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仕事や家事、学業、そして年末の慌ただしさに追われる中で、自分の心と体に十分なケアをしている人はどれくらいいるでしょうか?
セルフケアは単なるリラックス方法ではありません。脳科学の観点から見ると、セルフケアを習慣化することで脳を変え、ストレスに強くなることができます。
その仕組を教えてくれる Re-train Your Brain With Self-Care (セルフケアで脳を再トレーニングする)というTEDトークを紹介します。
講演者は心理学と認知神経科学に知見のある Dima Abou Chaaban (ディマ・アブ・シャーバン)さん。
科学的な視点から、なぜセルフケアが私たちの脳と生活にとって重要なのかを説明しているトークです。
脳に関すること:トークを視聴する前に
このトークを見る前に、脳について以下のことを知っておくと理解しやすいです。
1.ニューロン
脳内の基本単位である神経細胞。ニューロンはシナプス(神経細胞同士が連絡する接合部)を介して情報をやり取りし、これが脳の活動を支えています。
2.神経伝達物質
ニューロン同士が情報をやり取りする際に使われる化学物質。例えばドーパミンやセロトニン。
3.扁桃体(アミグダラ)
ストレスや恐怖を感知する脳の領域で、過剰に活性化すると慢性的なストレス状態に陥りやすくなります。
4.脳の可塑性
脳には新しい経験や学習を通じて構造や機能を変化させる能力があります。
セルフケアをして脳を再トレーニングする
収録は2019年9月、動画の長さは13分です。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
脳に関する専門用語が出てきますが、説明が続くのでそんなに難しくないと思います。
セルフケアの習慣を作り、脳の構造を変え、ストレスに強い自分になることをすすめています。
燃え尽き症候群
ソーシャルメディアで、仕事や学業のせいで疲れている人たちの投稿をよく見かけます。
最近、WHOは、バーンアウト(燃え尽き症候群)を職業上の現象だと認定しました。
私の親友は、セルフケアのルーティンとして毎朝ジムに通っていましたが、突然行かなくなりました。
元気がないので、「大丈夫?」と聞いてみました。
こう聞かれると、人は泣き出すか、「大丈夫(I’m fine)」と言うかのどちらかです。
友人は、「大丈夫」と言いました。
でも、私たちはみんな知っていますよね。「大丈夫」と言う人が本当に大丈夫なわけではないことを。
「大丈夫」という言葉の裏には、「イライラしている」「落ち込んでいる」「仕事を辞めたい」「学校を辞めたい」「疲れた」といった思いが隠れています。
疲労の原因は?
そもそも、なぜ私たちはこんなに疲れているのでしょう?
仕事のしすぎ、ストレスのかかえすぎ? それとも自分の気分をよくすることにほとんど時間を使っていないから?
調子のよくない日は誰でもあります。
でも、それはただの「調子が悪い日」なのでしょうか? 事態はもっと深刻かもしれません。
セルフケアを実践すれば、恒常的なストレスによる燃え尽き症候群を防ぐことができます。
とは言え、誰にでも通用するセルフケアのやり方があるわけではありません。
私の夫にとってのセルフケアはキャンドルとバブルバスですが、私はそうではありません。
後回しにされているセルフケア
日々、仕事に行かねばならない私たちは、セルフケアを軽視しがちです。
そんな時間はない、効果がない、と。
数週間旅行に行けば、それが十分なセルフケアになると考えもします。
でもこれは、スマホを5分間充電して20%になった状態で、1日を過ごすようなものです。
セルフケアはとても重要です。ちゃんとケアをすれば、レジリエンス、やる気、ストレスに対処する能力を養え、気分をよくする神経伝達物質も分泌されます。
セルフケアを怠ると燃え尽き症候群や「思いやり疲れ」に陥る可能性があります。
燃え尽き症候群は、仕事や学業に追われ続けることで、体だけでなく、精神面に深い疲労が蓄積してしまう状態を指します。
「思いやり疲れ」は、他人に過度に共感し、自分自身への配慮が不足すると起こる心理的・身体的な疲労です。いわば、優しすぎることへの代償です。
脳は常に変わり続ける
カナダの心理学者ドナルド・ヘッブは、「一緒に発火するニューロンは結びつく(Neurons that fire together, wire together)」と述べています。
脳内のニューロンは発火し、常に変わり続けています。脳には特に活性化されやすい部分もあります。
脳の状態は、たとえば、カフェインの摂取、ストレス、瞑想などによって変わります。
新しいことを学んだり、新しい習慣を身に着けたときも変化します。
このように脳は変わることができるので、回路の結びつきを変えて、より健康な形にすることができるのです。
セルフケアをすれば、脳内のニューロンの結びつきが変わります。
カフェインが脳に与える影響
朝、コーヒーを飲むと、突然頭がクリアになって集中できるようになります。
でも時間が経つうちに、だんだん疲れてくるので、またコーヒーを飲みたくなりますよね?
