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悩み多き人、心の中にガラクタがたくさんある人の参考になるTEDトークを紹介します。
タイトルは、How philosophy can save your life(いかに哲学があなたの人生を救うか?)
講演者はジャーナリストのJules Evans(ジュール・エヴァンス)さんです。
邦題は、『哲学が命を救う』
哲学が人生を救う:TEDの説明
When Jules Evans was in his late teens, he started to be plagued by panic attacks, mood swings and other emotional problems. He eventually found help in the form of Cognitive Behavioural Therapy (CBT). He went to interview the inventors of CBT, and discovered they were directly inspired by ancient Greek philosophy.
ジュール・エヴァンスは10代の終わりから、パニックアタック、情緒不安定、その他の精神な問題に見舞われるようになりました。
最終的に彼は、認知行動療法(CBT)に助けられました。
彼はCBTの開発者にインタビューし、CBTは、ギリシャ哲学に直接影響を受けていることを見つけました。
収録は2013年の10月、長さは15分30秒。日本語字幕もあります。
シンプルでわかりやすいプレゼンですね。
哲学が人を助ける
古代ギリシャの哲学が、現代の認知行動療法(CBT)に影響を与えた話をします。
CBTを通して、たくさんの人が、古代ギリシャ人の知恵にふれることができます。
ソクラテスが、「自身の魂の世話をする」と言ったように、哲学は、私たちを助けてくれるのです。
薬を使いすぎた
人生でつらかった時期に、哲学が私を助けてくれた体験をお話しすることから始めますね。
1990年代の半ば、ティーンエイジャーだった私は友人たちと、週末に、いろいろな薬剤を使って脳がどう反応するか実験していました。アマチュアの神経科学者みたいなものです。
マリワナからはじめ、LSD、MDM、アンフェタミン、ケタミン、マジックマッシュルーム、ありとあらゆる薬剤を試しました。
楽しかったし、おもしろい幻影を満たし、スピリチュアルな体験もしました。
ところが、そのうち、友人たちの何人かが、おかしくなりました。
親友はトリップ中に、精神的なブレークダウンを起こし、まだ16歳でしたが、監禁され、妄想型統合失調症と診断されました。
べつの友人たちも、双極性障害、うつ病、不安神経症、パラノイアになりました。
パニックアタックが始まった
私は大学に入ってすぐ、パニックアタックに襲われるようになりました。
パニックアタックが何であるのか知りませんでしたが、何でもない状況なのに、突然、全身で恐怖を感じてしまうのです。
その日、どんなふうになるのかわからなかったので、自信がなくなり、いつ発作が起きるのかわからないから、人と会うことが不安になりました。
私が一番恐れたのは、脳内の化学物質のバランスに、取り返しのつかないダメージを与えてしまったかもしれないことです。
そうなったら、もうできることはなにもありません。21歳になる前に、人生を台無しにしてしまったことになります。
セラピストの治療を受けるが
大学時代をとおして、どんどん惨めな気持ちになりましたが、卒業してどん底に落ちました。金融ジャーナリストになったのです。
ドイツの住宅ローンの債権市場をリポートする仕事にありつきました。麻薬に手を出すとこうなるわけです。
やさしい両親は私を高額なセラピストに送りこみ、私は、社会不安、うつ病、心的外傷後ストレス障害という診断を受けました。
セラピストは私を助けることができなかったので、自分で、いろいろリサーチしていたら、認知行動療法(CBT)なら治るとわかりました。
CBTの集まりで治った
社会不安症の人のための、CBTのサポートグループの集まりが、毎週木曜日の夜に、近所で行われていたので行ってみました。
10人ぐらいの人がいて、セラピストはいなかったのですが、誰かが、社会不安性のためのCBTのコースをインターネットから違法でダウンロードし、それを聞き、ワークをし、宿題をし、お互いに励まし合いました。
これは、私には効果があり、しばらくしたらパニックアタックがおさまり、自分の感情をうまく変えられるようになりました。
アルバート・エリスに会う
すっかりCBTが気に入り、この療法を開発した、アメリカのアルバート・エリスのこと知り、2007年に、ニューヨークに行き、取材しました。
このとき彼は92歳で、病気で弱っていました。悲しいことに、これが彼の最後の取材となったのです。その数カ月後に彼は亡くなりました。
