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いろいろな物がありすぎるより、足りないほうが、人間は創造性を発揮できます。
このことを端的に伝えてくれるTEDの動画を紹介しますね。
タイトルは、Scarcity drives creativity (足りない状態は創造性を生み出す)。プレゼンターはGautam Ramdurai(ゴータム・ラムドゥラ)さん。
ゴータムさんは、インド出身ですが、現在はアメリカのGoogleで働いています。
scarcity は、欠乏、物資不足という意味。反対語は abundance (大量、豊富、あり余る量)です。
不足が創造性を生み出す:TEDの説明
Gautam Ramdurai grew up in small town India with the mindset that a problem is solved, not by asking, “what do I need?” but rather by asking, “what do I have?” Applying the experiences he grew up with to life in America, he explains how scarcity changes the approach to problem solving and sparks creativity.
ゴータム・ラムドゥラは、インドの小さな街で、こんなマインドセットをもって育ちました。
問題が生じたとき、「自分には何が必要なのか?」とたずねるのではなく、「いま、自分は何を持っているのか?」と問いかけることで解決すればいい、というマインドセットです。
子どものときの経験をアメリカでの生活にも活かしている彼は、足りない状況が、問題解決に対するアプローチを変え、創造性を生み出すことをシェアします。
収録は2014年。動画の長さは8分。
動画のあとに抄訳を書きます。字幕がないので、少し詳しめに単語の説明をつけます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ターメリックは万能
私はインド東部の小さな街で育ちました。
学校へは輪タク(rickshaw)で通っていました。
タイヤが3つある小さな車に10~15人ぐらいの子どもが乗って、でこぼこ道を行きます。
輪タクが地面の何かにぶつかると、ラジエーター漏れが起きます。運転手は車を止め、子どもたちに静かにするように言うと、黄色い物体の入った小さな袋を取り出し、中身をラジエーターに押し込みました。
すると漏れが止まるのです。
この魔法のような物体は、ターメリックです。
ターメリックはインドでよく用いられるスパイスで、オレンジ色をしています。インド人はこのスパイスが大好きで、何にでも入れます。
喉が痛くなったとき、母は、牛乳にターメリックと、ほかのスパイスを混ぜ合わせて温め、私に飲ませたものです。
飲む時は、のどが焼けそうになりますが、翌日にはよくなっているのです。
私のいとこは、ターメリックのペーストを顔にぬり、にきびを治しました。ターメリックには殺菌作用と抗生作用があります。
つまり、何か問題があると、ターメリックを使ったわけです。
この3人が、ターメリックを使って問題に対処したのは、物がなかったからです。
運転手には、かけこめる修理工場がなかったし、母は薬を持っていなかったし、いとこは最新のロレアルのコスメを持っていませんでした。
欠乏していたからこそ、みな、台所にあるもので解決しようとしたのですね。
ある物で間に合わせるジュガード精神
発展途上国では、リソースの不足が、たくさんの発明や革新をもたらしています。
ヒンディー語ではこの状況を表す言葉があるほどです。
ジュガード(jugaad)です。意味は、巧妙でお金のかからない発明(ingenious frugal invention)。
問題を解決するために、お金をたくさん払う必要はないという考え方です。
数週間前にインドが初めて火星にロケットを打ち上げましたが、これはジュガードのよい例です。
このミッションの費用は7300万ドル。
宇宙開発としては、世界でもっとも安価なミッションの1つです。
NASAはメイヴン(Maven)という火星探査機をこの月曜に送り込みますが、インドのロケットの10倍のお金がかかっています。
インドでこれができるのは、足りない状態(scarcity)を受け止めているから。というよりも、ハグしているのです。
