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日々の習慣や行動を変えたい人の参考になるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、How to change your behavior for the better(いかに自分の行動をよい方に変えるか?)。
講演者は、行動経済学者のDan Ariely(ダン・アリエリー)さんです。
邦題は、『人に行動を改善させるには』です。
行動を変えるには? TEDの説明
What’s the best way to get people to change their behavior? In this funny, information-packed talk, psychologist Dan Ariely explores why we make bad decisions even when we know we shouldn’t — and discusses a couple tricks that could get us to do the right thing (even if it’s for the wrong reason).
人の行動を変えさせる最良の方法は何でしょうか?
このおもしろい、情報がたくさん詰まったトークで、心理学者のダン・アリエリーは、そうすべきでないとわかっているのに、人が、まずい意思決定をしてしまう理由を考察し、すべきだと思うことをする、いくつかのコツをシェアします。(たとえ、そうする理由が間違っていたとしても)。
収録は2019年の6月、プレゼンの長さは15分。日本語字幕もあります。動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプションはこちら⇒Dan Ariely: How to change your behavior for the better | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ダン・アリエリーは、ジョークがおもしろいのですが、字幕があるので、ポイントだけ訳します。
できることと実際の行動のギャップ
人々の可能性と、いまの人々の状態について考えてみてください。
この2つの間には、大きなギャップがあります。それは、あらゆるところで、見られます。
先月、食事を食べ過ぎたと思う人、手をあげてください。運動が少なすぎたと思う人は?
運転中、テキストメッセージを送ったことがある人は? 先月、トイレに行ったあと、手を洗わなかったことがある人は?
このように、自分で違う行動がとれるとわかっているのに、実際はそうしないことがたくさんあります。
情報を与えるだけでは変わらない
すべきだと思う行動と、実際の行動のギャップを埋めたいとき、たいてい、「そうするように言えばいい」という答えが出ます。
たとえば、「運転中にテキストメッセージを送るのは危険だ。だからやめるべきだ」と人々に言うのです。
何かが危険だと言えば、人はそうすることをやめるだろう、と考えるわけです。
もうひとつ例をあげましょう。
アメリカでは、年に7億ドル(760億円ぐらい)から8億ドル(860億円ぐらい))、ファイナンシャル・リテラシー(お金の管理に関する知識、情報、ここではそういう情報を提供すること)に使っています。
その結果を調べ、分析したところ、人々にお金の管理の方法を教えると、みな、ちゃんと学び、記憶しますが、そのとおり実践はしないのです。
金融リテラシーのコースを受けた直後、3%~4%、向上しますが、その後、もとにもどります。
1日の最後には、向上率は0.1%です。ゼロではないけれど、限りなくゼロに近いのです。
残念ながら、人々に情報を与えても、さして行動は変わらないのです。
効果的なのは環境を変えること
近年、社会科学では、いろいろな発見があり、人の行動を変えるには、環境を変えなければならない、ということがわかっています。
人を変えるのではなく、環境を変えるのが正しいやり方なのです。
これを理解するために、ごくシンプルなモデルを紹介します。宇宙ロケットの打ち上げを考えてください。
ロケットを打ち上げるとき、2つのことを考慮します。
1つは、摩擦をできるだけ減らすことです。抵抗が少なければ少ないほど、よく飛びます。
2つめは、できるだけたくさんの燃料をのせることです。つまり、タスクを完了するために、最大量のモチベーションやエネルギーをのせるのです。
行動を変えるときも、同じです。
摩擦を減らす
では、まず、摩擦について考えてみましょう。
実例として、オンラインの薬屋の話をします。
あなたは治療に時間がかかる病気になり、医者が薬を処方しました。そこで、あなたは、このオンラインの薬屋に90日ごとに、薬を送ってもらうよう手配します。
3ヶ月毎に、薬が届きます。
この薬屋は人々に送る薬を、ブランドものから、ノーブランドの薬に変えたいと思います。
そこで、皆に手紙を出し、「ノーブランドの薬に変えてください。そうすれば、あなたは節約できるし、私たちも節約できるし、あなたの従業員も節約できます」と伝えます。
その後、人々はどうしたか?
何もしませんでした。
その後、薬屋は、ノーブランドの薬に変えてもらうために、いろいろやってみましたが、誰も変えません。
無料にしても行動が変わらないのは?
そこで、とうとう、「今、ノーブランドの薬に変えたら、1年間、無料にします」というオファーを出しました。
その後、ノーブランドの薬に変えた人は、10%未満です。
この時点で、この薬屋は、私のオフィスにやってきて文句を言いました。
私は、「無料の魅惑(allure of free)」に関する論文をいくつか書いています。
論文の中で、価格を10セントから1セントに下げても何も起こらないが、1セントをゼロにしたら、人々は大喜びする、と書いていました。
だから薬屋は、「私たちは、先生の論文で、無料がいいと読んで、無料にしたんですけど、うまくいきません。いったい、どうしてですか?」と言ってきたのです。
私は、「それは、きっと摩擦の問題です」と言いました。
「みな、ブランドものの薬で始めたから、何もせず、ブランドもののままでいたいのです。
ノーブランドにスイッチするためには、ブランドものではなく、ノーブランドを選ぶ、という行動と、何かをする、つまり手紙を返信するという行動の2つをしなければなりません。
これは、交絡(こうらく)デザイン(confounded design)です」。
つまり、一度に2つのことが起きているのです。
1.ブランドものの薬 対 ノーブランドの薬
2.何もしない 対 何かする
そこで私はこんな提案をしました。
「こちらで薬を変えてはどうでしょうか? ノーブランドの薬に変えました、あなたは何もする必要はありません、もしブランドものの薬がいいなら、返信してください、と言ってみては?」
その後どうなったと思いますか?
