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毎日をちょっぴり楽しく生きるのに参考になるTEDの動画を紹介します。
マルコム・グラッドウェル(Malcolm Gladwell)の Choice, happiness and spaghetti sauce(選択と幸せ、そしてパスタソース)。邦題は「パスタソースと幸せについて」
グラッドウェルさんは近年人気のノンフィクションの作家でジャーナリストです。
パスタソースと幸せについて、TEDの説明
“Tipping Point” author Malcolm Gladwell gets inside the food industry’s pursuit of the perfect spaghetti sauce — and makes a larger argument about the nature of choice and happiness.
「ティッピング・ポイント」の著者、マルコム・グラッドウェルは完璧なパスタソースを追求する食品業界の話を伝え、選択と幸せについて問いかけます。
爆発的に売れたパスタソースの生まれた背景を語り、人を幸せにするものについて解き明かしているプレゼンです。
このプレゼンはマーケティングの仕事をしている人や、ビジネスマンにおすすめされることが多いのですが、幸せに関する考察は、ふつうの人にも参考になります。
日本語字幕があるのでよろしければごらんください。動画のあとに要約を書きます。事例がたくさんありますのでそこはさらっとまとめます。
動画は17分30秒。収録は2004年です。
※トランスクリプトはこちらから⇒Malcolm Gladwell: Choice, happiness and spaghetti sauce | TED Talk | TED.com
※TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
過去20年、誰よりもアメリカ人を幸せにした男
ハワード・モスコウィッツ博士の話をします。彼は、過去20年間、誰よりもアメリカ人を幸せにした人です。
私の個人的ヒーローでもあります。
彼はパスタソースを生まれ変わらせた心理物理学者です。
心理物理学者はものごとを測ります。彼は「測ること」にとても興味がありコンサルティングの会社を作りました。
おいしいダイエットペプシを開発する仕事
1970年代のはじめ、ハワードはペプシの仕事を依頼されました。
「アスパルテーム(人工甘味料)を入れたダイエットペプシを作りたい。8%~12%のうち、どの濃度で入れたら一番おいしいダイエットペプシができるか教えて欲しい」という依頼です。
一見、簡単な質問に思えます。
8~12の間であらゆる濃度のペプシを作り、人に飲んでもらい、おいしいと思ったものをたずねれば答えはわかりそうです。
ハワードも同じことをしました。
ところが実験結果は、きれいなベル・カーブ(正規分布)にはならず、バラバラでした。
彼はこの実験結果に納得がいかず、こんな結果になった理由を何年も考え続けました。
ネスカフェの仕事をしていた有る日、突然彼はその答えに気づきました。
問いが間違っていたのです。
完璧なダイエットペプシなんてない。あるのは完璧なダイエットペプシ達なんだ、と思ったのです。
これは食品科学におおける大きなブレイクスルーです。
彼はこの発見を講演で話しましたが、人々の理解は得られませんでした。
しかし、ハワードはこの発見にこだわり続けました。
ヴラシックピクルス社の仕事
ヴラシックピクルス社が、「博士、完璧なピクルスってどうやったらできるでしょうか?」とハワードに聞いたとき、彼はこう答えました。
「完璧なピクルスなんてない。完璧なピクルス達しかないんだ。今あるピクルスを改良するのではなく、全く新しいピクルスを作りなさい」。
こうしてピリっとした(zesty)ピクルスが生まれました。
キャンベルのパスタソースを改革
ハワードが有名になったのは、キャンベルのパスタソースの仕事です。
キャンベルはプレゴ(Prego)というブランドのパスタソースを作りました。
80年代、プレゴはライバルのラグー(Ragù)というソースに負けていました。ラグーは70年代~80年代、市場で一番人気だったソースです。
実はプレゴのほうが質はよかったのですが。ラグーは薄いソースで、プレゴのほうが、パスタにうまくからみました。
キャンベルはハワードのところに相談に来ました。
ハワードは、45種類のパスタソースを作り、人々に10種類ずつ試食させ、0から100の点をつけてもらうという実験を何ヶ月も繰り返しました。
