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SNSがこころに与える影響と、安全に、楽しく使うヒントを教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、Is Social Media Hurting Your Mental Health?(ソーシャルメディアはこころの健康によくないか?)
講演者は、デジタル・メディアの仕事に携わる、Bailey Parnell(ベイリー・パーネル)さんです。
ソーシャルメディアとメンタルヘルス
Scrolling through our social media feeds feels like a harmless part of our daily lives. But is it actually as harmless at seems? According to social media expert Bailey Parnell, our growing and unchecked obsession with social media has unintended long term consequences on our mental health.
SNSの画面をスクロースしてチェックするのは、害のない、日常の一コマのように思えます。
ですが、本当にそうでしょうか?
ソーシャルメディアの専門家、ベイリー・パーネルによると、ソーシャルメディアをチェックしないではいられなくなることは、こころの健康に長期的な影響を及ぼします。
収録は2017年の2月、ブレゼンの長さは14分44秒。たくさんの言語の字幕がありますが、日本語字幕はまだありません。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
SNSの利用が多い人におすすめのプレゼンです。
SNSをしながら思っていること
私って太ってるわ。
この子、まだ19歳なんだよね? 私はいったい何しているんだろう。
わあ、「いいね!」が2つついてる。
私は、この写真を好きかなあ?
この子、これ以上「いいね!」が必要なの?
ああ、私も結婚式に呼ばれたかった。
あ、また「いいね!」がついた。やったね。
ソーシャルメディアを見ているとき、私たち頭の中で繰り広げられる典型的なつぶやきです。
多くの人が、毎日、こんなふうに考えており、あまりに当たり前になっているから、そうしていることに気づいていません。
私はベイリー・パーネルです。
ソーシャルメディアがみなさんのこころに及ぼす、意図していない結果についてお話ししますね。
どんなストレスがあるのか、それが自分にどんな影響を与えるのか、どうやったら、オンラインでの体験がもっとよくなるのか、お伝えします。
SNSを使わなかった4日間
1年前、私は姉と、ジャスパーで4日間、過ごしました。
4年仕事をしていて、はじめてとった仕事に関係のない休暇です。
この休暇では、ネットを使うのを休みました。
エアプレインモードにして、メールもSNSも使いませんでした。
初日は、ファントム振動症候群がありました。
電話のバイブレーションがあったと思って、チェックしたら、べつに震えていなかったという現象です。
何度もスマホをチェックしてしまい、会話に集中できませんでした。
ジャスパーの美しい景色を見た私の最初の反応は、スマホを取り出して、SNSに投稿すること。もちろん、できなかったのですが。
2日目は、少しましになりました。
みなさん、私のことバカみたいだと思っているかもしれませんが、過去、4年間、完全にオフラインになることがなかったので、これは私にとって新しい体験だったのです。
4日目になって、ようやく、スマホがなくても快適に過ごせるようになりました。
姉と山のそばに座って、考えました。「SNSは、私や私の友達にいったいどんな影響があるんだろう?」
たった4日のことでしたが、ソーシャルメディアを使わないことで、不安やストレスがありました。
これがきっかけで、この問題について研究することにしたのです。
私はソーシャルメディアのヘビーユーザー
私は、高等教育における、ソーシャルマーケティングに携わっているので、18歳~24歳の若者とよく接しています。
この年齢層は、もっともソーシャルメディアを使っている人たちでもあります。
もう1つ、私のことでお伝えしたいのは、私は、ソーシャルメディアとともに成長した世代だけれど、注意深く使うことのできる年齢でもる、ということです。
私の人生は、個人的にも、仕事としても、学問の対象としても、ソーシャルメディアそのものなのです。
SNSのせいで自分がこんなふうになるなら、他の人はどうなんだろう、と考えました。
SNSの使用が多いと精神が不安定になる
不安になるのは自分だけではないとわかりました。
大学生のメンタルヘルスを研究しているセンターによると、大学におけるメンタルの病気のトップ3は、心配性、うつ、ストレスです。
アメリカ、カナダ、UKなど、複数の研究から、ソーシャルメディアの利用が多いほど、不安やうつになるとわかっています。
