時間があるかではなく、今ある時間をどのように使うかです。
時間を何に投資するか、そしてその時間にどれだけ意識を向けられるか。
これをほんの少し意識するだけで、何気ない日常の瞬間が、かけがえのない特別な時間に変わります。
ほんの少しの意図とを持ち、注意するだけで、何気ない日常の瞬間に大きな幸せを見つけることができるのです。
//// 抄訳ここまで ////
時間に関するほかのプレゼン
時間がないんじゃなくてやる気がないだけ。大事なことに時間を使う方法(TED)
ホームズさんの著書です。
今、この瞬間を大事にする
時間の使い方が幸福度に大きな影響を与えると教えてくれるテッドトークを紹介しました。
ホームズさんは週に一度30分の娘とのコーヒーデートの時間を大切にしています。
その時間に心から意識を向けると人生全体の満足度が大きく変わると言います。
私たちにも同じように、幸せな時間が日常の中にあると思います。
ただ、忙しすぎたり、いろいろな考え事で頭の中が混乱していたら、その幸せに気づくことができません。
暮らしをシンプルにして、ものだけでなく、心のがらくたを整理すると大切な時間に気づくことができます。
ホームズさんのように、何気ない日常の中に幸せを見つけて、その時間を大事に過ごすことができれば、人生の満足度が高まるでしょう。
みなさんも、ぜひシンプルライフを追求して、もっと幸せをかみしめてください。