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今年最後のTEDトークは、マインドフルネスのプレゼンを選びました。
タイトルは、Settle Down, Pay Attention, Say Thank You: A How-To(落ち着いて、意識を向けて、ありがとうと言う、その方法)。
プレゼンターは、神経科学者で、子供や家族、学校におけるマインドフルネスの専門家の、クリスティン・レース(Kristen Race)さんです。
あわただしい年末、イライラしたら、この講演でシェアされている方法を試して、心を落ち着けてください。
落ち着いて、意識を向けて、ありがとうと言う、TEDの説明
Are you living a mindful life? Brain scientist Kristen Race is an expert on how stress affects the brain,and has used her knowledge to help teach people to live more mindful and less stressful lives. In this engaging and humorous talk, Dr. Race shares three simple ways to keep the brain happy.
あなたは、マインドフルな人生を生きていますか?
脳科学者のクリスティン・レースは、ストレスが脳にどんな影響を与えるか研究しており、そこから得た知識を使って、よりマインドフルに、よりストレスの少ない暮らしをする方法を人々に教えています。
人を引きつける、ユーモアのあるトークで、レース博士は、脳をハッピーに保つ、3つのシンプルな方法をシェアします。
プレゼンは14分43秒、英語とスペイン語の字幕があります。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
あわただしくストレスの多い社会
現代社会は、あわただしく、その忙しさが、職場の大人、家庭の親たち、学校にいる子供たちに大きな影響を与えています。
私も、身に覚えがあります。
7年前、私は、おそらくストレスから、自己免疫疾患にかかりました。
博士課程を取得しようとがんばっていたときのことで、皮肉にも、私が学んでいたのは、ストレスの神経学です。
私はフルタイムで働いていて、夜、博士論文を書いていました。よちよち歩きの子供がいて、2人目の子供がおなかにいました。
そして、なぜか、夫はこの年、家を改装することを決めたのです。
子供もストレスをかかえている
こんな気違いじみた生活をしていたのは私だけではありません。
学校の先生も、生徒も、CEOも、4人の子持ちの母親も、あわただしいペースで暮らしています。
特に女性はそうですね。
会社の役員、起業家、社会運動家でありながら、母親であり、年老いた親の介護者であり、家庭を守る人、子供の宿題をみる人、そして、子供たちを毎週、さまざまな場所に送り届ける車の運転手でもあります。
たいていの人の会話が、テキストメッセージや、Googleカレンダーのリマインダー、自分自身の考えで中断されます。
神経学の見地から見ると、このカオスは大惨事です。
しかし、ストレスが多いのは、女性だけではありません。子供たちもおなじで、9歳から17歳の子供、5人に1人が、メンタル障害と診断されています。
うつや不安症にかかる小学生の割合は、これまでで一番高く、その度合はさらに増えています。
ストレスがあるとできない3つのこと
仕事で、親や先生たちに会うと、3つの言葉をよく聞きます。
落ち着きなさい。注意しなさい。ありがとうというのを忘れちゃだめよ。
脳に関するリサーチのおかげで、この3つを行うことが、なぜこんなにも難しいのかわかってきました。
きょうは、落ち着いて、注意して、感謝するのに役立つことだけでなく、現代社会のストレスに強くなる方法をお伝えします。
ストレスの仕組み
まず、ストレスについて、お話しします。
山で1人でいるとき、クマに出会ったと想像してください。
私は、実際に体験したことがあります。1人でマウンテンバイクに乗っていたときに。
クマに出会ったときすべきことは習っていました。
自転車から降りて、自転車を頭の上に持ち上げて、ゆっくり後ろに歩いていきます。クマにやさしく話しかけながら。
ところが、私は、大声で叫んで、自転車に乗って、後ろに向かって走ったのです。
これは、典型的な、戦うか逃げるか反応(fight-or-flight response、闘争・逃走反応)です。
このとき、脳でこんなことが起きています。
目で見たクマの姿が、視床に伝わり、クマを脅威と判断した視床は、扁桃体に信号を送り、扁桃体は、サバイバルするための反応を引き起こします。
すると、神経系統に化学物質が流れ込み、心臓の鼓動が早くなり、呼吸は浅く、早くなり、筋肉は緊張します。そうやって自分自身を守るのです。
扁桃体のメッセージは、前頭前皮質に行きます。
ここは、注意を向けること、衝動のコントロール、問題解決、意思決定、前向きに考えることを司る部分です。
ポジティブな感情を生み出し、仕事や学習を効果的にすることを助ける部分でもあります。
危険を知らせる部分が優位になると?
