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こころの健康に興味のある人におすすめのTEDトークを紹介します。
タイトルは、The most important lesson from 83,000 brain scans(83000枚の脳のスキャン画像から得たもっとも大事なレッスン)
講演者は、精神科医のダニエル・エイメン(Daniel Amen)さん。
邦題は、「脳の健康は人生を変える – 脳画像が教えてくれること」
エイメンさんは、脳の画像を見て治療をする精神科医です。脳をスキャンして、脳の活動状態を見れば、もっと的確に精神疾患を治療できるという内容のプレゼンです。
脳の画像が教えてくれること
収録は2013年の9月、動画の長さは14分36秒。日本語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
プレゼンに出てくるSPECT検査とは、脳の血流状態や脳の働きを診る検査のことです。
医者になったきっかけ
きょうは、83000人の脳画像から学んだもっとも重要なことをお話しします。
私は7人兄弟の真ん中で、父に異端者と言われて育ちました。
1972年に軍隊に入り、衛生兵の教育を受けたとき、医療に目覚めましたが、軍隊にいるのがいやだったので、X線の技術者になり、画像を撮ることに情熱をもつようになりました。
「見なければ、どうやってわかるんだいい?」と先生たちの言葉に同意しました。
1979年、メディカルスクールの2年のとき、身内の1人が、自殺願望をもつようになったので、精神科医につれていき、治療してもらいました。
このとき、この医者が、彼女を助けることができたら、それは、彼女の人生だけでなく、彼女の子供や未来の孫も助けることになると気づき、精神医学が好きになりました。何世代にもわたって、人々の生活を変えることができるからです。
SPECT画像に出会う
1991年、脳のSPECT画像の講義に初めて出ました。SPECTは核医学の検査の1つで、脳の血流や活動を調べ、脳の働きをみるものです。
SPECTは、精神科医が患者を助けるために必要な情報を得られるツールだと、紹介されました。
あるレクチャーで、私の興味のある2つのこと、つまり、医療用画像と精神医学を結びつけていて、これが、私の人生に革命をもたらしました。
その後、22年間、私と同僚は、93カ国の患者の、行動に関する脳の画像を取り、世界最大のデータベースを作りました。
SPECTから脳について3つのことがわかります。よい活動、少なすぎる活動、過剰な活動の3つです。
病気になると脳の活動が変わる
これは健康な人のSPECTのスキャンです。左側の画像は、健康な脳で、その表面は、完全で均一、左右対称の活動をしています。
色は重要ではなく、形が重要です。
右の画像では、赤色の部分が活動が活発な箇所です。健康な脳は、通常脳の後ろ側(奥の方)です。
これは、健康な脳と、2回脳卒中を患った人の脳を比べたものです。活動の穴が見えます。
これはアルツハイマー病の人の脳です。脳の後ろの半分が、衰えています。
アルツハイマー病は、症状が出る30~50年前に、すでに脳内で始まっています。
これは、外傷性損傷を受けた脳の画像です。
これは、薬物を濫用した脳です。薬物を使うべきでない本当の理由は、脳を傷つけるからです。
強迫性障害(OCD)だと、脳の前部が活動しすぎるので、思考を止めることができなくなります。
てんかんの場合、活動が活発な部分が、たくさんあります。
精神科医は臓器を見て治療しない
1992年、脳のSPECT画像がテーマの終日の会議に出て、すばらしい体験をしました。しかし、その会議で、研究者たちが、私のような臨床精神科医が、スキャンをするべきではないと言ったのです。SPECTは、研究のためだけに使うべきだと。
異端者で、臨床経験もある私に言わせれば、これは、本当に馬鹿げた考えです。
画像がなければ、精神科医は、1840年にリンカーンがうつ病になったときと同じ治療をしなければなりません。
患者の話を聞いて、症状を見つけ診断を下すやり方です。画像があれば、もっといい方法があることがわかります。
精神科医は、自分が治療する臓器をほとんど見ない唯一の専門医です。
循環器専門医も、神経科医も、整形外科医も、ほかのすべての専門医は臓器を見るのに、精神科医は見ずに推測します。
画像を見ないで治療をしていたとき、私は、暗闇の中でダーツをしている気がしました。実際に、何人かの患者さんを傷つけてしまい、とても恐ろしくなったのです。
