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安い服ばかり血眼になって買い求め、結局ゴミにしている人におすすめのTEDの動画を紹介します。
タイトルは、The Wardrobe To Die For (死ぬほど欲しいワードローブ)。プレゼンターはジャーナリストのLucy Siegle(ルーシー・シーガル)さんです。
死ぬほど欲しい服
to die for はイディオムで、「死んでもいいぐらい」「死ぬほど素敵な」という意味。よく洋服やおいしいスイーツの形容に使われます。
To die for はルーシーさんの著書のタイトルでもあります。
消費者にとっては、「安くて可愛くて死ぬほど欲しい服」であり、バングラデシュの縫製工場でその服を縫っている女性たちにとっては、文字通り命をかけて作っている服、という意味をかけているのでしょう。
このプレゼンではさまざまな数字を使って、ファストファッションの問題点を浮き彫りにしています。
動画は17分58秒。英語字幕を表示させることができます。日本語の字幕はないので、抄訳を書きます。
※TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ファッションは使い捨てになってしまった
現在のファッション産業の状況をさまざまな数字を使って紹介します。
私自身、ファッションは大好きです。スタイルに興味がありますし、ファッションを使って自己表現するのは素敵なことです。
しかし、現在、ファッション業界において問題になっていることがあります。
毎年世界中で800億の服が製造されています。これは概算です。一方で、毎年200万の服がランドフィル(ゴミ捨て場)に捨てられます。
ということは、今や洋服はかなりの部分使い捨てられている、と言えます。
私が自分の洋服の棚卸しをしたところ、19着もジーンズを持っていました。
皆さんもご自身の服の棚卸しをしてみてください。
「べつに私はファッショニスタではない、ファッションや服が好きなほうではない」と思っている人も、意外にたくさん服を持っていてびっくりすると思います。
私の所有していたジーンズは19着。この数字は重要です。私は特に何も考えず、ふつうに買い物をしていました。
でも環境への負荷を考えると、この19という数字は重大なのです。
ジーンズ1本を作るのに必要な綿を生産するには、1万1千から2万リットルの水が必要ですから。
そこで、私はファッション産業についてもっと調べてみました。
ファストファッションの台頭で業界が変わった
ファッション産業は、食産業とエネルギー産業をのぞいて、もっとも環境に負荷をかけている産業です。
私たちはみんなファッションアディクトです。過去20年間、急成長したファストファッションのせいでそうなりました。
ファストファッションが生まれてから、ファッション業界は全く新しいシステムになったのです。
コレクションで発表されるモードが、短期間にハイストリートファッションになります。UKはこの傾向が強いです。ということは、私たちはファストファッションを歓迎していると言えるでしょう。
ファッションの見た目ではわからないことがあります。過去20年でいかにファッション産業が変わってしまったのか、知らない人も多いでしょう。
ファッションウィークでは、秋冬物と春夏物が発表されます。2つのシーズンです。
ところが、ファストファッションを製造する企業が繰り出すシーズンは、年間52シーズン。つまり、毎週新しいトレンドの服を送り出しているのです。
毎週新しいスタイルの服が、店舗やネットショップに入荷されます。
これを churn (チャーン 回転商い)と呼ぶ人もいます。
ファストファッションやハイストリートファッションだけが、トレンドのサイクルを早めているのではありません。今や、高級服を作るブランドも影響を受けています。
私たちはチープな服をまとめ買いする
今、私たちは安い服をまとめ買いします。
私の同僚が、プライマーク(PRIMARK ヨーロッパで人気のファストファッションのチェーン)の外で、服がいっぱい入った紙袋を4つ持って店から出てきた若い女の子を見ました。
どこの店の外でも見られる光景ですね。
プライマークでは紙袋を使っており、たまたま激しい雨が降っていたのでその女性の袋がすっかり濡れて破れてしまいました。
買ったばかりの新品の服がそのあたりに散乱しましたが、その女性は服をそのままにして、歩いていってしまったそうです。
もし服を使い捨てるものとして作るなら、最初からゴミとして扱うべきですよね。
もちろん、もっと高価なものにはこんなことをしないでしょう。