弁護士が出てきました。これは、違法だったのです。
ブレインストーミングや、想像の範囲内で、違法なことやモラルに反したことをするのは、いいのですよ。
もともとの販売には、ブランド薬なら、行動はいらない、というメリットがあり、私が提案した違法で倫理的に問題のあるやり方には、ノーブランドの薬なら、行動はいらない、というメリットがありました。
人は行動を起こしたくない
結局、中間の方法をとることにしました。
「手紙に返信いただけなければ、薬の送付を停止します。返信いただければ、ブランド薬ならこの値段で、ノーブランドの薬ならこの値段でお選びいただけます」
こんな手紙を出したのです。こうすれば、人々は、行動するしかありません。このやり方には、「行動しない」というメリットはないのです。
その結果、ほとんどの人が、ノーブランド薬にスイッチしました。
これは、ブランド薬が好きとか、ノーブランドのほうが好きという問題ではありません。単に人間は手紙を返信するのがいやなのです。
これが、摩擦のエピソードです。小さなことが、重要になってきます。
望む行動をさせたいとき、抵抗がたくさんあるせいで、行動を起すのを邪魔しているのは、どこだろう、と考えてください。
望ましい行動と簡単な行動のしやすさを揃えることが重要です。
モチベーション(動機づけ)を増やす
次はモチベーションです。
ここでは、ケニアのキベラというスラムに住むとても貧しい人々を対象に行ったプロジェクトの話をします。
万が一のときのために、少しだけ貯金をしてもらうことにしました。
極度に貧乏だと、余分なお金はいっさいありません。その日暮らしになります。
時には悪いことが起こりますが、そのとき、頼れるお金がないので、借りることになります。
キベラの人々は、ときには週に10%の金利でお金を借ります。すると、借金を返すのが難しくなり、状況はどんどん悪くなります。
だから、人々に、困ったときのために、少しだけ貯蓄してもらうことにしたのです。
何が貯金のモチベーション、燃料になるか考えました。
いろいろなことを試してもらいました。
貯金をしてもらう方法
1)今週、100シリング(およそ1ドル、100円)貯金するよう努めてください、と週に1度テキストを送る
2)子どもたちからテキストを送る。「ママ、パパ、ジョーイです。家族の未来のために、今週、100シリング貯金できるよう、がんばってください」
3)貯金をしたらその10%(または20%)あげる。「100シリング貯金できたら、こちらでその10%(20%)あげます」。
4)10%(または20%}追加するが、損失回避の要素(loss aversion)を入れる
損失回避とは、何かが増えたときの喜びより、失ったときの痛みのほうを強く感じることです。
10%もらえる人が、40シリング貯金して4シリングもらったら、ありがとうといって終わりです。もし100シリング貯金したら、もう6シリング余分にもらえていたのですが、失った6シリングは見えていません。
そこで、プレマッチ(先払い)という方法を試しました。
週の最初に10シリング入れて、誰かが、40シリング貯金したら、4シリング残し、6シリングは取り去るのです。
プレマッチでもポストマッチ(後払い)でも、みな、貯金した額の10%を受け取りますが、プレマッチの場合、貯金額に満たない10%分は、失うことになります。
5)コインを削る
もう1つ、コインを使いました。24個の番号が書いてあるものを渡し、貯金しなかった週は、その週の番号(第1週、第2週・・・)をナイフで横に削り、貯金した週は、縦に削ってもらいました。
どの方法がもっとも効果的だと思いますか?
実際に効果があったのは?
