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ストレスを感じながら食事をしていると、栄養が吸収されないと教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、Healthy Digestion – Not What, But How? (健康な消化:何をではなく、どんなふうに)
自然療法医の Courtney Jackson(コートニー・ジャクソン)さんのスピーチです。
食べ方が重要:TEDの説明
All too commonly, we suppress the normal physiology of a healthy digestive tract with our daily habits and medications. In doing so, we lose a precious opportunity to extract the greatest nutrition from our food, and we continue to suffer from common, but not normal, digestive complaints. How do we return to normal digestive physiology, and why is this an important pursuit?
あたりまえのように、私たちは、健康的な消化の生理機能を、日頃の習慣や薬で、抑えてしまいます。
そのため、食べ物から最大限に栄養を引き出す機会を失い、よくある、しかし正常ではない、消化器系の不調に悩まされています。
正常な消化をするためにはどうしたらいいのでしょうか? そして、なぜ、そうすることが重要なのでしょうか?
収録は2016年の10月。動画の長さは15分13秒。英語字幕があります。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
コートニーさんは、とてもゆっくり、おだやかにしゃべっていますが、まさに「休息と消化」の状態ですね。
正常な消化をしていない人が多い
運転中にものを食べたことがある人、手をあげてください。
好きなテレビ番組を一気見(いっきみ、binge watching)しながら食べたことがある人は?
仕事をしながらデスクで食べたことがある人はいますか?
私は、最近、3つともやっています。たくさんの人が、ストレスのある状況でよく食事をしていますね。
さて、次の質問には答えたくなかったら答えなくてもいいですよ。
ガスやげっぷ、胸焼け、便秘に悩んでいる人はいますか?
よくあることです。でも、その理由を考えたことがありますか?
このような消化の問題は、たいてい、ストレスのある状況で食事をすることに関係があります。
よくあることだからといって、正常なことだとは言えません。
では、どうしたら、生理的に正常な消化に戻すことができるのでしょうか? そして、なぜそうすることが重要なのでしょう?
人は食べたものではなく、吸収したものからできている
私たちは、完璧な食事についてよく考えています。
しかし、その答えは、皆知っていますよね。健康的な食事をすること、栄養のあるものを食べること。
その一方で、消化についてどれぐらい考えているでしょうか。
体が勝手にやってくれるから、心配しなくてもOKですか?
消化とは、食べ物を分解して栄養を吸収することです。
よく「人は食べたものでできている」と言いますが、これはちょっと違います。
人は、消化吸収したものでできているのです。
最適な消化ができなかったら、ヘルシーな食事をしても意味がありません。
消化の出発点はどこ?
消化はどこから始まるのでしょう? 口? それとも胃ですか?
目をとじて、深呼吸をし、まな板の上にみずみずしいレモンがのっているところを想像してください。
包丁を手にとり、レモンを半分に切ります。
半分になったレモンを手にとり、グラスにレモン汁をしぼり、少し飲みます。
目を開けてください。
多くの人が、レモン汁のことを考えるだけで、唾液が出たり、唇をすぼめたりします。
さて、消化はどこで始まるのでしょう?