SNSの利用はいまやふつうのこと
恐ろしいことに、私のまわりは、ソーシャルメディアを頻繁に利用する人ばかりです。
友人、家族、同僚。
18歳~29歳の人のうち90%はソーシャルメディアを利用しており、平均、1日2時間、SNSに費やしています。
私たちは、食事にすら、日に2時間も使っていません。
カナダ人の70%がソーシャルメディアの利用者ですが、選挙で、国民の7割が投票したりはしません。
私たちが、こんなにもよく従事している活動は、注意深く調べてみる価値があります。
ここまで時間を費やす活動はどんなことも、私たちに、長期的な影響を与えます。
ソーシャルメディアがもたらすストレスは4つあります。
1. 名場面集(ハイライト・リール)
ソーシャルメディアは私たちの個人的な名場面集です。
勝ったり、よく見えたりしたを投稿します。
他人の名場面と、自分を比べて、不安になります。
もちろん、このようなことはSNSがない時代にもありました。
テレビや有名人と自分を比べたりしました。
しかし、いまは、それがいつも起きていて、直接、自分とつながっているのです。
この講演の準備をしているとき、自分の身にも起きました。
友人がバケーションを楽しんでいる写真を見て、「え、なぜ私は休暇に出られないんだろう。パジャマ姿で家にいて、ネットフリックスを見ているだろう。私だって海に行きたい」と思ったのです。
私はこの友人のことをよく知っています。彼女にとって、これは特別なことだとわかっています。
ふだんは、学校の勉強に追われていますから。
ですが、そんな様子を見たい人はいません。名場面こそ、人は見たいのです。
2.ソーシャル通貨(ソーシャル・カレンシー)
通貨は、物やサービスと交換できる価値のあるものです。
ソーシャルメディアにおける通貨は、「いいね!」やコメント、シェアです。
マーケティングの世界ではこの通貨のことを、「アテンション経済」と呼びます。
あらゆるものが、人の関心を集めることを競い合っています。
みなさんが、何かに、「いいね!」したり、限りある注目を少しでも向けると、それは、価値を生む取引となります。
もし、あなたが、アルバムや洋服を売っているなら、これはいいことですよね。
しかし、問題は、SNSにおいては、自分自身が商品である、ということです。
ほかの人に自分の価値を決めさせてしまうのです。
思ったほど「いいね!」が集まらなかった写真を、あとで削除した人、まわりにいませんか? 私はそうしたことがあります。
思ったより売れないから、棚から商品を取り除くのです。
こうすると、私たちのアイデンティティが変わります。
自分の価値を、他人が自分をどう思うかで決めてしまい、少しでも皆に見てもらうとがんばるのです。
しかも、そのことに執着します。
魅力的なセルフィーを撮るために、300回ぐらい写真を撮ってしまいます。
そして、それを投稿するのに最適な時間を待ちます。
そうすることに、あまりに取りつかれているので、SNSに参加できないと、生理的な反応をしてしまうわけです。
3.FOMO(フォーモー)
FOMOは、SNSをチェックしていないと、つながり損ねる、イベントに行き損ねる、チャンスを逃すという不安です。
カナダの複数の大学の調査によると、10人のうち7人の生徒が、「FOMOがなければ、SNSはやめる」と言っています。
SNSをやめることを考えたことがある人はいますか? ほとんどの方がそうですね。
FOMO、ハイライト・リース、ソーシャル通貨は、みな、SNSを使うことで起きる、わりとふつうの結果です。
でも、もっと恐ろしいことも起きます。
自分の価値について疑問を感じるのみにとどまらず、自分の安全が問題になることが。
4.オンライン・ハラスメント
もっとも恐ろしい脅威はオンライン・ハラスメントです。
オンラインを利用している大人の40%が、いじめを経験しています。
目撃したことがある人は73%です。
女性、LGBTQ、有色人種、イスラム教徒だと、いじめられるリスクがあがります。
タイラー・クレモンティは18歳で自殺しました。彼がべつの男性とキスをしているところを、ルームメイトが撮影して、Twitterに投稿したからです。
アニタ・サーキシアンは、フェミニズムの考えを発信したら、オンラインではずかしめられ、殺すぞ、レイプするぞと、攻撃されました。
こうした事件があったとわかるのは、すでに手遅れになったときです。
日常的なオンライン・ハラスメントもありますね。
個人的に親しい友人に送った、おどけた写真が、フェイスブックにのってしまったり。
この場合、「あがっている写真は1枚だけで、いじわるなコメントも1つぐらい。たいしたことはない」で終わってしまうかもしれません。
しかし、こうした小さなできごとか、何度も度重なると、一大事になります。
小さなできごとに、敏感にならなければなりません。
そのできごとが及ぼす影響が、放置すると、さらなるタイラー・クレモンティが生まれてしまいます。
こうした行為を見過ごすべきではないのです。
SNSに依存してしまう仕組み
スマホのトップ画面に通知が入って、そのままだと気になる人はいますか?
