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家族が余計な物を買ってきたり、机の上に物を放置するからちっとも片付かない。なんとかこういう行動をやめてもらいたい。
そんなときは、相手に交渉しなければなりません。交渉で一番大事なのは話し方。どんなふうに話すと相手が自分の話を聞いてくれるのか語る、音の専門家、ジュリアン・トレジャーのTEDの動画を紹介します。
タイトルは How to speak so that people want to listen(相手に聞いてもらえる話の仕方)です。邦題は「人を惹きつける話し方」となっています。
人を惹きつける話し方、TEDの説明
Have you ever felt like you’re talking, but nobody is listening?
Here’s Julian Treasure to help. In this useful talk, the sound expert demonstrates the how-to’s of powerful speaking — from some handy vocal exercises to tips on how to speak with empathy.
A talk that might help the world sound more beautiful.
話しているのに誰も聞いていない、そんなふうに感じたことはありませんか?
ジュリアン・トレジャーが助けてくれます。このとても役立つプレゼンで、音の専門家である彼は効果的な話し方を教えてくれます。声のトレーニングから共感をこめた話し方のコツなど。
世界がもっと美しい響きで満たされるのを助ける講演です。
動画は9分28秒です。後半にしゃべり方のデモンストレーションもありますので、お時間のある方はごらんください。日本語字幕版を貼ります。字幕なし、英語などほかの言語はプレイヤーで選択できます。
動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちらです⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
人の声は最強の楽器だけれど
人の声は私たちが毎日奏でている、この世で最強の楽器だと思います。
戦争を始めることもできれば、「あなたを愛しています」と言うこともできます。ところがたくさんの人が、自分がしゃべっている時、ほかの人が聞いてくれない、という体験をしています。
なぜでしょう?
どうやったらこの世界を変えられるほどパワフルにしゃべることができるのでしょうか?
やるべきではない7つの話し方
私が提案したいのは、悪い話し方のクセを手放すことです。「話術の7つの大罪」としてまとめてみました。
1.うわさ話をする(ゴシップ)
その場にいない人の悪口を言うのはよい習慣ではありません。でも多くの人はやりがちですね。
2.人を裁く(ジャッジする)
誰かにジャッジされているときに、相手を好ましく思うことはまずできません。
3.ネガティブなことを言う
誰でもはまるワナです。私の母は晩年、とてもネガティブになり、聞くに耐えませんでした。あるとき「きょうは10月1日だね」と言ったら、母が「そうね、うんざりじゃない?」と言ったのを覚えています。
4.不満をもらす
別のネガティブな話し方として、文句を言うことがあります。イギリスのお家芸ですね。国技でもあります。
天気、スポート、政治、なんでもかんでも文句を言いますが、不満を口にすることは人にみじめさを伝染させるだけです。太陽の明るさをもたらしてはくれません。
5.言い訳する
誰でもやりがちです。自分のしたことを何でも人のせいにする人がいます。それも何度も。聞くに耐えません。
6.脚色する・大げさに言う
この2つは言葉を損ないます。それに大げさに言うことはうそにつながります。人が嘘をついているのを聞くのは愉快なことではありません。
7.独善的に話す
単なる事実と自分の意見を混乱させると独善につながります。自分の意見を真実であるかのように話されても、聞いていられませんね。
以上の7つの話し方は避けるべきだと思います。逆に、こうしたほうがいいという話し方もあります。世界を変えられるほどパワフルに話す時の基礎となるものとして、4つ紹介します。
この4つはhailという言葉にまとめることができます。空から降ってくるhail(ヒョウ)のことではありません。「熱く歓迎する」という意味のhailです。
よい話し方をする4つの秘訣
1. H honesty 正直であること
自分の思うところを率直に明確に話します。
2. A authenticity 自分自身であること
自分自身でいてください。友だちが、「自分の真実にのっとって話す standing in your own truth」と説明しましたが、すてきな言い方だと思います。
3. I integrity 誠実であること
自分の話していることを実際に自分でも行うことです。
4. L love 愛があること
恋愛関係における愛情ではなく、相手を思いやることです。愛が必要な理由は2つです。あまりにも正直に伝えてしまうのは時に残酷なので、愛をこめます。正直でいることは素晴らしいのですが。
また、相手のことを本当に考えているとき、同時に相手をジャッジすることはできないので、愛をもって話すべきです。
うまく話すツール
次に話し方に入りましょう。話す内容と同じぐらい、いかに伝えるかが重要です。
話し方に使えるツールボックスを紹介しましょう。誰もがこの箱を持っていますが、実際に使う人は少ないんです。
register レジスター、音域
高い声はあまり効果的ではありません。胸(腹の奥底)から深い声を出してください。
声の低い政治家のほうが得票率が高いんです。深くて低い声は力と権威をイメージさせますから。
timbre 声色(こわいろ)
豊かでスムーズで温かい声が好まれます。そういう声の持ち主でなくても、トレーニングできます。ボイスコーチに呼吸法や姿勢を教えてもらい練習すれば、声色が変わります。
prosody 韻律(抑揚、強勢、リズムなど)
