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アメリカのミニマリスト、ジョシュア・フィールズ・ミルバーンとライアン・ニコデマスが製作したドキュメンタリー映画、 Minimalism (ミニマリズム)を Netflixで見ました。感想をお伝えします。
2人のまっすぐな気持ちがすがすがしい良い映画だと思いました。
正式なタイトルは、Minimalism: A Documentary About the Important Things (ミニマリズム:大切なものに関するドキュメンタリー)
この映画は、2016年の5月にアメリカで公開されました。日本では全く話題になっていないようなので、公開されていないのでしょうね。
アメリカでもハリウッド映画みたいに大々的に公開されたわけではありません。ジョシュアとライアン、その他の有志が作った映画なので、宣伝する予算もそんなにないでしょう。
日本でミニマリストが流行っているといっても、アメリカのミニマリズムのムーブメントとはやや違う気がするので、公開されないかもしれません。
ではまず予告編をごらんください。
ミニマリズム・予告編
予告編の英語を簡単に和訳します。
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みんな、物を手に入れるのにすごく時間をかけています。でも特にそれが自分たちのためになっているわけではありません。ただただ追い求めるのに必死です。そしてみじめになっています。
ニュースのアナウンサー:ブラックフライデーのショッピングマニアが、今夜、アメリカのショッピングモールに繰り出しています。セールでホリデーギフトを安く買うために必死です。
私たちは心を失ってしまう文化の中にいます。
アメリカンドリームを叶えることは、物質的に豊かになることである、と人々が考えるようになってしまったのは間違いありません。
これはきのうや今日始まったわけではありません。100年以上前から、荒稼ぎしたい人たちによって、思い込まされているんです。
テレビのCM:おお、これこそ私が言う、かっこいい車だ。
みんな、執着してるんです。でも新しいバージョンが発売されると、もう前の物は忘れてしまいます。むしろ、古い方は不満の種になります。
人々はだまされていることに気づき始めています。
自分で気づかない限り出口はありません。消費を拡大したところで、決して幸せにはなれないのです。
[タイトルバック]
The Minimalists Present(ミニマリスト提供)
「準備はいい?」「準備万端さ」
消費が悪いというわけではありません。取り憑かれたように消費してしまうのが問題なのです。
そうするべきだから、と物を買い集めることにうんざりしています。
ミニマリズムは単に物を捨てることではありません。自分の人生をコントロールすることです。こうすべきだ、と言う声を聞くのはやめて、自分がしたいことは自分で決めるのです。
所持品を減らし始めたとき、51個だけでいいとわかりました。
私たちは、所持品の少なくとも90%を売るか寄付するかしました。
物を減らし始めてようやく自分は何を犠牲にしていたのか気づいたのです。
アメリカの家庭でもっともよく聞かれる3つの言葉って、確かじゃありませんが、たぶん「愛してます(I love you)」か「それ欲しい(I want that)」じゃないですかね。
人を幸せにしてくれないものが、同時に、地球を脅かしています。
いろいろとあきらめるべきですが、本当のことを言えば手放しても惜しくないものばかりです。
ミニマリズムについて知ったとき、それは「この狂気を止めよう」ということだと思いましたね。
自分の人生は自分のものです。たった1つしかないと気づき、腑に落ちれば、すべてが変わります。
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ブラックフライデーとは感謝祭の翌日の大セールです。ウォルマートなどでは物の奪いあいが起こり、死傷者が出ることもあります。詳しくはこちら⇒ブラックフライデーとは?大勢のアメリカ人が命がけで買い物をする日の由来
ドキュメンタリー「ミニマリズム」の内容