脳には、前頭前皮質という賢い部分と、大脳辺縁系という、危険を知らせる部分があります。
危険を知らせる部分のほうが早く反応するし、賢い部分より、強力です。
クマを見たとき、私の、前頭前皮質は、クマにあったときのために学んでいた情報にアクセスするのが遅かったのです。
というのも、危険を知らせる部分が、脳を占拠していたから。
グラフにするとこんな感じです。
ベースライン(基準線)は、平常心のときで、前頭前皮質が主導権を握っています。危険を察知すると、大脳辺縁系が優勢になります。
これは、古典的な「戦うか逃げるか反応」、すなわちストレス反応です。
ところが、ふだんの生活には、命をおびやかすわけではないのに、ストレス反応を引き起こすものがたくさんあります。
慢性のストレス
慢性的なストレスを見ていきましょう。
息子の5歳の誕生日パーティの朝のできごとです。
娘と私は、パーティの前に、ケーキと風船を取りに行くために家を出ました。
軽トラックに乗り込んだとき、ガソリンがないのを見て、私のスパイク(折れ線グラフの山形に折れた部分)があがります。
ガソリンスタンドに行って、ガソリンを入れたら、無料で洗車をしてもらえることになりました。
そこで、洗車する場所に車を進ませ、その中にいましたが、最後近くになってから、トラックの荷台に、フットボールを模したピニャータ(くす玉、中にお菓子やらが入っていて、割って遊ぶ)が入っていることを思い出しました。
またスパイクがあがりました。
洗車が終わったあと見たら、ピニャータは割れて、びしょぬれになったお菓子が荷台に散乱していました。
娘と私は、スーパーのベーカリーに、数日前に息子が選んだブロンコ(半野生の馬)のケーキを取りにいくと、店の人は、ブロンコのキットがなくなったので、かわりに野球がテーマのケーキを作ったと言うではないですか。
3つ目のスパイクです。
娘の表情をみて、店の人は、別の店で、ブロンコのケーキを作れないか聞いてみると言いました。
ベーカリーの人が電話しているあいだに、花売り場に、風船を取りに行ったら、おじいさんが、すごくゆっくりヘリウムの風船を一つずつふくらましていて、リボンを結ぶのにも、すごく時間がかかっています。
またスパイクがあがりました。
私は、風船にリボンを結ぶのを手伝いました。風船をもって、ベーカリーに戻り、店の人が、ケーキをピックアップする場所を書いているとき、背後で銃撃のような音が聞こえました。
またスパイクがあがりました。
ふりむくと、風船が、天井のスプリンクラーにさわって割れ、1つずつ落ちていました。
このとき、娘が、私のシャツをひっぱって、「ママ、おなかがすいた。どうして、こんなに時間がかかるの?」と言ったのです。
このときの私のベースラインはこんなふうになっています。
脳がこういう状態だと、落ち着くことも、注意を向けることもできません。そうするための脳の部分が、完全にオフラインになっているからです。
脳のバランスをとるために
脳を、もっとバランスの取れた状態にする方法をお伝えします。
スパイクが上がりすぎず、早くベースラインに戻すツールです。
落ち着き、注意を向け、感謝の気持ちをもつために、もっとも効果的な方法の一つは、マインドフルネスです。
マインドフルネスとは、いまこの瞬間に、なんのジャッジもせず意識を向けることです。
実践すると、人間関係、仕事のパフォーマンス、育児、健康すべてが向上し、より幸せになります。
マインドフルネスは、前頭前皮質にある神経回路を強化することです。
自分のストレスを軽減し、気分をよくするだけでなく、周囲の人にも大きな恩恵があります。
UCLAのある研究によれば、マインドフルネスを1年実践した親たちは、育児のスキルがあがり、子供たちとうまく付きあえるようになりました。
新しい、育児のスキルは学んでいなくても。