こうして集まったデータをハワードはグルーブ分けしました。
一番人気のパスタソースを選んだのではありません。彼は、そんなものはないと知っていました。
データを分析して、最終的に人々が好む3種類のパスタソースを見つけました。
1.プレーン
2.スパイシー
3.チャンキー(トマトの固まりがごろごろ入っているタイプ)
1980年代にはチャンキーなソースはなかったので、こんなソースを思いついたのは本当にすごいことです。
キャンベルの人は、「アメリカ人の3分の1はチャンキーなのが好きなのに、誰も売ってないってことですか?」とハワードに聞きました。
「その通りです」こうハワードは答えました。
チャンキーなソースが大ヒット
彼の指示に従って、キャンベルは全く新しいパスタソースを作り売り出しました。チャンキーなスープは、その後10年間で6億ドル(2017/03/06のレートで680億円ぐらい)の売上を記録しました。
食品業界の人は、自分たちが間違っていたことに気づきました。
このとき以来、さまざまな食品にいろいろなバリエーションが生まれたのです。
7種類のお酢、14種類のマスタード、71種類のオリーブ油みたいに。
ラグーもハワードに仕事を依頼し、36種類のパスタソースを売り出しました。
これがハワードによるアメリカ人への贈り物なのです。
モスコウィッツ博士の3つの発見
彼は食品業界が人々に貢献する方法を、3つの点で根本的に変えました。
1.人は自分の食べたい物を知らないことを明らかにした
それまで企業は、人々の好みを知るために実際に消費者に聞いていました。
ラグーは20~30年間グループインタビューをしていましたが、誰も、チャンキーなスープが食べたい、とは言わなかったのです。最低でも3分の1の人は、心の中で求めていたのに。
人々は自分が欲しいものがわかっていないのです。
自分の望みや嗜好を理解するためには、人は自分のほしいものを説明できない、ということを知っていなければなりません。
2.好みの違いがあるだけ:ホリゾンタルセグメンテーションの重要性
80年代の始めは、高級品が売れると考えられていましたが、ハワードは「これは違う」と言いました。
マスタードやパソタソースに階級などないし、いいマスタードや悪いマスタードもない。完璧なマスタードや不完全なマスタードもない。
そこにあるのは、好みの違う人々それぞれに合う違うタイプのマスタードなのです。
3.完璧な料理の作り方などない(プラトニックな料理の否定)
長い間、料理の世界では、ある料理を作るに1つの、完璧なやり方しかないと考えられていました。
高級レストランでは自分の好みに合わせて注文することができなかったのです。なぜなら、それがその店のシェフの考える理想の料理だったからです。
食品業界でも同じ考え方をしており、トマトソースに対して、プラトニックな思いがありました。
トマトソースはイタリアから来たのだから、イタリアのトマトソースみたいであるべきだ、薄いのが本場のソースだ、というように。
人々を幸せにするのは、そういう本物のトマトソースだと思われていました。
料理の世界では、調理における普遍性のあるもの(ユニバーサルなもの)を求めていたのです。
無理もありません。
19世紀から20世紀にかけては、すべての科学で、ユニバーサルなものを見つけることに重きを置いていました。私たちがどんなふうに行動するのか、普遍的な法則を見つけ出そうとしていたのです。
しかし、この傾向は変わりました。
過去の10~15年はユニバーサルなものを探すことから、多様性(variability ヴァリアビリティ)を認める方向に動いています。
モスコウィッツ博士は、食品業界でも同じことをするべきだ、と唱えたのです。
自分の好みにあったコーヒーを飲むことができれば、人々はとても幸せを感じるのです。
ハワード・モスコフィッツ博士が私たちに教えてくれた一番大事なことは、人々の違いを認めるということです。そうすれば、私たちは真に幸せになれるのです。
/// 抄訳ここまで////
動画をより理解するための補足説明
● aspartame アスパルテーム
人工甘味料の1つ。甘さは砂糖の100~200倍とのこと。8%の濃度でも多いと思います。
● pasta asuce パスタソース
北米では市販のガラスのびんに入ったトマトソースベースのパスタソースがよく食されています。市販のソースを鍋で温めてそのままパスタにかけます。
こんなのです。
トマトソース以外のパスタソースもありますが、そこまで一般的ではないと思います。
● horizontal segmentation ホリゾンタルセグメンテーション
セグメンテーションはマーケティング用語で、特定の消費者や市場を分けることです。ホリゾンタルとは、水平の、平な、という意味。