Minimalism は ジョシュアとライアンが、2014年に10ヶ月おこなった本のプロモーションツアーの様子を追いつつ、合間合間に、さまざまな人たちへのインタビューをはさんだ構成です。
独身で旅をしている人、家族、建築家、ジャーナリスト、アーチストなどさまざまな人が、自分たちの実践しているミニマリズムを紹介。
また、社会学者、脳神経学者、作家、その他専門家も大勢インタビューに答えています。
ジョシュアとライアンは、Everything That Remains というはじめての著書を発売して、すぐにこの本と自分たちのメッセージを伝えるために、本のプロモーションツアーに出ました。
2人については過去記事で紹介しています。
『minimalism 〜30歳からはじめるミニマル・ライフ』の感想~50歳のおばさんにも使える方法
物を持たないと、より豊かに生きられる。ミニマリストの体験(TED)
捨てる生活が夢を叶える。ミニマリストに学ぶ手放す技術(TED)
インタビュー部分では、ミニマリストたちは、物がいっぱいあったときはつらかった、お金を稼ぐために仕事ばかりしていた、病気になってしまった、減らしたら身軽になった、心から笑えるようになった、といった体験談をします。
学者や研究者は、アメリカにおける商業主義や消費主義が、環境のみならず、人々の心も壊していると訴えます。
プロモーションツアーをがんばる2人
ジョシュアとライアンは、本屋やショッピングビルのホールみたいなところで、ミニマリズムについて語ったり、本を朗読します。
街から街へ車で移動するので、ロードムービーの味わいもあります。
ツアーを始めてすぐは、ブログでは反響を得ていたものの、街中では全く知られていなかったようです。一番最初に映るイベントではお客さんがまばらです。
2人は「1人でもお客さんがいればしゃべる」と言っており、実際、観客が2人だけ、ということもあったそうです。
野外のブックフェアのサイン会で、お客さんが全く来ない様子も映ります。
最初のほうのイベントの観客席にはシニアが多く、だんだん若い人がまじっていきます。ツアーをしているあいだに、マスコミで話題になったのかラジオやテレビに出たりもします。
2人がこんなドサ回りというか、新人歌手の下積みみたいに、いろいろな場所で講演をしていたことをはじめて知りました。
この2人、本を売りたいからこんなことをしたわけではありません。「ミニマリズムの良さを皆に伝えたい」という強い信念があるのです。まるで伝道師のようです。
テレビに出演している様子をカメラは淡々と追っています。
テレビ局の人は、べつにミニマリズムに興味なんてありません。ただ話題になっているから(お金になるから)呼んで、適当にインタビューするだけです。
日本のワイドショーも同じだと思いますが、事情をよく知らないキャスターがしょうもない質問をすることがありますよね。
NBCのToday(トゥデイ)という有名な朝の番組に出演したとき、女性キャスターが、「たとえば、の話なんですけど、もしあなたがマキシマリストと結婚したらどうなるんでしょうか?」という核心からずれた質問をします。
もしかしたら、視聴者はそういうことを知りたいのかもしれませんが。
そういうインタビューでも嫌な顔をせず、2人は誠実に答えています。
同じことを何度もしゃべったり、似たような質問に何度も答えるのって、相当苦痛だと思います。しかし、2人は行く先々で、前向きに自分たちのメッセージを伝えようとします。
著書を読んだときも感じましたが、この2人、すごくまっすぐなのです。
ラスベガスのイベントでは、質疑応答の時間に、黒人のおじさんから「ミニマリストって結局、世捨て人や修道士になることだろ。そんな人が増えても世の中は何も変わらんよ。あんたらのやってることは、システムの脅威になるだけじゃないか」と怒鳴られます。
これに対して、ジョシュアは、「消費が悪いわけじゃありません、極端な消費がよくないのです」と答えています。
終わってから、ジョシュアは「いい質問をありがとう」とおじさんに言い、ハグをします。おじさんも、「どんな質問にもまじめに答えるのは感心だ」と2人をほめます。
この2人、いつも観客にハグをするので、本当に伝道師のようです。