ですが、同じようなことがファッション業界で起きているのです。高級服を作っている世界のデザイナーも、年に2シーズンだけでなく、プレ秋物、リゾートコレクション、ヨットコレクションなんてのを作っています。
ファストファッションの現状
スペインのインディテックス社のブランド、ザラ(Zara)は毎年8億4千万着の服を作っています。これも概算です。すごくたくさんの服です。
年間、4万5千のデザインをしています。
ファストファッションを扱う店では、一度商品を入れたら、同じものをまた入荷するということはしません。次に入るのは全く新しいラインの服です。
インディテックス社のオーナーのアマンシオ・オルテガは世界の長者番付で3位です。世界で3番目に金持ちなのです。
このヨットに乗っている男性はフィリップ・グリーン(トップショップのオーナー)です。
これはステファン・パーソン(H&MのCEO)がまるごと買ったイギリスの村です。
ファストファッションがどれだけ利益を出すビジネスなのかお伝えするために写真を見せました。もちろん、お金を稼ぐことは違法ではありません。
ただ、不平等なさまを見せたいと思って紹介したのです。
というのも、本当に骨身を削って、ファストファッションの回転商いを支えている人たちはバングラデシュなどの発展途上国にいるからです。
バングラデシュでは、GDPの80%を、縫製業で得ています。金額にすると2千億ドルです。
この国の経済はファストファッションに頼っているので、取り去ってしまうなんてことはできません。
縫製工場でこんなふうに服が作られている
洋服を作るプロセスは101ありますが、そのうち6~8の工程をバングラデシュにあるような縫製工場で担当しています。
布地の裁断、縫製、トリミング(バイアス布やレースなどで縁飾りをしたりすること)です。
バングラデシュでこの仕事をしているのはほとんどが若い女性で、その数は300万人ほどです。この工程は衣類のサプライチェーンのコアにあたる部分です。
大きな工場にプロダクションラインが置かれ、女性たちが1着をミシンで縫う時間は48.5秒。これは推定です。1着につき縫い目を見る時間は48秒たらず。そして同じことを何度も何度も繰り返します。
バングラデシュ、特にダッカですが、ここに5600の縫製工場があります。それに対してインスペクター(業務内容を監査する人)は200人未満です。
ラナプラザ・ビル倒壊事故
1911年、トライアングル・シャツウェスト工場で火災が起きました。これは縫製業界における大きな悲劇の1つです。ニューヨークの、縫製工場がたくさんあった界隈でのできごとです。
この火災では18分に146人が亡くなり、この業界で起きた最悪の事件でした。火災がきっかけで、労働条件の改善のために、大きな動きが生まれました。
今でも、毎年この事件が起きた日には、記念行事が行われています。
ところがバングラデシュなどで、大勢の命が奪われても、誰も気にとめないのです。月に1、2件は死亡事故が起きているのに、そのことについて誰も語りません。
しかし、この数字は無視することができないでしょう。
4月24日、ラナプラザで1133人が亡くなりました。ラナプラザは、トランプで作った家のように、崩れてしまったのです。
事件当時2000人の人々が中で働いていました。このビルは、縫製だけでなく、ほかの業種にも使われていましたが、亡くなったのは縫製ワーカーです。
というのも彼らは、ビルの中に戻れと言われたのです。これはよくあることです。何が起きても、縫製ワーカーはビルの中にいなければならないのです。
ビルが倒壊したとき、世界のニュース記者は、初めて、ここで働いている人たちにインタビューできました。そのとき彼らは瓦礫の下にいたのです。
この事件で怪我人が2500人出ました。また、火災のため、両親を失ったり、収入が途絶えてしまった子供たちの数は700人です。補償問題に関する闘いは今も続いています。
悲劇が起きているのはバングラデシュだけではない
この事件によって、自分たちの服を作っている人が誰なのか、それがどこから着ているのか、皆が考えるようになりました。
サプライチェーンで起きている問題は、縫製工場で行われていることだけではありません。
これはウズベキスタンの綿花の畑。
綿花を摘み取るとき150万人の子供たちが労働させられています。毎年9月の収穫の時期に児童労働が行われているのです。
これはウズベキスタンの大統領の娘、グリナラです。ファッションウィークで、自分のコレクションを発表したときのもの。
ファッション産業の華やかさは、裏にある奴隷のように働かされている人々を隠しているのです。
グリーンカーペットチャレンジ
この状態を改善することはできるのでしょうか?
