女性の横顔

TEDの動画

最終更新日: 2023.11.19

死を前にして何を思うか? ある救急救命士による臨終の告白(TED)

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死を迎えたとき、何を後悔するかしないのか、それが今の生き方を決める。

そう教えてくれるTEDトークを紹介します。

タイトルは、Deathbed Confessions by an Emergency Medical Technician! (ある救急救命士による死の床での告白)。

弁護士のRobert (Bob) Bianchi ロバート・ビアンキ さんの講演です。



死の床で何を思うか?:TEDの説明

Discover the profound insights on deathbed confessions shared by Robert (Bob) Bianchi, drawing from his rich experience as an Emergency Medical Technician and a former Homicide Prosecutor.

ロバート(ボブ)ビアンキが、自身の救急救命士と、殺人事件の検察官としての体験から引き出した、死の床での告白に関する深い洞察をお聞きください。

動画の長さは12分、まだYouTubeにアップされたばかりなので、正式な字幕はありません。動画のあとに抄訳を書きます。

☆TEDの記事の説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

ビアンキさんは、弁護士だし、メディアでも活躍しているので、話し方に説得力がありますね。





死ぬ前の言葉

臨終を迎えて、人がする告白のパワーについてお話しします。

私は、殺人事件の検察官として、また、EMT(救急救命士)として働いていたので、人の死を間近にする体験を何度もしました。

そして、死が現在の人生の体験にもたらすパワフルな影響や、死がどんなものになるか考えることで、今の生き方が変わると思い知りました。

これは、裁判弁護士として、また法律分析家としてテレビ番組のアンカーを務めたとき、さらには数々の講演で私が皆さんに伝えている人生哲学です。

いくつか例をあげますね。

事故に負けなかった母

まず、母の話からします。

18歳のとき母は海岸に行く道で、飲酒運転の車にひかれました。

ひどい重症を負い、母は、最後の祈りを受け、死を宣言されました。母は死体安置所に運ばれたのですが、安置所で見習いをしていたインターンが、母が、まだ生きていることを見つけました。

つまり、母は助かりました。しかし、体はぼろぼろでした。たくさんの骨が折れて、顔まで傷だらけ。精神的な傷もあり、当時はなかった概念ですが、PTSDもあったでしょう。

このような痛みに、母はすべて自分で対処しなければなりませんでした。

医者は母に2度と歩けないし、子供も産めないと言いました。

しかし1年後に母は歩き、子供も2人もうけました。

子供の頃、私はとても病弱で、学校をよく休み、母に世話をしてもらっていました。そのとき母からたくさんのことを学びましたが、その1つは、交通事故にあったことで自分の生き方を決めさせないということでした。

母は言いました。事故の体験から立ち直るのに何年もかかったけれど、事故にこだわることは決してなかったと。

後遺症はずっと続いていましたが、母はこう言ったのです。

「私は2度めのチャンスをもらった。ロバート、人生の瞬間、瞬間に、あなたも自分の人生の最後がどうなるか考えるべきよ。人生の終わりに何を言いたいのか。どんな体験も無駄にしてはだめ。私はセカンドチャンスをもらって、それを学んだの」。

恐怖があるから勇気が生まれる

もう1つ母が教えてくれたのは、恐怖がなければ勇気が生まれないということです。

この言葉は、私のキャリアにおいてとても重要な指針となりました。裁判弁護士をしていたときも、メディアの仕事をしていたときも。

恐怖がなければ勇気もない。この言葉が腑に落ちるまで長い時間がかかりましたが、思えば母は、ずっと恐怖と闘っていたのです。

心身ともに障害がありましたから。

しかし、母はどんな機会もあきらめることはありませんでした。恐怖に自分という人間を決めさせなかったのです。2度めの人生の終わりがどうなるかを恐怖のせいで変えることはありませんでした。

今、この瞬間を生きる

今、この瞬間に向き合うことも母が教えてくれました。自分の死について考えること気味の悪いことではありません。今、この瞬間にしっかり向き合えば、死ぬ直前、「しっかり生きた」と言えるのですから。

