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完璧を求めず、平凡であることを受け入れれば、比較や競争から解放され、より満たされた人生を送れる。
そう教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、Why You Should Embrace Mediocrity(なぜ、平凡であることを受け入れるべきか?)
社会言語学者の Crispin Thurlow クリスピン・サーロウ)さんの講演です。
平凡を大事にする:TEDの説明
【英語原文】From “elite” pickles to “premium” baby diapers, marketers are constantly telling us to seek superiority — but “by the simple law of averages, most of us have to live a life more ordinary,” says sociolinguist Crispin Thurlow. He invites us to embrace mediocrity for a change, offering a different path to contentedness without comparison.
【日本語訳】エリートピクルスからプレミアム紙おむつまで、マーケッターは常に私たちに上を目指すよう言います。しかし、「単純な確率の法則からいえば、私たちのほとんどはごく普通の人生を送ることになる」と社会言語学者のクリスピン・サーロウは言います。
彼は、平凡であることを大事にし、「比較するのではなく、満足する」という違う道を示します。
収録は2022年の5月、動画の長さは10分40秒。動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプションはこちら⇒Crispin Thurlow: Why you should embrace mediocrity | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
とてもわかりやすい英語です。
エリートホテルに対する息子の言葉
数年前、仕事でストックホルムに出向きましたが、学校が休みだったので14歳と12歳の子どもも連れて行きました。
地元の同僚は私たちに、「エリートホテル」という名のホテルに部屋を取ってくれました。
スウェーデンの大きなホテルチェーンです。
部屋に入ったとき、長男が不満そうに言いました。「これ、エリートじゃないよ」と。
息子が何を言いたいのか気になり聞いてみました。
「エリートと呼べるほど部屋が広くない」と息子は言いました。
このとき息子が、日常使う言葉に関して、とても重要な2つのことを学んでいることに気づきました。
ひとつは、言葉には大きな影響力があるが、意味はあいまいなことが多く、つかみどころがないということ。
もうひとつは、優越や比較の言葉は、幻滅をもたらすこともあるということです。
現代社会では、優位、特別、成功に関するメッセージがあふれています。一番の生徒、勝者、リーダーを目指すべきだと。
私はこうした社会で、実際、何が起こっているのか、どうやって暮らしていくべきか考え始めました。
ステータス不安(Status Anxiety)
「上を目指せ」という言葉すべてが、哲学者アラン・ド・ボトンが「ステータス不安」と呼んでいる大きな不安につながります。
ステータス不安は、「自分は十分ではないのかもしれない」「もっと優れた人間にならなければ」「もっとよいものを持たなければ」と常に感じるために生まれる不安です。
でも、現実は、誰もが、トップの生徒、勝者、リーダーになれるわけではありません。
単純に確率の法則を考えれば、私たちの大半は平凡な人生を送ります。
だからこそ、私は「平凡」という概念を見直し、むしろ積極的に捉え直すべきだと考えるようになりました。
そして「平凡であることを受け入れる」チャレンジをすることにしました。
「平凡」という言葉を再定義する
「平凡」という言葉には、「平均的」とか「たいしたことがない」という否定的なイメージがつきまとっているのはよく知っています。
社会心理学者である私は、この言葉の起源を掘り起こし、べつの意味をもたらさないか考えてみました。
