もう充分だと思っている人。

TEDの動画

最終更新日: 2021.03.19

どれだけあれば充分か?(TED)

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足りないものではなく、すでにあるものに目を向けるきっかけになる、TEDのプレゼンを紹介します。

タイトルは、How much is enough? (どれだけあれば充分か?)。プレゼンターは、建築家で不動産開発業者の、ケヴィン・キャブノー(Kevin Cavenaughl)さんです。

キャブノーさんは、「充分(enough)」ということを考えつづけて、彼なりに、「どれだけあれば充分なのか?」という質問に答えています。



どれだけあれば充分か? TEDの説明

How much is enough? Kevin asks this profound question of our audience. By focusing on three topic areas of wealth, rent & equality – he challenges us on how we will choose to change our lives as he bridges the concepts of capitalism and socialism. What will you do with the power of enough?

どれだけあれば充分なのか? ケヴィンはこの深遠な質問を聴衆に問いかけます。

富、家賃、平等という3つのトピックについて、資本主義と社会主義のコンセプトを紹介しながら、生活を変えていくためには、どんな選択をすべきか、彼は私たちに問いかけます。

もう充分あると考えるパワーを使って、あなたは何をしますか?

TEDxPortlandでの講演で、収録は2018年の4月です。動画の長さは16分。字幕はありません。

プレゼンのあとに抄訳を書きます。彼は冗談をたくさん言っていますが、そこは訳しません。

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

ユーモアがあり軽口をたたいているようで、実際は雄弁なトークです。





「充分な家」への引っ越し

8年前、この家に住んでいました[スライドにきれいな家の写真が映し出される]。ある火曜日、仕事から戻って、妻と3人の子供に、「みんな、車に乗って、遠足に行くよ」と声をかけました。

20ブロック運転して、この駐車場に車を止めました。「ほらみんな、車を降りて、そこに建物がある。鍵は空いているから入ってて、中で会おう」。

「サプライズ! きょうからここに住むんだよ」[コンクリートのガレージみたいな場所の写真]。

当時、不況で、私はすべてをなくしました。家を含めて、何もかも売らなければならなかったのです。このボロい建物が私たちの持っているすべてでした。

「ここに住まなきゃならないんだ。すごいアドベンチャーになるよ」。

冒険ときいて子どもたちは喜びましたが、妻の反応は違いました。

でも、問題はなかったのです。壁が4つに屋根があり、暖房、電気、水道がありました。充分だったのです。

夢の家ではなかったし、それまで住んでいたような家でもありませんでしたが、「充分な家」でした。この時以来、私はずっと、「充分(enough)」という言葉について考え続けています。

欲張ることより充分が好き

1958年、ミルトン・フリードマンという経済学者がアメリカに登場し、後にノーベル経済学賞を受賞しました。彼は、近代アメリカ資本主義の父で、貪欲はよいことだ、と言いました。

彼の言葉を紹介しましょう。

The social responsibility of business is to increase its profits.(企業の社会的責任は利益を増やすことだ)。

財政上の責任ではなく、社会的な責任です。過去60年、若者たちは、ミルトンの教えにしたがってきました。貪欲なのはいいことだと学んだのです。

私は greed (貪欲、欲張り)という言葉はあまり好きではありません。私の好きな言葉は、enough (充分)です。

別の名言も見つけました。インドネシアの詩人、トバ・ベータの言葉です。

Greed is a little bit more than enough. 欲張りは、充分よりちょっぴり多いこと。

ミルトン・フリードマンではなく、トバ・ベータが、ノーベル経済学賞を受賞していたらどんな世界になっていたのか、考えてしまうのです。

過去60年、みんながもう少し、「充分だ」と言っていたら、どんなことが起きていたでしょうか? たとえば、富はどれだけあれば充分なのでしょうか?

充分な富とは?

私たちはアメリカン・ドリームを作り出しました。今日、金持ちに生まれたら、バカでも、金持ちとして生涯を終えるでしょう。貧しい家に生まれたら、天才であっても、貧しいまま亡くなるでしょう。

1958年、ミルトン・フリードマンが登場したとき、平均的なCEOは、平均的な従業員の給料の8倍、稼いでいました。

次のスライドに、現在の数字が出ますが、想像つきますか? うんざりするような数字です。

[475、とスライドに出る]

これは税制改革の前の数字ですが、恥ずかしい数字です。私は、この数字に納得いきません。

この数字の正当性を弁護する人は、「CEOは、へどが出るような額のサラリーをもらってもいいんだよ。だって、彼らは、へどが出るような収益を会社にもたらしているんだから」と言うでしょう。

ですが、そうなんでしょうか? このスライドを見てください。

世界で尊敬を集めている国は、みな、1958年のアメリカの状態に近いのはなぜなんでしょう? カナダは20倍、英国は22倍、ドイツは12倍。

アメリカと似たような数字の国はありません。あ、実際はありますかね。475倍の国が。そんな国と肩を並べたくはありませんが。

[ビルの写真]

