笑顔

TEDの動画

最終更新日: 2020.05.18

感情のなすがままでいる必要はない。あなたの脳がその感情を作っているのだから(TED)

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人の感情は、本能的な反応ではないと伝えるTEDの講演を紹介します。

タイトルは、You aren’t at the mercy of your emotions — your brain creates them(あなたは感情のなすがままではない。あなたの脳がその感情を作っている)

講演者は脳神経学者で心理学者の Lisa Feldman Barrett(リサ・フェルドマン・バレット)さんです。



人は感情の奴隷じゃない(TEDの説明)

Can you look at someone’s face and know what they’re feeling? Does everyone experience happiness, sadness and anxiety the same way? What are emotions anyway? For the past 25 years, psychology professor Lisa Feldman Barrett has mapped facial expressions, scanned brains and analyzed hundreds of physiology studies to understand what emotions really are. She shares the results of her exhaustive research — and explains how we may have more control over our emotions than we think.

誰かの表情をみて、その人の気持ちがわかりますか?

誰もが、幸せ、悲しみ、不安を同じかたちであらわすでしょうか?

感情とは、いったい何なのでしょう?

過去25年、心理学者のリサ・フェルドマン・バレットは表情を調べ、脳をスキャンし、何百もの心理学の研究を分析して、感情について理解しようとしました。

この徹底的な研究の結果をシェアし、リサは、私たちは、自分が思っている以上に感情をコントロールできると説明します。

収録は2017年の12月、長さは18分30秒。28カ国語の字幕がありますが、なぜか日本語がありません。動画のあとに抄訳を書きます。

☆トランスクリプトはこちら⇒Lisa Feldman Barrett: You aren’t at the mercy of your emotions — your brain creates them | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

バレットさんは、独特のユーモアがありますね。





他人の感情を読み取ることはできない

私の研究所は2013年にボストンマラソンで、爆弾が爆発した場所から、1マイル(1.6キロ)のところにあります。

生き残ったる爆弾犯のチェチニア人、ジョハル・ツァルナエフ(Dzhokhar Tsarnaev)は裁判にかけられ、有罪となり死刑宣告を受けました。

陪審員は、終身刑か、死刑のどちらにするか、おもに、被告が悔いているかどうかで決めました。

ツァルナエフは謝罪しましたが、彼は無表情でした。

もちろん、彼が罪を問われるのは当然です。人を殺し、けがをさせたのですから。

ですが、科学者として、陪審員たちは、ほかの人と同じように、他人の後悔の気持ちや、感情を読み取ることはできない、と言いたいのです。

皆さんも、私もできません。なぜなら、感情は私たちが思っているようなものではないからです。

感情はあらかじめ脳に組み込まれた反応で、コントロールできない、というのは誤解です。

私たちは、長く、感情の本質を取り違えてきました。感情について正しく理解することは、とても重要で、私たちの生活に大きな影響をもたらします。

感情は推測である

過去25年、科学者として、感情を研究してきました。

ラボでは、化学的シグナルがどんな表情を作るか調べ、感情と身体的な反応を研究し、関連するたくさんの研究を分析。

脳をスキャンして、脳の反応と感情の関係を調べ、論文を発表しました。

このような研究の結果には共通点があります。

みなさんは、脳に感情をおこす仕組みがあり、それが、感情を引き起こすと考えているでしょう。

つまり、脳には生まれつき、感情をおこす回路があると。

実は、誰の脳にもそんな回路はありません。

では、感情とは何なのでしょう?

