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TEDの動画

最終更新日: 2019.06.22

本当の自分はどこに存在しているのか?:ジュリアン・バジーニ(TED)

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「私は片付けられない女」「私は絶対ノーと言えない人」などなど、自分に関する強い思い込みのせいで、できることもできない人に見てもらいたいTED動画を紹介します。

タイトルは Is there a real you?(本当のあなたはいるのでしょうか?)。プレゼンターは哲学者のジュリアン・バジーニ(Julian Baggini)です。

邦題は、「本当の自分」は存在するか?



本当の自分は存在するの? TEDの説明

What makes you, you? Is it how you think of yourself, how others think of you, or something else entirely? Philosopher Julian Baggini draws from philosophy and neuroscience to give a surprising answer.

何があなたを「あなた」たらしめているのでしょうか?

それは、自分が思う自分なのでしょうか? 他人が思うあなたなのでしょうか? それともまったく違う何かでしょうか?

哲学者のジュリアン・バジーニは、哲学と神経科学からびっくりするような答えを導き出します。

収録は2011年11月。プレゼンの長さは12分。日本語字幕あり。

マンチェスターで行われたTEDXYouthでの講演です。中高生向けなので、一般のTEDよりはわかりやすいと思います。

動画のあとに抄訳を書きます。

本当の自分は存在するのか?

本当のあなたっていると思いますか?

奇妙な質問に聞こえるでしょう。

本当の自分なんてどうやって見つけたらいいのか? どうやったら本当の自分だとわかるのか? このような疑問がわくと思います。

ですが、本当の自分が存在しているのは確かです。

この世界で本物だと感じられるものがあるとすれば、それは自分ですよね。

ですが、私はそこまで確信がもてません。もう少し、「本当の自分」について理解を深めるべきではないでしょうか?

誰もが、自分という核の存在を信じている

私たちの文化には、私たちは皆、核のようなもの・エッセンス(本質)を持っている、と思わせてくれるものがたくさんあります。

自分が自分であると定義できるようなものがあり、それはずっと変わらないのだ、と思わせるものです。

単純なものでいえば、星占いに類するもの。

みな、こうしたものにずいぶんこだわっていて、フェイスブックのプロフィールにのせたりします。さもそこに何か意味があるかのように。

中国式の占星術に詳しい人もいるでしょう。

この手のものを、もっと科学的にしたバージョンもあります。それぞれの性格の輪郭をひもとくものです。

性格テスト(Myers-Briggs tests マイヤーズブリッグテスト)とか。

多くの企業が従業員を採用するときに、このテストをします。

たくさんの質問に答えれば、その人のコアの性格がわかると考えられています。

性格テストなんて無意味かもしれない

世間では、こういうテストが本当に人気ですね。

人の心理がテーマの雑誌には、毎回、パーソナリティー(性格)に関する記事がのっています。

この手の雑誌を手にしたら、性格に関する記事を読まないではいられないでしょう。性格診断をやって、自分の学習スタイルや恋愛のパターン、働き方のタイプを知りたくなるのです。ああ、自分はこういう人なのか、と納得したいのです。

このように、誰でも、自分の中には核(コア)やエッセンスがある、という考え方は、常識になっています。

しかも、自分の核は、ずっと変わらない真実で、生涯続くのだとされています。

実は、この考えは間違っている、というのが今日、私が言いたいことです。

べつに、私が変わり者だから、この常識に異議を唱えるわけではありません。

変わらないコアがある、という考え方に反対する意見は、ずいぶん前からありました。





自分には核があるという考え方は正しいか?

常識的な考えはこうです。

私たちは個人として存在し、まんなかに、こんな核を持っています。

自分という核

生きていくうちに、いろいろな経験を蓄積していき、それが記憶になります。

この記憶が、自分がどういう人間なのか決める助けをします。

私たちには、欲望(desires)があります。クッキーを食べたい、とか。

さらに信念(beliefs)を持っています。

これはアメリカのナンバープレートです。messiah 1(救世主)と書かれています。

運転する人がメシアを信仰しているのか、自分がメシアだという意味なのかはわかりませんが、このプレートをつけている人は、メシアに関する信念を持っています。

私たちには知識もあります。感覚や経験も。

単に知性的であるだけではないですね。

このようなモデルが、その人がどんな人かを表す、ごく常識的なものと言えるでしょう。

つまり、1人の人間が、その人の人生を作り上げているすべてのものを持って存在している、というわけですね。

ですが、きょう、私が皆さんに言いたいのは、このモデルは根本的に間違っている、ということです。

自分の本質なんて実はない

何が間違っているのか、ワンクリックでお見せできます。

自分という核はない

つまり、こうした経験の真ん中に、あなたはいないのです。

おかしな考えでしょうか? いえ、そんなことはないでしょう。

では、真ん中に何があるのか?