さて、これが私の仕事です。私は土地開発業者ですが、建築を勉強し、いろいろな建物を建てています。私は従業員が5人の会社を経営しています。

私もCEOで、給料をもらっています。自分の建てたビルのほんの一部分を所有しています。

私の友人が、「アメリカでは給料だけで金持ちになる人はいない」と言いました。友人に、15年から20年後に、その給料からどのぐらいお金ができるか聞かれて計算したら、475ドルでした。

この数字にうんざりしたので、従業員には、会社で建てた建物のほんの一部をあげることにしました。

私の会社で1年働いたら、建物の0.27%、所有できます。人生を変えるような数字ではありませんが、もし、10年勤め続けたら、50万ドルよりちょっと多い数字(600,000ドル, きょうのレードで6480万円)になります。

これは会社で作った18のビルのうちの1つの話で、ずっと働き続けたら、この18倍のお金を作ることができます。

この手配をしたことに、私は満足していますが、友達が、もう1回数字を出してみろと言いました。

「私は社会主義者だから、これでいいんだよ」と答えましたが、計算したら、私は、従業員の12倍稼いでいました。

現代の社会主義者は、1958年の資本主義者より、50%、欲張り、といえます。

充分な家賃とは?

オレゴン州、ポートランドでは、住宅難の問題があります。これは、国全体、世界全体の問題です。

ここ数年、ポートランドでの家賃は、昇給の20倍の速さであがっています。

とても追いつけない数字です。だからホームレスが4000人いて、そのうちの数百人は、事態を冷静にとらえ、仕事もしています。しかし、それでも、車の中で寝なければならないのです。

この問題を解決したくて、ビルを建てることにしました。土地を買い、先月、現代版SROの事業を開始しました。

Single residence occupancy (一人部屋方式、トイレやキッチンは共有)です。最低限のものしかない部屋です。

部屋にはベッドと、手を洗う場所があるだけ。廊下をつきあたって左にトイレ、右にシャワー。階下に共同の台所。修道院みたいな住宅ですが、公園にテントを張って寝るよりずっとましです。

建物はこんなかんじで年内に完成する予定です。入居するのは道で物を売っている人たちです。

ふだんビルを建てるときは、投資家たちと、家賃の分を入れて、利益がどのぐらいになるか計算します。

しかしこの建物については、どのぐらいの利益が出れば採算がとれるのか計算しました。すると、月の家賃は290ドル(3万円ちょっと)でいいのです。

このプロジェクトに、政府からの資金援助はいっさいありません。ふつうの市民が集まって、「充分」という考えを取り入れて計画したのです。

充分な平等とは?

アメリカでは、性別によって給与に差があります。男性が1ドルなら、女性は80セントの給料です。

このギャップの理由に答えられる人はいますか? 

全員の給料を同じにした

これは私の会社です[従業員の顔写真がピラミッドのように3段に並んでいる]。1年前はこうでした。私がトップで、中間があり、その下があります。

性別で給料に差があるのが気になっていたので、今年の1月1日からこういうふうにしました[6人が横並びの写真]。

私はいまでも、給料を払う側ですが、額は全員同じです。この方法がうまくいくかどうかはわかりません。問題が出たら修正していきます。

しかし、いま、3つのことがいえます。

1)これができる会社は、もっとも才能のある人材にアクセスできる

2)我が社には性別による給料の差はいっさいない

3)間違った答えは1つしかない。それは何もやらないことである

皆さんにも上司に話してほしいのです。あなたが上司かもしれませんが。

月曜に上司に性別による給料の差をちぢめることができないか聞いてください。

あなたの上司は、「投資家や出資者のために、会社の利益を増やすのは信用状の責任だ」とかなんとか言うでしょう。上司は正しくもあり、間違ってもいます。

このような言葉は正当ではあります。しかし、この言い分の背後にある考え方や、給料や賃金差の扱い方は間違っています。

あなたはこう反論できます。「従業員の待遇がよい会社は、長い目でみれば、株価があがります。従業員の半分だけ、男性の従業員だけの待遇がいい会社ではこうなりません」。

私が自分の会社の給料体系を変えたことで生じたコストは、優秀な人材を得られる長期的な利益に比べたら何でもありません。

月曜日、あなたの上司がノーと言ったら、それは1セントを拾うために、1ドルを見逃す行為です。

ヨハン・ラングレンの話

上司にヨハン・ラングレン(Johan Lundgren)の話をしてもいいでしょう。彼はイージージェット(イギリスの格安航空会社)のCEOです。

自分の前任の女性の給料が、自分の給料より、5%少なかったことを知ったとき、彼は、自分で、自分の給料を減らしました。

アメリカでは皆、彼のことを変わり者と呼ぶでしょう。アイスランドで、彼がどう呼ばれているか知っていますか?

