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タイニーハウス(すごく小さな家)を求めることは、本質的には古くから人間がやっていたことだと説明するTEDトークを紹介します。
タイニーハウスに興味がある方はそのあらましがわかります。
タイトルは、Same old story? How tiny houses make people want less(よくある話? いかにタイニーハウスが人々により少ないことを求めさせるか?)
ナラティブテオリスト(narrative theorist)のKatra Bryam(カトラ・ブライアム)さんの講演です。
ナラティブテオリストは、さまざまな物語が、人間の経験に果たす役割を研究する学問とのこと。
このトークでは、19世紀の小説と、現代のタイニーハウスムーブメントには共通点があると説明します。
タイニーハウス:TEDの説明
How have tiny houses become dream houses? In her talk, Katra Byram shows how the tiny house movement has tapped into a classic story to make people want less.
タイニーハウスはいかにしてドリームハウスになったのか? カトラ・バイラムは、タイニーハウスムーブメントが、どんなふうにして、古典的な物語とつながり、人々に持たないことを求めさせたのか説明します。
収録は2020年、動画の長さは9分45分。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
カトラさんは、水道を使っていないタイニーハウスの話をしていますが、これはかなり極端な例で、多くのタイニーハウスではふつうに水道を使っています。
ただし、一般の家のように、じゃぶじゃぶとは水を使いません。井戸水や貯水タンクを使う場合もあります。
タイニーハウスが人気
第二次世界大戦が終わって以来、アメリカの住宅はどんどん大きくなっていきました。住む人の数は少なくなっていったのに。
1950年代のアメリカの平均的な家は、1000平方フィート(90平方メートル)で、1人あたりのスペースは、300平方フィート(約28平方メートル)だったのに、2015年には、2700平方フィート(251平方メートル)で1人あたりのスペースは、1000平方フィートになりました。
3倍の大きさになったわけです。
同時にここ10年で、タイニーハウスが人気です。タイニーハウスは、400平方フィート(37平方メートル)以下の家です。
ずっと家のサイズは大きくなってきたのに、なぜ、小さな家が人気なのでしょうか?
その理由を知ることは重要です。
なぜなら、大きな家を建て、維持するにはたくさんのリソースが必要ですから。リソースの使いすぎは、環境に大きな影響を与えます。
だから、何が人々に小さな住まいを求めさせるのか、タイ二ーハウスがどうやって人々により小さな暮らしをうながすのか理解することが大切だと思います。
ビルドゥングスロマンとの共通点
数年前、仕事の休み時間に、タイニーハウスのブログを読み、夜は、分厚い19世紀のドイツの小説を読んでいました。
大きなマナーハウス(荘園領主の邸宅)における理想的な生き方に関する物語です。
数週間、昼間はブログ、夜は小説を読んでいて、実は、同じ物語を読んでいることに、気づきました。
タイニーハウスが人気なのは、西洋文化の中心をなす物語にフィットするからです。
それは、人を満足させるとはどういうことなのか語る物語です。
さらにタイニーハウフは、人々に、「もっと求める」ライフスタイルから、「より少ないもの」を持って生きる暮らし方を求めるよううながしました。
その物語は具体的に言うと、カミングオブエイジ(思春期や青年期の主人公が成長し、自己を見つける過程を書いた物語)、文学用語で言えば、ビルドゥングスロマンです。
ビルドゥングスロマンは、19世紀、ドイツで始まりましたが、数世紀にわたって、いろいろな小説として登場しました。
ジェーン・オースティンの一連の小説や、『大いなる遺産』、『アウトサイダーズ』、『ハリー・ポッター』もそうです。
社会的な期待によって、息苦しい思いをしていた主人公が、自己探求と発見の旅に出ますが、最後には、自分の家に戻ったり、ほかの安定した場所にたどり着いたりします。
自分と自分の場所を見つけ、自己実現するストーリーであり、社会から期待されていること以上のものを求める物語ですが、タイニーハウスの物語の多くも、これと同じなのです。
ジェス・サリヴァンの場合
実例として、ジェス・サリヴァンが書いたブログの話をします。
2012年から2017年まで、ジェスとパートナーのダンは自分たちでタイニーハウスを作り、しばらく住んだのち、人に売りました。
彼女の物語はこんなふうになります。最初の結婚がうまくいかなかったのですが、それは、社会的な期待が重すぎたからです。
特に、大きな家を買って改築するという期待です。
ジェスとダンが一緒に住み始めたとき、2人は、違うことをしたいと思い、タイニーハウスを作ることにしました。
その結果、2人は経済的な自由を得ることができました。ジェスは仕事をやめて、絵を描くことや、写真、文章を書くこと、ベーキングなど、好きなことを始め、ベーキングはビジネスになりました。
