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捨てたあとのことが心配で、不用品を捨てない人におすすめのTEDトークを紹介します。
タイトルは、How to ‘overcome’ fear (いかに恐怖を「克服する」か?)
講演者は、学び方(learning)を教えているTrevor Ragan (トレヴァー・ラガン)さんです。
overcome に、引用符(クォーテーションマーク)がついているのは、無理に恐怖を克服しようとしないほうがいいからです。
恐怖をてなずける:TEDの説明
Fear can be helpful when we’re in danger but sometimes it gets in the way of learning opportunities. Trevor Ragan digs into fear – outlining what it is, where it comes from, and (most importantly) how we can work to put it in its place.
危険な目にあっているとき、恐怖は私たちを助けてくれます。けれども、恐怖が学ぶのを邪魔するときがあります。
トレヴァー・ラガンは、恐怖がなんであるのか説明します。どこから恐れが来るか、さらに(もっと重要なことですが)、どうしたら恐怖に振り回されないが説明します。
☆put it in its place の直訳は、「それをそれの場所に置く」。あるべき場所に置くということです。
講演の中に、「恐怖を捨てることはできないから、後ろの座席に置いておきなさい。前の座席でハンドルを握らせてはいけません」というくだりがあるので、「恐怖に振り回されない」と意訳しました。
収録は2018年の5月、講演の長さは17分46秒。まだ字幕はありません。動画のあとに抄訳を書きます。
とてもわかりやすい英語です。
なぜコンフォートゾーンから出たくないのか?
能力をギリギリまで発揮して、少しだけコンフォートゾーンを出るとき、私たちは一番学ぶことができるのに、なぜ、人は、コンフォートゾーンを出るのが嫌なのでしょう?
学習と成長に関する研究を見てみれば、学習をするとき、一番、障害になるのは、恐怖だとわかります。
人によく見られないという恐怖、未知のものに対する恐怖、失敗する恐怖。
恐怖があるから、コンフォートゾーンにとどまりたいと思うのです。
けれども、誰でも恐怖に打ち勝つことができます。それはスキルです。
ただ、これから話す恐怖の手なずけ方は、皆さんの想像とはずいぶん違うでしょう。
恐怖について科学でわかっていることと、皆さんの恐怖に対する理解のギャップを埋めたいと思います。
恐怖はどこからくるか?
まず、恐怖の出どころをお話ししましょう。人の脳に、最初から組み込まれています。
扁桃体(へんとうたい)から来ます。ここはトカゲ脳(爬虫類脳)と呼ぶこともあります。
扁桃体は、脳幹のそばにあり、アーモンド2つの大きさです。
人の生存を助ける部位です。
身の危険から自分を守るために、人は恐怖を感じます。
野球の試合を見ているとき、観客席にバットが飛んできたら、みな、身をかがめますが、これは扁桃体の働きです。
脅威を感じると、すぐさま恐怖がうまれ、身をかがめるのです。
すばらしい働きをする扁桃体ですが、少しばかり問題があります。扁桃体は、自分のためになる挑戦と、本当に危険な脅威を区別することができません。
よい危険と悪い危険の違いがわからず、どんな脅威も避けようとします。
恐怖を引き起こすもの
恐怖を引き起こすものが4つあります。不確かさ、注目されること、変化、大変さです。
この4つの要素があると、恐怖が生まれます。
確かに危険な状態にはこの4つがありますが、学ぶ絶好のチャンスにも、ありますよね。
芸術や音楽のパフォーマンスをしたり、競争したりするときに。
恐怖を感じると、人はそう感じなくてもすむ道を見つけます。本当に危険なときは、それはいいことですが、学ぶときにはかえって害になります。
グループの中で質問したり、質問に答えたりするのが嫌なのは、恐怖があるからです。
ここであなたに質問をし、あなたが答えようとすると、会場にいる全員があなたを見ます。
注目をあびてしまいますね。
不確かさもあります。間違った答えを言うかもしれない、馬鹿な質問をするかもしれない、と思います。
不確かさと注目があると恐怖を感じます。
だから質問しないのです。これを私は、「トカゲが、戦いに勝った状態」と呼んでいます。
トカゲ脳と先延ばし
レポートの提出期限が2週間後にせまっている時、人は、前の晩まで書くのを先延ばしにします。
先延ばしは、トカゲ脳から来ています。
毎晩、選択できます。調べ物をしてレポートを書くか、ネットフリックスを見るか?
