ページに広告が含まれる場合があります。
座りすぎの生活に警鐘を鳴らすTEDのプレゼンを紹介します。
タイトルは、Sitting Is the New Smoking but you’ve got Options(座ることは新しい喫煙。しかし、あなたには選択があります)。
講演者は、ミュージシャンであり、ヨガのインストラクターでもあるPack Matthews(パック・マシューズ)さんです。
座ることは新しい喫煙
動画の長さは14分。英語の字幕があります。
内容を一言で書くと、座ってばかりいる生活は身体に悪いから、そうじゃない生活を選択したほうがいいですよ、ということです。
スピーチの中に fascia という言葉が出てきます。
これは、「筋膜」と訳されますが、この膜は筋肉だけでなく、身体を構成しているものすべてのもの – 神経、内蔵、筋肉、骨、血管などすべて – をおおって、身体がうまく機能するよう全身をコーディネートしている薄い膜です。
講演の補足のところに、アニメーションで、fisciaを説明している動画を貼っておきますね。
人の身体は帆船のようなもの
私は比喩を混ぜ合わせることが好きです。
これは帆船ですが、人の腱(けん)と筋膜、人体の硬い部分、骨組みの比喩です。
この帆船は重力の中で、人の身体と同じような踊りをします。柔軟性と剛性があります。
滝は重力を意味します。
水平線は、人生で起こるいろいろなできごとです。
ポイント・オブ・ノーリターン
滝に落ちる地点は、ポイント・オブ・ノーリターン(point of no return、そのポイントを過ぎると、元の状態に戻れないところ)だと考えられています。
しかし、実際は、ポイント・オブ・ノーリターンはもっと上流のほうにあります。
妻とナイアガラの滝に向かう川をドライブしていたとき、妻が、小さな、目立たない標識を指差しました。
その標識には、「この地点より向こうにボートを進めるのはよくありません。帰って来られないかもしれません」とありました。
ここがポイント・オブ・ノーリターンです。
滝までまだ何マイルもある地点です。
この標識がなければ、重要なポイントを通り過ぎていることに気づかないのです。
人生のいろいろなできごとは、このような標識が提示されないまま、起こります。
座る生活のリスク
座ることは新しい喫煙である。
この言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
これを悪いこととも、よいこととも考えることもができます。
社会が健康的なほうに向かっている印だと考えればよいことです。
もうトラに襲われる危険はないし、抗生物質がない世界で怪我をすることもないし、喫煙もありません。
喫煙は、もう通り過ぎましたよね?
今、私たちは、座る生活という世界にいます。
しかし、座る生活をすることで、大きな代償を払っています。
私自身、1年前、椅子に座ってばかりいるのは、自分のためにならないと気づきました。からだの柔らかさや、動きが損なわれます。
マーク・ハミルトン教授のリサーチによれば、1日8時間デスクワークをして、通勤に片道1時間をかけると、もう充分な時間がありません。たとえ、残りの時間をジムでワークアウトしたとしても。
去年、ランセットに発表された分析によれば、座ることが多い生活は、喫煙や肥満と同じくらい健康リスクがあります。
どうしてでしょうか?
人は座るようにはできていない
もともと人は、座るようにはデザインされていないのです。
人には、筋膜(fascia)というものがあります。
これは、身体の中にある3Dプリンターのようなものです。
筋肉や神経の末端をおおって絶縁する、セロファンのようにとても薄い小さな腱を印刷しています。
背骨を上下に走ることを感じさせる鋼鉄の棒も印刷します。
自分自身を再形成することもできます。しかし、私たちは、筋膜をうまく管理しなければなりません。筋膜は踊らせておく必要があります。
筋膜のことを無視して、動かないでいると、筋膜は葛(くず)のように生えていきます。
葛は、日本からもたらされたツタです。
筋膜をないがしろにすると、葛のようにもじゃもじゃになります。
では、どうしたらいいのでしょうか?