それと同時に、2人は自分の居場所を見つけました。
タイニーハウスムーブメントを通じて、ほかの人ともつなかることができたのです。2人とも、タイニーハウスムーブメントの熱心なメンバーで、ジェスはこの運動のスポークスパーソンになりました。
つまり、カミングオブエイジの小説と同じように、社会に不満を感じている状態から始まり、その制約から自由になり、自己を見つける旅に出て、結果的に、自分らしい居場所を見つけたのです。
2つの物語の違い
タイニーハウスの物語がカミングオブエイジの小説と違うのはその物語の背景です。
伝統的なカミングオブエイジの小説は、物質的に恵まれた状態から始まります。
事実、初期の小説は、この点を批判されました。社会的、経済的に自由な上流階級の白人の男性が、自己を探求する話だったからです。
彼らは最初から「持てる者」でしたし、自然にも恵まれています。
でもタイニーハウスの物語は、物質的には恵まれていない状態から始まります。
タイニーハウスは、不況のため、多くの人が、経済的は不安を感じているときに話題になりはじめ、今は、ミレニアル(おおよそ1980年代前半から1990年代半ばまでに生まれた人)の間で人気です。
ミレニアルは、アメリカの歴史の中で、もっとも経済的に安定していない世代だと言われています。
さらに、タイニーハウスは、あたりまえにあるはずの自然がもはやあたりまえではないという意識から来ています。
実際、私たち人間の活動は、私たちの生活の足場をこわしつつあります。
タイニーハウスのゴール
だから、タイニーハウスの物語が求める先は少し違います。
まず、お金の節約ができます。次に、持続可能な生活をすることによって地球を助けます。そしてこの2つを実現するために、シンプルに暮らします。
物質的制約のある中で、満足した状態を見つけるのです。
ジェスとダンはより少ないもので暮らす生活を選ぶことによって、経済的な自由を得て、ジェスは好きなことを追求できました。
より少ないほうを選んだから、2人は、タイニーハウスムーブメント、そして自然という大きなものの一員になりました。
本当に自然と一体化しています。彼らは、既存の水道は使わないし、コンポストトイレ(水洗ではなく排泄物を堆肥にする)利用しています。
伝統的なカミングオブエイジ小説は、人間社会で居場所を見つける話です。タイニーハウスもそうなのですが、特に、物質的社会の中で、サステイナブルな場所を見つける物語です。
より少ないことを求める
私が大学を出た直後に働いていた職場の同僚は、車のバンパーに、Need less (レスが必要)という大きなステッカーを貼っていました。
このステッカーの言葉が印象的で、ずっと気になっていたのですが、レスを求めることは、何かを犠牲にするように聞こえます。何かをなしですませるような、欲しがってはいけないという感じがします。
でもタイニーハウスのスローガンは違います。
それは自分の夢を追求することであり、社会が自分に期待する以上のことを求めることです。
タイニーハウスに住む人や、このライフスタイルが好きな人は、より少なくもつことは、より豊かに生きることであり、レス・ハウスはモア・ライフだと言います。
ジェスは、人生や自分にもっとたくさんのことを求めたかったと言いました。
タイニーハウスの問題
私はタイニーハウスを100%支持するわけではありません。問題もありますから。
本当にサステイナブルに暮らしたかったら、アパートのほうがずっと効率的です。
さらにタイニーハウスはトレーラー(お金がなく、家に住めない人が、しばしば仕方なくトレーラーに住む)ではありません。
タイニーハウスに住む人は、経済的、社会的な資産をもち、そこに住むことを選択できる人たちです。
でも、私がタイニーハウスをおもしろいと思うのは、そこにある考え方です。
タイニーハウスは、環境問題への答えなのかもしれないということ。
自分自身や、人間であることを変えることなく、すでに私たちが自分について語ってきた物語を少しだけ変えたのです。
それは、求めることによって、何を学べるのか、という物語です。
//// 抄訳ここまで ////
タイニーハウスや読書に関するプレゼン
小さな家(タイニーハウス)に住むことは自分の夢を叶える糸口になる(TED)
ガラクタを全て売り払い、借金を返し、旅に出て、自由に生きている男の話(TED)
持たない暮らしは自分らしく生きること
19世紀のドイツ文学にあるビルドゥングスロマンは、教養小説と訳されています。ビルドゥングスロマンは、主人公が社会の現実と戦いながら、自己成長していく過程を描いた物語です。
こういう話はほかにもいっぱいありますよね。
たとえば、日本で人気のある漫画にもあります。
そういうストーリーとタイニーハウスムーブメントは同じだ、というのがカトラさんの主張です。
そうですかね?
タイニーハウスで暮らしても、心理的に大きく傷つくことはないと思うので、個人的には違うような気がします。
ただ、自分が自分らしくいられる場所を求めた結果、タイニーハウスに住むことになるのはよくあることです。
結局、社会が、「こうあるべきだ」と言うことをそのとおりにしたからといって、皆が幸せになれるわけではないのです。
生きづらさを感じている人は、社会的なプレッシャーというか、「こうあるべきです」という声に合わせすぎているのかもしれません。
持たない暮らしを始めて、自分の本音を大事にすると、もっと楽しく生きられると思います。