アメリカでもケニアでも、人々に、予想してもらったところ、みな、20%もらえるものが最も効果的で、その次は、10%、そのほかの方法は、行動を変えない、と考えました。
損失回避は少しだけ効果があると予想しました。
週に一度、テキストでリマインダーを送るのはかなり効果的でした。このプログラムは6ヶ月続けたので、みな、忘れてしまいます。人々に思い出させるのはよい方法です。
週の最後に10%あげるのが助けになった人もいました。お金をインセンティブ(やる気を起こさせる刺激)にするのは効果があります。
週の最後に20%あげるのは、10%あげるのと同じ効果がありました。違いはありません。
週のはじめに10%あげるのは、それよりもう少し効果がありました。損失回避を使うのもうまくいきます。
週のはじめに、20%あげるのは、10%あげるのと同じ効果があり、違いはありません。
子供からメッセージを送るのは、20%あげるのに損失回避を加えた方法と同じくらい効果がありました。
子供からのメッセージはとてもモチベーションをあげるのです。親は子供のためなら行動を変えることができるのです。
ですが、もっとも驚きだったのは、コインの効果です。コインを使った人は、ほかのどんな方法を使った人より、2倍の貯金ができました。
なぜか? それについては、あとで話します。
葬式保険の話
世界でももっとも貧しい国でリサーチするためには、実際にそこへ出向き、何が起きているのか見て、洞察を得なければなりません。
その日、私は、南アフリカのソゥエトというところで、葬式保険を売っている場所にいました。
アメリカ人は、結婚式にたくさんのお金を使いますが、南アフリカでは葬式にお金を使います。1~2年分の年収を葬式に使うのです。
葬式保険を売っている場所で観察していたら、12歳ぐらいの息子を連れてやってきた男性が、1週間の葬式保険を買いました。
1週間以内にこの男性が死ねば、葬式代の90%が保険でカバーされるという商品です。
この人たちはとても貧しいので、葬式保険にしろ、石けんにしろ、ほんの少ししか買いません。
受け取った葬式保険の証書を、彼は、とても仰々しく息子に渡しました。
一家の稼ぎ手が、その日、お金を少し、保険や貯金にまわせば、その晩、家族は、何かをがまんすることになります。
テーブルに並ぶ食べ物、灯油、水、何かが少なくなるのです。
父親が仰々しく息子に証書を渡すのは、コインを削る行為と同じです。つまり、テーブルに乗る食品は少なくなるけれど、代わりに、これがあるんだよ、と見せているのです。
貯金や保険など、経済的に望ましい行為は、目に見えません。
だから、それを目に見える形にすることが重要なのです。
動機づけの方法をいろいろ試す
ここで、ロケットの話に戻りましょう。
まず、システム全体を見て、摩擦を少なくするために、直せる場所を探します。
次に、「どんなモチベーションを加味できるかな?」と考えるのです。これは、摩擦をへらすことより難しいです。
何がうまくいくかはわからないからです。
お金のインセンティブか、損失回避か、目に見えるようにすることか?
わからないので、いろいろ試してみる必要があります。
直感に従うと、あやまった道を進んでしまうこともあると、知っておかなければなりません。
何が一番うまくいくか、私たちは、いつもわかっているわけではないのです。
私たちができるレベルと、現在のレベルにギャップがあるのは、とても残念なことです。
しかし、ギャップを埋めるために、できることはたくさんあります。
簡単にできるものもあれば、もっと複雑なこともあります。しかし、それぞれの問題に直接あたって、1つひとつタックルしていけばいいのです。
情報を与えるだけでなく、摩擦を減らし、モチベーションを加えれば、できると思います。
ギャップを完全になくすことはできません。しかし、いまより、ずっと改善できます。
//// 抄訳ここまで ////
行動に関するほかのプレゼン
習慣づけや行動を変えるプレゼンはたくさん紹介していますが、7つだけリンクします。
我々は本当に自分で決めているのか?ダン・アリエリーに学ぶ、選択のミス(TED)
仕事にやりがいをもたらすものとは? ダン・アリエリー(TED)
悪い習慣を断ち切る簡単な方法(TED)マインドフルネストレーニングのすすめ。
大々的に変えようとしないこと。小さな習慣から始めよう(TED)
損失回避について⇒物を捨てられないのは恐怖のせい~損失回避と、授かり効果の心理をさぐる
ダン・アリエリーの一番有名な本。
目に見える形にする
このブログを読んでいる人の大半は、「不用品を捨てたい」「汚部屋をきれいにしたい」という望みを持っていると思います。
しかし、ブログを読んでいるだけで、行動が伴わない人もたくさんいるでしょう。
動画で、「情報だけ与えてもうまくいかない」と言っているのと同じ状態です。
そういう人は、情報を集めるのはほどほどにして、環境を変えることに意識を向けるといいと思います。
すでに、片付けの成果を目に見える形にするといい、という話は書いていますが⇒やるべきことを後回しにしない7つの方法(汚部屋改善)
片付け、貯金など、自分の行動の結果をリアルに感じるために、視覚化してみるといいでしょう。
視覚化の例:
・頭の中で考えているだけでなく、やりたいこと、望む状態を紙に書き出して見える形にする。
・片付ける時間がないと思ったら、毎日何をやっているのか、ログをとって視覚化する。
・クローゼットにある服の内容を確認してリストアップする⇒服の買い過ぎ防止に効果がある「洋服ノート」の作り方。
・望む行動(1日15分の断捨離とか)ができた日は、カレンダーに印をつけたり、シールを貼る。
いずれも、小学生のやることみたいで、人によっては抵抗を感じるかもしれませんし、めんどくさいと思うかもしれません。ですが、とても効果があります。
私も、毎日のTo-doや、タスクはすべて目で見える形にして管理するようにしたら、その日、やりたいと思ったことは、だいたいできるようになりました。
私は手書きで管理しています。
自分の目標や望む行動に臨場感をもたせることが重要であり、そのために、書いたり、塗りつぶしたり、という方法が私には合っていました。
状況に合わせて、1つずつ改善し、望む行動に近づけるようにしてください。