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新しい年になり、今年はもっと運動したいと思っている人も多いかもしれません。
そんな人に、運動するやる気をくれるTEDトークを紹介します。運動を始めたけれど、やる気を喪失ぎみの人にも役立つ内容です。
タイトルは、The Exercise Happiness Paradox(運動と幸福のパラドックス)
講演者は、フィットネスと栄養の専門家である Chris Wharton(クリス・ウォートン)さんです。
運動と幸福のパラドックス
このトークでは、運動が私たちの幸福感にどのように関わっているか、そしてその効果を最大化する方法について語られています。
収録は2021年9月、動画の長さは15分。英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちらにあります⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
やせるために運動をするべきではないという意見は、フィットネストレーナーならではの言葉ですね。
運動をする目的は、健康的な生活や幸福感の向上で、体重の減少は単なる結果にすぎません。
幸福をもたらす薬
一度飲むだけで、幸せな人生を長く送ることができる画期的な薬を想像してみてください。
この薬は、エネルギーレベル、気分、脳機能、集中力を大幅に向上させ、あなたを強くしてくれます。
健康に関しては、ほかのどの薬よりも効果があります。
いい薬ですよね?
実は、この奇跡の薬はすでにあります。
運動です。
これが錠剤で入手できるなら、地球上でもっとも処方される、価値のある薬となるでしょう。
でも1つ、落とし穴があります。
この薬は、ずっと飲み続けなければなりません。
私は自分のキャリアを通じて、そうするよう人々を説得してきました。
脳内物質が気分を左右する
過去15年間、大勢の人と、健康とフィットネスの仕事をしてきましたが、あるトレンドに気づきました。
運動は人生を劇的に改善するのに役立つけれど、多くの場合、全く逆の結果を生んでしまうのです。
私はこれを「運動と幸福のパラドックス」と呼んでいます。
このトレンドを理解するには、私たちの頭の中で起こっていることを知る必要があります。
私たちの気分、幸福感、精神的に健康であるといった感覚は、脳内化学物質によってコントロールされています。
それは頭の中の複雑なホルモンのカクテルです。
外的な要因、たとえば、全国的なロックダウンや他人の行動はほとんど制御できませんが、脳内化学物質は、食べ物、睡眠時間、運動量によって操作できます。
これはライフスタイルの修正と呼ばれ、自分たちでコントロールできるんです。
だから幸福感を向上させる賢い方法は、脳内化学物質を操作して、最適な気分になるようにすることです。
ちゃんとしたワークアウトをしたことがある人なら、この経験をしたことがあるでしょう。
ワークアウトが終わったときの高揚感、陶酔感、ハイな気分です。
これは、痛みやストレスを和らげる役割を持つ神経伝達物質、エンドルフィンの分泌が増えることによっておきます。
運動は抗うつ薬が働きかけるセロトニンも増加させます。一方で、ドーパミンやノルエピネフリンも増えますが、これらはすべて気分を調整する役割をしています。
つまり、運動はすぐに、急激に私たちをより幸せにすることができるんです。
でもこのことは、私たちが運動を始めようと思う理由とほとんど関係がありません。
外見が重要視される
私は人からこんな質問ばかりされます。
どうすれば痩せられますか? 引き締まった腕になるにはどうすればいいですか? シックスパックの腹筋になるにはどうすればいいですか? どうすれば太ももに隙間ができますか?
1ストーン(約6.35kg)減量するのにどれくらいかかりますか? 脂肪燃焼に最適な運動は何ですか?
