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効率を追い求めすぎる問題を伝えるTEDトークを紹介します。
タイトルは、The paradox of efficiency (効率性のパラドックス)。
歴史家のEdward Tenner(エドワード・テナー)さんの講演です。
邦題は、非効率の重要性。
効率のパラドックス・TEDの説明
Is our obsession with efficiency actually making us less efficient? In this revelatory talk, writer and historian Edward Tenner discusses the promises and dangers of our drive to get things done as quickly as possible — and suggests seven ways we can use “inspired inefficiency” to be more productive.
効率にこだわるあまり、かえって効率が悪くなっていないでしょうか?
この啓示のあるスピーチで、作家で歴史家のエドワード・テナーは、物事をできるだけ早く終わらせようとすることが約束するものとその危険性を論じます。
そして、ひらめきのある非効率性を用いてより生産的になる方法を7つ紹介します。
収録は2019年、動画の長さは14分。日本語の字幕があります。
☆トランスクリプションはこちら⇒Edward Tenner: The paradox of efficiency | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
文学的で、比喩的な表現が多いので、わかりにくい部分もありますが、それが、プレゼンのテーマと合っていますね。
効率がいいこと
効率のいいことは皆好きですよね。私もそうです。
効率性は、少しのものでたくさん得られることを意味します。
1ガロンでより長い距離、1ワットでより明るい、1分間によりたくさんの言葉。
少しのものでたくさん取れるのは、何もないところから何かを得ることの次にいいことです。
アルゴリズム、ビッグデータ、クラウドおかげで、少しのものでたくさん得られます。
軋轢(あつれき)のないユートピアに向かっているのか、いつも監視される悪夢に向かっているのかはわかりませんが。
私は現在に興味がありますが、過去が現在を理解する助けになることを紹介します。
じゃがいもは奇跡の食べ物
効率性が約束してくれるものと、その危険性を教えてくれるのに、じゃがいもは最適です。
古代インカ帝国のアンデスで生まれたじゃがいもが、ヨーロッパに広がりました。
じゃがいもは栄養バランスのいいすぐれた食べ物です。
プロイセン王のフリードリッヒ大王が、じゃがいもの熱狂的なファンでした。
彼は、じゃがいもが健康なプロイセン人を増やすのに役立つと信じていました。
健康なプロイセン人が増えれば、健康なプロイセン兵が増えると思ったのです。
健康なプロイセン兵の何人かがフランス軍の薬剤師のパルマンティエという人を捕虜にしました。
三食、じゃがいもが与えられたので、最初は驚いたプロイセンも、そのうちじゃがいもが好きになり、開放されたとき、フランスにじゃがいもを広めることにしました。
ベンジャミン・フランクリンにすすめられ、パルマンティエは宴会を開き、フランクリンは主賓として呼ばれました。フランス国王とその后はじゃがいもの花を衣類や髪に飾り、これはとてもいい宣伝になりました。
アイルランドの悲劇
でも、ここに1つ落とし穴がありました。
じゃがいもは、ヨーロッパにとって効率がよすぎたのです。
アイルランドにとって、じゃがいもは奇跡のように見えました。
じゃがいもを食べることが盛んになり、人口も増えました。
しかし、リスクがありました。
アイルランドのじゃがいもはどれも同じ品種で、ランパーというとても効率のいい品種でした。
ランパーの問題は、南米からじゃがいの疫病がもたらされたことにあります。1つのじゃがいもが感染すると、すべてのじゃがいもが感染してだめになりました。
英国の搾取と冷淡さも一役買いましたが、アイルランドで100万人が死亡し、さらに200万人が移住することになったのは、じゃがいもが単一品種だったせいです。
飢饉をなくすはずの植物が、もっとも悲劇的な飢饉を生み出してしまいました。
効率を追い求めて非効率に
現代の効率性の問題は、ここまで極端なものではありませんが、慢性的になっています。
しかも、解決しようとしている悪いことを長引かせることがあります。
電子カルテを例にとりましょう。
医師がカルテを手書きしなくてもすむので、治療のためにもっといいデータを提供できる利点があります。
しかし、実際は、電子的なペーパーワークが増え、医者は、患者を診る時間が増えるどころか減ってしまったと不満をもらしています。
効率性にこだわりすぎると、かえって効率が悪くなるのです。
誤検出の問題
効率化は誤検出(false positives)も、もたらします。
病院には、アラームが鳴る機械が何百とありますが、たいていそれは誤報です。
誤報を除外するのに時間がかかり、それが疲労やストレスをもたらし、患者の本当の問題を無視することになります。
パターン認識もまちがっていることがあります。