この現象は「アデノシン」という分子が原因です。
アデノシンは脳内で自然に生成される分子で、疲労感をもたらします。
コーヒーを飲むと、カフェインがアデノシンの生成を妨げるため、目が覚めたように感じるのです。
こんなふうにカフェインは一時的に脳の状態を変えます。
新しい神経回路を作る
セルフケアをすると、カフェインと同じように、脳内に新しい神経のつながりを作ることができます。
私たちは好きな歌の歌詞を覚えることができますが、それには2つ理由があります。
1つは何度も繰り返して聞くから、もう一つは、脳内で、ニューロンの配線が変わるからです。
脳は大量のニューロンで構成されており、ニューロンは数十億の神経細胞から成り立っています。
ニューロンは軸索(アクソン)、樹状突起(デンドライト)、細胞体で構成されています。
これらの細胞は互いに情報をやり取りしています。
軸索が、あるニューロンから別のニューロンにメッセージを送り、それを聞く役割をする樹状突起が信号を受信し、次のニューロンに伝達します。
細胞は脳内でメッセージを送り続けており、この細胞の発火と活動が「神経接続」です。
セルフケアは何かを学ぶことと同じ
セルフケアをルーティンに組み込むのは、何か新しいことを学ぶようなものです。
ニューロンは常に発火していて、脳の構成が変わっていきます。
脳は皆さんの経験をもとに、いつも再構成を試みているのです。
同じ回路を何度も刺激すると、その回路は強化され、やがてそれは習慣になります。
セルフケアを練習しよう
セルフケアはいきなりできるようにはなりません。時間と根気が必要ですが、あきらめないでください。
ちょっとした努力を積み重ねれば大丈夫です。
ジムで筋トレをするように、脳を働かせればいいのです。
私たちは、ポジティブなことよりネガティブなことに影響を受けやすくできています。
いいことより悪いことに意識を向ける配線が脳内にあるからです。
これはネガティビティバイアスと呼ばれる現象です。
脳がネガティブな回路を作ることができるように、ポジティブな回路を作ることもできます。
その第一歩がセルフケアです。
幸福をもたらす神経回路
セルフケアをすればするほど、ストレスの対処を助けるポジティブな回路が作られていきます。
ロレッタ・ブルーニングによると、神経伝達物質には、気分をよくさせるものが4つあります。
セロトニン、ドーパミン、エンドルフィン、オキシトシンです。
ブルーミングはこの4つを「幸せホルモン」と呼んでいます。
好きなことをしたり、気分がよくなることをしたりすると、脳内で幸せホルモンが出ます。
逆に、いつもストレスにさらされ、気持ちが圧倒されていると、気分をよくする神経伝達物質が十分に分泌されません。
扁桃体のバランスを取る
ここで、扁桃体(へんとうたい アミグダラ)の役割について少しお話します。
扁桃体は脳内にあるアーモンドのような形をした領域で、ストレスを感知する役割があります。
文字通りそれはストレスのレーダーです。
ストレスを感じていると扁桃体が活性化されます。
胸がドキドキしたり、コルチゾールのレベルが上がることは、ストレスに対する自然な反応です。
しかし、扁桃体が常に活性化されていると、自分がいつもストレスをかかえているとか、常に周りに危険があると考える神経回路ができます。
そんな状態でないときも。
でも、セルフケアをして、ストレスレベルを適正に保てば、扁桃体の機能のバランスも取れます。
セルフケアを先延ばしすべきではない
身体を扱うのと同じように脳も扱いましょう。
身体の健康を気遣うのに、こころの健康をないがしろにするべきではありません。
身体はテレビで、脳はリモコンだと考えてみてください。
バッテリーが充電されていれば、人生のチャレンジにうまく対応できます。
充電するために、セルフケアは欠かすことができません。
ただ、粘り強く行ってください。
危機的状況でないときにセルフケアの計画を立てておけば、困難に直面したときに役立つ「ツールキット」を準備できます。
誰よりも自分自身を知っているのは、あなた自身です。
自分がどれだけストレスを感じやすいかを理解し、最適なセルフケア計画を作りましょう。
ストレスの多い状況をさらに悪化させないために、事前の準備が大切です。
セルフケアを後回しにすると気分が悪くなります。
エネルギーが低下し、やる気が失せ、何もしたくなくなります。
気分が落ち込み、抜け出すのが難しくなることさえあります。
一方、セルフケアを実践すれば、エネルギーが高まり、気分が向上し、回復力が増し、最も重要なことですが、ストレスが軽減されます。
ストレスは避けられません。脳を健康に保つことが、自身の健康の鍵です。
//// 抄訳はここまで ////
補足
compassion fatigue(思いやり疲れ):他人の苦しみや問題に対して過度に共感し続けることで、自分自身の精神的・身体的なエネルギーが枯渇してしまう状態
心の健康に関するほかのプレゼン
つらいことがあったとき、自分で応急手当する方法。心の傷をないがしろにしてはいけない(TED)
いつもストレスや不安でいっぱいですか? あなた自身があなたの最良の医者です(TED)
幸せは自分の心の中にある、幸せをアウトソーシングしてはいけない(TED)
ほかにもたくさんあります。
セルフケアの優先順位をあげる
2024年最後のTEDトークはセルフケアに関するものを選びました。
年末年始は忙しいので、特にストレスマネジメントが求められる時期だから、という理由もありますが、新しい年を健康的で前向きな姿勢で迎えるヒントになると思ったからです。
セルフケアが重要だと説くトークはたくさんありますが、それらのトークの多くは「自己啓発」です。
しかしこの講演は科学的な視点からセルフケアの効果を説明しているので、自己啓発のうさんくささが嫌いな人にもセルフケアをする気になるのではないでしょうか?
シンプルライフは、物理的なものを片付けることだけでなく、心の中にあるゴミのような思考も捨てる必要があります。
セルフケアは心身の健康を整える基本なので、実践すれば、心の中も片付いていきます。
幸せホルモンを分泌する助けにもなるので、「足りないマインド」を手放す助けにもなりますね。
断捨離が進まないのは、「足りないマインド」に傾きすぎているから。
ぜひ、動画をごらんいただき、セルフケアについて考える時間を作ってください。
新年は、セルフケアの優先順位を上げて、より楽しいシンプルライフを目指しましょう。