実は、感情とは、「推測(guesses)」なのです。その瞬間、脳内でたくさんの細胞が共同して構成するものであり、私たちは自分が思っている以上に、この推測をコントロールすることができます。

ばかげた理論だと思うかもしれません。私だって、たくさんの証拠を見てこなかったら、そう思います。

つまり、感情は生まれつき、そなわっているのではなく、あとで作られるのです。

感情は構成される

これを見てください。

白黒のまだら

いま、みなさんの脳は、この白黒のしみが何を意味するのか解明しようと必死で働いています。

これまで体験したことをふるいにかけ、同時に何千もの推測をし、「これは何にもっとも近いか?」という問いに答えようとしています。

質問は、「これは何か?」ではありません。「私の過去の体験から、もっともこれに似たものは何だったか」です。

すべては、まばたきするような短い時間で行われています。答えが見つからず、白黒のぼやぼやしたものにしか見えないとき、みなさんは、「経験にもとづく盲目状態(experiential blindness)」の中にいます。

その状態を治してあげましょう。

ヘビ

さて、ヘビだとわかりましたね? なぜでしょうか?

過去の体験を、よりわけている脳に、新しい知識が加わったからです。

その知識は写真から得られました。

この知識が、黒と白のしみをどう体験するか、変えたのです。

ヘビのないところに、脳はヘビのイメージを構成しました。このような幻覚を、脳神経学者は、「予測(predictions)」と呼びます。

人の行動は予測に基づいている

いつも脳は予測しています。人の体験の基本は予想です。人の行動は、予測に基づいて行われます。

私の言葉をみなさんが理解できるのも、予測しているからです。

予測するから、人は、周囲のできごとを、迅速に効率的に理解できるのです。

つまり、脳は世界に対して反応しているのではなく、過去の体験をベースに、予測し、体験を構成しているのです。

表情の解釈も予測にすぎない

人の感情を読み取ることも、予測にもとづいています。

私たちは、誰かの表情をみると、その感情を、まるで本に書いてある文字を読むかのように、読み取ります。

しかし、実際は、脳は予測しているだけなのです。

似たような状況の過去の体験をつかって、意味づけをしようとしています。

しみの意味付けとは違い、唇のカーブや、眉のあがり具合を見て、意味づけようとしています。

爆弾犯のツァルナエフの、無表情で前をじっと見る顔は、後悔していない人のようにも見えますが、厳粛に負けを受け入れている姿にも見えます。

実際、チェチェンの文化では、そう受け取れるのです。

つまり、他人の表情を読み取る感情の一部は、自分の頭の中からくるのです。それは裁判所でも、教室でも、寝室でも、会議室でも起こっています。

感情の認識には状況が必要

ここで、私は思うのです。GoogleやFacebookなどの、テクノロジー企業は感情を認識するシステムを作ろうと巨額のお金を注ぎ込んでいますが、彼らは、根本的に、間違った問いかけをしています。

表情や、ボディアクションを読み取ろうとしていますが、感情は顔や体にはありません。

さまざまな身体的な動きが、固有の感情を表すわけではないのです。

それを見る人が、その動きに意味づけをしています。

人間か何かが、その動きと状況を考えあわせて、意味づけるのです。

だから、笑顔が悲しみを、叫び声が喜びを、無表情が、敵を倒そうとする気持ちをあらわすときがあります。

皆さんが、自分の感情を認識するときも、全く同じようにしています。脳は予測をし、感情を構成しています。

感覚と感情は違う

人の脳は、ごく単純な、生理学的な感覚は備えています。

生まれつき、落ち着き、興奮、快適、不快、といったことは感じます。

これらは、単純な感覚(feelings)で、感情(emotions)ではありません。

感覚は、体内で起きていることの要約で、バロメータのようなものです。

感覚にはたいしてディテールがありませんが、人が、こうした感覚に対処する次の行動を決めるとき、ディテールが必要です。

このディテールを決めるとき、脳が、予測をするのです。

体内で感じる刺激に予測が結びつき、人は、次にすべきことがわかります。このディテールを作る作業(構成する作業)の結果が、しばしば感情です。

感情が作られる例

たとえば、パン屋に行くとしましょう。脳は、焼き立てのチョコレートチップクッキーの匂いに出会うと予測し、おなかをちょっとぐるぐるっとさせます。クッキーを食べる準備です。

