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TEDの動画

最終更新日: 2023.08.31

あえて異議を唱えることが問題解決につながる(TED)

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違う意見をもつことや、対立することの重要性を伝えるTEDの動画を紹介します。

タイトルは、Dare to disagree(あえて異議を唱える)。プレゼンターは、作家で起業家のマーガレット・ヘファーナン(Margaret Heffernan)さんです。

邦題は『対立の意義』



対立の意義:TEDの説明

Most people instinctively avoid conflict, but as Margaret Heffernan shows us, good disagreement is central to progress. She illustrates (sometimes counterintuitively) how the best partners aren’t echo chambers — and how great research teams, relationships and businesses allow people to deeply disagree.

たいていの人は、本能的に対立を避けます。しかし、マーガレット・ヘファーナンは、よい対立は、進化の要になると教えてくれます。

彼女は、(ときには、直感に反してはいても)最良のパートナーは同調する人ではないし、偉大なるリサーチチームや、人間関係、ビジネスは、大きく意見が異なることを認めていると説明します。

収録は2012年の6月。動画の長さは12分40秒。日本語の字幕もあります。

☆トランスクリプションはこちら⇒Margaret Heffernan: Dare to disagree | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

マーガレットさんは、かつて5つの会社を経営していたことがあるそうです。とてもプレゼンがうまいですね。





稀有な女医、アリス・スチュワート

1950年代のオックスフォードに、とても優秀でまれな女医、アリス・スチュワートがいました。

彼女がまれだったのは、当時ではめずらしい女医だったから。

才能にあふれ、最も若い国立医科大学の研究員でした。

結婚して、子供が生まれてからも働き続け、離婚してシングルマザーになってからも医療の仕事をやめなかった点でも、アリスはまれでした。

疫学の新しい分野、病気におけるパターンに興味をもった点も、変わっていました。

小児がんの研究

アリスは、当時、増えつつあった小児がんに注目しました。

ほとんどの病気は貧困に関係があったのに、小児がんで亡くなるのは裕福な家庭の子供が多かったのです。

アリスはその理由を知りたいと思いましたが、研究費を集めるのに苦労しました。

結局、レディ・タタ・メモリアルから1000ポンド受け取ることができただけだったので、データの収集は1回しかできませんでした。

何を調べればいいのかわからなかったアリスは、思いつくことすべてを聞きました。

あめを食べていたか、色のついた飲み物を飲んでいたか、フィッシュ・アンド・チップスを食べていたか、いつ学校に通い始めたか、など。

アンケートの結果、とても明らかなことが見えてきました。亡くなった2人のうち1人は、母親が妊娠中にレントゲン検査をしていたのです。

データがあっても活用されない

この発見は、当時の一般的な認識に反するものです。

この頃、X線をあびるのは、ある一定のところまでなら安全だ、と思われていました。

新技術として、レントゲン撮影はとても期待されており、医者たちは、「X線は患者を助けるものであり、傷つけるものではない」と信じていました。

しかし、アリスは、1956年に予備調査の結果をザ・ランセットに発表します。これは、人々の話題を呼び、ノーベル賞ものだと言われました。

アリスは、小児がんがなくならないうちに、研究をまとめあげようと急ぎましたが、実際は急ぐ必要はありませんでした。

イギリスとアメリカの医療機関が妊婦にレントゲン撮影をするのをやめたのは、それから25年後のことだったのです。

データは公開され、誰でも見られましたが、誰も知りたいとは思っていなかったのです。週に1人の子供が死んでいったのに、何も変わりませんでした。

公開されただけでは、状況は変わらないのです。

反対意見を言うパートナーのいいところ

その後、25年、アリスの苦しい戦いが続きました。しかし、どうして彼女は自分が正しいと確信できたのでしょうか?

