ページに広告が含まれる場合があります。
TEDトークスからよりよい人生を生きるヒントになる動画を紹介しています。先週に続いて「幸せ」について、ダン・ギルバートというハーバード大学の心理学の先生がプレゼンしている動画を選びました。
2004年に行われたもので、歴代TEDの中でも有名なものの1つです。
原題はThe surprising science of happiness
直訳:幸せの驚くべき科学 日本語では『私たちが幸せを感じる理由』となっています。
私たちが幸せを感じる理由:TEDの説明
Dan Gilbert, author of “Stumbling on Happiness,” challenges the idea that we’ll be miserable if we don’t get what we want. Our “psychological immune system” lets us feel truly happy even when things don’t go as planned.
『明日の幸せを科学する』(Stumbling on Happiness)の著者、ダン・ギルバートは、望むものが得られないと人はみじめであるという考え方に異を唱えます。
「心理的な免疫システム」のおかげで、物ごとが思ったように運ばなくても私たちは幸せななのです。
講演の主旨を一言で言うと、人は人工的幸福を作り出すことができると言うものです。幸せは見つけるものではなく、作るものなのです。
この幸福は「ふつうの幸福」に比べて何ら遜色がありません。ただし、選択肢が多いとうまく「幸福」を作れません。
この点がミニマリスト的に興味深かったので、今回とりあげました。
前回のショーン・エイカーもとても話がうまかったのですが、ギルバート先生も「本当に学者なのかしら?」と思うほど、熱の入ったライブ・パフォーマンスを見せてくれます。
ある意味、学校の先生もライブパフォーマーですから長年教えてるうちに、芸達者になったのかもしれません。
日本語の字幕が出ます。字幕を消したい方は、右下で調節できます。
全部で21分。動画のあとに抄訳を書きます。
トランスクリプトはこちら⇒Dan Gilbert: The surprising science of happiness | TED Talk | TED.com
先週の記事はこちら⇒成功すると幸せになるのではなく、幸せだから成功する~ショーン・エイカー(TED)
TEDとは⇒もう自己啓発本を読む必要なし~成功するため8つの秘密とは?(TED)
1つ1つの実例や実験の詳細、先生のジョークもおもしろいのですが、ポイントのみ訳します。
1.人は前頭葉のおかげで疑似体験ができる
200年前に比べると人間の脳は3倍の大きさになりました。全体的に大きくなったのではなく、前頭前皮質(pre-frontal cortex)という新しい部分ができたのです。
前頭前皮質にはいろいろな機能がありますが、1番重要なことは疑似体験ができることです(experience simulator)。
人間は実際に自分でやらなくても、脳で「体験」することができるのです。
たとえば、宝くじにあたった人の写真と、下半身が麻痺した人の写真をみた時、どちらが好ましいか考えてみてください。
誰もが、宝くじに当たった人のほうが幸せだと思います。しかし1年後当事者に聞くと、両者は同じくらい幸せなのです。
実は、頭の中では、事実よりずっと悪く想像してしまう傾向があります、これはインパクトバイアス Impact bias です。
選挙に負けること、失恋、昇進できなかったこと、落第することなどは、当人にとってみれば、ほかの人が想像するほどインパクトのあることではないのです。
最近の研究によれば、人生におけるトラウマのようなできごとも、3ヶ月前に起こっているのなら、今の幸せに何の影響もありません。なぜなら幸せは作ることができるからです。
2.幸せは作ることができる⇒人工的幸福 synthetic happiness
人は心理的な免疫システム(psychological immune system)のようなものを持っています。
このシステムのおかげで、頭の中で世界の見方を変えて、幸せを感じることができます。これが人工的幸福です。
このことに気づいている人は少なくて、幸せは見つけるものだと思いがちですね。
さらに、人工的に作った幸せは、自然に得られる幸せ(自分の思い通りになったときに感じる幸せ)より劣ると考えています。
人工的な幸せは、自然発生的幸福が得られなかったときに人が作るものです。社会では、人工的な幸福は二流の幸せであると強く信じられています。
なぜでしょうか?