母のメッセージは、私の生き方を決めました。失恋したときも、裁判の前に恐怖を感じていたときも。

救急救命士として働いていたときのことをお話しします。

自分にとって本当に意味深い考え方が芽生えたのは、この頃です。

いつも人の死に直面していました。時には刺され、時には撃たれ、人が死んでいきました。

しかし、もっとも印象に残っているのは、長患いをしていた人を、病院に運んだ体験です。

がんの治療や、透析を受けていた人たち。

このような患者を救急車で運んでいるとき、その人達がどんな人なのかよくわかります。

簡単にあきらめない

今でもメアリー・ショアという女性を覚えています。

治療がうまくいかないことが何度あっても、メアリーはとても前向きで、明るい人だったので、私は彼女といるのが好きでした。

メアリーは、いつも、自分の人生にどんな意味があったか、自分が世界をどんなふうに変えたか話してくれました。

他の患者はこうではありません。

自分の人生で違いを生み出せなかったことを嘆いていました。

怖かったからできなかったこと、「できない」という気落ちから夢を追いかけるのをやめたこと、人に、「価値のない人だ」と言われたのを鵜呑みにしてしまったこと。

そして、死を前にして、当時17歳だった私に、「私の人生は完全に意味がなかった」と言ったのです。

これは本当によく覚えています。母の考え方と全然違っていたから。

このとき決めました。こんなに後悔することがある人生を送ることは、私はしない、と。

少なくとも、試さない前からあきらめるのはやめようと。

この決意を私はずっと忘れずに来ました。

人に、「きみにはできない」と言われたとき、自分でも、「私はできない」と思ったとき、死の床で、「後悔している」と言う人生は送らないぞ、と気持ちを奮い立たせました。

裁判と人生の総括

最終弁論(summations)についてお話しさせてください。

裁判の最後にする弁論ですが、それは裁判で登場したすべての証拠を総括したものです。

裁判の中で取り上げられなかったことについては、ふれることができません。

偉大な裁判弁護士だった父に教えてもらったことがあります。

訴訟があり、申請書類を目の前にしたら、まず最初に考えることは、最終弁論がどんなものになるか、です。

最後に陪審員にどんな話をするか?

それは、人生の最後に、自分の人生をどんなふうに総括するのかと同じです。

最終弁論を最初に思い描き、それにそって、証拠を展開していくことを父は教えてくれました。

その瞬間、瞬間に、適切な証人、適切な証拠、適切な弁論を用意してこそ、いい最終弁論、そして死の床での告白ができるのです。

終わりを知っているから、今をよく生きられます。

キッシュを100%味わっていた教授

大学時代の教授に、生徒たちが話したがらない人がいました。

優秀な教授で寮の責任者でしたが、ちょっと変わっていたんです。少なくともそう思われていました。

リスに話しかけたり、カフェテリアでぽつんと1人で、しきりに何か考えながら食事をしたりする先生です。

「いったいどんなすごい理論を考えているのだろう」と私は思っていました。

あるとき勇気を出して、先生のそばに座って、何を考えているのか先生に聞きました。

私が人生で出会った中でもっとも賢いこの先生から、いろいろ学びましたが、このとき決定的なことを学んだんです。

先生はキッシュを食べていたのですが、ひとつひとつじっくり味わいながら食べていたのです。そして、私に、キッシュの中に入っているものについて説明してくれました。

キッシュの味を説明しながら、それを作った人がいる奇跡について話したのです。

先生は、その日、忙しくて大変だったと話しました。たくさんの教え子たちの対応や事務手続きがあったから。

でも先生はこう言いました。「ボブ、今は、キッシュに向き合う時間なんだよ。だってこのキッシュはとても美しいからね。ただ消費するんじゃなくて理解し、慈しむ時間なんだ」。

