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悪い習慣をやめるシンプルな方法を教えてくれるTEDの動画を紹介します。プレゼンターは、心理学者で依存症の専門家のJudson Brewer(ジャドソン・ブルーワー)さんです。
プレゼンのタイトルは、A simple way to break a bad habit(悪習慣を断ち切るシンプルな方法)。
A simple way to break a bad habitのTEDの説明
Can we break bad habits by being more curious about them?
Psychiatrist Judson Brewer studies the relationship between mindfulness and addiction — from smoking to overeating to all those other things we do even though we know they’re bad for us.
Learn more about the mechanism of habit development and discover a simple but profound tactic that might help you beat your next urge to smoke, snack or check a text while driving.
悪い習慣に対してもっと好奇心を持てば、それを断ち切ることができるのでしょうか?
心理学者のジャドソン・ブルーワーは、意識的になることと依存症(喫煙から食べ過ぎまで、私たちが自分ではよくないと思っていること)の関係を研究しています。
習慣が生まれるメカニズムを学び、悪い習慣をしないですむシンプルだけど奥深い方法を学んでください。
今度、タバコを吸いたくなったとき、おやつを食べたくなったとき、運転中にテキストメッセージを送りたくなった時に有効です。
私はナッツの食べ過ぎをやめたい、と思っています。ふつうのやり方だと、「食べちゃいかん、食べちゃ」と、食べたい気持ちを抑えこもうとしますよね?
ところがブルーワーさんは、食べたい渇望が起きたときや、実際に誘惑に負けて食べているとき、自分の心や体に何が起きているのか好奇心を持って観察しろ、と言っています。
無理に衝動を押さえつけないのです。
プレゼンはシンプルで、特にエンターテイメント性はありません。ですが、わかりやすいです。
個人的には、とても興味深い動画ですが、なぜか日本語字幕がないので、やや詳しめに訳します。
収録は2015年の11月。長さは9分24秒です。
☆トランスクリプトはこちら⇒Judson Brewer: A simple way to break a bad habit | TED Talk | TED.com
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
集中することは脳に反している?
初めてヨガを学んだとき、呼吸に注意を向けるのにすごく苦労しました。すぐに他ごとを考えたり、昼寝をしてしまい、真冬にTシャツ姿だったのに汗だくだく。
ぐったり疲れたものです。
私たちは、何かに注意を向けようとしているのに、たとえばこのプレゼンでもそうですが、半分ぐらいの人は、他のことを考え始めたり、ツイターをチェックしたい衝動にかられます。
実は、私たちが集中するのに苦労するのは、遺伝的に培ってきた、「学ぶプロセス」と闘う行動だからなのです。
習慣ができるメカニズム
「報酬を得るための学びのプロセス」というのがあります。心理学では、ポジティブ(肯定的)な強化、ネガティブ(負)な強化と言います。
具体的にはこんな感じです。
甘いものを食べる習慣がつくまで
おいしそうな食べものを見ると、脳は「カロリーだ、カロリー取って、生き残れ!」と命令します。
そこで食べます。おいしいです。特に砂糖の入っているものは。で、体は「今食べたものと、見つけた場所を覚えておけ」と脳にシグナルを出します。
文脈依存の記憶( context-dependent memory 後述)を持つと、私たちはこのプロセスをリピートします。
食べものを見る⇒食べる⇒いい気持ちになる。この繰り返し。
きっかけ(トリガー)⇒行動⇒報酬 というプロセスです。
そのうち、脳はこんなふうに考えだします。「これ、食べ物がどこにあるか覚えるためだけでなく、ほかのことにも使えるんじゃない?今度悲しい気持ちになったら、何か食べたら?そうすると気分よくなるよね?」
そこで私たちはその通りにし、怒りや悲しみを感じたら、チョコレートやアイスクリームを食べれば気分がよくなることを学ぶのです。
プロセスは同じです。ただ、「きっかけ」が違います。空腹がきっかけではなく、感情的なシグナルが食べたい気持ちを生むのです。
喫煙が習慣になるまで
10代の頃、おたくだったとしましょう。外で不良たちがタバコを吸っているのを見て、「うわあ、ぼくもあんなふうにかっこよくなりたい」と思い、タバコを吸い始めます。
マルボロの広告に出てくる男性がかっこいいのは偶然ではありません。喫煙はかっこいいことなのです。
タバコを吸っているかっこいい人を見る⇒かっこよくなるために、タバコを吸う⇒気分がよくなる、これを繰り返します。
きっかけ⇒行動⇒報酬です。
何度も同じことを繰り返すたびに、プロセスが強化され、習慣になります。そして、ストレスを感じたら、タバコを吸ったり、甘いものを食べたくなるのです。
昔は、サバイバルのための学びだった行動が、今や命を落としかねない習慣になっています。
肥満と喫煙は、この世界で病気や死をもたらす、防ぐことのできる原因の代表ですから。
マインドフルネストレーニングとは?