実は、アリスは、すばらしい思考モデルを持っていました。

彼女はジョージ・ニールという統計学者と共同で研究していましたが、ジョージは、アリスとは正反対の人でした。

アリスは外交的で、あたたかく、患者に共感をもつ人でしたが、ジョージは内向的で、人より数字が好きでした。

しかし、彼は、2人の仕事上の関係はすばらしかったと言っています。

「私の仕事はスチュワート医師が間違っていることを証明することでした」とも。

彼は、積極的に一致しないことを探しました。

彼女のモデルや統計を違った視点から見て、解釈し、間違っていることを示そうとしたのです。

彼は、自分の仕事はアリスの理論に反証することだとわかっていました。

ジョージが、アリスの理論を間違っていると証明できなければ、アリスは、自分が正しいと確信できたのです。

これは、自分に同調しないパートナーとのすばらしい共同作業のモデルです。

私たちのうちどれほどの人が、そのような協力者を持つ、いえ、持ちたいと思うでしょうか?

アリスとジョージはうまく対立しました。対立を思考と捉えていました。

建設的な対立に必要なこと

このような建設的な対立をするために、必要なことは何でしょうか?

まず、自分と大きく違う人を見つけなければなりません。

人は、自分と似た人を好むという神経生物学的な欲望に抵抗する必要があります。

自分とは違う素性、規律、考え方、経験をもつ人を探し出し、その人たちとかかわりあう方法を見つけなければなりません。

そうするには、多大な忍耐とエネルギーを要します。

それは愛とも言えるでしょう。

その人のことを気にかけていないのなら、そんなエネルギーや時間を使わないでしょうから。

意見が違うから思考できる

このことは、人は自分の考えを変える気持ちを持つべきだ、ということも表しています。

仲間の科学者たちとぶつかるたびに、アリスは考えて、考えて、考え抜く体験をしたと、アリスの娘が言いました。

「母は戦うことは好みませんでした。でも、すごく得意でしたね」。

これは1対1の関係における話です。

しかし、大惨事や大きな問題は、個人が生み出すのではなく、組織が起こします。時には、国より大きく、何百万人もの命に影響を与えるような組織によって。

では、組織はどんなふうに思考しているのでしょうか?

実は、たいていの場合、考えていません。

考えたくないからではなく、考えることができないのです。

対立を恐れすぎる問題

内部の人たちは、対立することを恐れすぎているので、そうできません。

欧米の企業の重役の調査で、85%の人が、職場で問題や不安があるものの、持ち出すことを恐れている、と答えました。

口にすれば、対立や議論が起きるし、それにどう対応したらいいのかわからず、そうすることは負けにつながると感じているのです。

85%は大きな数字です。

ジョージとアリスがうまくできたことを、組織はできないということを示しています。

組織内の人間は、共に思考できないのです。

このことは、組織を運営し、苦労して最高の人材を見つけだした、私たちのような人間が、その人材から最大限のものを引き出せないことを意味しています。

対立がポジティブな結果を生む

では、どうしたら、あえて対立してポジティブな結果を得るスキルを身につけることができるでしょうか?

そう、それはスキルであり、練習が必要です。

対立することを恐れず、それを思考だと捉えれば、もっと上手に対立できます。

最近まで、私はジョーという、医療機器の会社の重役と働いていました。

ジョーは、自分が担当している機械について心配していました。

あまりに複雑で、誤差を生み出し、それが、人々を傷つける恐れがあると思っていたのです。

助けようと思っている患者を、逆に傷つけてしまうのではないかと。

しかし、周囲にはそんな心配をしている人は、いないようだったので、彼は、何も言い出せませんでした。

自分は知らないことをほかの人は知っているのかもしれないし、言えば、自分がバカに見えます。

しかし、心配は続き、あまりに心配だったので、ジョーは、大好きだった仕事をやめるしかないと思うところまできました。

最終的に、私とジョーは彼の心配を持ち出す方法を見つけました。

このような状況でいつも起こることが起きました。誰もが、ジョージと同じ疑問や心配を感じていたのです。

こうしてジョージは、仲間を得て、ともに考えることができました。

それは、たくさんの対立や議論を生みましたが、そうすることが、皆の創造力を刺激し、問題を解決し、機械を改良することにつながったのです。

ジョーは告発者とも言えますが、変人ではありません。むしろ、企業の仕事と、企業が目的を達成することに、情熱を持っていました。

彼は、対立をとても恐れていましたが、最後には、黙っているほうをもっと怖いと思ったのです。

勇気を出して、不安を口に出してみたら、自分の中にあるものや、システムに貢献できることが、自分で思っていた以上にあると気づきました。

同僚は、彼を変人とは思わず、リーダーと認めています。

見て見ぬふりをしない社会へ

では、どうしたら、こうした対話をもっと気軽に、頻繁にできるでしょうか?