脳で始まります。
まず唾液や胃酸が出る
とても栄養のあるサーモンサラダを用意したとしましょう。
健康的な脂肪、タンパク質、食物繊維、ビタミン、ミネラルがたっぷり入っています。
こうした栄養素をよりたくさん吸収するためには、正常な消化をしなければなりません。
ごちそうのことを考えるだけで、唾液や胃酸が出ます。
一口食べるころには、唾液の中の酵素で、サーモンの脂肪やサラダにある炭水化物を分解する準備が整います。
一口ずつ注意深くかむと、あとになって、こうした栄養をより吸収できます。
飲み込んで胃に到達すると、胃酸がすばらしい働きをします。
胃酸には、ほかにもいろいろな働きがあります。食べ物に含まれている細菌やウイルスの侵入を防ぐし、タンパク質の分解や、ミネラルの吸収にも欠かせません。
サーモンサラダの栄養
サケに含まれているような消化のよいタンパク質は、血糖値のバランスを整え、気分を高揚させ、エネルギーをもたらしてくれる神経伝達物質やホルモンを作りだすのに必要です。
サラダの葉野菜にあるようなミネラルも必要ですね。鉄は、貧血を防ぎ、マグネシウムはストレスの対処を助け、カルシウムは丈夫な骨を作ります。
さらに、サーモンはビタミンB12も豊富です。ビタミンB12は、胃酸に助けられ、その後、小腸で吸収されます。
ビタミン12はとても重要な栄養素で、神経機能をサポートし、記憶と気分の両方を守ります。
大部分の栄養は小腸で吸収される
部分的に消化された食べ物は、胃から小腸に移動します。ここで、栄養の95%以上が吸収されます。
しかし、膵臓(すいぞう)と胆嚢(たんのう)の働きがなければ吸収は起こりません。
膵臓から分泌される多目的な酵素が、タンパク質、炭水化物、脂肪をさらに分解します。
胆嚢は胆汁を分泌します。胃酸と同じように、胆汁はあまり評価されていませんが。
胆汁は、サーモンやサラダドレッシングなどにある健康的は脂肪を引き出し、吸収する助けをします。
脳の60%以上が脂肪です。
思考し、血糖値のバランスをとり、脂肪にとけるビタミン、たとえばビタミンAやビタミンKを吸収するためには、食事から脂肪を取らなければなりません。
これらのビタミンは、免疫系を強化し、骨を守ります。
大腸で活躍する食物繊維
サラダから取れる食物繊維は、大腸で、体のためにいい腸内細菌の食べ物になります。
腸内細菌は、代謝を促進し、ホルモンのバランスを整え、ビタミンを合成するなど、数々の働きをします。
たとえば、骨を丈夫にするビタミンKや、髪や爪のもとになるビオチンに必要なビタミンの合成で活躍します。
食物繊維は、単に便秘を防ぐだけではありません。体にいい、健康を促進するバクテリアには、たくさんの食物繊維が必要です。
水分と食物繊維が十分にあれば、リズミカルな消化の収縮が、排泄をもたらし、ここで消化の旅が終わります。
それとも?
このスピーチの始めに、せっかく、健康的な食べ物に投資をするなら、栄養素を吸収する機会を増やすべきだという話をしましたが、重要なことをまだお話ししていませんでした。
神経が消化を制御する
消化システムのすべてが、神経系で制御されています。
ストレスを感じながら食事をすると、この神経系に大きな影響が及びます。
落ち着いている時に食事をすると、どんなことが起きるでしょうか?
これを、「休息と消化(rest-and-digest)」の状態と呼びましょう。
実は、このとき、生理的に正常な消化が行われます。
唾液、胃酸、胆汁、膵臓の酵素などが分泌され、腸がリズミカルに収縮して、やさしく食べ物を送ります。
私たちは、食べて、消化して、吸収し、排泄します。
このプロセスで、もっともたくさんの栄養素が吸収されます。
ストレスがあるとうまく消化されない
では、ストレスを感じていると、消化はどうなるでしょうか?
これを、「戦うか逃げるか(fight-or-flight)」の状態と呼びましょう。
この状態では、消化システムすべてが抑制され、栄養素の吸収が損なわれ、よくある消化器系の問題の原因につながります。
ストレスのある状態で食事をしていると、目の前の食事のことすらあまり考えません。もちろん、しっかりかむこともしません。
あまり咀嚼されていない食べ物が、タンパク質を分解したり、ミネラルを引き出すための胃酸の準備が整っていない胃に送られます。
そのため、胃の中で、不快な満腹感を感じます。
胸焼けが起こる理由
胃の入り口には、酸が上に行かないようにするゲートがあり、胸焼けを防いでいます。
ところが、私たちの大好きな、コーヒーやチョコレート、アルコールが、このゲートの機能を低下させます。
太り過ぎも、このゲートの負担になるし、「戦うか逃げるか」という状態が、胸焼けの症状を悪化させます。
酸をブロックする薬を使わなければならない深刻な病気もありますが、このような薬を、長期間、無差別に使うのは栄養学的に危険です。