さて、私のヨガの呼吸の話に戻ります。脳が行っていることに反対して、無理やり呼吸に注意を向けようとするのではなく、この「報酬を求めるための学びのプロセス」に入り込んでみるのはどうでしょうか?
今起きている現象に好奇心を持つのです。
わたしの研究所では、意識的になるトレーニング( mindfulness training マインドフルネストレーニング)が、禁煙の手助けになるかどうか調べています。
私がヨガを学ぶとき、呼吸に集中しようとしたように、被験者は、無理やりタバコをやめようとします。ほとんどの人にとって、禁煙は初めてではなく、平均6回試みて失敗しています。
マインドフルネストレーニングでは、無理やりやめさせるのではなく、好奇心を持つように指導します。
実際、彼らに、タバコを吸えと言うんです。「いいですよ。喫煙してください。ただし、タバコを吸っているときどんな感じになるのか、そのことにしっかり注意を向けてくださいね」と。
ある人はこんなことに気づきました。「意識的にタバコを吸うこと(mindful smoking マインドフルスモーキング):くさったチーズみたいな匂いがするし、化学薬品みたいな味がする。気持ちわるすぎ!」
彼女は、頭で「喫煙はよくない」とわかっていただけでしたが、今や、身を持って、タバコはよくない、とわかったのです。
知識(knowledge)が知恵(wisdom)に変わり、喫煙という行動に幻滅しました。
前頭皮質(prefrontal cortex)という、脳の新しくできた部分では、「タバコを吸うべきではない」とわかっています。そして、喫煙や、甘いものを食べすぎる行動を止めようとがんばります。
これは認知制御(cognitive control)と呼ばれます。認知を使って行動をコントロールしようとするのです。ところが、前頭皮質は、ストレスがあると、まっさきに制御不能になってしまう場所です。
自分の行動を考えてみればわかりますよね。ストレスを感じていたり、疲れていると、子供や配偶者を怒鳴りつけてしまいます。頭の中では、そんなことしても何にもならないとわかっているのに。とにかく怒鳴ってしまうのです。
前頭皮質が効かなくなると、古い習慣に戻ってしまいます。だから、先ほど言った自分の習慣に幻滅するのはすごく大事なことです。
自分の習慣から得ているものを観察することは、その習慣の実態を身をもって知ることに役立ちます。そもそもその行動に魅力を感じなくなるので、無理やりやめる必要もありません。
マインドフルになる効果は実証されている
マインドフルになれば、魔法のように突然タバコをやめられると言っているわけではありません。
しかし、何度もやるうちに、自分の行動の結果がよりはっきりとわかってきて、古い習慣を手放し、新しい習慣を得ることができるます。
マインドフルネスとは、自分のやっていることが、体と心をどんな状態にしているのか、できるだけ注意を向けること。それは好奇心を持つことであり、自然に報酬をもたらします。
好奇心を持つってどんな気分ですか?
気分いいですよね。
好奇心を持つと、衝動が起きた時、体にどんなことが起きているのか気づくようになります。
どこかが緊張したり、固くなったり、イライラしたりといった感覚(センセーション)です。感覚は起きては消えます。
大きな渇望を抑えるより、小さなセンセーションに注意を向けるのです。
言い換えれば、好奇心を持つということは、これまでの古い、恐怖に満ちた習慣的な反応から、一步外にでて、今この瞬間に入り込むことです。
次はどんな反応があるのかデータを集めようとしている科学者になったようなものです。
このやり方は単純すぎると思うかもしれませんね。ですが、ある研究によると、マインドフルトレーニングは、伝統的なセラピーよりも、喫煙に対して倍の効果がある、と出ています。実際にうまくいくのです。
アプリやオンラインで悪習慣を手放す
瞑想をよくしている人の脳を研究したところ、デフォルトモードネットワークという、脳が自分自身に対して情報をプロセスしている神経のネットワークが発見されました。
人が悪い習慣の行いをしたいと渇望したり、実際にその行動をしている時、後帯状皮質(こうたいじょうひしつ posterior cingulate cortex)という、デフォルトモードネットワーク(default mode network 後述)の一部分が活性化されるという仮説があります。
ところが、好奇心を持ちながら悪習を観察しているときは、後帯状皮質が静かになります。
現在、私たちはスマホのアプリやオンラインで、マインドフルネストレーニングのプログラムのテストをしています。
皮肉にも、人の気を散らしているテクノロジーを使って、喫煙やストレスによる過食、その他の依存的行動を手放す手助けをしているのです。
さて、文脈依存記憶の話を覚えていますか?
