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セルフケアの重要性を教えてくれる、TEDの動画を紹介します。
タイトルは、Chronic Stress, Anxiety? – You Are Your Best Doctor! (恒常的なストレスに不安? あなたがあなたの最良の医者です)。
講演者は、医師のBal Pawa (バル・パワ)さんです。
自分が自分の医者・TEDの説明
Going from physician to patient following an accident on the same day, Dr. Bal Pawa realized the gap in our current medical system: The vital role of the mind-body connection and self-regulation.
Her story teaches us the importance of taking control of our health and instilling techniques for self-care.
事故にあったその日のうちに、医者から患者に変わったバル・パワ博士は、現代の医療システムにあるギャップに気づきました。心と身体のつながりと、自分で制御することが果たす重要な役割です。
彼女は、自分の健康を自分でコントロールすることと、セルフケアの技術を身につけることが重要だと教えてくれます。
収録は2019年の11月、プレゼンの長さは18分、自動生成の英語の字幕があります。プレゼンのあとに抄訳を書きます。
少々長いけれど、コンセプトはそんなに難しくありません。
戦うか逃げるか反応
あなたが、BMWの新車を手に入れたとしましょう。
わくわくして、運転を始めます。ドライブを楽しんでいたら、突然、白いプードルが飛び出してきました。
あなたはパニックになります。犬もパニックになります。
犬をひいてしまう! と思ったその瞬間、ブレーキを踏んで、事なきを得ました。
犬は走り去りますが、あなたは震えが止まりません。
何が起きたのでしょうか?
あなたは、ちょっとの間だけ、大きな「戦うか逃げるか」というストレスを感じたのです。
もし、身体がいつもこの状態だったら、どうなるでしょう?
ストレスと病気の関係
恒常的に大きなストレスを感じていると、体調が悪くなります。
胸焼け、頭痛、筋肉の緊張、高血圧、胃腸の不調、不眠、大きな不安、性欲減退など。
米国医療協会によると、医者が治療する症状のうち75%までもが、極度のストレスによるものです。
研究者であり医者である私も、そうした症状を見ています。
ストレスによる症状は、いつか、命にかかわる重大な病気に変わります。糖尿病、うつ病、心臓発作、ガンにすら。
ストレスと病気の関係をみれば、心と身体には否定できないつながりがあるとわかります。
きょうは、自分自身が自分の医者となり、心をつかって、ストレスにまけない身体にする方法をお教えします。
恐怖を感じるとどうなるか
まずは、初歩的な解剖学の話をします。
車と同じように、脳にはエンジンがあり、それは自律神経系(筆子註:交感神経系のこと)と呼ばれています。
自律神経系は、ストレスがかかると、エンジンがかかります。
トラのような、外的な危険から逃げなければならなかったとき、「戦うか逃げるか反応」は役立っていました。
しかし、現代は、先史時代のトラに変わって、恐怖というトラが心の中を歩き回っています。
失敗に対する恐怖、拒絶されることへの恐れ、孤独、意地悪な上司、やることでいっぱいのTo-doリスト。
心の中にある恐怖から逃げられません。いつも、一緒です。
あなたの身体は、いつも、戦うか逃げるか状態になり、それがデフォルトになります。
エンジンがいつもかかっていても、アクセルは踏まれません。
すると、コルチゾールやアドレナリンのストレスホルモンが大量に分泌され、身体にダメージを与えます。
ストレスがあればあるほど、病気になるのです。
自律神経系を制御する
しかし、自律神経系にはブレーキがあります。迷走神経です(筆子註:副交感神経系のこと)。この神経は、ほかの迷走神経と違って、その活動が、その場にとどまってはいません。
この迷走神経は、脳から伸びていて、神経の集合体が、身体のさまざまな器官へ届き、「戦うか逃げるか反応」とは、逆のことをします。
これは、「休息と消化反応」と呼ばれる反応で、すべてをゆっくりにするのです。
つまり、この神経は、サバイバル脳から、沈着冷静で理性的な脳に導いてくれるのです。
健康にはとてもよい状態ですが、問題は、いつも、ブレーキをかけることができるわけではないことです。
人生が急変した
医師としても患者としても、このことを私は、よく知っています。
32歳のときの私は、完璧な人生を送っていました。
相思相愛で結婚し、真新しい家に引っ越し、2人の可愛い子どもに恵まれ、お腹には、もう1人、子供がいました。
大好きな仕事をしていました。赤ちゃんを取り上げ、家族の健康を守る仕事です。順調な人生でした。
ある雨の夜、バンクーバーで、健康でかわいい男の赤ちゃんを取り上げ、喜びと満足感にひたりながら家路につきました。
家に帰って、2人の子どもたちをハグして、早くこの喜びを伝えたいと思っていました。
人生は急変するとよく聞きますが、私の場合は、それが全盛期に起きました。
スピードを出したトラックが、急に私の小さな白いセダンに突っ込んできたのです。
タイヤがきしり、金属がくだけ、ガラスが飛び散り、サイレンが鳴り響き、ライトが点滅しました。
救急隊員に質問されました。あなたの名前は?と。
そして私は意識を失いました。
交通事故で入院
目覚めたとき、私は、数時間前に、医師として扉を出た病院に、首に装具をつけた患者としていました。
あちこち、いろいろ調べられ、検査を受ける。
役割の逆転は、とても怖くて、血が引く思いです。
この事故で、人生のもっともいい時期を7年間、台無しにしました。
首と肩を痛め、肋骨が折れ、肺がつぶれ、慢性的な痛みと疲労、不眠という症状が残りました。
お腹の子供を失い、悲しくて、ひどく落ち込みました。
しかも、常に自律神経系が活発になっていたせいで、悪夢を見ては目覚め、事故のことを繰り返し、思い出しました。
自分の面倒をみることができないのに、子供や患者の世話ができるでしょうか?