トカゲ脳は、ネットフリックスを選びます。
トカゲの目から見ると、世界は白か黒のどちらかです。自分が何をしているかはわかっていません。
トカゲにとっては、「いま、苦しむか、苦しまないか」だけで、いつも、苦しまないほうを選んでいます。
苦しみの格下げ
私のトカゲには、もう1つの方法があります。苦しみの格下げ(ダウングレード)です。
新しい記事を書いてサイトにアップするより、掃除機を3回かけるほうを私は選びます。
同じように働いてはいるけれど、より困難や不確かさ、注目、変化のない方法を選ぶのです。
だから、朝起きたとき、「きょうは絶対、ヘルシーな晩ごはんを作るぞ」と思っても、仕事が終わると、疲れて、車で、チポトレ(メキシカンファーストフードの店)に行ってしまうのです。
この瞬間、選択肢があります。
塩辛くて、脂肪分の多い、おいしい食事をいま、食べるか、店に材料を買いに生き、家で食事を作るか、という。
トカゲは、チポトレを選びます。
今、手に入るものを即食べること、むずかしいことより簡単なほうを選ぶこと、即座に選べる喜びを選択するのは、昔は、いい方法でした。
次の食事がいつになるかわからなかった時代には、私たちを、危険から守ってくれました。
状況が変わったのに、脳の反応は同じ
しかし、現在は、私たちはそういうゲームをしていないのに、ソフトウエアだけが同じなのです。
トカゲ脳のパワーは、私たちの行動を大きく左右します。トカゲ脳のせいで、選択をしています。
本当に危険なとき、不確かさ、注目、大変さ、変化を避けるのはいい戦法でした。
しかし、この戦法は、人が成長するすばらしいチャンスを台無しにしています。
ライトしか守らない少年
これまで何回となくこの話を伝えていますが、いつも、聴衆に、ある質問をしています。
「恐怖のせいで、成長する機会を失ったのはいつですか?」
誰にもそういう体験があります。
野球をしているけど、いつもコーチに、ライトを守らせてください、と言っている3年生がいました。
ライトにはボールが飛ばないから。
「本当は内野を守りたいけど、自分のところにボールが飛んできて失敗するのが怖いから、いつもライトなんです」、こう彼は言いました。
みな、身に覚えがあるはずです。
自分はやりたい、やればできる、むしろするべきだ、と思うのに、いざ、その時になるとライトを選んでしまうことが。
コンフォートゾーンにとどまってしまうのです。
オーディションから逃げだした高校生
ザ・ヴォイス(オーディション番組)のオーディションで最後まで残った女子高校生がいました。
あと1曲歌えば、番組に出られたかもしれないのに、彼女は怖くなって、歌わなかったのです。
歌を歌えば、彼女の人生が大きく変わったかもしれないのに。
快適な場所で恐怖について語ったり、どうしたらいいか話したりするのは簡単です。
特に、他人に、どうしたらいいか教えるのは。
だから、3年生や高校生に、「内野を守るべきだ」、「歌うべきだった」というのは簡単です。
口で言うのは簡単なのです。
しかし、実際、自分の身になってみると、誰もが同じことをするでしょう。
恐怖はそれほどパワフルだから。
恐怖が奪うもの
でも、歌を歌わなかったら番組に出られません。志願しなかったら、仕事につけないのと同じように。
このように、恐怖はたくさんの可能性をつぶしますが、経験する機会も奪っています。
ステージに出て歌う、仕事に志願して、面接を受ける。
思い通りの結果にならなくても、こうした経験をするのは、大切なのに、恐怖のせいで、経験できないのです。
毎日、恐怖が、成長する機会を奪っています。このことを私は、尊敬しているセス・ゴードンから学びました。
数年前、彼とスカイプする機会があり、恐怖について、話しました。
彼は、トカゲ脳のことや、それが何をするか教えてくれました。
それまで、恐怖のせいで、自分が機会を失っていたことが頭に浮かびました。
1年間、発言しなかった生徒
私は、ワイオミング州のランダーで育ちました。ど田舎です。
5年生のときから、デューク大学(ノースカロライナ州にある私立大学。名門校として有名)に入るのが夢で、この学校に入るために、5年生から12年生(高校3年)まですごくがんばりました。