このツールは、人々がもっとも感心をもっている文脈で使えます。
もともと遺伝的に持っている能力を使って、タバコを吸いたくなったり、ストレスのために物を食べたくなったとき、何が起こっているのか観察します。
もし喫煙やストレスによる過食をしていないなら、退屈だからEメールをチェックしたくなったときや、仕事中に気が散ったり、運転中にテキストメッセージに返事をしたいと思ったときに使ってみてください。
自分の心と体に何が起きているのか、好奇心を持って観察するだけです。
衝動を感じたらそれに気づき、好奇心をもち、それをやめて、喜びを感じる、というプロセスをリピートしてください。
—- 抄訳ここまで —–
専門用語の説明
context-dependent memory 文脈依存の記憶、コンテキストに依存している記憶
その情報を覚えたときの状況と、それを思い出したときの状況が似ているとよりよく思い出せる記憶のことです。
たとえば、いつも通勤電車で一緒になる人に銭湯やお祭りで会っても思い出せないのに、電車や通勤に使っているバスで会うと思い出すようなことです。
default mode network デフォルトモードネットワーク
デフォルトモードネットワークとは、特に脳が活動をしていないデフォルトの状態のネットワークです。
活動とは、人が意識的にやる何かのこと。料理とか宿題とか掃除とか、意識的に何かを考えているときは、脳は活動をしていますが、そういう特別なことをやっていなくても、脳はお休みをしているわけではありません。
脳内のいろいろな部分がアクティブに何かをやっています。同期しているのではないか、とも言われています。
だから、self-referential(自分自身を参照している)なのです。
脳のネットワークについてはまだまだ研究中です。
最近、mindful とか mindfulnessという言葉をよく聞きます。前も書いたような気がしますが、この言葉訳しにくいですね。マインドを持って、つまり意識的になって、何かをすることが、mindfulness です。
習慣を変える参考になるTEDの動画
マット・カッツに学ぶ30日間で人生を変える方法~30日間チャレンジのススメ(TED)
習慣のループを知れば、どんな習慣も変えることができる(TED)
結果的に太っている。なぜダイエットは成功しないのか?(TED)
貯金できない人がうまくお金を貯める秘訣は、行動経済学にあり(TED)
悪い習慣を断ち切るためにはとにかく客観的になること
私の経験では、新しい習慣を身につけるのは比較的ラクですが、悪い習慣を断ち切るのはなかなか難しいです。
やはりブルーワー先生が言っているように、今自分に何が起きているのか、しっかり観察すると悪習から抜けられるのではないでしょうか?好奇心を持つと確かにわくわくするので、いったいどうなっているんだろう?と観察するといいですね。
何も考えていないと、いつもの習慣にすっぽりはまってしまいます。
『習慣の力』という本には、爪をかむのがやめられない若い女性の話がでてきました。彼女は、コンサルを受け、いつもインデックスカードを持ち歩き、爪をかみたい衝動にかられたら、カードにチェック印をつけることから始めました。
これはその習慣のきっかけに気づく手助けになります。
渇望を感じたら、チェック印をつけるのは、客観的になるいい方法ではないでしょうか?ついでに、どんな気持ちでいるのかノートに書くのもよさそうです。
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デビューしたてのアイドル歌手は、見た目がもっさりしているのに、そのうちだんだん垢抜けて可愛くなっていきます。
これは整形をするから、スタイリストがおしゃれな服を着せるから、ということもあるでしょう。
けれどもきれいになる一番の理由は、いつも自分が歌を歌っているところをビデオで見たり、自分の写真を雑誌で見たりして、客観的に自分を見る機会が増えるからではないでしょうか?
私にしても、一日の行動を誰かにしっかりビデオ撮影されていて、それを見る機会があったら、自分の行動に幻滅してうんざりすると思います。
それを何度もやれば、ナッツの食べ過ぎもおさまり、立ち居振る舞いもよくなり、もう少しやせることでしょう。ビデオを撮ることはできないので、脳内でできるだけ客観視してみます。