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人からどう見られているか、その点を重要視しすぎている人や、もっとクリエイティブになりたい人におすすめのTEDトークを紹介します。
タイトルは、How craving attention makes you less creative(注目を切望すると、よりクリエイティブでなくなる)。プレゼンターは俳優の、ジョセフ・ゴードン=レヴィット(Joseph Gordon-Levitt)さんです。
邦題は、『注目されたいという欲求は創造性を削ぐ』。
ソーシャルメディアで、いくら注目されても、幸せにはつながらないし、むしろ創造性を発揮することができなくなる。注目されることより、自分がやることに注意を向けるほうが、充実感を得られる、という内容です。
注目されたい欲求は創造性を削ぐ、TEDの説明
Joseph Gordon-Levitt has gotten more than his fair share of attention from his acting career.
But as social media exploded over the past decade, he got addicted like the rest of us — trying to gain followers and likes only to be left feeling inadequate and less creative.
In a refreshingly honest talk, he explores how the attention-driven model of big tech companies impacts our creativity — and shares a more powerful feeling than getting attention: paying attention.
ジョセフ・ゴードン=レヴィットは、俳優という仕事をとおして、人並み以上に注目されてきました。
しかし、ソーシャルメディアが、この10年、盛んになり、彼も、私たちと同じように、中毒になりました。たくさんのフォロワーや、「いいね」を得ようとした結果、自分は不十分だと感じ、創造性が損なわれてしまったのです。
すがすがしいほど正直なトークで、彼は巨大なテック企業の開発した人々の注目を引くモデルが、私たちの創造性に影響を与えていることや、注意を引くことより、注意をむけることで得られる、強力な感覚についてシェアします。
収録は2019年の4月、プレゼンの長さは13分15秒。日本語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプトはこちら⇒Joseph Gordon-Levitt: How craving attention makes you less creative | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
注目されるのは気持ちがいいことだが
こんなふうに、部屋中の人から注目をあびるのはいい気分です。注目をあびるのは強力な感覚(powerful feeling)ですね。
私は役者ですから、人の注目を受ける気分はよく知っています。おかげさまで、人並み以上に注目されてきました。
そのことについては感謝しています。
注意を向けることからもパワフルな感情を得られる
しかし、役者の仕事を通じて、注意を向けることからも、パワフルな気持ちを得ています。
演じているときは、1つのことだけに注意を向けています。
撮影現場では、アシスタンディレクターが、「ローリング、スピード、マーカー、セット」と言い、次に、監督の「アクション!」という言葉で演技を始めます。
このとき、自分の注意が一箇所に集中します。
ほかのことはいっさい考えず、ただ、そこにいます。
私は、この感覚が大好きで、それこそが創造性だと考えています。
役者冥利につきる瞬間です。
ですから、パワフルな感情は2つあります。
注目を集めることと、注意を向けることです。
創造性が注目を集める手段になった
過去10年のあいだに、新しい技術のおかげで、たくさんの人が、注目を集め、パワフルな気持ちを得られるようになりました。
演技だけでなく、文章、写真、絵、音楽などを使って。
誰でも、表現したものを伝える経路を持てるようになったのはよいことです。
しかし、私を含めて、クリエイティブでいたいと思う人にとっては、思わぬ影響があったとも考えています。
創造性が、注目を集めるための手段になっていると感じます。
私の経験では、より注意を向けようとするほうが、幸せだし、人の注意を引こうとすればするほど、不幸になります。
人の気を引こうとした体験
自分が俳優だということを利用して、人の注意を引こうとした最初の体験は、8歳のサマーキャンプにさかのぼります。
すでに、オーディションを受けて1年ほどたっていて、テレビ番組やコマーシャルで、小さな役をもらっていました。サマーキャンプでそのことを自慢したのです。
最初は、ほかの子供たちに注目されました。でも、やりすぎたのか、そのうち、からかわれるようになりました。
ロッキーという女の子を好きだったのですが、この子の気を引きたくて、自慢していると、「目立ちたがり屋」と言われてしまいました。
まったくもってそのとおりなのですが、私はとても傷つきました。
それ以来、役者だと言って注目を集めるのをためらうようになりました。「演技は芸術であり、注目されるためにやるんじゃない」と言ったりして。
そこにTwitterが登場しました。
Twitterにはまった私
私はTwitterにすっかりはまり、偽善者になりました。
役者であることを利用して、注目を集めていたのですからね。
たくさんフォロワーがいるのは、ぼくが素晴らしいツイートをするからではありません。そう思ってみたこともありましたが。
そのうち、Twitterの利用が、私の大好きな創作プロセスに影響を与えるようになりました。そうならないように努力していますが、いまもそういう面はあります。
台本を読んでいるとき、「どうやってこの役になりきろう?、観客はこのストーリーのどこに共鳴してくれるだろうか?」と考えるかわりに、
「人々はこの映画のことをツイターでどう言うだろう? それに対して、どう返信しよう。気が効いて、辛口のツイートのほうが、たくさんリツイートされるよね、でも、あまり辛らつなのはまずいね、だってみんなすぐに気分を害するし、仕事をキャンセルされたくないしね」
こんなふうに考えてしまいます。
スクリプトを読むべきとき、そして、アーチストになるべきときに。
技術が創造性の敵だとは言っていません。技術はよいツールで、人々の創造性をこれまでにないほど高める可能性があります。
私は、HITRECORDというオンラインコミュニティを作って、世界中の人々がクリエイティブな企画に協力できるようにしています。
だから、ソーシャルメディアやスマホ、その他のテクノロジーに問題があるとは考えていません。
注目を売るビジネスモデル
ですが、創造性が注目を集めるための手段になる問題について語るには、今日の、巨大なソーシャルメディア企業の、注目を引きつけること主導のビジネスモデル(attention-driven business model)にふれる必要があります。
たとえば、インスタグラムはどうやって利益をあげているのでしょうか?