そしてようやく入学を果たしたんです。家を出て、遠いノースカロライナに行きました。
それはコンフォートゾーンを出る行為で、私は恐怖でいっぱいでした。誰もが、自分より賢く、まともで、金持ちに見え、自分はここには居場所がないと感じていたのです。
夢の大学で過ごした、最初の1年間、私は授業で1度も発言しませんでした。
質問することも答えることもせず、議論に参加しなかったのです。
きょうみたいに、プレゼンをしなければならない日は、欠席しました。
トカゲ脳のせいで。
もし間違った答えをしたら、「私が、ワイオミングから来た、ここにいるべきではない人間」だと皆にわかってしまうと恐れていたのです。
すばらしい大学での1年間、恐怖のせいで、成長するチャンスが、台無しになったのです。
トカゲ脳に勝とうとしない
セスと話しているときに、この体験を思い出し、彼にこんな質問をしました。
「どうしたら、恐怖をなくすことができますか?」
当時の私は、恐怖は悪いもので、恐怖がなくなれば、もっと学ぶことができる、と思っていました。
だから、トカゲ脳を殺す方法を聞いたのです。
彼の答えが私の人生を変えました。
「その質問をしてくれてうれしいよ。だって、間違った質問だから。トカゲ脳に勝とう、破滅させよう、征服しようと思っても、うまくいかないよ。
脳は、化学実験なんだ。電気と化学物質にすぎないんだよ」。
トカゲ脳を抑え込もうとか、脳にわからせようとすると、脳がパニックになって悪化するだけです。
勝つことはできません。
でも、トカゲ脳と踊ることはできます。
トカゲ脳は羅針盤
トカゲ脳は、羅針盤で、それが興奮しているときは、自分が何か、勇敢で、大胆で、強力なことをしていると知らせているのです。
それを察知して、トカゲ脳が、やれと言っていることと逆のことをやるべきです。
トカゲ脳を羅針盤だと考えるのは、いい方法だと思います。
トカゲ脳は、いつもコンフォートゾーンにいたいと思っているから、そこから出ようとすると、あわてます。
それは、私たちが、何かを学ぼうとしていることを教えるシグナルです。
恐怖を押さえつけない
いま、ここで、「恐怖を使おう、恐怖を感じよう」と話していますが、以前は、これと真逆のことを、私は言っていました。
いろいろな場所で、「恐れるな、恐怖を忘れろ」と語っていたのです。
恐怖がどこからくるのか、その仕組みを知ってみると、これはまずいアプローチだと気づきます。
恐怖を感じるな、というのは、誰かに「できないことをしろ」と言っているのと同じです。
不確かさ、注目、大変さ、変化があるとき、人は必ず恐怖を感じます。
恐怖を感じない方法は、やろうとしていることをしないことだけ。でも、こっちは選びたくないですよね。
恐怖を悪いものだと考えない
恐怖を悪いものだと考えてしまうと、恥の気持ちがひどくなります。
夢の仕事につくための面接を待っているとしましょう。仕事を得られるかどうか、不確かで、人の注目も、大変さもあります。
居心地が悪いでしょう。
そんな時、まわりの人から、「恐れるな」と言われると、恥の気持ちが大きくなります。
こんなふうに怖がる自分はどこかおかしいのかもしれない、自分にはまだ準備ができていないんだ、他の人は、こんな気持ちになったりはしないんだ、というように。
そう思うと、ますます怖くなります。
これは、「恐怖を感じるべきじゃない」という間違った思考から起こることです。
面接やパフォーマンス、講演など、ふだんの自分に負荷をかける挑戦を前にして、恐れを感じるのはふつうだ、と思うべきです。
自分がおかしいわけではないし、準備ができていないわけでもない、人間だからそうなるのです。
それは、人のふつうの反応なのです。
恐怖に対する、昔のアプローチでは、恐怖を悪いものと捉えています。だから、恐怖があると、自分にはできない、やるべきではない、と思ってしまうのです。
恐怖はなくならない
アップグレードしたアプローチでは、恐怖は、自然で人間らしいものだ、と捉えます。
この知識があれば、もっと恐怖を感じる状況に出ていくことができます。