そう言って、先生は去って行きました。

先生の言うことは、母の言ったことと同じでした。

事態がよくなくても、居心地が悪くても、人に、「あなたにはできない」と言われても、その瞬間に向き合うこと。

しっかり向き合えば、ありがたいことが見つかります。

その瞬間を生きること。

他の人のためになることをする

ヒース教授もそれを教えてくれました。

ヒース教授は、海軍司令官だったとき、広島と長崎に原爆が落とされるのを目撃しました。

このとき、教授は自分に約束をしました。

人の人生を完全に変えることはできないけれど、その人に、ほんの少しでもよいことをもたらそうと決めたのです。

ささやかでも、自分が人にあげられることがあると理解し実践すれば、先生が私にしてくれたように、他の人にも親切にすれば、先生はその人の人生を変えることができます。

これはとても深い考え方です。

いろいろな人が教えてくれた考え方のおかげで、救急車の中で後悔していた人たちのような人生を私は送らないと決めたのです。

死ぬ前に後悔したくないから

やるべきだった、やればよかった、怖くてできなかった、人から、「できないよ」と言われたからやらなかったこと。

そういうことを私はやるぞ、と思って生きてきました。

たとえ失敗するとしても試そうと思って生きてきました。

若くして裁判弁護士になったとき、その後、昇進したときもいろいろな人から、「きみは偉大な弁護士だ」「大きな裁判に勝ったね」「出世してすごいね」と言われました。テレビに出たときも、「テレビにでるから特別なんだ」と言われました。

でも、こうしたことは特別なことではないのです。

特別だったのは母から教えてもらったことです。ヒース教授や父が教えてくれたこと。そして、救急車の中で、大好きなメアリー・ショアが教えてくれたこと。

彼らが自分の体験や前向きな生き方を教えてくれ、死の床の告白が今、この瞬間を決めると伝えてくれました。

今、この瞬間を無駄にしてはいけません。

膠着状態でも、ネガティブな考えや疑いが出てきても、死の床で「せっかく与えてもらったすばらしいギフトを台無しにして、私は後悔している」とは言わないと決めればいいのです。

皆さんがすばらしい死の床を迎えることを祈っています。

//// 抄訳ここまで ////

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死ぬ前に後悔すると思う?

今を生きる大切さを説くEDトークを紹介しました。

よく、死ぬ間際に、人は、自分がやったことより、やらなかったことを後悔するといいますよね?

私は死にそうになったことがないので、実際、死ぬ前に、何を考えるかわかりませんが、わりとあきらめがいいし、後悔もしないタイプなので、「ああ、楽しい人生だったな」と思って死ぬと思います。

たぶん、これは、私に死ぬ心づもりができているからでしょう。

「寿命がある間は生きるつもりだけど、それが尽きたら死んでもいいや」と思って毎日生活していますから(とは言え、痛い思いはあまりしたくない)。

明日はたぶん来るだろうが、来ない可能性もある、とも思っています。

救急救命士としてロバートさんが働いていたとき出会った患者の多くは、わりと急なことだったので(だからこそ救急車で運ばれる)、心の準備ができていなくて、「ああ、あれもやってなかった、これもやってなかった」と思ったのではないでしょうか?

一方、ロバートさんのお母さんは、一度失くした人生をまた、もらったように考えて前向きに生きていたから、本当の死を迎えたときも後悔はなかったでしょう。

つまり、死ぬ心づもりさえできていれば、死の直前に、後悔にさいなまれることはないのでは?

以前、こんなTEDトークを紹介しました⇒ストレスでいっぱいのとき、冷静でいる方法(TED)

何かをするとき、先に最悪の事態を考えて、それが起きないためにできる準備をしておけば、ストレスが軽減する、という内容です。

何かを準備中に突然死ぬことだってある、と考えておけば、本当に死ぬことになっても後悔は少ないと思うのですが、どうでしょう。

死ぬのも生まれるのも、自分の意思でタイミングをコントロールできません。

最近は、安楽死を認める状況も増えていますが、これにしても、そんな事態に陥ってしまうかどうかは、自分ではコントロールできません。

コントロールできることに対しては力を尽くし、コントロールできないものに対しては、ジタバタしないのが、ストレスなく暮らし、安らかに死ぬ秘訣だと思います。

****

死を前に後悔するかどうかなどと検討できる私のような人たちは恵まれていますね。

事件や戦争などで、ある日突然、暴力的に人生を奪われる人もたくさんいますから。

そういう人たちのことを考えると、やはり私たちの生は運良くもらったものですね。





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