ヨハン・ラングレンです。

アイスランドでは、こういうことは珍しくないからです。彼のような人がたくさんいます。

アイスランドは、世界でもっとも性別による賃金差が少ない国です。

ジュリア・ワイズとジェフ・コフマン

ジュリア・ワイズとジェフ・コフマンの話をしてもいいでしょう。マサチューセッツ州に住むカップルです。

彼らは、年収100万ドル(1億800万円)の人は、年収7万ドル(756万円)の人に比べて幸せなわけではないことを発見しました。

7万ドルというラインは国や地域によって違うでしょう。

このカップルは、毎年、7万ドルを超える収入は寄付しています。「充分ある」の王さまと女王さまのような人たちです。

スミス牧師

ポートランドの牧師、メアリー・オーバーストリート・スミスの話をしてもいいでしょう。

スミス牧師は、2005年、テレビで、ハリケーン・カトリナが、ニュー・オーリンズを襲ったのを見て、政府からのサポートが充分ないと感じました。

そこで、自分の別荘を売ってお金をつくり、友達といっしょに、15人乗りのヴァンを何台か連ねて、ニュー・オーリンズに行きました。

もっとも被害がひどかった場所に車を止め、牧師は、「オレゴン州、ポートランドで人生をやり直ししたい人はいますか」と聞きました。

40家族が、このオファーを受けました。

みなが、もっと「充分」について考えたらどうなるか?

8年前、私は、「充分な家」に住むことになり、それ以後、「充分」ということについて、ずっと考えています。ミルトン・フリードマンではなく、トバ・ベータがノーベル経済学賞をとったあとの世界について考え続けています。

もし、みながもう少し「充分だ」という言葉を使うようになったら、どんな世界になるか?

私がとりあげたトピックは、富、平等、家賃ですが、ほかにもさまざまな題目があります。それはみなさんで選んでください。

最後に質問をして終わります。

皆さんは、「充分あるというパワー(power of enough)」を使って、人生を変えるために、どんな選択をしますか?

家族、コミュ二ティー、自分の住んでいる市、そして世界を変えるために。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味と補足情報

chalice  教会でぶどう酒を飲むグラス

have one’s wits about one  (緊急事態などに)冷静でいる

break ground on   事業を始める

outlier 異常値

動画のコメント欄に、ジュリア・ワイズさん本人が「7万ドルを越えた額ではなく、収入の半分を寄付している」とコメントしていました。

こちらはワイズさんとパートナーのコフマンさんを取材したローカルニュースのクリップです。

1分40秒

ジュリアさんは、「やりくりが大変だ」と言っています。2人は車も持っていません。

このニュースによれば、2014年は2人合わせて25万ドルの収入(税込み)があります。半分寄付したとしても(それは充分驚くべきことですが)、残りは10万ドル以上あるから、そんなに生活は苦しくないのでは、と思いました。

不思議だったので、調べてみたら、こちらの記事によると⇒This couple lives on 6% of their income so they can give $100,000 a year to charity — Quartz

2013年は年収の40%を寄付、32%を貯金、22%が税金で、残りの6%ほどで生活しています。

25万ドルの6%は15000ドルで、これは、円に直すと160万ぐらいですから、それは苦しいでしょうね。

というか、年間、160万円で親子3人暮らせるんでしょうか。

このカップルは、2008年から毎年、ずっとこの調子で寄付しているそうです。

「充分」について考えさせられる別のプレゼン

もう充分ある、と考える経済(TED)

物が少ないメリット:足りないからこそクリエイティブになれる(TED)

マインドレスからマインドフルへ、ファッションを変えていく(TED)

『ものは少なく、幸せは多めに』~グラハム・ヒルに習う「小さく暮らす」メリット

世帯収入ごとにみる世界の人の暮らし(TED)

未来を作り上げるお金の使い方:リン・ツイスト(TED)

貧困は人格の問題ではなく、現金がないだけの話:ルトガー・ブレグマン(TED)

自分にとっての充分を考える

すでに持っているものに目を向けず、「まだ足りない」と思ってしまうことは、人の悩みや苦しみを作り出す大きな原因の1つだと思います。

足りないと思うから、必要以上に仕事をしたり、物を買いすぎたり、他人の関心を買おうと奔走したり、最大限に得をしようと焦ったりします。

自分の会社を持っているプロフェッショナルであるキャブノーさんと同じことをできる人は、そんなに多くないかもしれません。

けれども、私たちそれぞれが、自分の生活を振り返って、本当は充分なのに、「まだ足りない」と思っていることはないか、探してみるといいでしょう。

キャブノーさんは、平等については、充分ではないものとしてとらえています。

皆が、お金や目に見える物を充分すぎるほど集めようとすると、本来ならあったほうがいいものが足りなくなってしまうんでしょうね。

休息や家族との時間、他人への気づかいや思いやりなどが。

*******

私の体験では、何事においても欲張るとろくなことがありません。「もっと、もっと」と追い求める生活は、どこまでいっても満足感をもたらしませんから。

「どれだけあれば充分なのか?」

私も自問しながら生活していきます。





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