もっと、学び、成長できるのです。
学びに関して、この知識ほど私の助けになったものはありません。
セスと話す前の私は、講演の前後に、すごく動揺していました。
恐怖を感じるのは、自分が未熟で、賢くないからだと思っていたのです。
彼に、「恐怖を感じてもいい」と言われた日から、講演の取り組み方がまるで変わりました。でも、恐怖がなくなったわけではありません。過去3年に、900回ほど講演をしていますが。
恐怖と踊るのは、スキルなので、やればやるほど上手になりますが、恐怖がなくなることはありません。
いまも、トカゲ脳が暴れています。
恐怖は後部座席に置く
エリザベス・ギルバートが、Big Magic (邦題:BIG MAGIC 「夢中になる」ことからはじめよう。)という本で、恐怖についてたくさん書いています。
彼女は、「恐怖は、車の後部座席に置いておこう」と言っています。
車から追い出すことができないから、後部座席に置くのです。すばらしい考え方だと思います。
学びのチャンスを、脅威だと感じるトカゲがハンドルを握ってしまうことが問題なのですから。
どんな問題も、挑戦も、障害も、トカゲの目から見ると脅威なのです。
後部座席にトカゲを置き、自分でハンドルを握れば、脅威に感じていることの大半は、機会だと気づきます。
チャンスだと思えば、それを実際にやって経験できるし、それが、成長の助けになります。何度もやっているうちにうまくなりますよ。
繰り返しますが、これはスキルです。自分で積み上げることができます。
今夜、家に帰って、もっとも怖いことを選んで、明日やれ、とは言いません。
でも、恐怖を感じ、問いかけてください。怖いと思っても、ちょっとだけコンフォートゾーンから出ることをやりましょう。
何度もやるうちに、より大きくジャンプする筋力がつきます。
ポイントは、トカゲ脳のシグナル、自分の選択に意識を向け、コンフォートゾーンから出ることに、今より少し時間を使うことです。
誰でもできます。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
amygdala 扁桃体(へんとうたい)
the middle of nowhere 人里晴れれた場所に、ないもないところに、ど田舎
エリザベス・ギルバートの本
恐怖に関するほかのプレゼン
「恐怖」が教えてくれること:カレン・トンプソン・ウォーカー(TED)
心配性は自分で克服できる。恐怖と向き合うことを学ぶ(TED)
先送りをしない人生を生きるために、目標ではなく恐怖を明確にすべき理由:ティム・フェリス(TED)
感情のなすがままでいる必要はない。あなたの脳がその感情を作っているのだから(TED)
恐怖の4つの要素を考えてみよう
不用品を捨てられないのも、恐怖心があるからだと、私は考えています。
恐怖の4つの要素、全部揃っています。
不確かさ:捨てたあとで、必要になるんじゃないか? 将来、ないと困るんじゃないか?
人の注目:この服を捨てて、いつも似たような服で会社に行くと、変に思われるんじゃないか? シャンプーを捨てて、湯シャンをしていると、人に、「不潔な人」と思われるんじゃないか?
変化:クローゼットにいっぱい洋服がある状態から、ほとんどない状態に変わる。10年分の領収書が入っていた引き出しがからになる。フリーザーや冷蔵庫がガラガラになる。
大変さ:捨てるのは、肉体的にも精神的にきつい。お金がかかることもある。めんどくさい。何もしないで現状を維持するのが一番ラク。
自分では、「もったいない、そのうち、使ってくれる人が親戚や友人になる、とか、いつかやせた時に着るから」など、いろいろと捨てない言い訳を口にしていますが、結局は、恐怖のせいで、捨てない行動(恐怖を感じなくてすむ行動)を選択します。
しかし、不用品を捨てることは、キャンプ場でクマにあう脅威とは違います。
クマにあったらすぐに逃げないと命があぶないのですが、物を捨てても、命は取られません。
恐れなくてもいい恐怖のせいで、生活を改善できるチャンスを逃しているのです。
本当にシンプルライフにしたいのなら、トカゲ脳の指示とは逆のことをするべきでしょう。