考え事をしている人

TEDの動画

最終更新日: 2023.04.2

小さな一歩のパワー(TED)

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ひどく悲しいことや嫌な体験をして、ずっと苦しんでいる人に見てもらいたいTEDトークを紹介します。

タイトルは、The Power of Small (小さなことのパワー)

心理学者の Aisling Leonard-Curtin(アシュリン・レオナルド=カートゥン)さんのプレゼンです。



小さなことにパワーがある

収録は2018年、動画の長さは13分15秒です。字幕はないので、抄訳を参照願います。

☆TEDの記事の説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

シンプルでわかりやすいプレゼンです。





コンフォートゾーン

この赤い丸がコンフォートゾーンだと考えてみましょう。

そしてみなさんがいるところが、戦う価値のある人生だとします。そこにいる皆さんはとてもいい気分でしょうね。

実は、同僚のベンジー・ショウンドーフによれば、3つ目のゾーンがあります。コンフォートゾーンの周囲にあるゾーンで、ここはセルフケアゾーンです。

私は心理学者です。

私は人々に、セルフケアゾーンがあることをちゃんと言わないまま、コンフォートゾーンの外に出ることをすすめることがよくあります。

苦しんでいる人たちを見ると、助けたいと思うのです。

でも、セルフケアゾーンの外に出ると、つまり、コンフォートゾーンから遠く離れてしまうと、すぐに元の場所に戻って、胎児のようにうずくまってしまいます。

さて、今、私はコンフォートゾーンからちょっと出て、でもセルフケアゾーンの中で、自分のことや、私ができるだけたくさんの人たちに、心理学のコンセプトを伝えたいと思っている理由を、お話しします。

交通事故にあった

14歳のとき、ひどい交通事故にあいました。11歳だった弟が亡くなりました。

そのとき、私の人生が反転して、裏返ってしまったどころではありませんでした。

それ以後、ずっと不安障害がついてまわりました。

不安障害、トラウマ、記憶を取り除くために、本当にいろいろなことを試しました。

でも、心理学者として働くようになって、人生で起きた望ましくない状況や嫌な感情を取り除く決定的な方法はないと知りました。

だけど、戦う価値のある人生に向かって進むのに、助けになる小さなことがいくつかあるんです。

選べるなら絶対選ばなかったことが人生で起きた結果、大きく傷ついたとき、その痛みをどうやっていい方向に向けるべきか?

いい方向に向かうために、私は心理学者という仕事を選び、最終的に、アクセプタンス(受容)&コミットメントセラピーにたどり着きました。

痛みを取る特効薬はない

何をしてもうまくいかないとき、人は、受容にたどりつきます。

もし、痛みから逃れられる方法があり、奮闘する価値のある人生を得られるなら、みんなそうしていますよね。

でも、英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)なんかないんです。

差がはっきり見てとれるビフォーアフター写真なんてありません。

でも、私たちにできるごく小さなことがいくつかあります。

その答えはここにあります。

[アシュリンさんが、椅子をさわる]

これは何でしょう?

ええ、椅子(chair)です。でも、ここでは、シート(seat)と呼んでくれますか?

それがこのトークで説明する内容のアクロニムですから。

状況が人生をゆさぶる

SEATのSは、Situations(シチュエーション、状況)を意味します。

誰もがみな、人生で、嫌な目(望ましくない状況)に出会います。

生きていれば、そして愛すれば、起きてほしくないことが起きるんです。

愛している人を失います。

私の経験では、自分や自分が愛する人たちとの関係において起きる状況が、一番、心身にこたえます。

誕生、死、結婚、離婚など。

状況は、私たちの人生をゆさぶるものです。

嫌な感情にさいなまれる

Eは、Emotions(エモーション、感情)です。

求めていない状況になったとき、一番ふつうで自然な反応は、求めていない感情になることです。

人間関係が壊れたり、愛する人を失うと、悲しみ、不安、不満、うらみ、怒りを感じるのがふつうです。

平静で冷静で、幸せではいられません。

もし私が、望んでいない状況になって、友人のもとをおとずれたととき、その友人が、大きな笑みを浮かべて、「とにかく幸せでいるべきよ」と言ったとしたら、私は、その人と友達でいることはないでしょう。

求めていない状況と求めていない感情は、人生の一部であり、避けることはできません。変えることはできないのです。

でも、ここで、選ぶことができます。

奮闘して勝ち取る価値のある人生に向かって行くか、痛みから逃れるために、その人生から遠ざかって行くか。

遠ざかる行動は助けにならない

Aは、Away-moves(アウェイムーブ、遠ざかる行動)です。求めていないできごとや感情に対する、大半の人のごく自然な反応は、遠ざかることです。

「こんなことは感じたくない。これは間違っている。公平じゃない。そこから逃げたい。感じたくないし、向き合いたくない」。

遠ざかるために、私たちはいろいろなことをします。

べつのことをどんどんやるか、「あとにしよう、きょうはやめておこうモード」になります。

直面したくないことを見なくてすむなら何でもします。

やり方は人それぞれです。

ある人は熱心に整理整頓をし、ある人はスケジュールをいっぱいにし、働きすぎます。

見たくないものを見ないために、誰にでもイエスと言います。

タブレットやスマホ、パソコンをずっと見ていたり。

いろいろな方法があります。

こういう行動はそれ自体は悪いことではありません。

でも、望んでいない体験から逃れるために、こんな行動ばかりすると問題が生じます。

痛みから遠ざかる行動をしてしまうのには理由があります。その瞬間、安心できるからです。

遠ざかる行動から安心を得られないなら、そんな行動を継続することはありません。

でも、心理学の研究や私自身の体験、患者を治療した体験からはっきりわかっていることがあります。

遠ざかる行動ばかりしていると、長期的に見ると、より嫌な気持ちになるのです。

しかも、勝ち取るべき人生からどんどん遠ざかってしまいます。

不安症、うつ、OCD、PTSD、依存症などの心理的な問題があるとき、不快な状況や感情から逃げる行動に、時間、エネルギー、リソースを使えば使うほど、そうした心理的な問題で苦しみ続けることになります。

