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ネガティブなことを考えたとき、人は、それを押し込めたり、なかったことにしようとしがちです。
もしその思考は、あなたを困らせる敵ではなく、心の奥から届いたメッセージだと伝えるTEDトークを紹介します。
タイトルは、How To Make Sense of Your Negative Thoughts(ネガティブな思考の意味を理解する方法)、心理学者のDr. Yasmine Saad(ヤスミン・サード博士)の講演です。
ネガティブ思考に悩まされている人に、自分の心との向き合い方を教えてくれます。
ネガティブな思考を理解する
収録は2024年11月、長さは12分、英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ヤスミンさんはとてもやさしい話し方をしますね。
ネガティブ思考に対して人がすること
なぜ、私たちは自分についてネガティブな考えを抱いてしまうのでしょう?
その思考は、私たちを邪魔するためにやってくるのでしょうか?
私は心理学者として17年の経験があり、これまでにネガティブな思考に悩む3,300人以上の人たちをサポートしてきました。
そうする中で、人がネガティブな思考に対処するとき、3つのパターンがあると気づきました。
1つ目は、無視すること。空に浮かぶ雲のように、通り過ぎるのをただ待ちます。
2つ目は、ポジティブな考えに置き換えること。
3つ目は、受け入れてしまうこと。そのまま真に受けて、ネガティブ思考と一緒に沈んでしまいます。
でも、置き換えても、受け入れても、無視しても、「ネガティブな思考は自分にとって害だ」と思っている点では同じです。
これは、自分の内側に敵を作ること。
自分の中の敵と戦いたいですか? 私は、そんなことはしたくありません。
ネガティブな考えはあなたに伝えたいことがある
ネガティブな思考が敵でも味方でもなく、あなたに情報を届けにきたメッセンジャーだったとしたら、どうでしょう?
ちょっと想像してみてください。
あなたはリビングに座って、おもしろい映画を観ています。
そのとき、突然、「ドン!」と玄関のドアを叩く大きな音がします。
「誰?」誰かが来る予定はないので、あなたは無視します。
映画に戻って楽しみたい、でもそのノックは続きます。
今度はイライラしてきます。けれど、そのバンバンという音は、止むことなく鳴り続けます。
ネガティブな思考が私たちの元にやってくるときはこんな感じです。
望まないタイミングで、いきなりドアを叩く。
その結果、楽しみが奪われ、不安、いら立ち、疑い、恐れといった感情が押し寄せてきます。
私たちは、「これは悪いことだ」と感じます。
それが、ノックを受け取る私たちの考え方です。
では、ノックしているその人の立場だったらどうでしょう?
彼らの視点に立ってみましょう。
「どうしてドアを開けてくれないの? 中にいるのはわかってる。テレビの音も聞こえるし。どうしたの? どうやったら気づいてもらえる? もっと強く、どんどん叩かなきゃ。」
ネガティブな思考は、私たちに「気づいてほしい」と思っているのです。
何か大切なことを、私たちに伝えようとしています。
傷つくのは心のひび割れを突くから
私たちはすべてのネガティブな思考を同じように信じているわけではありません。
私たちが受け取るネガティブなコメントすべてを信じるわけではないのと同様に。
では、なぜある思考は心に残り、別のものはスルーできるのでしょうか?
ちょっと想像してみてください。
たとえば、私が「自分はきれいだ」と思っているとします。
そんなとき、あなたが私に、「あなた、ブスね」と言ったらどうなるでしょう?
私はあなたの言葉を信じません。
そのネガティブな言葉は、私の中に入ってこないんです。
代わりに私はこう考えます。
「なんでそんなこと言うの? 意地悪? それとも嫉妬してるの? あ、そうか。あなた、目が悪いのね。そうに違いない。私はきれいだから。」
次に、まったく同じケースで、今度は私が自分の容姿に自信がないとしましょう。
そんなときに、あなたが「ブサイクね」と言ったら?