ほとんどの精神科の薬に、黒枠の警告がついているのは、間違った人に投与すれば、大惨事が起きる可能性があるからです。
精神障害の脳にはさまざまなパターンがある
画像を見て、大事なことがいろいろとわかりました。たとえば、ADHD、不安神経症、うつ病、依存症などの病気は、単純で単一の脳内障害ではありません。
複数のタイプがあります。
ひどいうつ病と診断された2人の患者の症状はほぼ同じでしたが、脳の様子は全く違っていました。
1人は、脳の活動がとても少なく、もう1人は、非常に活発な活動をしていました。
実際に脳を見てみなければ、どうすればいいのかなんてわかりません。
治療は、症状の集まりに合わせるのではなく、それぞれの脳に合わせるべきなのです。
軽い外傷性損傷が人生に大きな影響を与える
軽度の外傷性能損傷(traumatic brain injury)が、人生を台無しにしうる精神疾患のおもな原因であることもわかりました。
しかし、患者はこれを知りません。気性、不安、うつ、不眠をやわらげるために、精神科医を訪れても、医者は、脳を見ないから、わからないのです。
これは3歳のときに階段をころげおちた15歳の少年のスキャンです。
落ちたとき、ほんの数分だけ意識がなかったのですが、この怪我は、少年の人生に大きな影響を与えました。
私が出会ったとき、彼は15歳で、暴力行為を矯正する、3回目の療養治療プログラムを追い出されたところでした。
彼に必要だったのは、脳のリハビリであり、闇雲に薬を与えることや、行動療法をすることではなかったのです。
考えてみれば、こうした治療は残酷なことです。
行動は、問題の表れであり、問題そのものではないのですから。
罪を犯す人も脳に問題があることが多い
研究者たちは、診断を受けていない脳の損傷が、ホームレス、薬物とアルコールの濫用、うつ病、パニック障害、ADHD、自殺のおもな原因だということを突き止めています。
イラクやアフガニスタンから帰ってた何百、何千という兵士の脳を、誰も見ていないのは、災難が起こるのを待っているようなものです。
SPECTを使って仕事をしているうちに、批判も大きくなってきましたが、同様に学びもたくさんありました。
裁判官や弁護人は、犯罪行為を理解するために、私たちの助けを求めています。
これまでに、90人の殺人犯を含む500人の重罪人の脳を見ました。
悪いことをする人は、往々にして、脳に問題があるとわかりました。驚くことではありませんね。
脳はリハビリで治せる
しかし、私たちが驚いたのは、そうした脳をリハビリで治すことができることです。
そこで、ラジカルな提案があります。
問題のある脳を、有害で、ストレスのある環境に置くのではなく、ちゃんと調べて、治療するのはどうでしょうか?
脳の機能を戻し、刑務所から出たあと、働いて、家族を養い、税金を払えるようにすれば、莫大なお金を節約できます。
ドストエフスキーは、かつてこう言いました。
「社会は、優秀な市民をいかに上手に扱うかではなく、犯罪者をいかに扱うかによって判断されるべきである」と。
犯罪者をただ罰するのではなく、その犯罪を調べ、治療することを考えるべきです。
22年間に、83000枚のスキャンをして、私と私の同僚が学んだ、もっとも重要なことは、人の脳を変えることができるということです。
脳を変えることは、その人の人生を変えることです。
今の脳のままでいるのではなく、もっとよくすることができる。私たちはそれを証明できます。
フットボール選手の脳
私のチームは、現役のNFLの選手と、引退したNFLの選手を対象に、大きな研究を行いました。
NFLが、フットボールをすることが、長期的な脳にダメージを与えるかどうかわからないと言っていた時期に、選手たちの脳に、ダメージがあるとわかったのです。
NFLは、この事実を知りたくなかっただけです。
驚くことではありません。
思慮深い9歳の子供に、脳は柔らかいバターのような硬さで、それが、鋭い骨の突起がたくさんあるとても硬い頭蓋骨に収まっていると話したら、30人のうち28人は、「それは人生にとってよくないかも」と思うでしょう。
しかし私たちが興奮したのは、この研究の第2部です。NFLの選手たちが脳を鍛えるプログラム(brain-smart program)を実施したら、80%の選手に、血流、記憶、気分に改善が見られたのです。
このプログラムを行えば、脳をいいほうに変えることができます。素晴らしいですね。
その影響は多岐に渡ります。
脳の改善が人生を変える
これは、ADHDの10代の少女の脳のスキャンです。彼女は自傷行為をし、落第し、両親と喧嘩していました。