子供たちの行動も変わり、兄弟姉妹でより仲良くできるようになり、攻撃的な面も減り、ソーシャルスキル(主体的でありながら、他の人とうまく協調するスキル)も向上したのです。
私たちのリサーチの結果、子供たちに、マインドフルネスのスキルを教えると、注意を向けることや、感情をコントロールすることがうまくなり、思いやりの心もはぐくまれるとわかりました。
すると、よりストレスに強い脳になり、仕事や勉強もより効果的にできるし、ハッピーな脳になるのです。
日々の暮らしが向上する方法を3つお伝えしますね。
1.マインドフルブリージング(呼吸に意識を向ける)
目をとじて呼吸に意識を向けます。すごく簡単です。
これは、ストレス反応を静める唯一のもっとも効果的な方法かもしれません。
椅子や床に座って、1日、5分、10分、理想は20分、呼吸に意識を向けてください。
ほかごとを考えてしまったら、また呼吸に意識を向け直します。たったこれだけです。
もし、忙しすぎて、マインドフルブリージングができないときは、以下のことをしてください。
信号で止まるたびに、おなかに手をあて、呼吸の回数を数えます。電話がなるたびに、長くて深い呼吸をゆっくりして、それから電話を取ります。
子供がむずがったら、抱きしめて、一緒に、3回深呼吸をします(3ブレスハグ)。自分も子供もいい気分になります。
2.マインドフルリスニング
マインドフルリスニングは注意の向ける練習です。
マインドフルリスニングを実践すると、脳にある網様体賦活系(もようたいふかつけい、RAS ラス)を刺激することができます。
RASは、私たちが受けるあらゆる刺激をフィルタリングして、そのとき、一番重要で、フォーカスすべき刺激を決定します。
職場で、今すべきことにフォーカスするためには、朝やるのを忘れたことや、あとでやるべきことを考える思考をフィルタリングして捨てなければなりません。
教室で、子供たちは、たくさんの情報をフィルタリングしなければなりません。ほかの教室から聞こえる騒音、うるさいクラスメート、ブーンというライトの音、エアコンディショナーの音。
RASが効果的に働いているときは、そのときもっとも重要なタスク、状況、人々にフォーカスできます。
チャイムやトーンバーでマインドフルリスニングをできます。職場では、タイマーを1~2分にセットして、できるだけ遠くの音まで聞いてください。
子供と歩いているときは、1分時間をとって、何も言わず、聞くことだけをします。何が聞こえたか子供たちに聞いてください。
こうした単純なことが、今の瞬間に意識を向けるのに役立ちます。
3.感謝する
人の脳は、ネガティブな情報に、3~5倍、より敏感です。美しい花に目をとめるより、毒蛇に気づくほうが、進化するうえでは重要ですから。
いま、そのようなサバイバルに対する脅威を感じることは少ないのですが、それでも、脳は、ネガティブな情報に敏感なままです。
ポジティブなできごとに、意識的に注意を向けると、ポジティブな記憶に関係のある神経回路を強化できます。
この神経回路を使えば使うほど、脳は、この神経回路を使うことを好むようになり、前向きな考えをすることが増え、ネガティブなことに注意を向けることが減ります。
もっとポジティブな気持ちになりたいと思う人にとって、感謝することは、すばらしい練習です。
しっかり感謝している人は、25%、より幸せになります。より親切で、他人を助けようとします。
より健康で、いろいろなことに興味を持ち、やる気があり、決然としています。
感謝している子供やティンエイジャーは、うまくやっていけます。よい成績をとり、自分の人生により満足します。
社会にうまくとけこめ、うつになることも少ないのです。
感謝する方法はたくさんありますが、ごく簡単な方法をお伝えします。
ホリデーシーズンに、家族に、感謝日記(gratitude journal。感謝ノート)をあげてください。