向かっていく行動をするべき

Tは、Toward-moves(トゥワードムーブ、向かっていく動き)です。

それは、勝ち取るべき人生に向かうためにする行動すべてを意味します。

こうした行動は、自然にはできません。コンフォートゾーンを出ることを強いられるからです。

それが簡単ならみんなやっています。TEDトークもいらないでしょう。何もかもが完璧でしょうから。

心理学者もセラピストもコーチも不要です。

向かう行動をすることは、心地よくはありません。少なくとも、短期的には。

どうやったら向かうことができるか?

では、どうしたら、向かう行動ができるでしょうか?

1つ言えるのは、人によって、取る行動が違うということです。

だから、この行動がベスト、というのはありません。

でも、向かっていく行動は、止まることから始まります。

錨(いかり)をおろして、いま起きていることを認めます。

自分が逃げていることを自覚します。

そして、勝ち取る価値のある人生に向かうためにもっとも役立つことで、自分ができることを考えます。

時にはちょっと足を止めることが役立つでしょう。

時には、それは具体的な行動かもしれません。

電話をかける、メッセージやメールを送る、その仕事に応募する、コンフォートゾーンにいたいがためにずっと避けていた行動をすることです。

遠ざかる行動も、向かう行動も1つだけではありません。いろいろな形があります。その行動は常に進行中のプロセスで、毎日のように行うものです。

この方法を皆さんに伝えたいのは、これが私を助けてくれたからです。

このやり方を教えた人たち、不安症やうつ、依存症、OCD、PTSDに悩んでいた人たちは、こう言いました。

「アシュリン、もっと早く、これを知りたかった。自分が感じたくない感情から逃げる行動をしていて、勝ち取るべき人生から遠ざかっていたことに、気づけたらよかったのに。

逃げていたからますます気分が悪くなり、不安やうつ、依存症がひどくなっていたことに気づきたかった。

知っていたら、結婚生活がうまくいったかもしれない、子どもたちともっといい関係を築けていたかもしれない。

もっとやりがいのある仕事に向かう勇気が持てたかもしれない。自分にはそんな能力はないと思っていたけど。仕事をするのに十分になるまで待つ必要なんてなかっただろうに」

小さな一歩を踏み出す

きょう、この話を皆さんにし、自分の価値観にそった生き方に向かうことで、私は、14歳だった自分に敬意を払うことができています。

向かう行動は、決して心地よくはありません。その瞬間、気分よくいることでもありません。

サステイナブルな変化を起こそうとしている自分自身を大事にする行動です。

14歳のときの自分や、私の若い患者に言いたいことはこれです。

「今、あなたが感じていることは、ふつうで自然なこと。嫌な出来事に対するごく自然な反応。あなたは何も悪くない。

でも、逃げることにばかり、時間やエネルギーを使っていたら、価値のある人生から、遠ざかることになる。

今、小さな一歩を踏み出し、また小さな一歩を続ければいい。

一歩ずつ少しずつ進む。

毎日、ほんの数分でいいから、自分に向き合って、問いかけてほしい。正直にやさしく。

私の行動は、遠ざかる行動なのか、価値ある人生に向かう行動なのか?」

大がかりなことをする必要はありません。ヒーローズ・ジャーニーも、きれいなビフォーアフターもありません。

あるのはこの方法だけです。1度に一歩ずつ、少しずつ進めば、より前に進む可能性があるのです。

////抄訳ここまで////

アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)補足

Acceptance and commitment therapy は、アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)、自分の思考や感情を受け入れ、目標を決めて行動に移すトレーニングを用いた療法です。認知行動療法の一種で、マインドフルネスをベースにしています。

トークに、the life worth fighting for という言葉がよく出てきますが、これは、戦って勝ち取る価値のある人生、つまり、充実した人生です。

トークの中で、名前が出てくるベンジャミン・ショウンドーフ(Benjamin Schoendorff)さんによれば、それは、自分が大事だと思っている人やものにフォーカスする人生です。

ショウンドーフさんのACTの説明(2分30秒、英語)

彼は、大事なものにフォーカスする人生に向かうとき、ネガティブな感情が邪魔をすると言っています。

でも逃げてばかりいると、意味もヴァイタリティもない人生になります。

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アシュリンさんの著書です。

大事なものを大事にする人生

嫌な記憶から逃げてばかりいると、いつまでも逃げ続けなければならず、そこに時間とエネルギーが奪われ、無意味な人生になってしまう、という内容のトークを紹介しました。

ACTは、自分ひとりでもできます。

この本なんかは、一般人にもとっつきやすそうです。

モーニングページを書いたりして、自分の気持ちを客観的に見て、つらい記憶から逃げる人生から、大事なものを大事にする人生に切り替えるのも、ACTみたいなものですから、悩み多き人生を送っている人は、まず書き出すことをやってみてください。

ミニマルライフも、大事なことにフォーカスする暮らし方なので、おすすめです。

物をミニマルにする必要はありませんが、自分にとって、大事なものって何なのだろう、と考えることはとても助けになります。

ただ、意味のある人生に向かっていくためには、コンフォートゾーンを出なければならないので、アシュリンさんの言うように、ゆっくり、少しずつ、一歩ずつ進めてください。





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