彼女の脳を改善したら、成績はあがり、ずいぶん情緒が安定しました。
これは認知症の診断を受けたナンシーのスキャンです。「1年以内に夫の名前もわからなくなるから、介護ホームを探したほうがいい」と主治医はナンシーの夫に言いました。
しかし、集中的な脳のリハビリテーションプログラムをしたら、ナンシーの脳の状態がよくなり、記憶力もあがって、4年たっても、ナンシーは夫の名前を覚えています。
9歳のとき、野球場で理由もなく少女を襲ったアンドリューの話をしましょう。当時、彼は、自分が木にぶら下がって他の子供を撃っている絵を描いていました。
アンドリューは、コロンバイン、オーロラ、サンディフック(いずれもアメリカで銃乱射事件が起きた場所)のような事件を起こす途上にいたのです。
ほとんどの精神科医は、アンドリューに薬を処方したでしょう。、銃で大量殺人をした他の人間にしたのと同じように。
しかし、SPECT画像が、彼を理解するためには、闇雲にダーツを投げるのではなく、脳を見るべきだと教えてくれました。
彼の脳画像を見ると、左のこめかみに、ゴルフボール大の嚢胞(のうほう、分泌物がたまっている袋状のもの)がありました。
どんな薬物療法もセラピーも、アンドリューの助けにはならなかったでしょう。
脳の改善は次世代にも影響を与える
嚢胞を取り除いたら、アンドリューの行動は完全に正常になり、彼がずっとそうなりたいと望んでいた、かわいくて愛情深い男の子になりました。
18年後、私の甥であるアンドリューは、自分の家を持ち、仕事をし、税金をおさめています。
誰かがわざわざ彼の脳を調べたおかげで、彼はよい息子になり、今後、よい夫、父親、祖父になるでしょう。
誰かの脳を変えることは、その人の人生だけでなく、次の世代を変えることにもつながるのです。
////抄訳ここまで
単語の意味など
nuclear medicine study 核医学の研究。核医学は、放射性同位体を使って検査や治療を行う医学。
ダニエル・エイメンさんの本です。
翻訳されている本はほかにも数冊あります。英語の本ならば、もっとあります。
脳に関する他のプレゼン
過去に記事にした脳がテーマのプレゼンを7つリンクします。
脳について知るべき、1つのこと。それは、あなたの人生を変えます(TED)
腸はどのように脳をコントロールしているのか? 腸の状態が脳の病気を予防する(TED)
頭をよくするシンプルな5つの方法。脳を活性化して最大限に使うには?(TED)
脳の健康を意識する
心が不調の人から、よくお便りをいただきますが、心の不調イコール脳の不調なので、脳を健康にすることを意識すると、もっと前向きな(というか、悲観的すぎない)考え方ができるかもしれません。
幸い、脳は可塑性があるので、変えることができます。
これが言いたくて、今回、ちょっと専門的すぎるかな、とも思いましたが、ダニエル・エイメン先生のプレゼンを紹介しました。
脳を健康にする簡単な方法としては、こんな記事が参考になるでしょう⇒脳を疲れさせない方法と、疲れたときの対処法。
一般に言われる、健康的な生活が脳にもいいので、睡眠を削ってバリバリ仕事をする(または、ソーシャルメディアを見る、Netflixをビンジワッチングする)のは、やめたほうがいいのです。自分のためになりません。
それと、むやみに薬を使わないほうがいいと思います。
エイメン先生も言っていますが、自分が健康に生きることは、次世代に大きな影響を与えます。たとえ、子供がいなくても、日常生活でいろいろな人とふれあいますが、そうした交流が、世界を作っていきます。
たとえば、このブログの読者でも、ほかの読者のお便りが参考になった、触発された、お便りに救われたと言う方はたくさんいらっしゃいます。
全然知らない人が、特に深い意図もなく手紙に書いたことや、口にしたことが、誰かの人生を大きく変えてしまうのはよくあることです。
自分の脳が健康になることは、自分のためでなく、この世界のためになるのです。
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18歳や19歳で、とてつもなく凶悪な犯罪を犯す人がいます。
この人たちは、生育環境に問題があることことが多いですが、脳に損傷がある可能性も大きいですよね?
決定的な大事件を起こす前に、たいてい、小さめの問題を起こしているはずなので、その段階でSPECT検査をするといいかもしれません。
今は、SPECT検査は、認知症の検査として、日本でも行われていると思います。
検査機器や、技術の向上、画像から的確に診断をくだせる人がもっと増えて、この検査が一般的になると、凶悪犯罪を減らせるかもしれませんね。