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買う前からある商品を「自分のもの」だと感じ、手放したくなくなり、結果的に購入してしまう現象を説明します。
これを知っておくと、リアル、ネットとも、無駄な買い物を減らせるはずです。
私たちは、自分のものはそうでないものより、その価値を高く見積もります。
この「私のもの」という感覚は、実はまだ所有していなくても生じます。
バーゲンセールの会場で商品の争奪戦が繰り広げられることがありますが、これも、皆が、「これは私のものだ」と思っているからです。
最初に、私たちが、所有している気分になると欲しくなる心理を見ていきましょう。
「自分のもの」だと思うから欲しくなる
私たちは、「すでに持っている」と感じたものを、持っていないものよりも高く評価する傾向があります。これは行動経済学でいう「エンドウメント効果(授かり効果)」です。
物を捨てられないのは恐怖のせい~損失回避と、授かり効果の心理をさぐる
たとえば、マグカップを使った有名な実験があります。
あるグループの参加者にマグカップを配り、それをいくらで売りたいか尋ねたところ、持っていないグループの「買いたい金額」よりもずっと高く「売りたい金額」を提示しました。
ポイントは、配られたマグをたった数分持っていただけなのに、その短い「所有」が価値判断に影響を与えてしまったことです。
まだ所有してなくても所有していると思う
この「持っている感覚」は、実際に所有していなくても起きます。これは、「仮想的所有(virtual ownership)」と呼ばれます。
冒頭で書いた、セール会場で争うのも、実際には所有していないものについて、私たちは、「これは私の!」だと思うからです。
たとえば、受験生は、志望校のパンフレットを読み込んだり、キャンパス見学に行ったりするうちに「ここで学ぶ自分」が当たり前のように感じます。
賃貸や購入する物件を探していて、間取り図を見たり、家具をシミュレーションしたりしていると、「この部屋なら朝はここに光が入って、ここで朝ごはんを食べて…」などと想像しますよね。
この人にとって、すでにここは「自分の部屋」です。
このように、「先取りした所有感」は、日常のあらゆる場面で起きます。
買い物についても同じで、買う前から「これは私のもの」と思うことは非常に多く、そう思ってしまうと、実際にそれを所有するべきだと感じてしまいます。
店舗にある「私のもの」に思わせる仕掛け
私たちが、まだ買っていないのに、何かを「私のもの」だと思い、手に入れようとすることを、売り手側は熟知しており、マーケティングに利用しています。
売り場には「この商品は私のもの」と思わせ、買わせる仕掛けがたくさんあります。
リアル店舗:試着やお試しで所有感を演出
洋服の試着、家具のショールームでの展示、コスメのタッチアップ(美容部員が客の顔にスキンケアやメイクをすること)、車の試乗。これらはすべて、消費者に「使っている自分」を想像させます。
売り場で気に入ったジャケットを羽織って鏡の前に立つと、「これは、私に似合うかな?」と無意識に評価しますよね? この時点ですでに、そのジャケットを「所有している状態」になっています。
ネットショップ:クリックで生まれる所有感
オンラインでは、物理的に試すことはできませんが、別のかたちで所有感が作られています。
たとえば、以下のような機能やデザインです。
・「お気に入り」「ウイッシュリスト」に入れる
・カートに入れる
・AR(拡張現実)で試し置きや試着をする
・「あなたへのおすすめ」に表示される
これらはすべて、客の脳に「これは私が選んだもの」「自分のお気に入り」という印象を与えます。
とくに「お気に入り」に入れる行動は強力です。お気に入りに入れることは、「買うかどうかはまだ決めてないけど、これは私のリストにあるもの」にすることですから。
人によって感じ方は違う
心理的な所有感の感じ方は環境やその人自身によって違います。
買い物好きな人は、 試着しなくても、手に取った瞬間から「これは私のもの」と感じやすいのではないでしょうか?