平凡(mediocre)の語源は、インド・ヨーロッパ語族の “middle”です。平凡(mediocrity)は両極端の間で、平均的、特別ではない、普通という意味です。
先ほども言いましたが、統計的に、平均的な人生になるのは多くの人にとって避けられません。
「中間」はそんなにひどい場所ではありません。一番上ほどよくはないけれど、一番下ほど悪くもない。
重要なのは、自分の平凡さや平均的であること、普通であることを自覚しつつ、それを理由に、他人に、自分が「失敗した人間」や「敗者」だと思わされないことです。
優越と比較をあおる言葉がもたらすもの
とはいえ、この行動は、口で言うほど簡単ではありません。
特に現代は、「一番になれ」「もっとよくなれ」という声が四方八方から押し寄せて来ますから。
私たちは常に、優越と比較をあおる言葉にさらされています。
私は、社会言語学者として、こうした言葉がどのように使われ、どのような影響を与えているのか、長年追い続けてきました。
このような言葉は絶え間なく繰り返されるだけでなく、知らないうちに巧妙に社会に入り込みます。
この状況を伝えるために、実例を2つお伝えしましょう。
どこにでもある「エリート」
最初は「エリート」という言葉です。
ストックホルムのホテルの例にもあるように、この言葉は世界中どこにでもあります。
たとえば、デンマークのエリート食料品店、シアトルのエリートネイルサロン、UKのエリート電話店、ポーランドのエリートベーカリーなどなど。
このような店は、実際は「エリート」には見えません。
このトークを聞いた後は、皆さんもあらゆる場所で「エリート〇〇」を見つけるでしょう。
それぞれの「エリート」がいったい何を意味するのか、よくわかりませんよね。
現代は、「エリート」という言葉が、さまざまな商品やサービスに貼り付けられ、「何でもあり」で、何の意味もない状態になっています。
こうした現象は一見無害で、遊び心があるように思えるかもしれません。
でも、このように「エリート」であることをしつこく追求するのは、「優越であることが重要だ」「常にステータスを意識するべきだ」という価値観を私たちに植え付けようとします。
さらに、何にでも「エリート」をつけると、「優越は簡単に手に入る」という錯覚も与えます。
優越や比較を示す言葉は、ビジネスにとって非常に都合がいいです。
私たちに「もっと上を目指したい」という欲求を抱かせますから。
上を目指すことは、ものを買うことに直結します。
このような言葉が、私たちに、絶えず「よりよいもの」を求めさせ、消費へと駆り立てているんです。
マーケティングする側は、私たちに、最高を目指させる必要すらありません。「今より少しでもよくなりたい」という気持ちで十分ですから。
「プレミアム」が意味するもの
2つ目の言葉は「プレミアム」です。
典型的な例は、多くの国際航空会社が提供している「プレミアムエコノミークラス」。
実は、プレミアムエコノミークラスは、航空会社にとって、ビジネスクラスよりも利益率が高いんです。
もっとおもしろいのは、「プレミアム」という言葉そのものが、「最高のものではない」ということです。
「プレミアム」は、「ほんの少しだけ上」「ちょっとだけ特別」という意味です。
特に、「ほかの人に比べて、少しだけ優れている」という感覚を与える言葉がプレミアムなんです。
マーケティングの世界では、こうした心理をたくみに利用します。
人は、「ほかより少しいい」と感じられるものに喜んでお金を払います。
たとえ、満足感が続かなくても。
「プレミアム」は、とても平凡なものにも使われています。
たとえば、スウェーデンのプレミアムチョコレート、スペインのプレミアムチップス、オーストラリアのプレミアムコーヒー、デンマークのプレミアムバーガー。
プレミアムパズルやプレミアムヘアカット、プレミアム紙おむつもあります。
ほかのものに比べて、ほんの少しいいことを表しています。
こうした比較は幻想に基づいています。比較していい気分になっても、その気持ちは長続きしません。
このような言葉の使い方は、社会学者のピエール・ブルデューが言う「象徴的暴力(Symbolic Violence)」のいい例です。
要するに、私たちは、自分のためにならないときでも、言葉に操られてしまうのです。
社会的に比較するのは本能的なことだとしても、その結果として残るのは、不安、劣等感、満たされない気持ちです。
常に、「もっといいもの」や「もっと優れた誰か」は存在しますから。
平凡であることに価値を見つけよう
ではどうすれば、自分自身に、「象徴的暴力」をふるわなくて済むのでしょうか?