私はこう思うかもしれません。
「もしかして本当かも…鼻かな、口かな。確かに自信ないんだよね。」
そうやって、ネガティブな思考が心のひび割れから入り込んできます。
私は自分の美しさを100%信じていなかった。
だからこそ、ネガティブな思いが入り込んだのです。
心理学者として、私は人々に、ネガティブな思考が自分にとって何を意味しているのか気づけるようサポートしています。
そして、内面にあるひび割れを修復する手助けをします。
ネガティブな思考がどうして入り込んでくるのか、それを理解するお手伝いをしているのです。
賢いのにそう思えないアリソン
私はニューヨーク市で心理学者のチームを率いています。
ある日、チームの一人がアリソンという患者のことで私にアドバイスを求めてきました。
アリソンは「自分はバカだ」と思い込んでいるのですが、実際は成績はクラスで1番で、非常に優秀です。
でも、周囲のポジティブな言葉は一切受け入れることができません。
家族は彼女に、「鏡の前に立って、『自分は賢い』と言いなさい」と言いました。
だから彼女は、鏡の前に立って、「私は賢い」と言います。
でも、ネガティブな思考はドアを叩き続けます。
友人たちも言います。
「ねえ、クラスでトップなんだから、そんなバカなこと信じちゃだめよ。無視しなよ」
でも、ネガティブな思考は、ドアを叩き続けるのです。
そして今では、彼女は「自分はバカだ」と思うだけでなく、「私、何かおかしいのかな? 批判されるのかな? やっぱり私はダメなんだ」と思うようになってしまったのです。
アリソンの考える頭の良さ
さて、私たちはこの状況にどう対応すればいいのでしょう?
私自身はどうすればいいのでしょう?
私は、もしかすると、アリソンは自分の知性について、私が知らない何かを知っているのかもしれない。もしかして、内面にひびがあるのかもしれない。それなら、彼女にとって知的であるとはどういうことかを聞いてみようと考えました。
それで私の同僚は、彼女にこの質問をして答えを持ち帰りました。
アリソンにとって、知的であるとは、人の感情を理解したり、表情を読み取ることだったのです。
でも彼女は、こうすることが、すごく苦手だったので、「私はバカだ」と思っていたのです。
それなら、彼女の感じていることには理屈が通っています。
さて、たったひとつの思考から、私たちはアリソンの現在の状態と望んでいる未来が見えてきました。
彼女の今の状態は、勉強ができる(=book smart)ことで、彼女が目指しているのは、感情面で賢くなること(=emotionally smart)です。
人は全否定してしまう
もう1つわかったことがあります。
アリソンは、私は勉強はできるけど、感情面でもっと賢くなりたいと言ってきたわけではありません。
彼女が言ったのは、「私はバカだ」でした。
なぜ、人は自分を全否定するような言い方をするのでしょう?
私の経験では、人は自分に「大きな蹴り(kick in the butt)」を入れることで、前に進もうとするからです。
たとえば、「私がやったことはバカだった」と「私はバカだ」のどちらがより強く自分を動かすでしょうか?
「私はバカだ」のほうが、強烈な自己否定で、自分を無理やり動かそうとする言葉です。
このようにして、私たちはアリソンの現在の状態と、望んでいる未来だけでなく、その間をつなごうとしている方法までも知ることができました。
つまり、自分に強くダメ出しをして動かそうとする道です。
でも、私の経験上、この「蹴り」は、いつか自分を完全に転ばせる蹴りになってしまいます。
蹴りを入れることが前に進む大きな障害になります。
要するに、たったひとつのネガティブな思考が、現在の状態、望んでいる未来、それをつなぐために自分が取っている方法、そしてその途中にある障害までも、すべてを運んできているのです。
思考の解読の実例
これをあなたの人生にどう応用できるでしょうか?
一緒に、あなたの思考を解読(decode)してみましょう。
最初のステップは、その思考が、自分に何を気づかせようとしているのか、自問することです。
私はこれを「内なるコンパスを働かせる」と呼んでいます。
ネガティブな思考はコンパスのように、あなたを正しい方向に導いてくれるからです。
では、日常の場面にあてはめてみましょう。
そのイライラ、本当に汚れたお皿のせい?
すごく仕事がいそがしかったある日、家に帰ってシンクを見ると、汚れたお皿が山積みになっているのですごくイライラします。
この思考を解読するために、内なるコンパスを働かせて、自分に問いかけてください。
「この思考は、何に注意を向けさせようとしているのか?」
あなたはきっと「汚れたお皿です」と答えるでしょう。
でも、もう少し深堀りしてください。
なぜ、汚れたお皿にそんなにイライラするのでしょうか?