プロソディは、意味を伝えるメタランゲージです。抑揚のないしゃべり方を聞いていると、聞き取りにくいものです。monotonic(モノトニック 単調な)、 monotonous(モノトナス 単調な)、monotone(モノトーン) という言葉はここから来ています。
質問じゃないのに、質問みたいな上げ調子で終わる文章を繰り返すプロソディを使っていると、コミュニケーションをとれなくなるので、この話し方はやめましょう。
pace ペース、速度
ものすごく早口でしゃべったり、ゆっくり一語一語強調してしゃべったりできます。いちばん極端な形は沈黙です。話している途中で、少し黙るのは悪くありません。
う~とか、あ~という音で埋める必要はありません。沈黙はとてもパワフルです。
pitch ピッチ 音の高さ
話す速度に合わせて、適切なピッチを使うと違う意味を伝えることができます。
volume ボリューム
大声を出したり、ものすごく小さな声で話したりします。いつも大声で話す人がいますが、これはやめたほうがいいです。この行為をsodcastingといいます。
自分の音を周囲の人に、無神経に押しつけるのはよくありません。
声のウォーミングアップをする
このようなツールは、大事なことをするときに役立ちます。大勢の前で演説をしたり、プロポーズしたり、昇給を頼んだり、結婚式のスピーチをしたり。
大事なことをするときはどんなときも、ご自身のツールボックスとエンジン(自分の声)を使ってください。
エンジンはウォームアップしないとうまく動きません。声のウォーミングアップを忘れないでくださいね。
やり方をお見せします。みなさん、立ち上がってください。
私がどんなスピーチをする前にもやっている6つのウォーミングアップ法をお伝えします。大事な人に話をするときはやってください。
まず両腕をあげて、息を吸い込み、はあ~~~っと息を吐き出します。もう1回。はあ~~~っ。
次は唇のウォームアップです。「バッ(Ba)」を繰り返します。バッ、バッ、バッ。次は唇をブルブルさせます。ぶるるるるる~~~~。
次は舌の運動です。大げさに「ラ(La)、ラ、ラ、ラ…」と続けます。うまいですね。次は舌を巻いてRです。るるるるる(Rrrrrrr)~~~。
最後に、もしこれを1回だけやるとしたら、サイレンと呼べる運動をします。高い声でウイーと言い、声を下げて、オウと続けます。ウィーオウー、ウィーオウー。
よくできました。席についてください。
今度話す前にやってみてくださいね。
もし、お互いがお互いの声を聞けるようになったら
話をまとめましょう。私たちはノイズがいっぱいの状況で、人の話を聞いていない人に話しかけています。
もし、私たちが、もっとパワフルに効果的に話すことができ、人々がそれを聞いてくれたら世界はどんなふうに変わるでしょうか?
いつも注意深く音を作り出し、注意深く音を受け止め、周囲の音を意識的にデザインしていったら?
そうすればこの世界はもっと美しい音で満ち、お互いが理解するのがあたりまえの世の中になるでしょう。それこそが、皆に伝えるべきアイデアなのです。
//// 抄訳ここまで ////
難しめの単語の説明
penultimate 最後から2番めの
prosody プロソディ 発話をしたときに生まれる音声学的特徴、リズム、アクセント、抑揚など。
meta language メタランゲージ 言語の上にある言語(抽象度が高い)。本当に伝えたい意味内容。
sodcasting 公共の場所で携帯電話のスピーカーから音楽を再生すること。 sod やっかい者、変な人、という意味です。
コミュニケーションに関するほかのTEDの動画
聞き上手になる。よく聞くための5つの方法・ジュリアン・トレジャー(TED)
音が人に与える4つの大きな影響:ジュリアン・トレジャー(TED)
黙っていたら何も伝わらない。沈黙のもたらす危険を知れ(TED)
他人とうまく会話する10の方法:セレステ・ヘッドリー(TED)
文句を言う変わりに意見を言ってみる
家族のせいで断捨離できないとか、母親がすごく物をためこんで困っている、という相談をよくいただきます。
そんなとき「他人はコントロールできない」とお伝えしていますが、言うべきことは言わないと、事態の改善は見られません。
そこで、うまく自分の意向を伝えるのに参考になる動画を選んでみました。
日本人はあまり自分の意見をはっきり言わず、「できれば察してほしい」と待ちの姿勢でいることが多いと思います。いつまでたっても相手が察してくれないと、相手を恨んだりします。
ですが、ほんの一言、自分の意見を言ってみると、いきなり状況が変わる可能性があるのです。
こちらの記事でも同様のことを書いています⇒訪問介護に行く家がゴミ屋敷で困っています←質問の回答
たまに、「私さえがまんすればいいんです」という超被害者マインドの人からメールをもらうことがあります。自分の声を相手に届けようとするよりも、がまんするほうがラクだからそっちを選んでいるのでしょう。
なぜ自分の意見を言いたくないかというと、拒絶されたり無視されるのが怖いからだと思います。
ですが、トレジャーさんの提案していたHAILの4つのポイントを押さえて話してみると、そこまで徹底的に拒絶されることもないのでは? 特に相手が家族の場合は。
「話しても通じない」という考え方を推し進めると、この世界の平和はありえなくなります。今度何か言ってみたいことがあったら、裏で文句を言う行動にエネルギーを注ぐかわりに、正面から話してみてください。
話してみると意外とあっさり承知してくれるかもしれません。
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動画の最後でやっていた声のウォーミングアップは英語話者むけかもしれないですね。
BもLもRも日本語にはない音ですから。英会話する前にやってみるといつもよりスムーズに英語が出そうです。私もやってみます。
日本語のウォーミングアップ法を知りたい方は、「話す前+ウォーミングアップ」「アナウンサー+ウォーミングアップ」で検索してみてください。早口言葉や落語の寿限無などを見ました。
7年前、動画共有サイトで日本のドラマを見ていてセリフが聞き取れないときがありました。私の耳が悪いのか、役者の滑舌が悪いのか。母語は誰でもしゃべれるから軽視しがちですが、自分の意図をしっかり伝えるのは意外と難しいのかもしれません。