また、限定品やレア商品が好きな人は、「今買わないと手に入らない」と思った瞬間に、強い所有感が生まれます。
商品のデザインや触れたときの感触によっても、所有感の強さが変わります。
質感の良いものやカスタマイズ可能な商品は、より「自分のもの」と思いやすいでしょう。
心理的な所有は、その人がその商品について考えれば考えるほど、また、出会ってから時間が経つほど強くなるかもしれません。
このように、私たちは実際に買うずっと前から、知らず知らずのうちに商品と関係性を築いています。
つまりもう所有しているので、手放したくありません。
過去記事で何度か説明しているように、私たちはものを失うことが嫌いなので、いったん所有したものを失うことは避けようとします。
その結果、そこまで必要でないのに買ってしまうことが多いのではないでしょうか?
売り場で起きている商品との心理的な結びつきを意識すると、買い物の際にもっと理性的な意思決定ができると思います。
心理的所有のワナにはまらないために
ネットでもリアルでも、私たちは「まだ買っていないのに、持っている気になる」環境に囲まれています。
そうした状況で、無駄な買い物を減らすための対策を3つ提案します。
1. むやみに「お気に入り」に入れない
「あ、これいいな」「あるといいかも」といった軽い理由で、お気に入りにぼんぼん放り込むのはやめましょう。
私は、本当に買うつもりのものだけをお気に入りに入れるべきだと考えています。
以前、ある人のブログで、「楽天お買い物マラソンで、お気に入りに入れていたものを全部買った!」という記述を見たことがあります。
これは、心理的所有のワナにしっかりはまっている例ではないでしょうか?
2.ネットショップではなく別の場所にメモする
買いたいもの候補をどこかに残したいときは、「お気に入り」ではなく、べつの場所にメモしておきましょう。
私のおすすめは、「30日間待つノート」を作ることです。
これは、何かが欲しくなったら、いったん書いておき、30日経ってもまだ欲しければ買う、という役割を果たすノートです。
このノートに書くものですが、「買うもの」「欲しいもの」と呼ぶより、「あとで購入を検討するもの」のように、できるだけ、所有感を感じさせない名称をつけるといいと思います。
スマホのメモアプリのほうがやりやすければ、スマホを使ってもいいですが、スマホにリストを書くと、買い物する場所に飛ぶのが簡単なので、私なら買う場所に行くハードルが高いものにリストを書きます。
3.試すことと買うことを切り離す
商品を試すことは試すこと、それは買い物とはイコールではない、と考えましょう。
タッチアップや試着をしても、必ず買う必要はありません。
店側の戦略に乗らず、「私はただ試しただけ」と割り切ると、心理的な所有感を減らすことができます。
店員さんが親身になって説明してくれたり、いろいろな商品を出してくれたりすると、「買わないと悪いかな」と思うかもしれません。
私自身はそう思うほうです。
「何か買わないと申し訳ない…」という気持ちが生まれるのは、人から何かしてもらったら、お返しをしなければならないという私たちの自然な心理のせいです(返報性の原理)。
優秀なセールスパーソンは、返報性の原理を巧みに使っていることを忘れないようにしましょう。
もし、「買わないと悪い」と思うタイプなら、最初に、「ちょっと見るだけです」(買うと決めたわけではなく、買わないことも十分ありますよ)と伝えておくといいでしょう。
■関連記事もどうぞ⇒買わせるテクニックにひっかからない人になる~認知バイアスを知っておこう。
■おすすめの本
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まだ買っていないのに、「私のものだ」と思うせいで、それを買ってしまうことがあることをお伝えしました。
私たちにはこういう心理があり、店側はそれを利用していることを知っておいてください。意識して対策をすれば、無駄な買い物を減らすことができます。
以前、「どうしても欲しい水着があり、スクリーンショットをとって毎日眺めている」というお便りをいただいたことがあります。
「冷静に買う決断をしたい」という希望があるなら、毎日眺めるより、距離を取って、所有している気持ちから離れたほうがいいと思います。
そのほうが、本当に必要なものや、ずっと大事にできるものを買うことが増えるでしょう。