写真共有サービスは無料です。ではいったい何を売っているのか?
「注目(attention)」を売っているのです。
ユーザーの「注目」を広告主に売っています。
人々がインスタにたくさんの時間を費やしていることが、よく議論になりますが、私はこんな疑問を持っています。
いったいどうやってインスタグラムはこんなに注目を集めているのか?
実は、私たちがインスタのために、注目や関心を集めているのです。
誰かがインスタグラムに投稿すると、フォロワーから一定の注目が集まります。利用者が、より多くの注目を集めれば集めるほど、インスタグラムはその注目を売ることができます。
だから、インスタグラムは、ユーザーに、できるだけ多くの注目を集めさせようとします。
ユーザーに注目を切望させ、注目されないと、ストレスを感じるように働きかけるのです。ユーザーが、注目をあびて得られるパワフルな感覚に中毒になるよう仕向けています。
注目をあびることに対する中毒状態
「やれやれ、僕はスマホ中毒だ」とよく冗談でいいますが、これは、本当の中毒です。
科学的な裏付けもあります。興味があるならジャロン・ラニアーや、トリスタン・ハリス、ニール・イヤールの本を読んでみてください。
注目をあびることに対する中毒は、本当にあり、決して満たされることはありません。
はじめは、「1000人フォロワーがいたらいいな」と思いますが、そのうちに、1万人、10万人、100万人と欲張るようになります。
私は、Twitterで420万人にフォローされていますが、いい気分にはなれません。インスタグラムにいたっては、フォロワーが少なすぎて、数を言う気にもなれません。
検索して、ほかの役者のフォロワー数が自分より多いのを見つけると、自信を失います。
なぜなら、フォロワー数とは、誰もが「自分はだめだ」と思わせるものだからです。
この「自分は充分ではない」という気持ちが、もっと投稿して、もっと注目を引こうという気にさせます。
そうやって集めた注目を、企業は売って、お金を稼いでいるのです。
注目を集めても幸せにはなれない
どれだけ注目を集めても、「これでよし。自分はこれでいい」とは思えません。
私より有名でフォロワー数の多い役者はたくさんいますが、同じことを言うと思います。
もし、注目を集めるというゴールのために、創造性を使うと、その創造性が満たされることはありません。
ですが、パワフルな感情はもうひとつあります。巨大テック企業に自分の注目をコントロールされ、売られる以外に、注目の使いみちはあるのです。
フローが人を幸せにする
もうひとつの使いみち、それは、最初に話した、私が演技を好きな理由、すなわち、たった1つのことに注意を向けることです。
これにも科学的裏付けがあります。
心理学者や神経科学者は「フロー」という現象を研究しています。人がたった1つのことに集中しているときに、脳内で起きることです。
たとえば、何かクリエイティブなことに集中していて、ほかのことに気を散らされない状態です。
フローを感じる機会が多ければ多いほど、幸せになるという人もいます。
これは本当だと思います。
協力し合うと集中しやすい
フローに入るのは簡単ではありません。しっかり意識を向けるには忍耐がいるし、やり方も人それぞれです。
ただ、本当に集中するために効果的なことが1つあります。
それは、ほかのクリエイティブな人たちを競争相手だと思わないことです。
私は協力者(collaborators)を探すようにしています。
撮影中、他の役者を競争相手だと思っていたら、「彼らのほうが、もっと注目を集めるだろう。人々は自分の演技より、彼らの演技について話題にするだろう」と考えてしまい、演技にフォーカスできません。
さえない演技をしてしまうでしょう。
ほかの役者を協力者と考えれば、フォーカスするのは簡単です。ただ、彼らに意識を向ければいいのですから。
自分がやることを考える必要はなく、共演者の演技に反応し、彼らはその演技に反応し、その場に一緒にいればいいのです。
このような協力体制をとれるのは、役者だけではありません。
仕事、趣味など、どんなクリエイティブな場面でもできることです。
その場にいない人とも協力できますね。私の好きな作品のなかには、会ったことがない人と作ったものもあります。これはインターネットのすごいところです。