座って立ち上がるテスト
去年、ブラジルで、2000人の人を、6年半にわたって調べたリサーチが発表されました。
専門家は、被験者がクリニックにやってくるたびに、床に座ってもらってチェックしました。
床にこんなマットを敷いて、マットの上にじかに座ってもらいます。
何も使わずに座れたら5ポイントです。(実際にやってみせる)。
私の座り方は4ポイントです。片手をついてしまったから。
このまま、何の助けもなしに、立ち上がることができたらまた5ポイントで、トータル10ポイントです。
座るとき両手をつかったら、マイナス2ポイント、座るときに身体がゆれたら、マイナス0.5ポイントというように減点します。
ごく簡単なテストです。
テストと寿命の関係
リサーチによると、このテストのスコアと寿命にかなり相関性があります。
1ポイントあがるたびに、寿命やクオリティーオブライフが21%伸びます。
この研究は、50才から80才を対象に行われたので、もしあなたが50才未満なら、今の高得点をできるだけ長く維持できるようにすればいいですね。
仮にあなたのスコアが低くても、すぐに死ぬわけではありません。柔軟性、とくにお尻の柔軟性を向上させれば、得点を伸ばすことができます。
お尻が硬くなってしまうかどうかは、座っている時間によって決まります。
椅子に座ってばかりいると、筋膜に重力をかけることができません。
スコットの話
友人のスコットに、座る生活の害や、筋膜の話をしたら、とても興味をもってくれました。
スコットは、20年ほど、Verizon(アメリカの電気通信業者)のラインマン(架線作業員)をしていました。
しかし、昇進して、事務仕事をするようになったら、あちこち不調が出始めました。
電信棒を上ったり下りたりしていたときは、仕事のあとトライアスロンのトレーニングに行っていたのです。
しかし、デスクワークに変わってから、足や膝に故障が出て、長時間、トレーニングできなくなり、本人は不満をかかえていました。
スコットが足に矯正具をつけているとき、私は、ストレッチのやり方を教え、長時間・低強度のストレッチをしたとき、筋膜が反応する感覚を追うことをすすめました。
3週間後、彼は、矯正具をはずすことができました。足や膝の問題を解決したスコットは、腰を鍛えることに集中し、半年後にはとても元気になりました。
身体のサインを見逃すな
ご自身に起こっていることを考えてください。
すべてのできごとが、標識(兆候)と共にやってくるわけではありません。
ナイアガラの川下りをしている人たちのことを考えてみてください。
ボートに座って言い争いをしたり、パーティに興じたりして、ポイント・オブ・ノーリターンを過ぎてしまう人たちのことを。
悪い兆候(炭鉱の中のカナリア)がないか、考えてほしいのです。
カナリアが歌わなくなるとき、悪いことが起きています。
みなさんの身体が、シグナルを送らなくなったら、心配すべきときが来ています。
上流で、また、皆さんにお会いできるといいですね。
そこは、水が静かで、どちらでも行きたい方角に行ける場所です。
/// 抄訳ここまで ////
補足:単語の意味など
sinew 腱
3D print machine 3Dプリンター 3DCADのデータをもとに、二次元の層を積み重ねて、立体物(現実にある物体)を作る機械。
knell 弔いの金、死などの前兆
orthotics (矯正具・支持具による)関節・筋力回復術
canary in a coal mine 警告、兆候。直訳は、「炭鉱の中のカナリア」。昔、炭鉱にカナリアを持って入り、有毒ガスを検知した習慣からできた表現。
■座る生活が新しい喫煙と言われる理由
1分
1日9時間以上座るのはよくありません。
■アニメーションを使ったfasciaの説明。
fasciaはつながっていることがよくわかります。
2分14秒。
■座って立ち上がるテスト、お手本(10ポイント)。最初にやっているのが、10ポイントの動作です。
40秒
■座って立ち上がるテスト、やり方と詳しい点の付け方
2分
■一般人がやっている座って立ち上がるテスト
3分55秒
私は手をつかないと立ち上がれません^^; 50歳未満の人は、ふつうに足だけで立ち上がれるのかしら。
座りっぱなしの問題/健康・関連記事
座りっぱなしが寿命を縮める。座りすぎのリスクとそれを回避する方法。
ウォーキング・ミーティングのススメ。健康にいいし仕事もはかどる(TED)
ダイエットしないで健康になる方法(TED)~生活習慣を変えよう。
なぜ運動するのを面倒に感じるのか?あるいは断捨離を始められないのか?(TED)
まめに立ち上がるすすめ
多くの人は、座っている時間が長い生活をしているので、これがふつうだと思っているかもしれません。しかし、実は身体にとってはよくありません。
一度、自分が毎日、何時間ぐらい座っているか足し算してみて、9時間を過ぎていたら、もう少し、立つようにしてください。
正直、ジムに行って身体を鍛えるより、まめに立つほうが、健康にずっといいと思います。
私の中では、ジムは、身体の形を変えたい人や、特に筋力をつけたい人が高いお金を払って行く、特殊な施設です。
日々の健康を保つためなら、ちょこちょこ立つだけで充分ではないでしょうか?
*****
パックさんの比喩は文学的ではあるけれど、わかりにくいと思ったので、この講演を紹介しようかどうか、迷いました。
ですが、fiscia(筋膜)の重要性を唱えているので、あえて紹介しました。
fisciaのような、一見、目立たないものが全身の健康をになっているのは、覚えておいたほうがいいと思うからです。
全体の調和をめざすのは、東洋医学の考え方ですが、ふだんの生活でも、心と身体の調和や、部屋の中にあるものの調和(環境のバランス)みたいなものを意識すると、もっと健康に暮らせると思います。
部屋にためこんだガラクタは、調和を乱すから、「もったいない」と思っても、不用品は捨てたほうがいいですよ。