できます。
皆がタイダイの服を着るのを嫌がったり、自分の服は自分で作らなきゃいけないのかと思ってしまい、サステナビリティ((持続可能、人や環境に負荷をかけないこと))を支持する運動は少し弱くなっています。
ですが、私は友人たちと、グリーンカーペットチャレンジを始めました。
今後30回着ると思わない服は買わないでください。
私たちは、デザイナーにエシカルな服を作るように求めています。これまでレッドカーペットに40着のサステイナブルなドレスを送り込みました。
ファッション業界の人や編集者たちに、「みんなが、持続可能なドレスの供給を求めて、しっかり見ていますよ」ということを知らしめています。
サプライチェーンと共同で活動したいと思い、レザーの製造状況をチェックしました。毎年、110億足の靴が生産されています。
皮の60%が靴に使われます。
靴に「メイド・イン・イタリー」と書いてあると、イタリア製だと思うかもしれませんが、ありえません。イタリアにそんなに牛はいません。
皮はたいていブラジルか中国から来ています。ブラジルでは牛肉や皮を製造するために、森林を破壊することが問題になっています。
そこで、環境に負荷をかけないクリーンな皮を使った製品の製造、販売を促進したいと思っています。
100以上の企業が、「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定」に署名しました。
みなさんも、気をつけてほしいと思います。ファッション業界で何が起こっているのか。どこで服を買うか、どの企業がどんな協定に署名をしたのか、そういうことです。
イギリスで6ポンド(2016/12/12の換算で870円ぐらい)で売っているTシャツのうち、縫製ワーカーの取り分は2ペンス(2円か3円)です。もし6ポンド2ペンス払えば、彼らの収入が2倍になります。
4月24日という日付を覚えておいてください。ラナプラザの火災のアニバーサリーです。そして、この日はファッション・レボリューション・デーでもあります。
—- 抄訳ここまで —–
関連語句の説明
ハイストリートファッション:一般人が買える高級ファッション。つまりファストファッションです。
最新モード(トレンド)のデザインの服を、低価格で消費者に提供するブランドやその商品をさします。
サプライチェーン(supply chain):ある商品を作るために、部品や原材料を調達するところから、製造、在庫管理、配送、販売など、消費者のところにその商品が届くまでの一連の流れ。
アマンシオ・オルテガ(Amancio Ortega):Zaraを擁するインディテックス社の創業者。2014年当時では長者番付で3位だったようですが、2015年の秋にはビル・ゲイツを抜いて1位になりました。
オルテガさんは貧しい家の生まれで、しかも義務教育を受けただけ。
最初はシャツ屋さんで雑用をしていましたが、その後、ザラを設立し、一代で大きな事業を成功させました。
彼の経営哲学を研究している人もたくさんいます。
フィリップ・グリーン(Philip Green):イギリスのファストファッションのブランド、トップショップのオーナー。他にもさまざまな事業を手がけています。高校中退から今の地位に上り詰めました。
ファッションの学校(アカデミー)を作ったり、イギリスのファッション業界を盛り立てたので、2006年にナイト爵位をもらって、フィリップ・グリーン卿になりました。
しかし、近年彼が買収した「ブリティッシュ・ホーム・ストアーズ(BRITISH HOME STORES)という百貨店のチェーンの経営に問題が見られ、爵位を剥奪されることが決まりました。
ステファン・パーソン(Stefan Persson):スエーデンのH&Mの会長。
この人も金持ちです。お金がある人にありがちな、不動産投資をやっており、動画で言っていたように、イギリスの小さな村をまるごと買ったり(40億円だったとか)、パリ市内の有名ブランド店が並ぶ1ブロックを買ったりしています。
まあ、それだけファストファッションは成功すればもうかるのでしょう。
社長が自社の株をたくさん持っているようです。
