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生産性をあげたい人の参考になるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、The Unexpected Key to Boosting Your Productivity(生産性をあげる思いがけない秘訣)。
起業家のDan Shipper(ダン・シッパー)さんのトークです。
生産性をあげるには? TEDの説明
Ever wished you could stop procrastinating and just be as efficient as a machine? Since you’re a human, that’s not going to happen — but that’s OK, says entrepreneur Dan Shipper. Here’s how you can use awareness, observation and experimentation to clear your own way to getting more done.
先延ばしをやめて機械のように効率的に働きたいと思ったことはありませんか?
あなたは人間なので、そんなことは起きません。でも、それでいいんです。こう、起業家のダン・シッパーは言います。
気づき、観察、実験を使って、自分なりのやり方でもっとたくさんのことを行う方法を紹介します。
2023年3月に公開された動画です。長さは6分48秒。英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
受信箱にメールをためる人は、ぜひ、続きを読んでください。
機械のようになりたいと思っていた
長年、ひそかに、機械になりたいと思っていました。
機械なら何かを見逃したり、忘れたりすることなく、毎回、時間どおりに、すべきことを、ちゃんとできる気がしたんです。
世の中には、そういうふうにできる人たちがいるから、どうすればそうできるのか知りたいと思っていました。
数年前、Super Organizers(スーパーオーガナイザー)というメールマガジンを始めました。
いろいろな分野のトップパフォーマー50人を紹介したんです。
その日やることを15分単位でチェックしているマネージャー、出会った人全員をスプレッドシートで記録している投資家、カレンダーをほとんど空白にして、めったにミーティングをしないCEOなんかに会いました。
理想に近づくため、自分でもいろいろな方法を試しました。
エネルギーレベルをあげたくて、寝ている間、口にテープをしたり、太陽灯をじっと見たりしました。
思いやりのある自分をイメージしたり、いろいろなサプリメントを服用して、体の化学成分を変えようとしました。
うまくいくこともあれば、いかないこともありました。
単にばかばかしいだけだったこともあります。
今日はいろいろ試した中でも、最良の方法を皆さんにシェアしたいと思います。
鍵は感情を理解すること
機械のようになろうとすることは、実は罠なんです。
機械をめざすと、本当の問題の根が見えなくなって、かえって生産性が落ちます。
私たちは機械ではなく、感情をもった存在です。
うまく感情を認識し、上手に対処することを学ぶことが、日々の生産性をあげる唯一の方法なのです。
罪悪感、恥、恐怖。こうした感情が、私たちの中で起きていることのベースになることが多いのに、このことについて、私たちはほとんど理解していません。
生産性の問題は、新しいツールやシステムではなく、感情の中で起きていることなのです。
感情が自分にどんな影響を与えているのか気づき、観察すれば、もっと柔軟に自由に前に進むことができます。
世界でもっとも生産的な人たち、もっとも機械のように動いている人たちは、このことを知っていて、感情にうまく対処するために3つのことを行っています。
彼らは問題があるとき、それに気づき、何が起こっているのか、ジャッジすることなく起きていることを観察し、理解し、変化が起きるまで、システムやチーム、マインドセット、ツールを使っていろいろ試すんです。
単純な話に聞こえるかもしれません。実際単純なんですが、ちゃんと行うのはとてもむずかしいのです。
というのも、それぞれの段階で、恥や罪悪感、恐怖、疑いのせいで、物事をクリアに見ることができなくなるからです。
うまくやるためには、感情の扱いを熟達すべきですが、実践はとても困難です。
そこで、やり方を一通り説明しますね。
ステップ1.気づく
最初のステップは気づくことです。
問題を認識します。
でも、これは、思っているよりも難しいですよ。
問題がなんであれ、その問題を認めることより、無視したり、問題が勝手に改善されることを願うほうがずっと簡単ですから。
私たちは、とにかく上手にやらなければならないと思いこんでいます。
それが仕事なんだから、我慢してさっさとやるしかないと思うのです。
生産性において、どのような問題が生じていても、それについて考えることはあまりありません。苦痛ですから。