自分たちの限界を知り、それを有効活用する気概があるので、こんなことができます。
インドのロケットは、火星に向かって探査機を打ち上げるかわりに、地球の軌道を1ヶ月周回します。そこから火星に向かって飛びます(スリングショット)。
こうすると燃料を節約できるのです。
NASAが何かを打ち上げるとき、同じものを3つ作りテストを行いますね。
インドは1台だけ作り、コンピュータに制御させます。
おもしろいのは、私が育つとき、この考え方がすっかり当たり前になったことです。
何か問題に直面したら、「何がいるだろうか?」と考えるのではなく、「すでに手元にあるものは何だろう?」と発想します。
物のあり余るアメリカでショックを受ける
こんなマインドセットで生きてきた私に、びっくりすることが起きました。
4年前、アメリカに引っ越したのです。
母にターメリックミルクを作ってもらっていた私は、ドラッグストアで15000種類のタイラノール(鎮痛剤)を前にしてびっくりしました。
アメリカに来て、2つの悪しきものに出会いました。
1つは、選べなくて停止してしまうこと(choice paralysis チョイスパラリシス、選択まひ)です。物がありすぎて、行動できなくなるのです。
もう1つはジャンク(junk ガラクタ)です。
ものが不足している場所では、ジャンクは存在しません。限りある物を何とか工夫して使おうとするからです。
物がありすぎるから、ガラクタが生まれるのです。
選択マヒとガラクタの組み合わせを体験したければ、スカイモール(機内販売カタログ)を広げてみればいいですね。
アメリカにも足りない状況を逆手に取る人がいた
一方、アメリカで愛すべきものにも出会いました。マクガイバー(MacGyver アメリカのアクション・ドラマのヒーロー)です。
彼は私にとってアメリカの神です。アメリカにもターメリックのようなものがあると教えてくれました。ダクトテープです。
マクガイバーが素晴らしいのは、物のない状態とスピードのあわせ技をするところ。
時間に迫られている中で、ヘアピンや猫、お酢などを使って爆弾を作ります。
スピーディにやることは、時間の制約について教えてくれますね。
時間はお金と違って、誰にとっても限られたものです。マクガイバーは、限られた時間を最大限に使っています。
マクガイバーを見て、足りない状態でつちかってきた戦略を学び直し、物のあふれたアメリカで活用しています。
折り紙の素晴らしさの秘密
足りない状況が創造性を生むもうひとつの例は折り紙です。
そこにあるのは、小さな正方形の紙だけ。その紙を、あの美しい折り鶴にするのは、イマジネーションと創造性なのです。
この考え方は、とても私に力を与えてくれます。
何がいるのか問うのではなく、何を持っているのか、問いかけること。
私は、人が、「足りない状況」と結びつけそうにない場所、Googleで働いています。とはいえ、私の職場にも少ないものがあります。時間です。
ほとんどの商品は、工場で作られるのではなく、タイプする指先から生まれます。
私は、新商品や新しい動き、新しい産業に対して、素早く対応しなければなりません。
問題に遭遇したときは、いつも、2つのことを自分に問いかけています。
1. 私は何を持っているのか? 私のターメリックは何か。マクガイバーならどうするか。
2. いま、自分は何をできるか?
足りない状況とスピードをあわせると、問題解決をしやすくなります。
欠乏を愛し、限られた時間の中でがんばれば、手持ちのもので何とか解決できるのです。
/// 抄訳ここまで ///
単語の意味など
rickshaw 人力車、輪タク
turmeric ウコンの粉末、カレーに入れるスパイスとして有名。
bevy (物の)集まり
jugaad ジュガード
手持ちのものが少なくても、独創性を発揮して、解決しようとすること、その精神。ジュガールとも言われます。
make a virtue of ~を受け入れ有効活用する。直訳は、~を美徳とする。
slingshot スリングショット。(石などを飛ばす)ぱちんこ。ロケットの場合は引力を利用して、飛ぶことだと思います。
shell-shocked 大ショックの。もとは戦争による神経症の、という意味。
choice paralysis 選択肢が多すぎて、選べないこと。
詳しくはこちらをどうぞ⇒バリー・シュワルツに学ぶ『選択のパラドックス』(TED)~所持品をミニマムにすると生きやすくなる理由とは?