通知が入ると、チェックしないではいられませんよね。
この「チェックしなきゃ」という気持ちが、依存症につながります。
薬物への依存と同じことを、すでに私たちは体験しています。
「いいね!」がつくたびに、気分をよくする化学物質である、ドーパミンが分泌されます。
ソーシャル通貨もたまります。
気分がよくなるために、「もう1度だけ」とSNSをチェックします。
チェックできないと不安になります。
このような問題をそのままにしていると、不安やうつになり、FOMOを感じ、気が散ります。
ハイライト・リールを見て、人と比べて落ち込みます。
大変なことばかりですが、これが始終続くのです。
カナダのメンタルヘルス協会の調査によると、7年生から12年生(中学1年~高校3年まで)のうち、1日、2時間、SNSを利用している人は、より、不安、うつ、自殺願望が強くなります。
7年生は、まだたったの12歳ですよ。
ソーシャルメディアはツールにすぎない
私自身はソーシャルメディアが大好きです。
これまでお話ししたことを聞いて、「SNSをやめろ」と言われるのかとみなさん思うかもしれませんが、それは違います。
やめろ、と言われても、やめないでしょうし。
「SNSを利用する時間を減らしましょう」とも言いません。
ソーシャルメディアそのものはよくも悪くもありません。
ただ、私たちがよく使う最新のツールなだけです。
人がいつもする、物語を語ったり、コミュニケーションしたりする道具です。
質の悪いテレビ番組があるからといって、テレビのメーカーを責めたりしませんよね。
Twitterが、人に、ヘイトコメントを書かせるわけでもありません。
人の闇が出るツール
ソーシャルメディアのダークサイドを語るとき、私たちは、人間のダーク・サイドを語っています。
人の闇の部分が、いじめる人に、いじめをさせます。
人の自信のなさが、投稿した写真を削除させます。
こころの闇があるから、他人が楽しそうにしている写真を見て、自分の身を嘆きます。
私たちに必要なのは、問題を防止し、うまく処理する戦略です。
これがあれば、気分が落ち込んでいる時、タイラー・クレモンティや、ほかの犠牲者ほど、落ち込むことがなくなります。
SNSとうまく付き合う方法を4つ紹介します。
1.問題を認識する
SNSがもたらす問題に気づきましょう。このトークを聞いたことが最初のステップです。
問題があるという目で見れば、そこら中に問題があることに気づきます。
気づくことが重要なのです。
問題があるとわかっていたら、自分の身に起きたとき、その影響について考えることができます。
2.使い方をチェックする
使い方をチェックします。
口に入れるものや、頭やこころにインプットするものにこころを配るように。
以下のような自問をしてください。
「フェイスブックを見るのは、自分の気分をよくしている? それとも害している?」
「私は、実際、何回、『いいね!』をチェックしている?」
「どうして、この写真に対して、こんなふうに反応してしまうのだろう?」
その結果について、自分で満足しているか、考えてください。
3.よりよい体験を作る
使い方を調べて、問題を見つけたら、よりよいオンライン体験ができるように、心がけます。
私のパートナーは、自己肯定感が、ソーシャルメディアに左右されていると気づきました。
とくに、セレブの投稿を見ると、「自分にはないもの」を感じてしまっていました。
彼は、ブランドや有名人をフォローするのをやめ、不愉快になることが減りました。
あなたにとっては、セレブの投稿は問題ではないかもしれません。
私自身は、ほかの人をアンフォローしました。
秘訣をお教えしましょう。
べつに、「友人」をフォローする必要なんてありません。
時には、友人や、礼儀上、フェイスブックで友人になっている人のせいで、オンライン体験がひどいものになっています。
自分でも気づかないうちに、パッシブ・アグレッシブの戦いのうずに巻き込まれていたりして。
同じコンサートの同じアングルの写真を50枚見るはめになったり。
アーティストやコメディアン、猫などをフォローしたかったらフォローしてください。
4.よい行いのお手本となる
最後に、自分が、よい行動の手本をしめします。
オフラインでは、公園でほかの子どもをいじめてはいけけないと教えられています。
ほかの人を尊重して、丁寧に扱うことも教えられています。
落ち込んでいる人を、さらに落ち込ませるようなことをしたり、いい気味だと喜んだりしてはいけないと知っています。