別のテレビ局では、ジョシュアがミニマリズムについて熱弁をふるったあと、インタビューしていたアナウンサーが、「はいはい、わかりました。きみたち、やりすぎないようにね。きょうは買い物はしないように」と冷たく答えます(でも顔は営業用のスマイル)。
さすがのジョシュアも、このアナウンサーにはハグするタイミングを失っていました。
インタビューでは商業主義・物質主義を問題視
インタビュー部分では、いかにアメリカ国民が物を買うことに必死になっているか、それが社会的にどんな問題を生み出しているか、ということをテーマに人々が語っています。
それぞれの立場から、消費主義を批判しています。たとえばこんな論旨です。
1.社会が「幸せとはできるだけたくさん物を持つこと」というメッセージを送り、人々はそう思い込まされて、何も考えず、物を買い続けている。
2.メディアや広告が、四六時中国民に刺激を与えている。国民はその刺激に反応しているだけ。そのありさまは実験室の中のラットと同じだ。
3.テレビや雑誌で映し出されるのは金持ちだけが実現できるゴージャスな世界。そういう生活が幸せの形なんだと人々は思い込み、それを手に入れようとする。
ほかにも選択肢があることを忘れている。
4.企業が小さな子供に宣伝しているのはジャンクだけ。食べものもジャンクなら、おもちゃも安物でジャンク。そこにあるのは性差別と暴力のみ。
政治的な力を持つ人が、社会的には何の恩恵もないネガティブな広告を平気で流している。
5.ノキアのリサーチによると、人々は1日に150回スマホや携帯をチェックしている。これだけ気が散っていたら、まともなことは何も考えられない。
6.今、西側の人たちは、歴史上、もっとも生活水準が高いのに、なぜ人々はもっと欲しがるのか?これは動物にある、生理的なニセの渇望ではないか。
本能的にもっともっとと求めることは、過酷な環境にいた原始人を含む動物の生存には役立っていたが、今は人々をバラバラにする(disconnect)だけだ 。
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いろいろな場所で自分なりにミニマリズムを実践している人がたくさん登場し、タイニーハウスやファストファッションの問題、プロジェクト333、瞑想なども紹介されるので、ミニマリズムに興味を持っている人には、いろいろと参考になる映画です。
映像や音楽もきれいです。
ただ、なぜ物を減らすことが、消費に明け暮れる生活よりいいのか、それのどこが幸せなのか、というところは、あまり説明されていません。
ですから、物を減らすことを試したことがない人には2人のメッセージは伝わらないかもしれません。
実際私も、シンプルライフやミニマリズムというコンセプトを全く知らない人から、「物を捨てると、いったい何がそんなにいいんですか」と聞かれることがあります。
消費のスピードを落とし、少ない物で減らすことの恩恵は、実際に自分でやってみないとわからないのです。
人々はあくまでも、「物がたくさんあったほうがいい」「必要なものがあったら(必要でなくても)物を買いにいくのは当然のことだ」と思っていますから。
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映画の中に、もとウォールストリートの金融ブローカーで、20代にして大変な高収入を得ていた人が登場します
ある年の大晦日、彼は上司のオフィスで昇進を言い渡されました。役職がつくことを知った彼は、自分のオフィスに戻ったとき涙が出たそうです。
嬉し涙ではなく、悲しみの涙です。
彼は「昇進したら、もう抜けられない」と思い、「このまま上司のような人生を送るのはいやだ」と辞職しました。
このあたり、低収入にあえいでいる人には気持ちがわからないかもしれません。「何をぜいたく言ってるんだ」と鼻白むかもしれません。
ジョシュアとライアンも以前は、高サラリーを得ていたので、ミニマリズムは金持ちのためのもの、という声がしばしばあがります。
ですが、自分の好きなことをやっていなかったら、どんなに収入がよくても、やはりつらいのではないでしょうか?
映画の中で、神経心理学者のリック・ハンセン博士が言っていましたが、心の底では求めていないものをいくら集めても人は満足できないのです。