でも、ふだんなら気づかない問題に気づく魔法があります。
生産性の高い人たちが、日常的にしていることです。
たとえば、それはジャーナリング(日記をつけること、文章を書くこと)、マインドフルネス、散歩、セラピーです。
方法は違っても、皆、なんらかのことをしています。
メールをためこむくせ
私の体験を話しますね。
私は、受信ボックスに山のようにメールをためていました。
私は、スタートアップのCEOなので、この事実をなかなか認めることができませんでした。
受信ボックスがくしゃくしゃなことを認めるのは、自分のだめさや、成功する能力のなさを認めるようなことですから。
しかし、去年、じっくり振り返った末に、メールをチェックしきれていないことが、会社全体に問題を引き起こしている事実に向き合うしかないと気づきました。
ひとたび問題に気づいたら、次のステップに進めます。それは観察することです。
ステップ2:観察する
観察するステージでは、受信箱がメールだらけになる原因を見つけるため、できるだけジャッジしないで、現状を見るようにしました。
ジャッジせずに観察するのは、とても難しかったです。
自己不信感や恐怖が湧き上がってきました。
本当にこれをする必要があるんだろうか? と思いました。
すんなり受信箱の問題が解決すればいいのに、とも思いました。
でも、問題に向きあってみたら、びっくりするようなことに気づいたんです。
メールチェックが追いついているときも、実は、何度もあったんです。
数週間ごとに、仕事の構成が変わるので、そのときだけ、受信箱の中にメールがたまってしまうんです。
それも、たった1つのことがきっかけで。
対処したくないたった1通のメールや、忙しすぎて、1日か2日、メールをチェックできないことが原因です。
こういうことが起きると、メールがどんどんたまり始め、私は、恥の気持ちにさいなまれるのです。
メールチェックを避けてしまい、ますますメールがたまります。
悪循環でした。
これに気づいたら、論理的に介入できる場所があるとわかりました。
数週間ごとに、きれいな受信箱がめちゃくちゃになるタイミングに、なんとかすればいいんです。
それができれば、その後も、ずっとメールがたまりません。
ステップ3:いろいろ試す
この気づきを得られれば、次のステップに行けます。
それは、実験です。
生産的な人々は、問題を認識し、ジャッジすることなく観察したあと、問題を解決するために、新しい方法を試します。
これも難しいんです。
先入観がいっぱいあるから、何をどこまで試せばいいのかわからず、身動きできなくなります。
私たちは、自分が馬鹿に見えるのも、他人に弱点を見せるのも、嫌います。
でも、うまくいく方法を見つけられれば、他の人にはわからないことを発見できます。
メールがたまる問題を解決するために、私は、いろいろなことを試しました。
新しくできた喫茶店に行ってメールチェックしてみたり、メールをためこむ自分が恥ずかしいと思う気持ちをやわらげるために、ビジネスパートナーや会社の人々と話をしたりしました。
メールに1回だけさわる方法(one-touch email strategy メールを開けて読んだら、その場で処理してそのメールとかかわるのは1回だけにするやり方)も試しました
日に2回だけメールチェックをしたこともあります。
でも、こうしたことは、メールがたまる問題の根本的な解決にはなりませんでした。
そこで、私は、実験を続け、そのうち、重要なことに気づきました。
他の人を失望させたくないという自分の大きな欲望を、メールがたまる問題の解決に使えるとわかったんです。
他人に助けてもらった
ビジネスパートナーの使っているバーチャルアシスタント(virtual-assistant、オンラインを介して、事務作業をするアシスタント)に、手伝ってもらうことにしたんです。
週に数回、1時間ずつ、バーチャルアシスタントに面倒を見てもらうことにしました。
その時間が来ると、アシスタントがメッセージで、今、受信箱に何通メールがたまっているか、私に聞きます。そして1時間の最後に、またメッセージで、その時、受信箱に何通メールがあるのか私に聞くんです。
私はバーチャルアシスタントを使いましたが、こうした手助けは、日常かかわりのあるどんな人にも、たのむことができます。
似たような問題で困っている家族や友人がいたら、提案してみましょう。
メッセージのやりとりをするのにかかる時間はほんの数秒です。
この方法を思いついたとき、まっさきに「恥ずかしい」と思いました。
仕事をするのに、ベビーシッターのような人が必要だなんて。
そんなことを誰かに頼むときの会話を想像してびくびくしました。
自分の問題を他人に認めるのも怖かった。
バカバカしいと思いましたが、とにかく、やってみることにしました。
メールをためる問題を解決した
やってみたら、週に数回、そういうやり取りをするだけで、ものすごく大きな違いが起きたんです。
アシスタントからメッセージをもらうと、メールチェックを続けることができました。
その結果、メールがたまることがなくなり、受信箱をきれいに保てるようになったんです。
こうして、ほぼ1年間、受信箱がきれいな状態を保っています。
