チーズサンドイッチで決断力は上がらない:脳科学もどきの見分け方(TED)

TEDの動画

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もの忘れが増えてくると、脳にいいと書かれた食品やサプリが、目に入るようになります。

科学的に証明された、という一言が添えてあれば、買ってみたくなりますよね?

ただ、これは売り文句です。

こうした売り文句との付き合い方を教えてくれるTEDトークを紹介します。

タイトルは Beware neuro-bunk(脳科学もどきに用心)。

スピーカーは、人の意思決定を研究している神経科学者の Molly Crockett(モリー・クロケット)さんです。

自分の研究が、「チーズサンドイッチで決断力が上がる」という見出しに化けてしまいました。

脳科学もどきに用心

収録は2012年11月。動画の長さは11分です。日本語の字幕もあります。

■TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

商品のパッケージに書かれた文句を、うのみにしがちな人におすすめです。

チーズを使っていない実験なのに、チーズが見出しになった

モリーは、脳の中の化学物質が、人の選択にどう影響するか調べています。

数年前、同僚と取り組んだのは、セロトニンという物質が、人づきあいの場面での判断をどう変えるか、というテーマでした。

知りたかったのは、不公平な扱いを受けたとき、人がどう反応するかです。

実験では、被験者に、ひどくまずい人工レモン味の飲み物を飲んでもらいました。

この飲み物は、脳の中でセロトニンの材料になるトリプトファンというアミノ酸を一時的に減らします。

トリプトファンが減った人は、不公平な扱いをされたとき、相手にやり返す反応が強く出ました。

実験でわかったのは、ここまでです。

ところが、これを紹介した記事の見出しはこうなりました。

・チーズサンドイッチさえあれば、しっかりした決断ができる。

・チーズと肉を食べれば自制心が高まる。

・チョコレートを食べれば不機嫌が直る。

モリー自身、これを見たときは面食らいました。

チーズもチョコレートも、実験には一度も出てきていません。

共通しているのは、トリプトファンという一点だけです。

このアミノ酸は、チーズやチョコレートにも含まれています。

まずい飲み物の実験が、いつのまにか食べものの話に変わり、見出しができあがりました。

科学がチーズとチョコレートを認めた、と書けば、人の目を引きます。

見出しが出たとたん、宣伝の依頼がきた

困るのは、こういうことが記事の中だけで終わらないことです。

モリーのところに、マーケターから声がかかりました。

気分がよくなるボトル入りの飲料に、科学的なお墨付きをくれないか。

コンフォートフード(心がほっとする食べもの)が気分を上げることを、テレビの生放送で実演してくれないか。

モリーは断りました。

引き受ければ、自分が調べた範囲を超えた話をすることになるからです。

脳の画像を1枚つけるだけで、人は納得する

大げさな売り文句が効いてしまうのは、売り手だけのせいではありません。

読む側にも、信じてしまう理由があります。

ある研究者たちが、数百人に科学記事を読ませる実験をしました。

半分には、脳の画像が1枚入った記事を読んでもらいました。

もう半分が読んだのは、画像のない同じ記事です。

読み終わったあと、書いてある結論に納得できるかどうかをたずねました。

画像が入っていたほうが、賛成する人が多くなりました。

Put a brain on it.

(売りたいなら、脳の絵をつけておけ)