毎晩、寝る前に、3~5つ、感謝できることをこの日記帳に書きます。
子供が学校から帰ってきたら、「きょうはどうだった?」と聞くかわりに、「きょうは、誰がいい友達でいてくれた?」と聞いてください。
人は、自分を不愉快にさせた人間のことをまず考えてしまいます。意識的に、自分をいい気分にさせてくれた人のことを考えてください。
マインドフルネスがいいのは、3ヶ月、静かなところに引きこもらなくてすむことです。
日々、短い時間、まめに実践することが、自分にとっても、周囲の人にとってもよいと仕事を通じて学びました。
毎日、忙しいですよね。でも、ごく小さな変化を少しだけもたらせば、大きな違いが起きます。
呼吸して、聞いて、ありがとうと言いましょう。
////抄訳ここまで////
単語の意味など
autoimmune disease 自己免疫疾患
dissertation 博士論文
thalamus 視床
amygdala 扁桃体(へんとうたい)
prefrontal cortex 前頭前皮質
forward thinking 前向きな考え方、先進的な考え
limbic system 大脳辺縁系、本能や感情を司る場所
pickup truck 小型のトラック、軽トラック
reticular activating system 網様体賦活系(もようたいふかつけい)RAS(ラス)
tone bar トーンバー、スチールギターの弦を押さえる棒状のもの
クリスティン・レースさんの本です。
マインドフルネスに関するほかのプレゼン
マインドフルネスのパワー:いつもやっていることが育つ(TED)
マインドフルネスはどんなふうに私たちを変えるのか?(TED)
マインドレスからマインドフルへ、ファッションを変えていく(TED)
暮らしにマインドフルネスを取り入れてより自由になる(TED)
悪い習慣を断ち切る簡単な方法(TED)マインドフルネストレーニングのすすめ。
『必要なのは10分間の瞑想だけ』~物より心が大切です(TED)
人間らしさを取り戻すために
マインドフルネスに関する記事は、すでにたくさん書いていますが、実践している人は意外に少ないかもしれません。
先日、「欲しいものも、やりたいことも、食べたいものもありません」と書かれたメールを紹介しました。この人、まだ10代です。
たくさん物を捨てたのに、ストレスが減らなくて苦しいときの対処法。
遺品整理に関する相談をしてきた30代の人は、「自分が大切ではないししたいことが何もない」と書かれていました。
実は、こんなニュアンスのことをメールに書いてくる人、ほかにもいらっしゃいます。
そういう人には、「他の人の役にたちなさい」とおすすめしてきましたが、もうひとつ、マインドフルネスの実践もおすすめします。
何らかの理由で、人間らしい生活の基盤となる、前頭前皮質があまり機能していないと思うからです。
脳の各部位はもっと複雑にからみあっているので、これはあくまでざっくりとした理解をもとに書いています。
ストレスがあると、本能を司る大脳辺縁系が優勢になる、とプレゼンで言っていました。
大脳辺縁系は古くからある脳で、脳の奥深くにあります。
大脳辺縁系が優勢になると、前頭前皮質(理性をもち、思考するのに重要な役割を果たしている部位)がそのパワーに負けます。
だから、いとも簡単に、「したいことは何もない」「私には自分がない」「自分がどうしたいのかわからない」と言うのでしょう。
おなかがすいたら食べて、寝るだけ的な。
無気力な人は、きょうから1年間、1日20分、マインドフルブリージングをしてみてはどうでしょうか?
クリスティン・レース博士の研究が、誰にもあてはまるものなら、1年たてば、多少は意欲的になると思います。
したいことが何もないなら、1日、20分を捻出するのは難しくないでしょう。
私も、1日、5分、きょうから毎日、マインドフルブリージングを実践します。