もちろん、記憶や欲望、意図、感覚といったものはちゃんと存在しています。

ですが、こうしたものは、すべてが統合されて、重なり合ったり、いろいろな形で結びついたりしています。

部分的につながっていることもあれば、もっと大きく結びついていることもあるでしょう。

というのも、みな、1つの身体、1つの脳に属しているからです。

さらに、人は、自分に関する物語を作っています。過去のできごとを思い出すときに。

私たちは、ほかのできごとに影響を受けて、行動します。

私たちが何かを欲するのは、一部は、自分の信念のせいです。何かを思い出すとき、それは、何かを知っていることを意味します。

信念、欲望、感覚、経験は、すべて関連していて、そのあり方そのものが、自分自身なのです。

この考え方は、常識的な理解とたいして変わらない、とも言えるし、大きく違う、とも言えます。

自分は過去の経験すべてをもっている存在と捉えるか、経験を寄せ集めたものと捉えるかの違いです。

自分とは、いろいろな要素が集まったもの

本当の自分

私たちは、自分の部品が合体したものなのです。

部品には物理的な物も含まれます。脳、肉体、足といったものです。しかし、こういうものはそんなに重要ではありません。

心臓移植を受けても、自分は変わりませんが、記憶や信念を移植されたら、どうでしょうか? 同じ人間ですか?

さて、自分は、経験をもった、永久的な存在ではなく、経験を集めたものだ、と考えるのは、奇妙に聞こえるかもしれません。

しかし、べつに奇妙ではないのです。むしろ、これは当たり前のことです。

この世界にあるほかのものについて考えてみてください。たとえば、水を例にあげましょう。

水は、水素が2つ分、酸素が1つ分でできていますよね?

「水」と呼ばれるものがあり、それには、水素原子と酸素原子がついている、それが水だ、とは人は考えません。

水は水素と酸素が適切に並べられた物体だと考えます。

ほかのものもそうです。

私の腕時計も同じです。

腕時計には文字盤があり、針があり、それを動かす仕組みと電池があります。

腕時計と呼ばれるもののまわりに、部品がついているとは考えません。時計の部品をまとめれば、腕時計になると、はっきりわかっています。

宇宙にあるすべてのものがそうなら、なぜ、人間は違うのでしょうか?

なぜ、人は、要素が集まったものとは考えず、要素とは別に、永遠に変わらない存在があると考えてしまうのでしょうか?

脳の中にはコントロールセンターはない

人を部品が集まったものと捉えるのは、別に新しい考え方ではありません。

ずいぶん前からありました。

仏教でも、17世紀・18世紀から今にいたる哲学でも、そういう考え方があります。

さらにおもしろいことに、脳神経学も、この考え方を裏付けています。

臨床神経心理学者のこれはポール・ブロックはこう言っています。

「人は、直感的に、コアやエッセンスがあると考えていて、この考えを改めるのはたぶん不可能だと思います。

しかし脳医学の見地から見れば、脳のなかに、ほかのものがすべて集まっている核がないのは確かなのです」。

We have a deep intuition that there is core, an essence there, and it’s hard to shake off, probably impossible to shake off, I suspect. But it’s true that neuroscience shows that there is no centre in the brain where things do all come together.

脳がどうやって自分自身を認識するか調べてみると、脳内にセンター(司令塔)はない、とわかります。

すべてのことが起きる中心はないのです。

脳内では、たくさんの異なるプロセスが起きています。それぞれが、独立した動きをするのです。それが関連しあって、自分というものが認識されます。

この現象を、私は自分の著書で、エゴ・トリック(ego trick 自我のトリック)と呼んでいます。機械的なトリックです。

私たちは存在しているのではなく、このトリックのせいで、自分の中に自分がいる、と感じるのです。

実際よりも、統合された自分がいると感じています。

本当の自分は幻想なのか?

こう考えると、ちょっと心配になるかもしれませんね。

もし、1人ひとりに継続的に続くコアがないのなら、自分という存在は幻想にすぎないのか、と。

自分は本当は存在していないのではないか、本当の自分なんていないのだ、と。

確かに、多くの人が、人の存在は幻想だと語っています。

トーマス・メッツィンガー、ブルース・フード、スーザン・ブラックモアの3人の心理学者もそうです。

自分という存在は幻想で、フィクションであると主張しています。

しかし、この考え方は、私たちにとって、あまり助けにはなりません。

腕時計の話に戻りましょう。腕時計は、部品が集まったものだからといって、幻想などではありません。

同様に私たちも幻想ではありません。

人間が複雑な合体物、秩序にのっとった要素の集まりだとしても、それがリアルではないとは言えません。

滝にたとえてお話しましょう。

アルゼンチンにイグアスの滝というのがあります。

滝には、永続的なものは何もありません。いつも変化しています。水は、いつも新しい水路をたどり、場所によっては乾き、新しい流れが作られます。

もちろん、流れている水は、その瞬間、瞬間でいつも違う水です。

だからといって、イグアスの滝は幻想であるとか、リアルではない、とは言えません。

私たちが理解すべきなのは、そこにあるのは、歴史をもつ何かであり、特定のものが1つにまとまっているものであり、そのプロセス、つまり水の流れは、いつまでも変化し続けているということです。