私は彼に直接、CBTを開発してくれたお礼を言い、こどこからこの治療法が来たのか聞きました。
エリスは1950年代、フロイト学派の精神分析医になる訓練を受けていたものの、患者たちがなかなかよくならないことに不満を抱いていました。
そこで別の方法を模索しているときに、昔好きだったギリシャ哲学のことを思い出したのです。
感情のABC理論
エリスが特に影響を受けたのは、ストア派の哲学者、エピクテトスの言葉です。
「人は、できごとによって動揺するのではない。そのできごとに対する自分の意見によって動揺するのだ」。
この言葉に触発され、エリスは有名な、『感情のABC理論』を開発しました。
Aは、自分の身に起こるできごと(Activating event)で、Bは、私たちの信念(Beliefs)、Cは、自分の解釈を通して、私たちが感じること(Consequent emotion)です。
できごとに対して、私たちの感情が起きると考えられることが多いのですが、それは、単なる反応です。
しかめつらの人に出会ったときの感情
通りを歩いているとき、しかめつらの人に出会ったとしましょう。私たちは、すぐに、気分を害し、怒りを感じます。
一見、AからCへ直接行っているように思えますが、起きたことをよく考えてみると、できごとに対して、まず、特定の解釈をしています。
「あの人は、私に対して、しかめつらをした。私のことを見下している。そんなことはすべきではない。無礼だ。なんて不快なんだ!」。こんな解釈をするから、気分が害され、頭に来るのです。
私たちの解釈が、感情を引き起こしていることがわかれば、自分の解釈をよく調べ、それが正しいのか、賢い見方なのか、自問できます。
たとえば、「あの人は本当に、私にしかめつらをしていたのか? ただ、しかめつらをしていただけかもしれない。私に対してしていたとしても、それがいったい何だ?
私まで、1日中、不愉快な気分になる必要はない」。
こうやって、自分の解釈をもっと賢く選べるようになると、その後の感じ方が変わります。
自分の解釈が正しいとは言えない
こう話すと、ごくシンプルで、簡単なことに思えるでしょう。
残念ながら、そう簡単にはいきません。多くの場合、私たちは無意識に、自動的に解釈をしているからです。
それはまるで頭の中で、自分の身に起こったことに対する判断の実況中継がずっと続いているようなものです。
ふつう、心の声に疑問を感じることはないし、そうしていることに気づくことすらしません。
その声が、私たちの信念や意見を作りあげます。子供のときからずっとその声を聞き、内在化させてきたのです。
私たちは自分の解釈が、常に正しくて真実だと思いがちですが、そうではありません。
それは、とても歪んで偏見に満ちたものです。事実と突き合わせるなんて、決してしませんから。
自分を苦しめるのは自分の信念
うつ病といった心の問題があるとしたら、たぶんそれは、自己判断が、否定的な結論に、飛びつくからです。
「誰もが自分を嫌っている」とか、「自分がすることは、何でも失敗する」と思い込んでしまうのです。
ギリシャの哲学者によれば、私たちを苦しめるのは、自分自身の信念です。
皆、自分で自分を苦しめるのです。否定的で毒のような信念が、自分を痛めつけ、ときには殺してしまうときも、その考えにしがみついています。
自問することで助かる
では、どうしたら、自分で作った牢獄から自由になれるのでしょうか?
ソクラテスによれば、私たちは、自問することを学ぶべきなのです。
心の中の声がいつも正しいと思いこむのではなく、理性的な対話をして、その声とつきあうことを学ばなければなりません。
ソクラテスはアテナイの人々に、対話を通じて、彼らが、あたりまえのように信じていたことや価値、そして、人生哲学について考えさせました。
認知療法のセラピストも、患者に客観的な質問をして、本人の信念を調べることをうながします。
これは、自分ひとりでもできます。
自問してはじめて、自分の牢獄の鉄格子、つまり自分の信念に気づくのです。
奴隷だったエピクテトス
私たちは、本当に私たち自身をコントロールできるのか?
できごとに対する反応の仕方を選ぶことができるのか?
私たちは、状況、DNA、幼年時代、社会的経済的な状況の奴隷にすぎないのではないか?
この問題を解決するために、エピクテトスについてお話しします。
彼は、紀元1世紀に生きた人で、奴隷でした。彼の名前には、acquired (後天的に獲得した)という意味があります。
ローマ帝国の奴隷は、外的な生活や状況に対するコントロールはほとんどできません。
それでもエピクテトスは、内面にある自由や、立ち直ること(レジリアンス)に関する哲学を生み出し、その考えは、現代の生活でも威力を発揮します。
コントロールできることとできないこと
レジリアンス哲学の秘密は、人生のすべてを、自分で完全にコントロールできるものと、できないものの2つに分けることです。
コントロールできないものにはどんなものがあるでしょうか?