皆さんにこの方法が効果的かどうかはわかりませんが、私には効果がありました。
皆さんには、別のやり方のほうがうまくいくかもしれません。
メールをTo-doリストに送るとか、メールに1回だけさわる方法を使うほうがいいかもしれません。なぜ、メールチェックをしなければならないのか、そこから考えてみるほうがいいい時もあります。
いずれにしろ、実際に試さない限り、うまくいくかどうかはわかりません。
本当の気持ちがわかった
こうした経験から、私は、「実は、機械になんてなりたくなんてなかったんだ」とわかりました。
機械のようにさくさく仕事できないことに、罪悪感や恥の気持ちを持っていただけなんです。
この感情に向き合ったら、すべてが変わりました。
生産性というと、ソフトウエア、ノート、To-doリスト、カレンダー、スケジュール、受信箱に関係があると思うものです。
確かに、そういうものに関係がありますが、私たちの脳や体にも関係があるんです。
感情と、感情が自分をどう動かすか、ときには、どう邪魔をするかに関係があります。
生産性という岩をひっくり返してみると、その下にいろいろなものが隠れていることがわかります。
そこにあるものを見極めることが、私の知っているベストの生産性ハックです。
//// 抄訳ここまで ////
■単語の補足
fall through the cracks 見落とす、見過ごす
indictment 告発、悪いことを示す証拠
生産性に関係のあるほかのトーク
生産性をあげるためのより人間的なアプローチ:クリス・ベイリー(TED)
睡眠と日中の生産性の関係(TED)夜しっかり寝ることは昼間の生産性をあげること。
よりよいワークライフバランスを実現する3つのルール(TED)
効率性のパラドックス~非効率であることが、重要なときがある(TED)
恥の気持ちに向き合う
今回紹介した講演の内容をまとめると、
人の思考や行動は、感情の影響を大きく受けているので、感情とうまく付き合わないと、生産性の問題を解決することはできない。具体的には、問題に気づき、現状を観察し、解決法となりそうなことをいろいろ試すのがよい。
こうなります。
これは、仕事だけでなく、断捨離や節約、貯金などにも言えることであり、過去記事でも似たようなことを書いています。
今回は、恥の気持ちについて少し書きたいと思います。
ダンさんは、機械のようにばりばり仕事をできない自分のことを恥じていたと告白していました。
人間は機械ではないから、機械のように仕事できるはずがありません。だから、そうできない自分を恥じる必要なんて何もないのに恥じていたのです。
これは、ダンさんだけではないと思います。
私たちは、子供のときから、周囲の人(親や先生)や、メディアに、かなり高水準のパフォーマンスをするるよう、プレッシャーをかけられます。
勉強や仕事だけでなく、日常の行いについてもそうです。
英語には、Shame on you (シェイムオンユー)という表現があり、ひじょうによく使われます。意味は、恥を知りなさい、みっともない、恥ずかしくないの、といった感じ。
日本語でも、恥ずかしい、恥知らず、恥を知れ、恥を! とよく言いますよね。
ちょっと失敗したり、うまくいかなかっただけで、いきなり、「恥を知れ!」と言われるんです。
「恥を知れ」とか、「それって、めちゃくちゃ、恥ずかしいじゃないの」と言われ続けて成長すると、ごく自然に、「恥ずかしいことをしてはいけない」「最初からうまくやらなくてはいけない」と、思うようになります。
「恥ずかしいことをしないこと」を重要視する家庭で育つと、その思い込みは相当大きくなるでしょう。
でもこの気持ちが、セルフイメージを悪くし、新しいことに挑戦することを押しとどめます。ダンさんのように、人に助けを求める邪魔もします。
また、ささいなことをすごく恥ずかしく感じて、そういう目に自分を遭わせたと思う相手をすごくうらんだりもします。
恥の気持ちは、現状を、冷静に客観的に観察するときも、邪魔になります。
だから、「恥ずかしすぎる」と思ったときは、自分の思い込みを見直すチャンスです。
「恥ずかしい」「屈辱的だ」「メンツをつぶされた」と思ったら、どうして恥ずかしいのか、考えてみてください。
本当に恥知らずなことをしている場合もあるでしょうが、多くの場合、ただ、自分が「恥だ」と思っているだけで、実際はそこまで大騒ぎするようなことではありません。
恥の気持ちとうまく付き合えるようになると、ストレスが減るし、もっと生産性もあがるでしょう。
恥については、こちらのTEDトークの記事も読んでみてください。
不安な心(ヴァルネラビリティ)に秘められたパワー:ブレネー・ブラウン(TED)
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1時間の最初と最後に、受信箱にあるメールの数を人に聞いてもらうだけで、ダンさんは、メールチェックをちゃんとできるようになりました。
この方法は、断捨離にも使えるかもしれないですね。
たとえば、書棚に1000冊ある本を100冊まで減らしたいときなどに。
断捨離で行き詰まっている人は、誰かに現状を報告しなければならない状態を作るといいかもしれません。