店で、焼き立てのクッキーに出会ったら、脳は、空腹を作ります。予測により、クッキーを食べ、消化する準備が効率的にできるのです。

ですが、困難な状況のときも、おなかがぐるぐるっとなります。病院で診断の結果を待っているときや、不安に襲われているとき、脳yは恐怖は心配を作り、そのせいで、人は、ぎゅっと手を握ったり、深呼吸したり、泣きたくなったりします。

同じ身体的な反応でも、体験は別物のときがあるのです。

感情が自動的にわきあがっていると思っていますが、実際は自分で作っているのです。

皆さんは、感情のなすがままでいなくてもよいのです。脳の中に、感情を作る回路がもともとあって、自動的に生まれるというのは神話です。

皆さんは、思っている以上に感情をコントロールできます。

経験を設計する

指をならせば、服を着替えるように、気持ちが変わるとは言っていません。ですが、脳が感情を作るのに使う材料を変えれば、感情が変わります。

きょう、その材料を変えれば、明日は、違う形でに予測するよう脳に教えることができるのです。私はこれを、「経験の設計者になること(being the architect of your experience)」と呼んでいます。

例をあげましょう。

誰もが、テストの前には緊張しますが、一部の人は、とても大きな不安を感じます。

テスト不安症(have test anxiety)の人たちです。

過去にテストを受けた体験をもとに、脳は、どきどきする心臓や、汗をかく手を予測し、ちゃんとテストを受けることができなくなります。

テストの結果はよくなく、落第するだけでなく、ドロップアウトすることもあります。

けれども、心臓がどきどきすることは、必ずしも不安を意味しません。テストとたたかって、いい点をとる準備をしているとも言えます。

リサーチによれば、学生が、不安のかわりに、やる気に満ちた決意をすることを学べば、テストの点がよくなります。

この決意は、脳が未来を違う形で予測することから生まれるのです。

これを何度もやれば、テストにパスするだけでなく、そのクラスにパスすることも簡単になり、大学を終えることもできます。これは、その学生の将来に大きな意味を持ちます。

だから、私は、このエモーショナルインテリジェンス(emotional intelligence 情動知能)を使います。

感覚を正しく解釈する

皆さんも、自分で、エモーショナルインテリジェンスをつちかって、日常生活で使うことができます。

朝起きたとき、たちまちいやな気分に襲われませんか? また1日、あれも、これもやらなきゃいけないと思いませんか?

職場でやるべきこと、山のようにあるメール、電話しなければならない用件、街の反対側で行われる重要な会議、渋滞もあるし、子供を迎えにいく必要もある。おまけに犬が病気。夕食は何を作ろうか。ああ、私の人生、いったいどうしちゃったの?