もし両者が同じなら、経済がまわりません。求めているものを得られなくても幸せになれるのなら、だれも買い物なんてしませんからね。
しかし、人工的幸福も自然発生的幸福と同じようにリアルで長続きします。
それを証明する実験(free choice paradigm)のデータをお見せします。
実験の内容はこうです:
50歳の被験者に6枚のモネの絵を好きな順番に並べてもらう。
3番目か4番目の絵をプレゼントするから選んでください、と言う。
ほとんどの人が3番目を選ぶ。
しばらくしてから、被験者に同じ絵を見せて、また好きなものから並べてもらう。
その結果:被験者は自分がもらった絵(3番目だったもの)を2番めに、4番目だった絵を5番目にランクする。
つまり自分が選んだ絵のランクがあがり、選ばなかったほうのランクはさがります。これが人工的な幸せを作った例です。
自分が選んだ絵は思ったより良かった、選ばなかった絵は思ったほどよくなかった、と考えるのです。
同じ実験を健忘症の人たちとやりました。新しい記憶をつくることができない人たちです。この人達は1度目の実験で選んだ絵を覚えていません。それでも、50歳の人たちと同じ実験結果が出ました。
自分が選んだ絵だから好きになったのではなく、その絵をもらって人工的な幸福を作ったとき、絵に対する評価が変わったのです。
3.人工的な幸福は、選択の自由と相性が悪い
人工的な幸福は制限があるときにより効果を発揮します。逆に選択の自由があると、幸福度が落ちます。
ハーバードで行った実験
●最初の実験
学生に12枚の写真を撮らせる。
ベストショットを選んでもらい2枚現像させる。
学生がキープできる1枚を選ばせ、1枚は先生がもらうと言う。
一方のグループには、気が変わったら、4日以内なら先生がもらったほうと交換できると言う。
もう一方のグループには、「今選んでください、もう一方はすぐに発送してしまいますから」と言う。
実験の結果:交換できる選択肢のなかった生徒のほうが、手元に残した写真により満足した。
写真を交換できる可能性のあった生徒は、「こっちでよかったのか、いや手放したほうがもっとよかったのかも」と悩み、手元に残した写真にそれほど満足できなかった。
●最後の実験
前の実験には参加していない別の生徒に、2枚写真をとったあと、どちらがいいか4日間考えられるコースと、すぐにどっちがいいか決めるコースとどっちに参加したいか聞いた。
結果:66%の生徒が選択の変更ができるコースを選んだ。
66%の生徒が、自分の選択にあまり満足できないコースを選びました。というのも、彼らは人工的幸福が生まれる環境を知らないからです。
どちらかを選んだとき、選ばなかったほうを過大評価することは危険です。
私たちの望むものが限られているのであれば、楽しむことができます。しかし、制限なく望むことがあると、人は嘘をついたり、他人をだましたり、盗んだり、人を傷つけ、価値のあるものを犠牲にしてしまいます。
恐怖が限られているなら、謙虚に注意深く対応しますが、無制限の恐怖があり、それに圧倒されてしまうと、無謀なことをしたり、逆に臆病になってしまうのです。
私たちの望みや心配ごとは、脳内で作りだされており、それは大げさなものになりがちです。何かを選んだあとも、常に別のものを追い求めてしまうのです。
・・・抄訳ここまで・・・
ミニマリストの視点からの感想
ギルバート先生によれば、私たちには心理的な免疫力があるから、望んでいるものが得られなくても別の幸福を作り出すことができます。前頭前皮質のおかげです。
この幸福はイソップ物語の「酸っぱいブドウ」みたいな強がりではなく、脳が無意識に作りだすものです。
人工的に作った幸福感は、望んだものが得られたときに感じる幸福感と変わりません。
だから何が起こっても結局幸せなんです。
ただし、人にはインパクトバイアスがあります。
自分が手にしていないものを大げさに想像してしまうのです。
そのせいで、これから起こることを必要以上に恐れたり、自分が手にしていないものを過大評価してしまいます。
資本主義社会は「持っている人が幸せ」とする考え方です。
インパクトバイアスのせいで、「すごく良い物」だと思って手に入れると、「実際はそれほどでもなかった」ということがおきます。
がっかりするのですが、このとき人工的に幸福を作り出せばいいのですよね。
しかし、現代はうまく幸福が作リ出せません。なぜなら選択肢が多すぎるから。
「これは今いちだったけど、買わなかったあっちはもっといいんだろうな、今度はあっちを買おう」なんて思ってしまうのです。
かくして人はどんどん買い物を続けますが、いつまでたっても幸せになれないのです。
今の日本は、歴史上で1番物があふれ、自由な時代ですが、「自分は不幸だ」と感じている人が多いです。
こんな時代は、自ら選択肢を制限することが幸せになるコツではないでしょうか?
ミニマリスト的な生き方は選択肢を減らすのに有効な方法だと思います。