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ディープタイムがテーマの作品を作っている Katie Paterson(ケイティ・パターソン)さんのTEDトークを紹介します。
タイトルは、The Mind-Bending Art of Deep Time(ディープタイムの圧倒的な芸術)
邦題は『目が眩むような時の深みの芸術』。
ディープタイムは地質学的な時間(地球の歴史を表す時間)で、私たちがふだん扱っている時間よりも、ずっと長く膨大で、想像を絶するような時の流れです。
ディープタイムを意識すると、自分がこの世界の一員であることや、ずっと続いている時の中に存在していることがわかります。
ディープタイム・TEDの説明
Short-sightedness may be the greatest threat to humanity, says conceptual artist Katie Paterson, whose work engages with deep time — an idea that describes the history of the Earth over a time span of millions of years.
In this lively talk, she takes us through her art — a telephone line connected to a melting glacier, maps of dying stars – and presents her latest project: the Future Library, a forested room holding unread manuscripts from famous authors, not to be published or read until the year 2114.
近視眼的なものの見方は、人類に対する最大の脅威だと、コンセプチュアル・アーティストのケイティ・パターソンは言います。
彼女はディープタイムを表す作品を作っています。ディープタイムは、何百万年という時間にわたる地球の歴史を表すものです。
このいきいきとしたトークで、彼女は、作品を見せていきます。溶けゆく氷河につながっている電話線、死につつある星の地図など。
一番最近のプロジェクトである、未来図書館も紹介します。2114年にならないと出版されず、読むことができない、著名な作家の原稿を集めた部屋です。
収録は2021年の12月。長さは6分半。日本語字幕もあります。
☆トランスクリプトはこちら⇒Katie Paterson: The mind-bending art of deep time | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
このTEDトークそのものが、パターソンさんの作品とも言えそうな、美しい講演です。
ディープタイムとは?
満月の光に包まれたことがありますか? 海岸に小さな山を作ったり、地球で最初の木の香りをかいだりしたことはありますか?
これらは、ディープタイムを理解するために、私が作った作品の一部です。
ディープタイムとは何でしょうか? なぜそれが、私たちにとって大切なのでしょうか?
ディープタイムは、何百年にも渡る地球の歴史を表現するものです。
ディープタイムとの出会い
はじめてディープタイムに出会ったのは、学校を卒業し、仕事もなく、何をしていいかわからなかった時です。
人里離れたアイスランド北部へ行き、ホテルで客室係の仕事をするつもりでしたが、予定を変えて、ディープタイムの物語を人に伝える方法を探る旅に出ました。
自分の作品を探しているうちに、宇宙や地球の地層をまわり、最初の生命にめぐり逢いました。
アイスランドで、原始の風景を見て、自分は惑星で生きているのだと知りました。人は何もないところから生まれたのではないとわかったのです。
海、空、地球、空気。私たちは同じ物質からできていて、共存しています。
溶けていく氷河につながる電話
人間は地球を変える存在になりました。世界中の氷河が溶ける原因を作っています。
彼方にある光景を、直感的にわかる、身近なものにしたいと思いました。
そこで、電話線を引きました。
どこにいても、電話をすれば、氷河が溶けているその音を聞けるのです。
それは消え去ってゆく光景へのエレジーです。
皆既食のミラーボール
感覚的な体験をとおして、ディープタイムとつながることができるでしょうか?
これは、「皆既食」(Totality)という作品で、これまで人類が記録してきたほぼすべての日食を集めて、ミラーボールにしたものです。
1万枚以上の画像が、日食が進む様子を映し出します。
その光に包まれていると、うっとりします。
ディープタイムの色
この作品を作って、疑問がわきました。
ディープタイムはどんな色をしているのか、と。
宇宙全体の色を、最初から、予想される最後まで並べると、最初の星は淡い青で、最後は暗いえんじ色になるとわかりました。
私たちの体を構成する原子は、すべて何十億年も前の星の中でできました。
人の体は星々の残骸で、できています。
全宇宙の死につつある星を集めて地図を作りたいと思いました。
これがその結果です。2万7千以上の超新星、ブラックホール、ガンマ線バーストが、アルミニウムの光の点となってゆらめきます。
これは星の墓場ですが、生命も感じさせます。
化石のネックレス
人類が現在までに至った道のりは奇跡以外の何ものでもありません。
「化石のネックレス」(Fossil Necklace)は、生命そのものを素材にしてつなげたものです。
化石を削って1つずつビーズを作り、地質の年代にそって並べました。
これらのビーズは地球の歴史における重要な時点を表しています。
最初の単細胞生物、最初の花、はじめて目をもった生物、はじめて飛んだ生物。
「化石のネックレス」は、私たちの存在が長く連続していることをものがたります。
あらゆる木の彫刻
私たちは、毎日、木のそばを通りますが、立ち止まって、木が自分のいとこだと考えることがあるでしょうか?
