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プレッシャーのある状況でいいパフォーマンスをするためには、ニュートラルな思考が必要だと教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、My secret to staying focused under pressure(プレッシャーの中で集中する秘訣)。
NFLの名選手、のラッセル・ウィルソン(Russell Wilson)のトークです。
ラッセル・ウィルソンは、アメリカ・NFL(プロフットボール)の名クォーターバック。
もともとは野球とフットボールの二刀流選手で、大学卒業後にはMLB(野球)のコロラド・ロッキーズからドラフト指名を受けるほどの実力を持っていました。
その後、アメフトの道を選び、2014年にはシアトル・シーホークスの一員としてスーパーボウルを制覇。
プレーだけでなく、メンタルの強さやセルフマネジメント力でも高く評価されているアスリートです。
集中するために
収録は2020年、長さは6分、日本語字幕もあります。
☆トランスクリプトはこちら⇒Russell Wilson: My secret to staying focused under pressure | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
短いですが、父の死や大きな敗北、若いがん患者との対話など感情を揺さぶられるエピソードがたくさん入っています。
メジャーリーグ入り、そして父の死
2010年6月8日。ラッセル・ウィルソン、メジャーリーグのコロラド・ロッキーズにドラフト4巡目で指名されました。
人生で最高の瞬間でした。メジャーリーグのチームに指名されるなんて、すべての子どもの夢です。
翌日の2010年6月9日、父が亡くなりました。
人生の絶頂から、どん底へ。一瞬の出来事でした。
死の床に横たわる父を見て、涙があふれました。
これから何をすればいいんだろう?
思い出が次々とフラッシュバックしました。
朝早く起きて一緒にゴロを取って投げ合ったこと。兄と父と一緒にフットボールの練習をしたこと。
AAU(アマチュア野球)の試合を見に、早朝、車で出かけたこと。そして、父が三塁のコーチをしていた姿。
絶頂からスランプへ
時間は進んで、スーパーボウル優勝という最高の瞬間が訪れました。トロフィーを掲げ、感情が爆発したあの瞬間。青と緑の紙吹雪が舞い、スーパーボウルに勝ったんだと実感しました。
それから1年後。
試合のプレッシャー、ゴールの前1ヤードでの攻防。勝利をつかむ最後のチャンス。
でも、うまくいきませんでした。世界中の何千万人もの人がその瞬間を見ていました。
私は報道陣の前に立たなければなりませんでした。
「次に何を話すべき?」「どう振る舞えばいい?」「何を考えればいい?」そんな気持ちでした。
私は若くして結婚し、大学を卒業したばかりでした。その後すぐに、結婚はうまくいかなくなりました。
そして気づいたんです。
「ああ、こういうこともあるんだな」って。人生って、そういうものなんです。
誰の人生でもいろいろなことが起きます。家族を失ったり、離婚したり、恐れや痛み、うつ、心配ごとや不安を抱えたり。
ポジティブ思考はうまくいかない
「いつもポジティブでいよう」と思うかもしれません。たしかに私は生まれつき前向きな性格です。
でも、ポジティブ思考は、いつも通用するわけではありません。
たとえばNFCチャンピオンシップで16点負けていたとき、周囲から「ラス、もう無理だよ、この試合は厳しいよ」と言われるとき、あるいはがんと闘っていたり、経済的な問題やいろんな課題を抱えていたりしたら。
そんなとき、どうやってポジティブでいられますか? 無理ですよね。
でも、ネガティブでいれば、100%の確率で状況は悪化すると確信していました。
ネガティブ思考は、自分をどこにも連れていってはくれません。
だから、私は自分にこう言い聞かせました。
「朝が来るたびに、新たに主が憐れんでくださる」。毎日が新しい始まりだと考えるようにしました。
ニュートラルのすすめ
困難や痛み、不安を乗り越えたかったとき、「どうすればいい?」と迷いながら、車のことを考えました。
車を運転するとき、マニュアル車は、ニュートラルに入れることがありますよね?
1速から2速、5速までギアを変えますが、その間にニュートラルに入れるタイミングがあります。
私は、すぐ、ニュートラルに入れる必要があったんです。ぶつからないように。
マインドセットはスキル
スーパーボウルのあと、決断に迫られていました。
「この失敗で、自分のキャリアを決めてしまうのか? 人生そのものを左右させるのか?」
そんなのは絶対嫌でした。
そこで気づきました。
マインドセットはスキルだと。
それは、教えることも、身につけることもできます。
10年前、トレバー・モワッドというメンタルトレーニングコーチと一緒に心を鍛える訓練を始めました。
彼とはそれ以来ずっと一緒で、親友であり、パートナーでもあります。
アスリートは体を鍛えます。速く走れるように、遠くに投げられるように、高く跳べるように、いろんな能力を鍛えます。でも、どうして心は鍛えないのでしょう?