カルシウムやビタミン不足になったり、タンパク質の分解がうまくいかなかったりします。
小腸では、ストレスが膵臓や胆嚢の消化機能を阻害します。
ストレスが便秘につながる
そして、日和見菌が、消化が十分でない食物を、分解・発酵し自身のエネルギーとし、副産物としてガスが出ます。これが、食後の膨張感を引き起こします。
胆嚢から胆汁が分泌されないと、消化器官に大きな負担がかかり、下痢になったりして、脂溶性ビタミンの吸収が減ります。
ストレスは、大腸の正常な収縮をさまたげ、これに水分不足と食物繊維の少ない食事が合わさって便秘となります。
しっかり栄養を吸収するコツ
食事の前に、「休息と消化」の神経系を刺激する方法を3つお教えしますね。とても簡単ですが、効果がありますよ。
1つめは、食事の前に、何回か深呼吸をします。「休息と消化」の状態にするのに、とても効果的です。
ゆっくり、深い腹式呼吸をすると、消化にかかわる神経を活性化できます。
深呼吸はお手軽な方法ではなく、解剖学と生理学に基づいた理にかなったやり方です。
2つめは、食べ物が液体になるまでかむことです。しっかりかんで、それから飲み込みます。かむと、唾液を出て、食べ物が飲み込みやすくするだけでなく、五感が、目の前に食事に向かいます。
3つ目は、食事の前に、感謝の言葉を言うことです。
我が家の夕食のテーブルでは、仕事から戻った夫や私が、手早く健康的な食事を作り、幼い2人の子どもをつかまえ、食事の席に座らせるものの、1人が食べ物を投げ、もう1人が逃げ出すなんて、せわしないことが起きます。
でも、私たちは、手を取り合って、感謝の言葉を口にします。すると、静かになり、これからするタスク、つまり、よい食べ物から栄養をとることに集中できるのです。
生理的に正常な消化をすることを学び直せば、消化を邪魔するのではなく、促進できます。
食事のときの心の持ち方が、消化に、そして栄養の吸収にも影響があり、最終的には、私たちがどんな人になるか、ということにも影響を及ぼすのです。
健康でいるためには、何を食べるかだけでなく、どう食べるかにも、注意を払わなければなりません。
//// 抄訳ここまで ////
単語の説明など
fathead ま ぬけ、うすのろ という意味ですが、ここでは、文字通り、脳は脂肪がたくさんあるということ。
biotin ビオチン、ビタミンH(ビタミンB複合体の1つ)
「戦うか、逃げるか反応」については、何度も書いていますが、初めて聞く人は、この動画を見てください⇒いかに子供のころのトラウマが生涯の健康に影響を与えるか(TED)
コートニー・ジャクソンさんの共著です。
食事に関するほかのプレゼン
なぜ私たちは健康によくない食べ物を食べるのをやめることができないのか?(TED)
肉はやめて野菜を食べろ。マーク・ビットマン「我々の食料に関する課題」(TED)
子供たちに食育をして肥満と戦おう~ジェイミー・オリヴァーに学ぶ(TED)
おだやかな気分で食事をしよう
このプレゼンを要約すると、
ストレスのある状態で食事をすると、正常な消化ができず、しっかり栄養が吸収されないし、消化のトラブルが起きます。「休息と消化」モードのときに、食事をしましょう。そのために、食事の前に深呼吸をし、感謝の言葉を述べ、食事中にはよくかむといいですよ
こうなります。
大急ぎで食べ物を口に放り込んだり、不愉快な気分で食事をしたり、「ああ、こんなの食べちゃだめなんだけど」とネガティブな気持ちになりながら食事をすると、正常に消化されないので、せっかくヘルシーなものを食卓に並べても、その多くが無駄になるわけです。
ストレス解消のために何かを食べるのもよくありません。
給食なんかで、子供に嫌いなものを無理やり食べさせるのは最悪ですね。
正常な消化をうながすために役立つのがマインドフルイーティングですが⇒意識的に食事するマインドフルイーティングの始め方:脂肪の断捨離(5)
意識的に食事をするために、食べ物を大事にするといいと思います。
昔は、食べ物があまりなかったから、ふだんはとても質素な食事。甘いものもめったに口に入りませんでした。
たまに食べるごちそうは、皆で集まって、感謝しながら、喜びながら食べていたはずです。
ところが今は、食べものはどこにでもあるから、ついつい雑に扱ってしまいます。
食べ物を買いすぎて、料理を作りすぎて、たくさん無駄にするのも、食べ物を大事にしていないから起こることです。
物を買いすぎて、ほとんど使わず、部屋にためこんで、あとでまとめて断捨離して大量のゴミを作るのと全く同じです。
たとえ、ちまたに食品があふれていても、自分の家に持ち込む分は厳選し、いったん家に入れたものは大切に食べれば、消化のトラブルが減るし、栄養もしっかり吸収できるのです。
私も、雑に食べることがままあるので、深呼吸、感謝すること、かむことを、心がけていきます。