人間の遺伝子の多くが、木と同じで、森は、酸素を作ってくれています。
森を讃えるために、地球上のあらゆる木を集めて、彫刻を作りたいと思いました。
それが、『ホロウ(空洞)』(Hollow)です。
建築家のゼラーとモイといっしょに作ったこの作品は、何百万年にもわたる1万本以上の木を集めたものです。
ほぼすべての国から、木のサンプルを寄贈してもらいました。
明り取りを見上げると、もっとも絶滅の危機にひんしている木々が見えます。
未来図書館
最近は、過去を振り返るのと同じくらい、未来を見ることも大事だと思うようになりました。
まだ生まれていない人々に、どうやって語りかけたらいいのか?
時を超えて橋をかけるにはどうしたらいいか?
この仕事に最適なのは、世界中の作家だと思い、未来の図書館を考えました。
1つの森、1つの部屋、100人の作家、100年という時間。
2014年に始めました。
オスロ郊外に、オウシュウトウヒの苗木を千本植えました。
木が成長したら、切って紙にします。
100年のあいだ、毎年、違う作家に新作を書いてもらうよう頼みます。
彼らの作品は、これらの木から作られた紙に印刷し、2114年になってはじめて読めるのです。
「未来図書館」(Future Library)の核は、時間、永続性、希望、そして儀式です。
春になると毎年、私たちはこの森を巡礼します。
作家が、原稿を手渡し、タイトルを発表します。
原稿は、オスロにあるこの新しい図書館に保管されます。
靴を脱いで中に入ります。
原稿は、それぞれガラス製の引き出しに収められます。宇宙的な時間で考えれば、100年はたいして長くありません。
それでも、私の小さな息子が、この図書館の本を読めるまで生きていたら、世界はすっかり変わっているでしょう。
人類は、これらの本を読めるまで生き残っているでしょうか?
未来へのメッセージ
「未来図書館」は、1世紀にわたる祈りです。
私たちは、未来の世代を見ることはできないでしょう。でも、行動をとおして、つながっています。
私は未来の読者に語りかけたいのです。
「私はあなたを見ていますよ」と。
「私たちはあなたを見ていますよ」と。
なぜ、ディープタイムとつながることが大切なのでしょうか?
近視眼は、人類にとって最大の脅威かもしれません。
自分が長く続くものの一部であることを理解できてこそ、人間なのです。
宇宙の一部である自分を大事にし、その起源を敬い、未来を身近に感じましょう。
//// 抄訳ここまで ////
芸術に関する他のプレゼン
制限があるからこそ素晴らしい物が生まれる:震えを受け入れる(TED)
幸せはすぐそこにある:自然と美と感謝と~ルイ・シュワルツバーグに学ぶ(TED)
ディープタイムを意識するすすめ
人間は100年ぐらいしか生きないので、何百年とか、何億年といった時の流れは想像しにくく、ディープタイムと言われてもピンと来ないかもしれません。
しかし、そこをあえて、ディープタイムを意識すると、たとえほんの一瞬しかこの地球にいなくても、それは、広大な時間の一部であり、地球の歴史や物語は、自分のそれでもある、と感じられます。
大きな時間の流れの中にいるとわかれば、ふだん時計で測っている短い時間にこだわりすぎることもないでしょう。
毎日、「あれもこれもやらなくちゃ」とか、「あれもこれも手に入れなくちゃ」と忙しく走り回ることが減ると思います。
ディープタイムの中にいると、視野が大きくなり、地球や自然、そこで生きているものたちとの一体感を感じられるから、日常的な些末なストレスが減るのではないでしょうか?
忙しく走り回ったり、ストレスにふりまわされたりしなければ、暮らしはもっとシンプルになるはず。
そう思って、このプレゼンを紹介しました。
心が疲れたときに、ディープタイムのことを思い出してください。