ソーシャルメディアは、よい体験、よりポジティブなグループ、革新的なことのために使うツールです。
結論
ソーシャルメディアは、人のこころを傷つけますが、そうである必要はありません。
自分をズタズタにする可能性があるけれど、同時に、元気づけてもくれます。
24時間のうち、2時間もソーシャルメディアに使うなら、その2時間は、喜びやひらめき、楽しいこと、モチベーションに満ちたものになってほしいと思います。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
go dark 活動やコミュニケーションをとるのをやめる
phantom vibration syndrome 幻想振動症候群、ファントム振動症候群。
スマホなどのバイブレーション機能による着信通知を、いつも気にかけている人が、着信がないのに、電話が振動したと錯覚する現象。
振動に対して、脳が過敏に反応するため起こると考えられています。
highlight reel ハイライト映像、名場面集。reel は、映画フィルムの一巻き、一巻きの映像。
Economy of Attention アテンション・エコノミー、attention economy 関心経済。
人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つという概念。この枠組みにおいては、情報の優劣より、注目を集めることが重要視されます。
FOMO フォーモー fear of missing out 取り残される不安。詳しくはこちらの記事で⇒SNS依存に注意。FOMO(フォーモー:取り残される不安)を捨てる方法
passive aggressive 受動的攻撃性、パッシブ・アグレッシブ。間接的に攻撃すること。
表立った攻撃はせず、見た目は静かで、弱々しく、受け身のまま相手を攻撃し、自分の欲しいものを手にいれようとするさま。
はっきりノーと言わず、不機嫌になって、相手を攻撃する。にこやかにしているが、こころの中では、相手にすごく怒って、背後で悪口を言うなど、さまざまなパターンがあります。
SNSに関するほかのプレゼン
ソーシャルメディアはやめなさい:カル・ニューポート(TED)
スマホやYouTubeがクセになってしまう行動様式を知り、悪習慣を改める(TED)
なぜデジタル機器の画面を見て過ごしていると幸せから遠のくのか?(TED)
意識的な利用がおすすめ
SNSが原因で気分が悪くなる、落ち込む、買い物が増える、自由にふるまえない、スマホの利用が異常に増えて、肝心のことができない。
こんな問題をかかえている人はわりといて、そういうメールをもらうこともあります。
そうした人に、私は、「アプリを削除しなさい」とか、「SNSなんて、やめなさい」と言いたいのですが、多くの人にとって、やめることは選択肢にないのかもしれません。
学生の場合、友達とふつうに付き合えなくなるようです。
そこで、上手に使う方法を伝えている動画を紹介しました。
「SNSは人間の闇が出やすいツールである」、ということをこころに留めて、ときどき自分の使い方をチェックしてください。
お金も、ダーク・サイドが出てしまうツールですね。
こうした、人の闇を写し出すツールは悪用する人もたくさんいます。
「自分は大丈夫」と過信せず、ときどき、どんなふうに扱っているか、ふりかえって、バランスを取ることが必要です。
SNSは、デジタルデトックス、お金は、買わない挑戦をして、少し制限をかけてみると、依存しすぎて、振り回されることがありません。
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ちょっと前、Twitterでひどいことを書かれたことが原因で自殺したのではないか、と言われた芸能人がいました。
「ツイートが原因なら、なんでTwitterのアカウントを削除しないんだろう。私なら、速攻でやめるのに。なんなら、芸能界も引退するのに」と娘に言ったところ、
「SNSをやめるのは簡単なことじゃないよ(ママは何もわかっちゃいないね)」という返事が返ってきました。
「SNSをやめるより、人生をやめるほうが簡単なのか?」と思いましたが、ソーシャル通貨を交換する人生に生きていると、そういう思考になってしまうのかもしれません。
ひどく落ち込んでいる人は、理性的に考えられませんしね。
渦中の人でいるとき、渦(うず)に飲み込まれないように、ときどき、自分のことを、遠くから見ることが大事ですね。