これが、私にとって一番大きな問いでした。
そして、何度も考えた末にたどりついたのが、「平凡こそが鍵になる」という考え方です。
「平凡であることを受け入れ、大事にするのは、極端な意見だ、違和感がある」と思う人がいるのは理解できます。
でも、私が言いたいのは、平均的であることは避けられないと受け入れ、特別でないことに、価値や特権を見出すことです。
そのために、「一番にならなくてもいいんだと」自分に言い聞かせる必要があります。
実際、「よりよい誰か」にならなくても、「よりよいもの」を持たなくても大丈夫なんです。
とは言え、優越と比較の言葉がようしゃなく降り注ぐ現代社会で、普通であるためには決意と本当の勇気が必要です。
//// 抄訳ここまで ////
比較に関するほかのプレゼン
オレンジ対バナナ:人と比べることで生じるダメージとその修復(TED)
あなたは十分ではないと言うこの世界で、いかに自分を愛するか(TED)
完璧であろうとする危険なこだわりがどんどん増えている(TED)
自分にとってちょうどいい暮らし
このトークはシンプルに暮らしたい人にとって多くの洞察を与えてくれます。
私は以下のメッセージを受け取りました。
1.「もっといいもの」を求め続けるときりがない
今持っているものよりもっといいもの、便利なものを探し続けると、いつまでたっても買い物が止まりません。
手に入れたものをしっかり使うことにフォーカスすれば、余計なものは増えません。
2.完璧を目指す必要はない
メディアのおすすめに従って、「最高の環境」「完璧な片付け」「理想の暮らし」など、完璧を求めようとがんばるとストレスが増えます。
実際は、完璧なものなどどこにもありません。
平凡であることを受け入れれば、気持ちがラクになり、シンプルライフを楽しむことができます。
3.比較は無意味
「あの人のようにもっと広い家に住むべき」「この人のようにもっとおしゃれな服にすべき」。こんな比較は不要です。
大切なのは、自分にとってちょうどいい暮らしやものを見つけることです。
4.メディアやマーケティングの言葉にまどわされない
「プレミアム」「限定」「特別」などの言葉は、購買意欲を刺激する単なる仕掛けです。
売り手側が、勝手に「プレミアム」と決めて、そう呼んでいるだけ。
そうした言葉に惑わされて、余計なものを買うのはやめましょう。
5.シンプルな生活を続けるには「勇気」も必要
サーロウさんが言うように、「平凡でいいんだ」「何もかも手に入れなくてもいい」「他人と違ってもいい」と心に決めるには覚悟がいると思います。
周囲は、「もっといい暮らし」を求めましょう、「もっとすばらしいあなた」になりましょうと、メッセージを送り続けるからです。
SNSで見る「もっと素晴らしい生活」に影響を受けることも多いでしょう。
親や友達に「向上心がない」と馬鹿にされても、自分を貫いてください。
そうすれば、より自由で穏やかな暮らしが手に入ります。
6.言葉には影響力がある
日常的に使う言葉や聞く言葉は、自分の価値観や行動に大きな影響を与えます。
言葉は単なる情報伝達の手段ではなく、私たちの思考の枠組みや世界の見方を形作るからです。
だから、自分が使う言葉やふれる言葉に注意してください。
たとえば、ものを捨てるときや、買い物をするとき、いつも自分がしている言い訳をべつの言葉に変えれば、これまでとは違った行動をすることができます。
断捨離中に言ってはいけない12のNGワード。言葉が思考を作り現実を変える。
・・・・あなたはこのトークから何を学びましたか?
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平凡であることを受け入れることをすすめるTEDトークを紹介しました。
これは、たっぷりあるマインドにも通じる考え方です。
たっぷりあるマインドになるおすすめの練習法6つ~もう十分ある、と考える。
「平凡は最悪ではない」とトークで言っていましたが、普通でいられることはとてもありがたいことです。
もっといいもの、もっと上のほう、と自分が持っていないものばかり追い求めていると、そのありがたさに気づくことができません。