エピクテトスによれば、天気、政府、経済、他人はコントロールできません。
多少、影響を与えることはできますが、私たちにはコントロールできない部分があります。
自分の肉体もコントロールできません。健康でいるための努力はできるし、そうすべきですが、それでも怪我や病気に見舞われますし、皆、年をとり、最後には死にます。
自分の評判もコントロールできません。ネット上での評判をよくするためにがんばることはできますが、自分のちからが及ばない部分もあります。
では、どんなことならコントロールできるのでしょうか?
エピクテトスが言うには、私たちがコントロールできる唯一のものは、自分の信念です。
思考や感情の問題は、人間が犯しがちな2つの過ちからくると彼は考えました。
最初のあやまちは、コントロールできないこと、つまり外的な状況を、完全にコントロールしようとすること。
外的状況が、こうあってほしいとがんばることです。自分の思い通りにならないと、人は、不満、無力さ、怒りを感じます。
もう1つのあやまちは、自分がコントロールできるはずの、自分の信念や思考のコントロールに失敗すること。
このとき、外的状況を言い訳やアリバイにします。「仕方がなかったんだ。こんなことがあったのだから。できなかったのは、それのせいさ」と。
コントロールできないことをコントロールしようとしていた
社会不安を患っていたとき、私は、他人が私のことをどう考えているかを、すごく気にしていました。
「彼らに認めてもらわないといけない。そうできないと最悪なんだ」。こう、考えていました。
不安や疎外感を感じ、自分をコントロールできなくしてしまうよくあるパターンです。
私は外側にあるものの奴隷であり、他人の意見の奴隷になりさがっていました。
この状況に対する解毒剤は、自分の中にありました。
「他の人に好きになってもらいたいけれど、それは、私にはコントロールできないことだ。人に好かれても、好かれなくても、私は自分を受け入れて、好きでいることができるし、正しいことができる」。
こう思いさえすればよかったのです。
こう考えたら、すぐに、私の不安や無力感が軽くなり、気分が落ち着いて、自分をコントロールできるようになりました。
実生活に落とし込む
皆さんは、きょうこのTEDトークに集い、影響を受けて、「これで自分の生き方がわかったぞ」と思うでしょう。
問題は、数日か数週間たつと、元の自分に戻ってしまうことです。
人は、忘れやすい生きものだし、ソクラテスが言ったように、その日を、夢遊状態で過ごしがちなのです。
これは、哲学の問題でもあります。
私たちは本当に自分を変えることができるのでしょうか?
ギリシャ人たちは、人が、習慣の生きものであることを、ある程度理解していました。
哲学が人を変えるなら、それは単なるすばらしいアイデアにとどまるのではなく、習慣として根付くべきであるとわかっていました。
ギリシャ語の『倫理』(ethics)という言葉は『エートス』(ethos)という言葉と密接な関係があります。エトスは、習慣を意味します。
習慣化のコツ
最後に、習慣をつくるテクニックをいくつか紹介します。
マキシム(金言)を唱える
ギリシャの哲人たちがつかった技術の1つは、マキシム(maxim)です。
哲学の内容を覚えやすくするために、金言にしました。格言やマントラのようなキャッチフレーズを作ったのです。
たとえば、『汝自身を知れ』とか、『何事もほどほどにせよ』。
こうした言葉を学生たちは、それが習慣になるまで、何度も口に出しました。さらに金言をエンキリディオンと呼ばれる常に携帯するノートに書いていました。
CBTでも、とてもよく似たテクニックを使います。習慣として定着するまで、ある考え方を何度も繰り返します。
日記をつける
次は日記です。1日のおわりに、哲学者の見習いは、うまくできたことや、できなかったことを日記に書きました。
夢遊状態で1日を過ごすと、何をしたか、自分が誰であるのか自覚できないので、日記を使って、行ったことや進捗状況を把握したのです。
悪い習慣を控えて、よい習慣を強化できたか?