これが、私たち自身を理解するモデルであり、また、私たちを自由にしてくれるモデルです。

人間はプロセスであり、変化するもの

もし自分が、固定された、永遠に続くエッセンスで、何が起きても生涯ずっと変わらない、と考えたら、私たちは閉じ込められているようなものです。

あるエッセンスを持って生まれ、それは死ぬまで変わらず、死後の世界でもそれは続く、と考えたとしたら。

ですが、自分はそのようなものではなく、プロセスであり、変化するものなのだと考えれば、とても自由になれるのではないでしょうか。

というのも、滝とは違い、人間はある程度まで、自分を成長させる方向に道筋を作ることができるからです。

ただ、ここで注意すべきことがあります。

Xファクター(音楽のオーディションを受けるリアリティ・ショー)を見すぎると、自分もあんなふうになれるかもしれない、と思ってしまいます。

望めば何にでもなれるのだと。

これは違います。

私はラジオで聞くような、素晴らしいミュージシャンにはなれません。どんなに必死に練習しても、多少はうまくなるでしょうが、そこまでの才能はありません。

私たちが成し遂げられることには限界があります。

それにもかかわらず、自分自身を作り上げる能力があるのです。

本当の自分とは自分で作るもの

本当の自分は、かつてそう言われていたように、そこにあって、自分で探して見つけるものではありません。

少なくとも部分的には、私たちは本当の自分を作り出しているのです。

これはひじょうに重要なことです。特に皆さんの年代の人にとっては。

今後数年で、どれほど自分が変わるか、気づくと思います。3~4年前の自分のビデオを見たら、恥ずかしいと感じるのではないでしょうか。

私たちは、自分で自分を形作ったり、水路を開いたりして、変えることができるのだ、と考えるべきです。

ブッダの言葉を紹介します。

「井戸を作る人は、水を引き、矢を作る人は、矢を曲げ、大工は木材を折り曲げ、賢い人間は自分自身を作りあげる」。

Well-makers lead the water, fletchers bend the arrow, carpenters bend a log of wood, wise people fashion themselves.

これこそが、私がきょう皆さんに伝えたいことです。

本当の自分は、探すものではないし、謎の中から見つけだすものでもありません。まず見つからないでしょう。

そうではなく、自分で作り出すものなのです。それはとても自由でわくわくすることですよね。

//// 抄訳ここまで ////

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人はいつもプロセスの中にいる

自分の中には、核があり、そこに、これまでの思考や経験が集まって、自分ができているのではなく、実はすべてが合わさって自分になっている、というのは、考えてみればそのとおりです。

しかし、コアがない、としてしまうと、さまざまなことの土台がガラガラとくずれます。

まず、自分探しの旅なんてしなくてよくなります。

信仰に対する考え方も変わります。

人の魂はコアのことですから、それがないなら、前世も生まれ変わりもありません。

まあ、私は生まれ変わりやらは信じていませんが、人の魂は死んでも継続する、と考えないと、宗教は成り立たないでしょう。

また、心なんてのもないと言えます。

考えてみれば、心と呼ばれる臓器はなく、すべては脳が、全身の細胞と連携しながら、そのつど外的状況に対する反応(思考)を決定しているだけです。

ですが、みな、自分には心があると思っていますよね。

バジーニさんは、かなり深いことを話題にしています。

しかし、ここで私が取り上げたいのは、人は、いつも変化していて、自分を作り続けている、という点です。

人は、どんなふうにも変わることができるのです。

毎回同じようなことを書いていますが、たとえこれまで何年も汚部屋だったとしても、いま自分が変われば、片付けることができるわけです。

プロのミュージシャンやオリンピックの選手になるわけではないのです。

単に部屋を片付けるだけです。

それができないとしたら、あまりにも、「私はこれまでずっと片付けられなかった」「決めてもいつも三日坊主だし」など、自分のコアが、「片付けられない人」だと思いこんでいるからではないでしょうか?

「片付けられない自分」がその人のアイデンティティになっているのです。

しかし、動画でも話されていたように、人生はプロセスにすぎないので、いくらでも変わることができます。

片付けたいなら、「私は片付けられない人です」と言うべきではないのです。

これまで片付けられなかったのは、自分のせいというより、環境のせいだったのかもしれません。

人が、たとえ何が起きても、きのうも今日も、「私は自分だ」と認識できるのは、他人と区別するためだと思います。

人間は社会的な動物だから、人と自分を区別しないと、生きていけません。私たちの人生には、他人の存在が不可欠であり、強い影響を受けています。

つまり、環境によって、その人の価値観や生き方が大きく左右されるのです。

環境に合うように、まわりの人に受け入れられるように生きていたら、どんどん物を買って、汚部屋になっただけかもしれませんし、片付けないほうが都合がよかったのかもしれません。

そう考えると、環境を変えることを意識しつつ、片付ける自分になるのは充分に可能なのです。

*******

バジーニさんの本は共著を含めて何冊か翻訳されていますが、単独で書いている本を1冊紹介します。

哲学では、問うことが重要なので、早急に答えを教えてほしい、という人には向かないと思います。

ですが、あらゆることを疑う学問でもあるので、常識や思い込みをはずす助けになるのではないでしょうか?





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