スクールバスは、間違った角度から見るとサンドバッグに見えることがあるので、間違った認識をよりわけるために、貴重な時間が使われます。
間違ってネガティブと判定してしまうのも問題です。
アルゴリズムは、こうしことを素早く学びますが、過去のデータしか得られません。
これから古典になりうる作品は、低く評価され、いくつもの出版社から断られたりします。
無駄をすべて省こうとすると、無駄が生じかねないのです。
戦争を早く終わらせたかったのに
効率化は、敵側がコピーすると、罠となります。
19世紀の終わりにあったフランスの75mm砲を例にとりましょう。
これは殺傷能力の高い傑作でした。4秒に1発、発射できましたが、それよりすごいのは、反動機構があったことです。
そのため、発射速度がとても向上しました。
この武器は、次に、フランス軍とドイツ軍が戦ったとき、フランス軍が勝つ鍵を握ると思われていました。
しかし、どうやらドイツ軍も同じような銃を開発していたので、第一次世界大戦が始まったとき、塹壕戦(ざんごうせん)となり、予想以上に長引きました。
戦争を短くするための技術が、戦争を長引かせたのです。
ハードウエアの開発は時間がかかる
効率化の最大の代償は機会を失うことでしょう。
買い手と売り手をつなぐプラットフォームエコノミー(シェアリングエコノミー)は、すばらしい投資になりえますし、実際、ここ数週間、私たちはそれを目の当たりにしています。
何億ドルも損失を出している企業でも、新規株を買った人は、億万長者になっているかもしれません。
しかし、本当に難しい発明は、物理的、化学的なものです。
そうした発明は、より大きなリスクを意味します。
ハードウエアの開発は難しいので、損失がでる恐れがあります。
物理的、化学的な発明のスケールをあげることは、ソフトウエアの開発よりずっと難しいのです。
電池を考えてみてください。
携帯デバイスや電気自動車に使われているリチウムイオン電池は、30年前の原理に基づいています。
今のスマートフォンで、1回の充電で1日もつものがいくつあるでしょう?
そう、ハードウエアの開発は困難なのです。
便利なコピー機を使うはずが
1938年、チェスター・カールソンが、乾式コピー機の原理の特許を取得してから、この原理をもとに、ゼロックス社が「ゼロックス914」というコピー機を、1959年に発売するまで、20年以上かかりました。
ニューヨーク州ロチェスターにあった小さくて勇敢な会社、ハロイド社は、ほとんどの企業には耐えられそうにない経験をしました。
コピー機を導入してから、次から次とトラブルがありましたが、特に大変だったのは火事です。
914がリリースされたとき、スコーチエリミネーター(焦げを除去するもの)という装置がついていて、これは小型の消化器でした。
わざと効率を落とすすすめ
これまで話してきた問題に対する私の答えは、わざと効率を落とすこと(Inspired inefficiency ひらめきに満ちた非効率性)です。
データや測定は不可欠ですが、それだけでは十分ではありません。
人間の直感とスキルを活かせる部分を残しておきましょう。
わざと効率を落とす方法を7つ紹介します。
偶然の出会いを大事にする
まず、景色のいい道を選び、偶然の出会いを歓迎すること。
間違った道へ曲がったほうが生産的になることがあります。
一度、ミシシッピ川の東側を探索していたとき、道を間違えて、アイオワ州のマスカティンに行ってしまったことがあります。
よく知らない場所でしたが、行ってみたら、素晴らしいところでした。
世界でもっとも有名な養殖場や、パールボタンの博物館がありました。100年前、世界のボタンの3分の1がここで生産されていたのです。
1986年に中国の未来の主席が滞在した家もあり、ここは、米中友好会館となっていて、中国人観光客がたくさん訪れています。
椅子から立ち上がる
めんどくさい手順をとったほうが、効率的なことがあります。
物についている技術を考えてください。
椅子に座ったまま、照明やサーモスタットを調整し、掃除機を作動させるのはすばらしいことです。
しかし、医学的な研究によれば、立ち上がったり、歩き回ったりするのは、心臓や、腰回りのためにとてもいいことなんです。
失敗をお金にする
偶然のアクシデントを、想像力豊かに発展させると、すばらしいものが生まれます。
メトロポリタン・オペラの建築家であるタッド・レスキーが、リンカーン・センターでスケッチをしていたとき、図面に白いインクをこぼしてしまいました。
他の人なら、このスケッチを捨ててしまうところですが、レスキーは、ここから発想を得て、20世紀のシャンデリアの中でももっともすばらしい、星の光を模したシャンデリア(starburst chandelier)を作り出しました。
難しいことに挑戦する
ときには手間がかかって大変なことをしましょう。
スムーズにいかないほうが効率的なことがあります。
心理学者は、これを、「望ましい困難」と呼んでいます。
講演者が話していることを、キーボードで一字一句メモするのは、話の内容をつかむのに、最良の方法に思えます。
しかし、リサーチによると、講演の内容を要約するときは、紙のノートやペンを使っているときのほうが、情報をうまく処理できます。
要約しながらその情報を自分のものにでき、その内容をよりアクティブに学んでいるのです。
多様性によって安全性を得る
モノカルチャー(単一文化、単作)は、致命的になりえます。
じゃがいもの話、覚えていますか?