あなたはこう言うかもしれません。
「私は毎日ものすごく頑張って働いてるんです。家に帰ってきてさらに働くなんて、もう勘弁してほしいんです」
ここで本質が見えてきました。
問題は汚れたお皿そのものではありません。本当の問題は、あなたが常に働き続けている生活をしていることです。
もし、思考を解読しなければ、あなたはお皿の問題をどうにかしようと工夫を続けるでしょう。
けれど、根本の問題はそこではなく、働きすぎのライフスタイルにあります。
これが、あなたの内側にあるひび割れ(inner crack)で、あなた独自のものです。
人によって本当の原因は違う
あなたの友人が、まったく同じ状況にあったとしましょう。
仕事から疲れて帰ってきて、シンクの汚れたお皿を見て、「もうイライラする!」と全く同じように感じたとします。
その友人の内なるコンパスを働かせて、思考を解読してみると、「家が片付いてていないと、頭がちゃんと働きません。私は、きれいな家じゃないとダメなんです」という声が聞こえてきます。
この友人の問題は、働きすぎの生活ではありません。
問題は、頭をスッキリさせるために、家の中すべてを完璧に整えようとしていることにあるのです。
でもこれは、大きな落とし穴です。
なぜなら、内面をスッキリさせるために、外側(家の中)ばかり整えようとしていても、外側ばかりきれいにすることになり、肝心の内面(心)の整理は、いつまでたってもなされません。
もし思考を解読しなければ、その友人は、お皿の問題をどうにかすることばかりに力を注ぐでしょう。
でも本当の問題は、片付いていない心です。
家に帰って、シンクの汚れたお皿を見てイライラし、皿を洗って解決しようとする。
翌日はカーペットの汚れにイライラして、それを掃除する。
でも実際のところ、問題は皿でもカーペットでもありません。
だから、私はあなたに思考を解読(decode)することをおすすめしたいのです。
まとめ:その思考が運んできたメッセージは?
ネガティブな思考は、敵ではありません。それはメッセンジャーで、大切な情報を運んできています。
ネガティブな思考には、以下のような情報が含まれています:
・あなたの今の状態
・あなたの望んでいる未来
・その未来へ向かうためにあなたが選んでいる道
・未来に向かう途中にある障害
あなたの役目は、自分の思考と感情を解読すること。内なるコンパスを働かせて、こう自分に問いかけてください。
「この思考は、私に何を気づかせようとしているのだろう?」
だから、今度ネガティブな思考があなたのドアをノックしたら、
無視しないでください。
ポジティブな思考に置き換えようとしないでください。
ましてや、そのまま受け入れて飲み込まれないでください。
代わりに解読してください。
ネガティブ思考の対処法を教えてくれるほかのプレゼン
自分の気持ちをそのまま受け入れる勇気のパワーとその素晴らしさ(TED)
いやな気分こそ大事にして、自分の感情とうまくつきあう(TED)
思考を書き出し、メッセージとして受けとめる
ネガティブな考えを敵や嫌なものと捉えるのではなく、大切なことを教えてくれていると考えるやり方を教えてくれるトークを紹介しました。
わたしはもともと、それほどネガティブ思考ではありません。
自分を責めすぎたり、「私なんてダメ」と全否定してしまうこともありません。
ただ、仕事がたまってくると、「まだこれが終わっていない」「あれも手をつけていない」と、つねに頭のどこかで気になって、落ち着かない気持ちになることがあります。
このトークで紹介されていた、内なるコンパスを働かせるという考え方は、そんなときに役に立つと思いました。
コンパスは、本音や願いを指し示すものです。
たとえば、イライラしたら
「このイライラは、何を伝えようとしているのか?」
「なぜ、この状況がこんなにストレスになるのか?」
こう考えると、単にタスクが多いからではなく、「常に100点を出そうとしている自分」や「休息を求めている自分」が見えてきます。
わたしはモーニングページやブレインダンプなどで、頭の中にあることをよく書き出していますが、コンパスを働かせて思考を解読するのは、書くことと相性がいいと思います。
今後は、書き出しながら、「もしかして、これは何かのメッセージ?」と考えることもしたいと思いました。
ネガティブな思考を悪者にせず、丁寧に向き合ってみると、自分が求めている人生を生きることにつながります。