こんなふうに、はやる気持ちになるのも、予測です。

肉体が感じていること(センセーション)の説明を見つけるために、脳が動いています。先ほど見た、しみの解明と同じです。

なぜ、そんなふうに感じているのか説明がつけば、次になすべきことがわかるので、脳が予測を立てます。

しかし、そのような感覚は、人生がうまくいっていないサインとは限りません。

ただの生理的な反応かもしれないのです。疲れている、睡眠不足、空腹、水が足りていないなどの。

次に、大きな苦痛を感じたとき、自分に聞いてください。「これは単に、生理的な反応ではないか? 単なる肉体的な苦痛を、苦しい感情に結びつけているのではないか?」

自分でコントロールして責任を引き受ける

深刻なうつ状態から抜け出すために、ジェダイのマインドトリックを使えという話をしているのではありませんよ。

ただ、みなさんは、自分で思っている以上に、感情をコントロールできると申し上げたいのです。

苦しい感情の度合いを減らせますし、経験を違うように構成すれば、人生も変わります。

少し練習すれば誰でもできます。最初は、ちょっと努力がいりますが、そのうち、ごく自然にできるようになります。

個人的に、これはとても力づけられる発見だと思います。

しかも、数十年にわたるリサーチによる科学的裏付けもあります。

ただ、気をつけるポイントもあります。よりコントロールできるということは、より責任を持つということですから。

自然にわきあがる感情のなすがままにしなくてもいいんだ、と思うと、自分がまずい行動をしたときの責任は、自分にあります。

それは、感情にふりまわされた結果ではなく、きょうの自分の行動や体験が、明日の脳の反応を変えたから起きたことです。。

自分しか、それを変えることができないのですから、その責任は自分にあるのです。

「責任」は大きくのしかかってくる言葉です。だから、人は、「感情は生まれつきではなく、作られるものだ」いう科学的エビデンスに抵抗しようとします。

「自分の感情の責任は自分にある」という考えは、受け入れがたいかもしれません。

深呼吸をして、必要なら水を飲んで、この考えを受け入れてください。

責任を受け入れてください。それが、より健康な肉体や、より公正な司法、より柔軟的で可能性にみちた人生への道です。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

be at the mercy of  ~のなすがまま

preposterous  不合理な、ばかげた

blob  (ろう、絵の具などの)しずく、小さな塊、インクなどのしみ

sift through  よりわける

go out on a limb  危険を冒す、危ない橋を渡る、リスクを取る

wretchedness  惨めさ

リサ・フェルドマン・バレットさんの著書

感情に関するほかのプレゼン

自分の気持ちをそのまま受け入れる勇気のパワーとその素晴らしさ(TED)

いやな気分こそ大事にして、自分の感情とうまくつきあう(TED)

感情的な反応から賢明な思考にシフトさせ、最良の決断をうながす方法。

感情にふりまわされない秘訣は自分の感情に向き合うこと(TED)

危機を乗り越える人(レジリアントな人)の3つの秘密(TED)

幸せを感じる脳をつくる4つのステップ(TED)

不安な気持ちを取り除く新しいプラン(TED)

直感で決めないほうがいい

バレットさんのプレゼンを一言で要約すると、「感情は自分で作っている」となります。

ということは、自分で感情を変えることができます。

感情に対する反応は変えられる、という話はよく書いていますが、感情すらも、自分で変えられるのです(100%ではないにせよ)。

きょう、いつもと違う行動をして、脳がストックする経験に別のデータを付け加えれば、明日は、似たようなことが起きたとき、違う感情になるのです。

これは、毎日、片付けをしていると、だんだん、捨てることがうまくなるのと似ていると思います。

もういらないんだけど、どれもみなかわいい、どれもみな大事、だから捨てられません。どうしたら捨てられますか?

あれも、これも、どんどん欲しくなります。どうしたら、買わないでいられますか?

こんな質問をもらうことがあります。

最近ではこちらの質問⇒全部かわいくて、全部お気に入り、だから捨てられない。こんなとき、どう減らせばいいか?

何年も使っていない物や、ずっとクローゼットにかかっているだけの物に対して、、「かわいい!」「大事なの」「ときめく」「胸がきゅんとなる」と思う、その感情は自分が作っているのではないでしょうか?

赤ん坊を見て、「かわいい」、と感じるのとは違う感情だと思います。

物を捨てたあと、「後悔するかもしれない」、と感じる恐怖も、自分で作っています。「予測がまちがっている」、といったほうがいいかもしれません。

こう考えると、もっと冷静に不用品を見極められ、手放すことができます。

*******

先日、1人でステイホームしていると、さびしい、という質問に答えました⇒1人でステイホームする孤独と不安を解消するには?

この方も、かなりの部分、自分で感情を作っているかもしれません。

さみしい、と思うとき、体にどんな感覚があるのか、身体的な反応をしらべるといいでしょう。

記事にも書きましたが、猫背で体操座りしていると、落ち込むので、できるだけ快適な姿勢をとってください。





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