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日々を楽しく暮らすヒントになるTEDの動画を紹介します。今回は、ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)博士のFlow, the secret to happiness(フロー、幸せの秘訣)です。チクセントミハイ博士は「フロー理論」を提唱した(今もしてますが)心理学者です。邦題は「フローについて」。
フロー理論、聞いたことがあるでしょうか?
人が幸せなときは、フローに入っています。お風呂ではありません。flowです。flow とは「流れ」という意味です。
「フローについて」TEDの説明
Mihaly Csikszentmihalyi asks, “What makes a life worth living?” Noting that money cannot make us happy, he looks to those who find pleasure and lasting satisfaction in activities that bring about a state of “flow.”
ミハイ・チクセントミハイは「何が人生を生きるのに値させているのか?」と問いかけます。お金は人を幸せにしないとわかった彼は、行動から歓びや継続する満足を得ている人々はフロー状態にいると語ります。
博士が、なぜこんな研究を始めたのか、フローとはどんな状態なのか、フロー理論の入門的なプレゼンです。
2004年の収録。18分55秒。日本語字幕です。字幕なし、英語、その他の言語の字幕がいい方はプレーヤーを調節してください。動画のあとに抄訳を書きます。
※トランスクリプトはこちら⇒Mihaly Csikszentmihalyi: Flow, the secret to happiness | TED Talk | TED.com
※TEdの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
私が心理学を志した理由
私はヨーロッパで育ちました。7歳から10歳のとき第二次世界大戦が起きていて、戦争のせいで、人々がごくふつうの幸せな暮らしができなくなるのを見ました。
そして、この世を、生きるのに値するものにしているのは何だろう、と考えるようになったのです。その答えを見つけるために、哲学書を読んだり、芸術や宗教にかかわってきましたが、最終的には心理学に行き着きました。
スイスのスキー場にいるときのこと。雪がとけて、お金のない私には楽しみが何もありませんでした。映画にも行けないし。新聞で、ある人がチューリッヒに空飛ぶ円盤に関する講演会をすると知りました。
無料だったので円盤の話を聞きに行ったら、これがすごくおもしろかったのです。
宇宙人の話ではなかったんですよ。ヨーロッパの人々の気持ちがいかに戦争によって傷つけられたかとか、空に円盤のイメージを投影して、戦後の混乱に秩序をもたらすという話でした。
古代ヒンズーで曼荼羅を使ったように。
私はこの話にすごく興味をもち、講演が終わったあと、講演者の本を読み始めました。その人は、カール・ユングでしたが、彼のことはまったく知りませんでした。
幸福度にお金は関係ない
その後アメリカに心理学を学びに来て、幸せの源を理解するため研究をはじめました。
この表はよく使われているものです。
1956年の調査では30%の人が、「とても幸せである」と答えました。この数字は今になってもそんなに変わりません。ところが、収入は次第に増え、今はほぼ3倍です。
それでも幸せだという人の数は変わりません。暮らしに必要な最低限のお金から数千ドル収入が増えれば、幸福度はそんなに変わらないのです。
基本的な暮らしに必要なお金がないと不幸になりますが、お金がどんどん増えても幸福度は変わりません。
これは自分のことを考えてもそうなんです。
そこで、日々の暮らしで、いつ幸せなのか調べようと思いました。40年前のことです。まず、芸術家や科学者といった物ごとを作り出す人々に注目しました。
こういう人は名声やお金を目当てに長年同じことに打ち込んでいるわけではないです。では、いったい何が、彼らにその道を進ませているのでしょうか?
自分を忘れる境地、それがフロー
1970年代、アメリカ音楽でとても有名な作曲家のインタビューの抜粋をごらんください。
彼は作曲しているとき夢中になっている(エクスタシー、ecstatic state)と語っています。
エクスタシー(ecstasy)はギリシャ語で、何かの横に立つ、という意味です。今の現実とは別の現実に立つことです。日常生活の外に出ます。
これっておもしろいですね。文明の残してきたものを考えると、円形の競技場にしても、アリーナや劇場にしてもみんな日常とは違う現実を経験する場所です。
この作曲家はそういう場所は必要ないのです。紙に音符を書くだけで、これまでになかった音が頭に響き、新しい現実に入り、それが歓びをもたらすのです。これはひじょうに強い感覚です。そのとき、自分はいないような感じである、と彼は語っています。
何かを創造する作業に完全に没入しているとき、身体の感覚も、空腹や疲れも感じないし、家庭の問題なども忘れています。
ものすごく集中して何かをやっているとき、自分の存在は、一時的に横に置かれるのです。
彼には自動的にこの状態に入っていますが、この状態になるためには、10年は作曲なりなんなり、創造的なことをやり続けてスキルを磨かなければなりません。数学でも音楽でも同じです。
この作曲家も、私がインタビューしたほかの人々も、こうした状態は自然に起きるフローである、と言ったので、私はこれを「フロー体験(flow experience)」と名付けることにしました。
フローはいろいろな世界で起きます。
ある詩人はドアがあいて空に流れ出る感じ、と言いました。似たようなことをアルバート・アインシュタインも言っています。相対性原理を思いついた時、そんな感じだったのです。オリンピックのスケート選手も自動的にそういう世界に入ると語りました。
成功したビジネスマンもそうですし、仕事をする場でもフローが起きます。
フローに入る7つの条件
世界中のさまざまな仕事についている8000人をインタビューして、フローに入る条件を見つけました。以下の7つです。
1.Completely involved in what we are doing — focused, concentrated.
その作業に完全に入り込み集中している。
2.A sense of ecstasy–of being outside everyday reality.
忘我の感覚。いつもの日常の外にいる感じ。
3.Great inner clarity–knowing what needs to be done, and how well we are doing.