ホリゾンタルセグメンテーションとは、ある商品をいろいろな人々に売ろうとすることです。
これに対して、ヴァーティカルセグメンテーション(vertical segmentation)があります。ある特定のターゲットを絞りこんで売ろうとすることです。
● platonic dish プラトニックな料理
プラトニックとは、プラトン的ということ。プラトンは古代ギリシャの哲学者で、ものごとを2つに分けて見るのが好きでした。
たとえば、精神的なものと肉体的なもの、というように。
プラトニックとは精神をひじょうに大事にする考え方です。
「プラトニックな料理」とは、その人が感じる料理のおいしさは関係なく、「理想的な寿司とはこういうものなんだ」という絶対的な思い込みから供される料理だと思います。
● Malcolm Gladwell マルコム・グラッドウェル
1964年、英国生まれ、カナダ育ちのジャーナリスト、ノンフィクションライター、講演者。
著書は以下のとおり。かっこの中は邦題です。
David and Goliath(逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密)
What the Dog Saw: And Other Adventures(犬は何を見たのか)
Outliers(天才! 成功する人々の法則)
Blink(第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい)
The Tipping Point(急に売れ始めるにはワケがある )
いずれも世界的なベストセラーになっています。
こちらの動画で彼の名前がでてきます⇒自分に自信がない?自信を持つことはスキルの1つ(TED)
● Howard Moskowitz ハワード・モスコウィッツ
アメリカのマーケットリサーチャー、心理物理学者。
モスコウィッツ博士の考え方をシンプルライフに応用するとしたら
博士が食品業界にもたらした3つの新しい視点はすべて、シンプルライフや家事に応用できます。
1.人は自分のほしいものがわかっていない
訳出しなかったのですが、コーヒーの好みをきかれたら、ほとんどの人が同じことを言う、というエピソードは興味深いですね。
食べ物にしても、暇な時間の過ごし方にしても、たいていの人は、ほかの人の食べているものや、ほかの人のやっていることを参考にしています。
自分が本当に食べたいものや、やりたいことがわからない(言語化できていない)からです。
物が多すぎて管理に忙しい人は、そもそもそういうことを考えようともしません。
そこで、世間で良いとされているもの、友だちが使っているもの、テレビでほかの人が便利に使っているよとアピールされたものを買って消費するのです。
ですが、それは間に合わせのものなので、なんとなくピンと来ないのです。
自分が本当に求めているものは、自分でもわかっていない、ということを意識していると、さまざまな思い込みを捨てられます。
2.完璧なものはない、そこにあるのは好みの違い
この考え方は完璧主義を手放すのに有効です。
断捨離、片付け、家事のやり方に完璧を求めて、いろいろな本を読みあさっては納得できず、次々と新しい本に手を伸ばす人は、この世にないものを追い求めている可能性があります。
それよりも、自分に合ったやり方を探したほうがいいです。
どんなやり方が自分に合うかは、ある程度自分でやってみないとわかりません。
関連記事⇒いくら断捨離本や片づけ本を読んでも部屋が片付かない本当の理由
3.多様性を大事にする
その人を幸せにするのは、その人に合った何かです。
それは1人ひとり違うということをわかっていると、無理に自分をユニバーサルなものにあてはめようとしなくなります。よって、ストレスが減るでしょう。
ミニマリストの暮らしは、人によっていろいろあるはずなのに、「ミニマリストのお手本」を真似しようとする人がたくさんいます。
そうした行動はあまりミニマリスト的ではありません。もっと自由に自分の生活を創造すると楽しくなります。
何をやるときにも、自分に合ったものを自分で作り出すのがベストです。
自分が本当に求めているものは、心の中にあるのですから、それをひっぱり出せばいいのです。
いろいろ情報をためこみすぎて、煮詰まっている人は、外にある物を追い求めるのはやめて、自分の中を見る時間を持つといいのではないでしょうか?
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英語の勉強になる表現も豊富なプレゼンなので、興味のある方は、英語のトランスクリプションも読んでみてください。