デルフト大学では、博士号を取得しようとしている学生に、自分で擁護できる声明を5つ提出することを課しています。

声明の内容は問題ではありません。大事なのは、学生たちが権威に立ち向かう意欲があり、実際そうできるか、ということです。

すばらしいシステムだと思います。しかし、博士の候補者たちだけでは、少なすぎるし、人生においては遅すぎます。

思考する組織や思考する社会を望むのなら、すべての年齢の子供や大人に、このスキルを教えるべきでしょう。

私たちが見てきた大惨事の大半は、情報が隠されていたから起きたわけではありません。

情報は公開され、自由に見ることができるのに、私たちは、見て見ぬふりをしたから起きています。

その情報をどう扱っていいのかわからないし、扱いたくもないし、その情報が引き起こす対立も避けたいからです。

しかし沈黙を破り、見て、あえて対立すれば、自分自身や、周囲の人々が最大限の思考をできます。

情報の公開はすばらしいことですし、ネットワークの公開も不可欠です。

しかし、あえて対立するスキルや習慣、そうする才能、倫理的な勇気を育まなければ、情報をうまく使うことができません。

公開することは終わりではなく、始まりなのです。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

epidemiology  疫学

boild sweet  かたいあめ

echo chamber  何かを言えば、同じ意見が返ってくる同調のある空間、エコーチャンバーの中では、反証や疑問が提示されないので、特定の信念が強化されます。

エコーチャンバーでは、創造力が育まれない話はこちらの講演で出てきます⇒脳はどうやって新しいアイデアを作り出すのか(TED)

whistle-blower  告発者

crank  変人、奇人

マーガレット・ヘファーナンさんの著書です。

原書はこちら

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違う意見に耳を傾ける

組織において、何か問題に気づいたときに、口に出し、波風を立てることを避けていると、大惨事が起きてしまう。口に出すことが、皆の思考を促し、問題解決につながる、という内容のプレゼンを紹介しました。

この通りですね。

社会では、「多数派の意見が正しい」となりがちですが、そう思っている人が多いからといって、それが正しいとは限りません。

かつて正しかったことも、時間がたち、新しい事実が発見されてみると、実は間違っていた、とわかることもあります。

不安や疑問に気づいたら、心置きなく、その内容を人に言える組織や社会であるほうが、事故は減るし、よりよい仕事につながります。

実際は、「いろいろなしがらみがあって、違う意見を言えない」ということが多いかもしれませんが、大きな目で見ると、対立意見を言ったほうが、そのコミュニティのためになります。

現状は、本当のことを言えば言うほど、握りつぶされる組織も多いでしょう。「人と違う意見を持ってもいいのだ」という土壌をもっと作っていきたいものです。

ところで、アリスが、ジョージという意見を戦わせる相手をもっていたから、いい研究ができたように、私たちも、自分の信念に対して、反証する人がそばにいると、より思考が深まります。

意見が違う人を避けがちですが、あえて、違う意見や、耳が痛い意見にも、耳を傾けることを意識して行うと、より成長できます。

自分で自分の信念に反証するのもいいと思います。

「本当にそうなの?」と自分で自分につっこみを入れる要領です。

自分で自分に違う意見をぶつけ、それを拒絶せず、ある程度受け入れる練習をしておけば、他人に、違う意見を言われても、それほど腹が立たないでしょう。

その人は、思考を深め、成長する機会を与えてくれたのですから。

*****

プレゼンを聞くと、アリス・スチュワートが、ランセット誌に、妊婦へのレントゲン検査と小児がんの関連性を発表したとき、すぐに周囲の人が、この意見に同意したような印象があります。

しかし、その後、25年、妊婦へのレントゲン検査が続いていたことからもわかるように、アリスの研究を認めなかった権威者はたくさんいます。

彼女の人生は、そうした権威との戦いの人生でもありました。

彼女のがんばりのおかげで多くの人が助かりましたね。

今では、妊婦ではない私が、歯のレントゲン写真を撮る時でも、防護エプロンをしますから。





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