脳の絵を使った商品を、モリーは近所の店で見かけました。

ラベルに脳の絵が描かれ、ストレスを減らす、気分を上げる、集中力を高める、前向きになれる、と書かれた飲料が並んでいました。

裏づけを確かめようと会社のサイトを開きましたが、効果を調べた実験は見つかりませんでした。

実験があろうとなかろうと、うたい文句はラベルのいちばん目立つところに、絵と並んでのっています。

脳スキャンで、気持ちは読み取れない

本物の撮影画像が根拠として使われることもあります。

ニューヨーク・タイムズに載った「あなたはiPhoneを愛している。文字どおりに」という記事は、そのサイトでいちばんシェアされました。

根拠になったのは、こんな実験です。

16人に、脳の血流を調べる大きな装置に入ってもらい、着信中のiPhoneの映像を見せます。

すると、島皮質(とうひしつ)という、脳の奥のほうにある部分が活発になりました。

ここは愛情や思いやりに関わる場所だから、この人たちはiPhoneを愛している、という結論です。

ただ、この部分が受け持っているのは、愛情だけではありません。

記憶、言葉、注意、怒り、嫌悪、痛みにも関わっています。

同じ理屈を使えば、この人たちはiPhoneを憎んでいる、とも言えてしまいます。

ある部分が受け持つ働きの中から、都合のいいものを1つだけ選んで結論にすることはできません。

モリーの同僚が調べたところ、島皮質は、これまでに発表された脳の画像研究の3分の1近くで、活発になったと報告されています。

1回撮っただけでは、心の病気はわからない

大げさな話が笑いごとですまない場合もあります。

アメリカには、数千ドルで脳の血流を撮影し、その画像で診断すると宣伝するクリニックがあります。

アルツハイマー病を防ぐ、体重や依存の問題を解決する、夫婦の不仲を乗り越える、うつや不安やADHDを治す、と並んでいます。

神経科学者のあいだでは、1回撮った画像だけで心の病気を診断することはできない、というのが共通した見方です。

それでも、こうしたクリニックはこれまでに何万人も診てきました。

その中には子どもも大勢います。

しかも、この撮影では、目印になる放射性の薬を注射します。

効果のはっきりしない検査のために、放射線を浴びることになります。

最後にモリーはこう言います。

脳の絵がついたものを売られたら、その言葉をうのみにしない。

証拠を見せてほしい、と言う。

語られていない部分はどこですか、と聞く。

返ってくる答えは、そんなに単純ではありません。

脳そのものが単純ではないからです。

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もの忘れが気になって、B12を摂ることにした

私も、脳にいいという言葉に反応するほうです。ただし、科学的に証明された、と書いてあっても、わりにしつこく調べます。

このごろ、もの忘れがひどくなったような気がします。

まず、漢字がすっかり書けなくなりました。

知っているはずの言葉がさっと思い出せない。

そんなとき、ビタミンB12がいいという記事を読みました。

何かを売るための宣伝ではなく、まじめな読みものです。

こうした記事を読んだあとは、AIに元になった研究を探してもらいます。

どういう人を対象にした研究なのか。

何人ぐらいを対象にして、どのくらいの差が出たのか。

ほかに同じ結果が出た研究はあるのか。

つまり、信用していい話なのかどうか。

AIの答えもそのままは信じず、出てきた研究に自分で目を通します。

調べたうえで、B12を強化したニュートリショナルイースト(酵母を乾燥させた、チーズのような風味の粉)を買って食べることにしました。

毎日、ゆでたブロッコリーにふりかけて食べています。

結局チーズ味の粉を買っているのは偶然でしょうか?

サプリを足すより、暮らし方を変えるほうが効く

こうした商品を調べてみると、たいてい、劇的な効果はないと書かれています。

いきなり脳の働きがよくなるような魔法の食べものなんてないのです。

だから、健康の底上げにはなるよね、ぐらいの気持ちで購入しています。

このごろ、体にいいとうたった商品がめっきり増えました。

年をとることへの不安や、病気を防ぎたい気持ちに、売り手が応えているのだと思います。

ですが、昔から健康に関心のある私に言わせると、何かを買い足すより、毎日の習慣を少し変えるほうが手ごたえがあります。

夜ふかしをやめる。

毎日歩く。

野菜から先に食べる。

どれが効いているのかは、私にもはっきりとは言えません。

ただ、どれもお金がかからず、ものも増えないので、試してみる価値はあります。

****

ひところ、日本では、テレビで体にいいと紹介された食品が、翌日スーパーから消える、ということがたびたび起きていました。

今は、脳にいいだけでなく、腸活になるといった売り文句もよく見ます。

私たちは、はっきりした答えをほしがりますが、モリーが言うとおり、答えは複雑です。

そもそも、人によって体質が違います。

健康にいいという商品を見つけたら、買う前によく調べてください。自分の体や生活に合うかどうか見極めてから、取り入れるのがおすすめです。

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カナダ在住の60代。ミニマリストです。

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