こうした質問は運動をしてどう感じるかは関係なく、自分の外見に関係しています。
脳は幸福を作るすばらしいツールですが、一方で、自分を邪魔したり、誰かと比較することもします。
特に外見に関してそういうことをします。
でもこれは私たちの責任ではありません。「外見がすべてである」と言うダイエット産業によって、そういうことをするようになったのです。
日々、私たちは外見に関して罪悪感や恥の気持ちを抱かせるメッセージの洪水の中にいます。
そのメッセージは、新しいダイエット、最先端のワークアウト、ものすごくやせたインスタグラムのインフルエンサーや年齢を感じさせない有名人が売っている脂肪を燃焼させるものを買うために、私たちが大切なお金を出すよう設計されています。
ここにパラドックスがあります。
健康とフィットネスをめざすと、私たちはこの世界に入ってしまうのです。
上方社会的比較
ソーシャルメディアの画像や記事にふれると、脳は比較せずにはいられなくなります。
他人の体や人生の一番いい部分をピックアップして、自分の最悪な部分と比べ始めるのです。
心理学者はこれを「上方社会的比較 (upward social comparison)」と呼んでいます。
こうして私たちは、完璧さを追求する終わりなき旅に出ます。
悲しいことに、雑誌の表紙やソーシャルメディアのタイムラインで見る写真は、現実ではありません。
それらは一瞬を切り取ったものであり、特定のシーンのために訓練した俳優たちです。
編集された写真であり、エアブラシで完璧に見えるよう加工されたモデルたちです。
友人の一番いい写真であり、現実ではないのです。
そこには多くの嘘があります。私自身、そういうことをした経験があるので、この事実をよく知っています。
この写真は、少し前に私が参加したときのものです。
確かに、私は一生懸命トレーニングをしていますが、ジムで働いているので、嘘をつくこともしました。
このときは、炭水化物と水分を取らないようにして、実際よりも引き締まっているように見せました。
実際の私はこうではありません。
人は脂肪を蓄えるようにできている
私たちがメディアで見る写真と現実の間にはいつも大きなギャップがあります。
日常的にこんな姿で歩き回っている人なんてほとんどいません。
ジムではなくオフィスで働いていて、外見に依存した仕事をしているわけではなく、カロリーを数えたり、食事をトラッキングしたりすることにすべての時間を費やせない大多数の私たちにとって、こうした姿は持続不可能だし、そもそも、こんな姿を追求するのは無意味なことです。
私たちはやせて、引き締まった体になるために進化してきたわけではありません。
体が脂肪を蓄える能力は、何百万年もの進化の過程で生き残るのに役立ってきました。
体を温め、脳や臓器を守り、飢饉を生き抜くために脂肪を蓄える体が必要でした。
この会場にいる人や、先進国のほとんどの人にとって、昔の人が直面した危機には出会いません。
身近に飢饉があったり、暖房のない部屋で凍死したり、通勤の途中でトラにあったりはしませんよね。
でも、私たちの体はこの現実に追いついていません。
「私たち全員がやせることを望むべきだ」という、隠された陰険な信念が人々から幸福を奪っているんです。
これまで、鏡に映る自分の姿が好きではない、完璧に見えない、ストレッチマークが嫌いだと言って泣き崩れる人と何度も会いました。
とても心が痛みます。悲劇的な結末も何度か目にしました。
完璧な理想を手放すべき
野心的な減量の目標が達成不可能だと言っているわけではありません。
達成できます。
でも、そうするために、すべてを犠牲にするべきではないし、そうすることが一番重要なわけでもありません。
やせるために人生を犠牲にする必要なんて絶対ないんです。
社会が、この終わりのない「完璧な理想」から離れていくことを望んでいます。
「完璧な理想」が何を意味するにせよ、それが「私たちにとっていいものだ」、「私たちを幸せにする」という考えを手放してほしい。
私の経験では、そうはならないからです。
過去15年で学んだのは、誰もあなたがどう見えるかなんて気にしていないこと。
これは本当です。誰もあなたの腹筋や太もも、腕がどうかなんて気にしません。あなたもそんなことを気にする必要はないんです。
人々が本当に気にしていることが何か知っていますか?
あなたが病気にならないことです。
あなたが強く、自信に満ち、エネルギーにあふれ、その場に存在していることです。
本当に優先すべきことは?
あなたが写真の中で両親といること、子どもたちとプールに飛び込むこと、孫を抱き上げて肩に乗せることができるほど強く、孫が成長するのを見守れるよう長生きすること。
すべての瞬間を生き、幸せで充実した人生を送るチャンスを全部つかむこと。
運動を始めるとき、私たちのそもそもの目標は脂肪を落とすことや体型を変えることではありませんでした。
そうなった結果がもたらすと思われる幸福が目標でした。
自分の外見を批判的に見て、カロリーをすべて数え、他の誰かと自分を比べる永遠に続くループに閉じ込められていると、決して本当の幸せを感じることはできません。
ではどうしたらいいのでしょう?
比べる罠にはまらず、より高いレベルの健康と幸福を達成するにはどうすればいいのでしょうか?
不幸せな気持ちにならず、長期的な体型改善に向けて、前向きな一歩を踏み出すには?
副作用なしに、奇跡の薬を服用するには?
幸福のための4つの戦略
皆さんに試してほしいことが4つあります。
1:自分に厳しくするのをやめる
自分に厳しすぎないようにしてください。人と比較するのは、とても有害なセルフトークを生み出します。
「腕が嫌い」「太りすぎ」「年を取りすぎ」「貧乏すぎ」。
このような言葉を使っているのに気づいたら、立ち止まって自問しましょう。
大切な人にこのような言い方をするでしょうか?