どんな人生を送りたいですか?
それを書き出して口に出すんです。
「自分はどんな言葉を使っているか?」
「理想の自分の姿は?」
「ラッセル、君が最高のプレーをしたときの映像を見返そう。それが君らしい姿なんだ。だったら、それを生きろ。そのように話し、そのようにふるまえ。」
フリースローの名手たちは、さっき外した1本のことなんて気にしていません。
彼らは「今、この1本」「このパット」「このスロー」「この1stダウン」だけを見ています。
がんの若者との出会い
ミルトン・ライトという19歳の若者に出会いました。彼は3度もがんを患っていたんです。その日、彼のもとを訪ねると、とても落ち込んで、こう言いました。
「ラス、もう無理だ。これ以上は耐えられない。僕の人生、もう終わりだよ。」
そこで私は、父との思い出を彼に話し始めたんです。
父はよくこう言っていました。
「息子よ、なぜ君ではだめなんだ? 早く卒業して、プロのフットボールと野球の両方でプレーすればいいじゃないか。なぜ君にはできない? なぜ君じゃないんだ?」
だから僕も彼に言いました。
「ミルトン、なぜ君じゃない? もしT細胞療法を試して、それが効かなかったとしても、そんなこといずれ忘れるよ。」
するとミルトンは少し笑って、こう言いました。
「そのとおりだね、ラス。たしかに僕はがん患者だ。でもね、これに負けるかどうかは、自分次第なんだ。
肉体的にだけじゃなく、精神的にも、死んだことにしてしまうか? その選択は、今この嵐の中で、自分が決められるんだ。乗り越えるかどうかを、自分で選べるんだ。」
感情に振り回されない
「ニュートラル思考って、感情を持たないってことですか?」とよく聞かれます。
私は、絶対にそんなことはないと答えます。
感情はもちろんあります。誰だってそうです。
現実の問題もあるし、向き合わなきゃいけないこともある。
大切なのは、その瞬間に集中し、感情に振り回されすぎないことです。
感情があるのは自然なことです。でも、感情的になる必要はありません。
人々は、私を「NFLで最も高額報酬を受け取っている選手」だと思うでしょう。
妻がいて、家族がいて、華やかな暮らしをしているように見えるかもしれません。
でも、私にだって日々の悩みがあります。
みんなそうです。誰にでも、悲しみ、喪失、うつ、不安、恐れなどがあります。
いつでも選択できる
私がいまここにいるのは、偶然ではありません。
どうすればここからもっとよくなれるのか?
この問いかけが、私の思考を変え始めるきっかけになりました。
成功したか、失敗したかよりも大事なのはプロセスです。
「次に何をするべきか?」「この瞬間、どう動くか?」これを考えるようにしました。
人生には、いつだって選択があります。
私は若い頃は何も持っていませんでした。
でも、すばらしいことが起こると信じる選択をしました。
「正しい心のあり方」「正しい言葉の使い方」「正しい考え方」を持とうと決めました。
その積み重ねが、いまの自分をつくってくれました。
私もただの人間です。たまたま、遠くにボールを投げたり、走り回ったり、かっこいいプレーをして、みんなを笑顔にできるスキルを持っているだけです。
でも現実には、プレッシャーも、不安も、恐れもあります。思いがけない出来事に出会い、何かを失うこともあります。
ポジティブ思考は、ときに危ういです。
でも、確実に機能してしまうのがネガティブ思考です。
ネガティブの中にいたくなかったから、ニュートラルにギアを入れ続けました。
今も、僕はそのニュートラルの中で生きています。
//// 抄訳ここまで ////
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緊張するとなぜ失敗するのか、どうしたら、実力を発揮できるのか?(TED)
ニュートラルのすすめ
感情が大きく揺れるとき、私たちはつい極端な方向に走ってしまいます。
前向きに考えようとして無理をしたり、逆にすべてを悲観的にとらえてしまったり。
でも、ラッセル・ウィルソンの言うように、心をニュートラルのポジションに戻すのは、とても大切だと思いました。
大きな失敗をしたときや、人間関係で傷ついたとき、落ち込んだり、不安になったりするのは自然なことです。
でも、その感情の渦に飲み込まれたままだと、前に進むのが難しくなります。
そんなときこそ、極端にポジティブになるでもなく、ネガティブになるでもなく、「今、自分にできることは何か?」という視点を持ちたいものです。
感情的になってもがくより、いったん立ち止まり、ありのままの状況を静かに見つめる。
そして、次にどんなふうに動くかは、いつだって自分で選べることを思い出しましょう。