協力して、作り出すものに注意を向ける
注目を奪いあう競争をやめれば、インターネットは、協力者を見つける最適な場所になります。
他の人と協力すれば、それが撮影現場であろうと、インターネットであろうと、フローに入るのはずっとたやすくなります。
自分たちが作ろうとしているものに、みな、意識を向けているのですから。
そんなとき、私は、自分よりもっと大きなものの一部になったような気がします。注意を奪おうとするものから、お互いにお互いを守り合っているような気分です。私たちは、ただそこにいるだけです。
いつも、そう、うまくはいきませんが。
時には、もっと注目を集めたいという中毒状態のサイクルに入ってしまうこともあります。
いまも、「ねえ、みんな僕を見て! TEDトークしているよ!」と思っている自分がいないとは言い切れません。
しかし、このトークの内容を書き、そして話すというクリエイティブな行動をしたことは、自分が本当に大事だと思っていることにしっかり注意を向けるすばらしい機会となりました。
その結果、注目されようが、されまいが私はとても幸せです。
こんな機会を与えてくださったことに、感謝します。
//// 抄訳ここまで ////
単語の説明と補足情報
fair share (人と同じ)公正な取り分、分け前
show-off 見せびらかす人、目立ちがり屋、自慢ばかりする人
snarky (人、言葉などが)辛らつな、批判的な、いらいらした
参考図書・動画:
ジャロン・ラニアーの本
ニール・イヤールの本
トリスタン・ハリスのプレゼン⇒スマホを使っても気が散らない技術を生み出そう(TED)
ニール・イヤールのプレゼン⇒スマホやYouTubeがクセになってしまう行動様式を知り、悪習慣を改める(TED)
関連するTEDトーク
■ソーシャルメディアやスマホについて
ソーシャルメディアはやめなさい:カル・ニューポート(TED)
なぜデジタル機器の画面を見て過ごしていると幸せから遠のくのか?(TED)
■クリエイティビティについて
物が少ないメリット:足りないからこそクリエイティブになれる(TED)
誰にでも創造性はある。自分はクリエイティブだと自信を持つ方法(TED)
人の関心を引くことをやめてみる
片付けをしても、心が満たされないとか、ひととおり断捨離が終わったけど、もっといい物は欲しくなる、といった相談をもらうことがあります。
たとえば、
こう感じてしまう理由はいろいろあると思いますが、今回は、人の関心を集めることにやっきにならないことをおすすめします。
人の関心をひくこと、人に承認されること、人に、いいね、すごいね、すばらしいね、きれいだね、うらやましい、と言ってもらうことを求めすぎていると、どれだけ物を捨てても、部屋をきれいにしても満たされません。
プレゼンで語られているように、人の承認を集めることにはきりがありません。
自分が自分を認めない限り、終わりはないのです。
SNSというツールは、人の承認を求めたい人にとっては便利なものですが、諸刃の剣(もろはのつるぎ)です。
「いいね」と言ってもらえる一方で、常に、自分と他人を比べて、足りないものを見つけてしまいます。
どれだけフォロー数や「いいね」を集めても、いつも何かが足りないのです。
もし、あなたがそんな状況にいるのなら、ジョセフのいうように、何か自分の好きなこと、やりたいと思うこと、やるべきだと思うことに、注意を向けて、集中してはどうでしょうか?
人から関心をもらおうとするのではなく、自分の注意や関心を何かに注ぎ込み、作品や成果を作り上げるのです。
そうすれば、もっと充実感を得られます。
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性に合わないので、私はSNSはほとんど利用していません。
昔は、「つながるツール」だったSNSも、いまは、人々のアテンション(関心、興味)を、金銭的なものにして転売しているプラットフォームという面もありますね。
SNSで、つながることを重要視して、そういう結果を得られているのならいいのです
ですが、なんとなく他人と競争してネガティブになっていたり、さびしさを感じていたり、不満やぐちを書き連ねる場所になっていたりするなら、利用の仕方を変えるときが来ています。