SkyMall スカイモール。アメリカの機内通販カタログの会社。2015年に破産申請しています。
MacGyver アメリカのテレビドラマの主人公であり、ドラマの名前。
邦題は『冒険野郎マクガイバー』。マクガイバーは世界中の悪とたたかうエージェント。彼は、科学の知識が豊富で、そのへんにある日用品を使って武器を作ります。
特によく使うのはアーミーナイフとダクトテープ。
「猫を使って武器を作るなんて本当かしら?」と思って調べてみましたが、猫そのものではなく、猫雑誌を使って武器を作ったみたいです。
まあ、とっさに猫を敵にぶつける方法はよくありますね。
このドラマは1985年から7シーズン制作されています。人気シリーズのようで、番外編みたいな映画もあり、さらに2016年にはリブート版も制作されています。
リブート版とは、リメイクや続編とは違い、設定やストーリーを1から解釈しなおして作られたものです。
duct tape ダクトテープ
粘着テープ。ガムテープよりもっと強度があります。銀色。さまざまな物の補修に威力を発揮します。
ductは送水管や導管という意味。
我が家にもあります。
足りない、足りないと言うけれど
いまこの瞬間に、限られた物をつかって、創意工夫しながら問題解決をする。ラムドゥラさんの主張に多いに共感します。
「いま、手元に何があるのか?」と考えてみると、思ったよりいろいろな物を持っていることに気づきます。
今回の動画は、あるご質問をしてきた方のために選びました。
ちょっと長くなりますが、全文を紹介しますね。
件名:職場が断捨離できない
最近シンプルライフやミニマリストのSNSに触れることが多くなり、こちらのブログにたどり着きました。なおこ、といいます。
物の断捨離も進んでいないので、すこし見当はずれな悩み相談かもしれませんが、機会があればお答えいただけたら嬉しいです。
私は44歳の独身女で10年前から東京で税理士をしています。
両親は父が80、母が75で同居しています。
母はわりと元気ですが、父は7年程前からアルツハイマーを患っており、自分でオムツを履くこともできなくて、日常生活全般に介護が必要な状況です。
因みに兄弟はトラブルメーカーの兄だけで、何も期待できません。両親には財産はマンションだけ。年金生活です。
私は法人に雇われているので会社員と身分は同じです。
そこで就業規則や法律に基づいて介護休暇や短時間勤務を希望してきましたが、人員が補充できたらと言われ続けて半年以上経ち、その間にも残業したりして疲れ果ててしまいました。
医者に2ヶ月以上の休養が必要と言われる始末。
ズバリ、今の職場を断捨離できません。
税理士といっても事務所内で一番若い女(これでも。笑)ですので、お茶汲みから事務所内の事務全般をやらされて、ろくにスキルもつきませんでした。
税理士はもうやりたくないんです。現在3000万ほど貯金をしていますが、短時間の負担の軽い仕事になれば食いつぶすかもしれません。要は自信がないのですね。
モーニングページ…あさ布団から出るだけで大変です。。
グルグル思考から抜け出して勇気を持つには私には何が足りないと思われますか?
まとまりが無くてすみません。
筆子さんはお悩み相談室ではないのにごめんなさい。
物の断捨離は、時間ができたら趣味の手芸をやり直したいと思っていて…手芸大好きにはなかなか難しいですね^_^;でも出張先のホテルで何もない部屋に開放感を感じてから、ミニマリストに興味を持ったので、うまくバランス取りたいです。
お悩み相談、長々とまとまりなく失礼しました。
グルグル思考のなおこより
すでに持っているものに目を向ける
なおこさんに、私はこうお返事をしました。
質問はこれですね?
> グルグル思考から抜け出して勇気を持つには私には何が足りないと思われますか?
べつに足りないものはありません。
なおこさんに必要なのは、足りているもの、すでに持っているものに目を向けることです。
足りないと自動的に考えるその思考を捨てればいいだけです。
仕事をやめる・やめないの問題はこちらの記事が参考になるでしょう⇒この先どうしたらいいのかわからないと悩んだらこれを読んでください。
なおこさんは、お父様がアルツハイマー病で、大変な状況ではあります。
ですが、すでにいろいろなものを持っていて、むしろ恵まれた境遇ではないでしょうか?
ご両親は健在で年金で暮らせている。マンションという家がある。税理士という国家資格を持ち、実際に職場もある。
44歳で貯金が3千万円ある。独身だから自由もある。お兄さんもいる。仕事で旅行もできる。ぬくぬくと朝寝できる布団もある。
以前、お金の心配を相談された方も同じですが、いろいろ持ちすぎると、今度はそれを失うのが怖くなるようです。
ですが、大丈夫なのです。
ありすぎて、自分のちからを発揮できていないだけ。なければないなりに、楽しい人生を送ることができます。