エピクテトスは、「短気を改善したいなら、かんしゃくをおこさなかった日を数えなさい。それが30日になれば、進歩したと考えられる」と言いました。
CBTでも、日記を使って似たようなことをしています。
フィールドワーク
3つ目のテクニックは、フィールドワークです。哲学が、理論でとどまってしまうのは不十分で、日常生活で実践しなければなりません。
エピクテトスは、弟子たちにこう言いました。
「教室では優秀でも、それを実践しようとすると、難破するだろう。人生のいろいろな状況で、実践する練習が必要だ」。
CBTでも、思考だけでなく、行動を変えることに重点を置いています。
私が、社会不安を克服しようとしていたとき、安全なセラピールームで、不安を起こす考え方に挑戦するだけでは不十分でした。
実生活の中で、練習するために、パーティに出たり、人前でしゃべる練習をしなければなりませんでした。
身近になったCBT
CBTは、古代ギリシャの知恵を再発見し、それに科学的な裏付けをし体系化して、政府を説得したので、政府は、CBTの普及に、多額のお金を投じました。
私の国では、5億ポンドが投じられ、国民健康保険を使えば、無料でCBTを受けられます。
哲学にあってCBTにないもの
さて、CBTという、ギリシャの哲学者の知恵をバージョンアップしたものがある今、その哲学は不要でしょうか?
私は、2つの理由から、ギリシャの哲学を今後もひもとくべきだと考えています。
まず古代ギリシャ人やローマ人は、その考えを美しい文章で書いてます。
プラトン、セネカ、マルクス・アウレリウス、エピクテトスらの著作は、西洋文学の中でも、もっとも美しい作品の1つで、その美が説得力を生んでいます。
次に、感情の問題を短い期間で治療するCBTはすばらしいものですが、美徳の概念が抜けています。
よい性格、よい人生、よいキャリア、よい会社、よい社会とはどういうものなのか?
高次元の問題にも答えていません。人生の意味とは何か? 栄えるとはどういうことなのか?
古代ギリシャ人やローマ人は、こうした質問に答えています。
その答えはさまざまです。
よい人生は、プラトンによれば、神のそばにある生活、エピキュロスによれば、この地球上での幸せに満ちた人生、アリストテレスによれば、社会と深くかかわる人生です。
心理学では、「よい人生とは何か?」とう質問には答えられないと思います。
科学的な公式など見つかりません。
だからこそ、私たちには哲学が必要です。学校や大学、会社で、もっと実践的な哲学が行われるといいと思っています。
自分を変えるためのテクニックを学ぶだけでなく、よい人生を生きるとはどういうことなのか、自問できることを学べるように。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
raver 快楽主義者、放蕩者 ☆イギリス英語のスラング。ここでは「遊び友だち」みたいな感じだと思います。
hold up to the light 灯りにかざして見る
エピクテトスの本です。
CBTの本。ほかにもいろいろあります。
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心配性は自分で克服できる。恐怖と向き合うことを学ぶ(TED)
認知行動療法(CBT)を使って片付けられない思考を手放す方法。
思考というエネルギーをうまく使って人生の質をあげる(TED)
今すぐ捨てたい根拠のない思い込み:10の認知のゆがみ、その1
この先どうしたらいいのかわからないと悩んだらこれを読んでください。
考え方は変えることができる
人生相談や、悩み相談をよくいただきますが、そういう人たちは、心の中にガラクタがたまりすぎていて、汚部屋になっていることが多いです。
かなり認知がゆがんでいる、とも言えます。
「自分の信念が正しいとは限らない」とプレゼンで言っていましたが、悩みの沼から出るために、新しく採用しようとしているその信念が正しいとも言えません。
ここで問題なのは、正しい、正しくないではなく、それが自分のためになっているか、自分の成長を促すか、より質のいい人生になるか、ということだと思います。
信念や価値観は固定化させる必要はなく、状況に合わせて変えていってもいいのではないでしょうか?
信念を変えるためには、まず、「自分がいろいろなことを、思い込みのもとに、自動的に判断している」ことに気づくことです。
今朝、私は散歩しているときに、ある失敗をしたことに気づいて、8分ぐらい動揺していました。
けれども、「散歩中に動揺しても、意味がない。家に帰ってから、事後処理すればいいんだ」と気づいて、気持ちを切り替えることができました。
その時、「ああ、こうやって人は、自動的に反応して、恐れたり何だりするんだなあ。でも、そのあと、気持ちを切り替えることもできるんだ」と改めて感じました。
どんな思考も、こんなふうに自分で変えることができます。
ことが起きたときは、自動的な反応を強烈にしてしまうでしょうが、あとになって、自分の考え方や価値観を調べて、考えを軌道修正していくことができるのです。
悩みが多い人は、そういう時間をもっと作るようにしてはどうでしょうか?