あたまの中はクリア。何をすべきか、自分はいかにうまくやっているかわかっている。
4.Knowing that the activity is doable–that our skills are adequate to the task.
その作業を自分ができること、自分にはタスクを完了するスキルがあることをを知っている。
5.A sense of serenity–no worries about oneself, and a feeling of growing beyond the boundaries of the ego.
平静な気持ち。何の心配もなく自己の境界を越えて成長している感覚。
6.Timelessness–thoroughly focused on the present, hours seem to pass by in minutes.
完全に今に集中していて時間の感覚がない。数時間が数分に感じられる。
7.Intrinsic motivation–whatever produces flow becomes its own reward.
それをやっていること自体が楽しく、モチベーションはそこから来る。
幸福度はチャレンジ度合いとスキルで決まる
人々の暮らしをこんな表にしてみました。
ポケットベルを持ってもらって、ベルがなったときやっていたことと感情を教えてもらう実験をし、その時のチャレンジとスキルの量を調べました。
自分のやっていることが、自分にとってどの程度困難かわかっていると、いつフローに入るか予測できます。
チャレンジ度もスキルもふつうより高いときにフローに入ります。ただし、自分が本当にしたいことをやっているときです。ピアノを弾くとか、親友と一緒に過ごすとか、仕事かもしれません。仕事が好きならね。
フローの反対側は、楽しくありません。
arousal (覚醒、目覚めていること、刺激を感じていること)はいい状態です。チャレンジを感じていますから。スキルが足りませんが、あとすこしスキルをあげればフローに入れます。
このエリアにいるとき、人々はいろいろなことを学びます。コンフォートゾーンを出なければならないからです。
control (コントロール)もいい状態です。快適に感じていますから。ただ、そんなに刺激的ではありません。ここからフローに入りたかったら、もう少しチャレンジングなことをしなければなりません。
この2つはフローに入りやすいよい場所です。
チャレンジの度合いとスキルの程度のほかの組み合わせはフローから遠ざかります。
relaxation (リラックス)は悪くはありませんが、boredom(退屈)はよくなく、apathy(アパシー、無気力)はひじょうにネガティブな状態です。何もやっていないように感じます。
apathyではチャレンジもないし、スキルも使っていません。
残念ながらたくさんの人が、アパシー状態にいます。もっともアパシー状態になってしまうのが、テレビを見ているときです。その次はトイレに座っているとき。
テレビを視聴している時間の7~8%はフローになりますが。しかし、自分が本当に見たい番組を見て、さらにそれに対してフィードバックを得られた時だけです。
今、私が考えているのは、ふだんの生活でもっとフロー状態に入るにはどうしたらいいのか、ということです。みなさんの中には、フローに入るやり方を知っている人もいるかもしれません。
ですが、多くの人にはわからないのです。その方法を見つけるために私たちの研究が役立つと考えています。
//// 抄訳ここまで ////
フロー理論についてもっと知りたい方はチクセントミハイ博士の本をお読みください。現在翻訳が5冊でています。1冊だけ紹介します。
その他の幸せになるためのプレゼン
チクセントミハイ博士は、楽しいことや好きなことをやってフローに入れば幸せになれる、と考えています。これはポジティブ心理学の考え方です。ポジティブ心理学については以前こちらの動画を紹介しています。
成功すると幸せになるのではなく、幸せだから成功する~ショーン・エイカー(TED)
その他、「幸せ」を心理学の角度から語った動画はこちら。
私たちが幸せを感じる理由~制限がある方が幸せ?ダン・ギルバート(TED)
コンフォートゾーンについてはこちらに書いています⇒断捨離しているのにイライラします~断捨離に好転反応はあるか?
フローを意識してみる
断捨離していてもなんか楽しくないとか、ミニマリストの何がそんなに楽しいの、捨てても全然運気があがらない、と思う方は、フローという考え方を意識してみてはどうでしょうか?
毎日、一度でもフロー体験ができていれば、その人はきっと幸せで、夜になれば、翌日が来るのを楽しみに眠りにつけると思います。
「幸せになるために」断捨離や片付けをしなくてもよくなるでしょう。
動画にでてきた作曲家の語っているようなフローに入るには、長い時間、自分で取り組んでいることに対して、技術を磨かなければなりません。
時間をかけて取り組みたいライフワークがあるのなら、それに真剣に向かえば、フロー予備軍のエリアである、覚醒とコントロールの領域にいることが増えますから、幸福度があがりそうです。
リラクゼーションも楽しいけれど、ずっとこの領域にいるのは危険です。
チクセントミハイ博士によれば、リラクゼーションのエリアで感じている幸福は、自分以外のものに依存し、自発的なものでないこともあるため、真のフローには入れないそうです。
本質的なフローに入るためには、チャレンジングなことが必要なのです。
自分の好きなことで、スキルをどんどん磨き、それに応じた挑戦にどんどんいどむことで、フローに入れます。
好きなことが見つからない、やりたいことは何もないという人は、せめてアパシー領域から出てください。
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以前、足りないものはなにもない、恵まれているはずなのに満たされない、というメールをもらったことがあります⇒心が満たされない、むなしい時にやってみてほしい5つのこと。
こういう現象の原因は、自分の好きなことをやっていないか、チャレンジが足りないか、スキルを磨くために努力をしていないか、3つのどれか、またはすべてかもしれません。
今、アーリーリタイヤをして仕事をせずラクに暮らしたい、という人が多いです。ですが、そういう状態はフローではないので、幸福とは言いがたいです。
仕事をしなくても、ふつうに暮らせている人は、仕事以外のことでフローに入れるように、常に自分に負荷をかけることを意識すると、幸福度がアップするでしょう。