答えは断固として「ノー」です。
私たちは物語を変えて、欠けていると思うものではなく、持っているものに感謝する練習を始めなければなりません。
ありきたりだと思うかもしれませんが、毎日感謝日記をつけるのは本当に強力な方法です。
私の人生もこれで変わりました。
感謝の気持ちを感じているとき、否定的な感情を感じることはできません。
自分の体について、感謝していることを2つか3つ書いてください。
この前向きな考え方が、人生のほかの部分にもあふれだすことを保証します。
2:楽しいことを見つけてそれをたくさんする
運動を楽しむ人は続けます。続けた人は、最初に説明したすぐに起きるメリットをすべて享受するだけでなく、長期的な健康と体型の改善を達成できます。
どんな運動をするべきか、今まで聞いたアドバイスはすべて無視して、楽しいものを選んでください。
ダンスが好きならダンスを、ウェイトリフティングが好きならウェイトリフティングをしましょう。
他人がしていることにしばられないでください。
何かをミックスすることを恐れないでください。
年齢、性別、体型、能力に応じた正しいまたは間違った運動というものはありません。
私は弓が大好きな20歳の人とボクシングが大好きな80歳の人を指導したことがあります。楽しいことを見つけて、それをもっと行ってください。
3:外見ではなく行動を重視する
家の中で体重計を置くのにふさわしい場所は、ゴミ箱の奥底です。
進歩の指標として体重を使うのは、よくありません。
一瞬のうちに、あなたの気分とマインドセット全体を台無しにする可能性があります。
父親とビールを飲みに行ったり、娘の誕生日パーティーでケーキを少し食べたりすることに罪悪感を抱き、家に走って帰って体重計に乗り、ダメージを評価せずにはいられないような世界に住みたくありません。
その代わり、小さなパフォーマンスの目標を決めましょう。
朝の腕立て伏せの回数を増やしたり、1日の歩数を増やしたりするような簡単なことでかまいません。
ダンスの動きを学んだり、庭仕事にいつもより時間をかけるのもいいでしょう。
こうした小さな進歩は、小さな勝利を生み出し、自己効力感が大幅に向上します。
勝ち続ければ、私たちは前進し続けます。
4:運動を優先する
最後に、そして、一番大事なことは、運動する時間を譲れないものにすることです。
多くの人が人生の大部分を、ほかの人の心配をし、世話をし、自分をゆずることに費やして、自分自身の健康を無視するのを見てきました。
こうした非生産的なことをするのをやめましょう。
毎日20〜30分を「自分の時間」として確保してください。
パートナーのためでも、子供のためでも、もちろん上司のためでもなく、体重を減らすためでもなく、あなたの幸福に焦点を当てるためです。
時間がないという言い訳はやめましょう
自分自身と身近な人のために、可能な限り最高のバージョンの自分になる義務があります。
毎日過酷なジムルーティンをこなせということではありません。
20分散歩したり、ストレッチしたりすればいいんです。
何をするにせよ、重要なのはこの時間を譲れないものにすることです。
これはあなたのスケジュールの一部です。運動を習慣にできれば、人生のあらゆる側面で大きな見返りがあります。
まとめ
自分に優しくしてください。楽しいことを見つけてください。小さな定期的な行動目標を設定し、それをもっと行う時間を人生の中に作ってください。
運動は、最高の幸福のハックだと私は信じています。
しかし、この奇跡の薬の恩恵を本当に受けるためには、それが私たちをどう見せるかではなく、それが私たちをどう感じさせるかに意識を向ける許可を自分自身に与えなければなりません。
難しいかもしれませんが、完璧に見えないことを心配することに、自分の貴重な時間を1秒も費やさないでください。
なぜなら、完璧は存在しないから。
体にはいろいろな形や大きさがあります。
それぞれの体が、幸せに値します。
だから、体重計を捨てて、そのショートパンツを履いてください。
なぜなら、あなたのことを気遣っている人たち、あなたにとって重要な人々は、あなたがどう見えるかとか、体重がどれだけかなんて気にしないからです。
彼らが気にするのは、あなたが健康で、強く、幸せであること。あなたもそうあるべきなです。
//// 抄訳ここまで ////
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ダイエットしないで健康になる方法(TED)~生活習慣を変えよう。
運動がシンプルライフのベースになる
シンプルライフを目指すとき、運動を取り入れてほしいと思い、今回のトークを紹介しました。
そもそも、私たちがシンプルライフを目指すのはもっと幸せに暮らしたいから。
そんな願いがあるとき、運動は心身を整える最も簡単で効果的な手段のひとつだと思います。
クリスさんが言うように、運動をすると、ポジティブな気持ちになれるホルモンが分泌されます。
これは私も感じていることで、気分が落ち込むときは、ミニトランポリンの上でジャンプしてみると、すぐに回復します。
特別なことをする必要はなく、自分にとって楽しい身近な運動習慣をぜひ身につけてください。
たとえば、ウォーキングは何の道具も必要がないので、すぐに始められます。
ウォーキングを開始して楽しく歩く4つの工夫:メリットとコツを知り継続する
短時間でも継続して運動すると健康になるので、だまされたと思って試してくださいね。
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運動を始める動機として「やせたい」と思う人が多いですが、このトークでは、その方向性が間違っていることを指摘しています。
私たちの周りには、ダイエット産業が作り出した「外見重視」の信念が広まっています。この価値観にとらわれず、健康と幸福を優先する選択をしましょう。
ソーシャルメディアで見かける他人と自分を比べる習慣は、幸福感をむしろ遠ざけます。今年は、比較する時間を手放し、その分を運動にあてて、自分自身を大切にする時間を増やしてみてくださいね。