というのも、アパレル業は、生産も販売も自分のところで一括でやれるので、資金繰りがラクなのです。それに、バングラデシュの労働者をあんなふうに働かすことができれば、いくらでも原価を下げることができます。
トライアングル・シャツウェスト工場の火災:1911年3月25日、ニューヨークのマンハッタンの縫製工場で起きた火災。
このときの犠牲者は16歳から23歳の若い縫製ワーカー。犠牲者の大半はユダヤ人やイタリア人の移民女性。
このビルの持ち主は縫製工たちが、勝手に外に出て休憩したり、物を持ち出すのを防ぐために、階段の吹き抜けや、出口に向かうドアに鍵をかけていました。
当時としては、ふつうのことだったそうです。
だから火が出たとき、逃げられなかったのです。多くの労働者が、8~10階あたりから飛び降りたそうです。
ちなみに、ラナ・プラザで亡くなった人たちも、ビルがくずれかけたとき、びっくりして外に出たのですが、ボスに中に戻るように言われたのです。
「戻って仕事をしないと月給をやらない」と言われたみたいです。
ビルが崩れようが火が出ようが、ミシンで服を縫わないと納期に間に合わないんでしょうね。ファストファッションですから。
グリナラ・カリモヴァ(Gulnora Karimova):ウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領の長女。ひじょうにきれいな人でヨーロッパの社交界の花。
ウズベキスタンの文化問題担当外務次官。アパレル業や宝石デザインなどのビジネスや慈善事業にも熱心です。
2015年に、ウズベキスタンでの業務展開に便宜をはかるために、スカンジナビアとロシアの電気通信の会社から、賄賂をもらった疑いをかけられました。本人は否定していますが。
ルーシーさんの本、キンドル版です。
ファストファッションに関する記事
ファストファッションや持続可能なファッションに関しては、過去記事を参照してください。
「真の代償」The True Costはファストファッションの真実を暴く映画 ~これでもあなたは安い服を買い続けますか?
『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』11月日本で公開。服を買い過ぎる人は必見です
エシカルファッションの追求と節約を両立させる方法はある?私は買わない選択をした
私たちは服をたくさん買うように仕向けられているだけ
私が若いころは、今と比べると服はずいぶん高かったです。それでも、私は給料のほとんどを使って服をたくさん買っていました。
だから、服の価格が安い今、どんどん買ってしまう気持ちはよくわかります。
しかし、バングラデシュの惨状や、ファストファッションの非人道的なビジネスモデルが明らかになった以上、これまでのようにどんどん服を買い続けるのは、間違っている、といって差し支えないでしょう。
このビジネスモデルをサポートしたい人なんて誰一人いないはずです。
ルーシーさんが言うように、「30回着るつもりのある服だけ買う」という方法がいいと思います。また中古品を買うのもいいですね。
昔、ファッションはデザイナーが作っていたと思います。ところが、今は、各国の優秀なビジネスマン(実業家)やマーケッターが作っているのではないでしょうか?
そうでなければ、毎週のように新しい服が売り出され、人々がそれを買い求め、着ない服がどんどんゴミ捨て場にたまるなんてこと、起きません。
本当にファッションを愛している人はそんなふうに服を粗末に扱うことはないでしょう。
別に、そんなにくるくる新しい服を買ったり着替えたりする必要なんてないのです。
着回ししろとか、コーディネートしろというのは、服を売りたい人たちが考えたことです。雑誌に「おしゃれなコーディネート」「着やせコーディネート」「もてもてコーディネート」などが紹介されていても、真似しないでください。
雑誌の収入源は広告なので、広告主の意志に逆らえないのです。それだけのことです。
現代人の価値観や、考えること、行動パターンは、自分たちの心から生まれているものではありません。
すべて巨額の富を持っている大企業にコントロールされている、と言ったら言い過ぎでしょうか?