最初は効率的でしたが、実際はそうではなかったのです。
多様性は、組織にも、もたらすべきです。
ソフトウエアは、その組織が、過去、どうやって成功したか教えてくれます。それは、人を雇う時などに役立ちます。
しかし、環境は常に変化していて、スクリーニングソフトは、そのことを知りません。
私たちにも、将来、誰が役立つかなんて知るよしがありません。
だから、直感を使い、さまざまなバックグラウンドをもち、いろいろな見方をする人を探すことで、アルゴリズムが教えてくれることを補足する必要があるのです。
余分なものや人間力を使って安全性を確保
ボーイング737 MAXが、なぜ2度も墜落したのか?
全容はまだわかっていませんが、今後の悲劇を防ぐ方法はわかっています。
独立した複数のシステムが必要なのです。
もし1つがだめになっても、他のシステムがそれに取ってかわります。
失敗をカバーできるオペレーターも必要で、そのために、常にトレーニングしなければなりません。
合理的な浪費をする
エジソンは映画産業とカメラ技術のパイオニアです。
エジソンほど、効率化に貢献した人はいません。
しかし、彼のコスト削減は破綻していました。
彼のマネージャーは、いわゆる効率化エンジニアを雇いました。
このエンジニアは、撮影したフィルムのストックをもっと使うことと、撮り直しを減らして、コストを削減するよう、エジソンに助言しました。
エジソンは天才でしたが、長編映画の新しいルールを理解していなかったのです、つまり、失敗したフィルムが成功のもとになることを知らなかったわけです。
一方、エリッヒ・フォン・シュトロハイムのような偉大な監督たちは、エジソンと逆でした。
彼らは一流の劇作家で、シュトロハイムは印象的な役者でもありましたが、映画を予算内に作ることができませんでした、よって、サステイナブルではありませんでした。
合理的に浪費できたのは、アーヴィング・タルバーグです。彼は、元秘書でひらめきに満ちていました。
ユニバーサル・スタジオ、次にMGMでハリウッドの理想のプロデューサーとして活躍しました。
最適な非効率性
まとめると、真に効率的であるためには、最適な非効率性が必要なのです。
最短ルートはまっすぐではなく、曲がっているかもしれません。
このことをチャールズ・ダーウィンは知っていました。
難しい問題に直面したとき、彼は、裏庭の散歩道を歩きました。
生産的な道は、ダーウィンの道のように実際の道かもしれないし、バーチャルな道や、予期せぬ回り道かもしれません。
行き過ぎた効率性はその道を弱めてしまいます。
しかし、ひらめきのある非効率性が少しあれば、道はしっかりします。
ときには、前に進む最良の方法は、回り道をすることなのです。
//// 抄訳ここまで
単語の意味など
crying wolf 誤報
verbatim 一語一語
ランパーというじゃがいもは、やせた土地でも育つので、効率がいい作物でした。どんな土地でも育つので、アイルランドの農民はランバーに頼りすぎてしまったのです。
テナーさんの本です。プレゼンに出てきた事例をもっと詳しく知りたいときは読んでください。
この本は翻訳が出ていないようですが、別の本(やや古い)の翻訳本がありました。
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先のことには柔軟に対応する
あまりに効率のいいことを追求しすぎると、かえって効率が悪くなるのは、誰しも体験したことがあるでしょう。
どんなものにも、一見無駄な、遊びの部分が必要なのです。
テナーさんのプレゼンで特に、印象に残ったのは、「データは過去のできごとの集積」というところです。
私たちは、過去に起きたことをベースに未来予測をします。
しかし、未来には思いがけないことが起こるので、データ分析だけに頼るのは危険です。
不測の事態になったとき頼れるのは、人間力やスキル、洞察力です。
それは、問題解決能力とも呼べます。
不用品を捨てるとき、「これを捨てちゃうと、あとで、こんなことやあんなことがあって困りそう」と心配する人がたくさんいますが、問題解決能力を養っておけば、そんな心配は不用です。
問題解決能力のようなソフトスキルは、心に余裕のある日常生活を送っているほうが養われるものです。
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先日、iPadと紙のノートとどちらがいいか聞かれました。
この問題にしても、あまり効率を求めないほうがいい結果になると思います。
iPadはアナログのノートより効率がいいのですが、ソフトスキルを伸ばすには、アナログのノートのほうが向いていると思います。