自宅の薬用のキャビネットは、さまざまな薬であふれていました。あらゆる薬を持っていましたが、肉体的にも精神的にも癒やされませんでした。
しかし、なんとかしなければなりません。
メディカルスクールでの出会い
肩を痛めたせいで、赤ちゃんを取り上げることができなくなりました。
キャリアチェンジのため、ハーバードメディカルスクールの心と身体のコース(mind-body course)に申し込んだら、そこには、第1級の研究者、ベンソン博士がいました。
ある日、授業のあとに、ベンソン博士に聞きました。
「事故にあってから、7年間、苦しんでいます。何度も手術を受け、たくさんの専門家に会い、あらゆる薬を試しましたが、いまだによくならないのです。先生の研究は私を助けてくれるでしょうか?」
「もちろんだよ、バル。慢性的な痛みと慢性的なストレスは、自律神経系を刺激するんだ。
きみは、いつも、戦うか逃げるかの状態で生きている。その状態では治らないんだよ。
迷走神経を活性化させないとね。休息と消化だよ」。
でも、どうやったらいいのでしょう?
「いいかい、ストレスは自動的に発生するが、リラックスはそうではない。横隔膜をゆるめる、筋肉をゆるめる、ひとつの言葉を繰り返す。
この3つをやるんだ。やってごらん、やったところで失うものは何もないんだし」。
最初は疑っていた
確かに、このとき、私は失うものは何もありませんでした。
希望と決意を胸にバンクーバーに戻りましたが、私は、科学をもとにした訓練を受け、社会で実証されている医療に囲まれていたから、この方法に、かなり懐疑的でした。そこで、自分で調べてみたのです。
リラックスする技術が、自律神経系を落ち着かせることを実証している研究はたくさんありました。
もっとも説得力があったのは、心と身体をつなげる医療が、感情と身体の健康を劇的に改善することを示した神経科学です。
これをやってみようと思いました。自分がしたリサーチと、ベンソン博士から学んだリラクゼーション法を組み合わせて、シンプルなやり方を考えました。
呼吸(breath)、心(mind)、言葉(word)の3つのステップからなるBMW瞑想です。
BMW瞑想を開始
1つ目の呼吸は、朝のルーティンにしました。
静かでこじんまりとして、快適な空間に行き、横隔膜をつかって深い呼吸をしました。2分後に、筋肉をリラックスさせます。
「筋肉をリラックスさせると、自律神経系が落ち着くが、横隔膜や筋肉が緊張すると、その逆の、戦うか逃げるか状態になる」というリサーチを思い出したからです。
2つめの心については、そう簡単ではありませんでした。
特に、慢性的なストレスや痛みがあるときは。
はやる気持ちを落ち着かせなければなりません。
その瞬間にいなければならないのです。
心は自律神経系とリンクしているから、身体に大きな影響を及ぼします。心の状態は身体の状態と同じです。
静かに、その瞬間にいることは、マインドフルでいることです。
過去や未来の考えに、ハイジャックされずに、その場にいる。これは、私の呼吸を助けてくれました。
3つ目は言葉を繰り返すことです。
私は、OM(オーム)という言葉を選びました。
家(home)という言葉と韻を踏んでいるから。事故にあう前の身体に戻りたい、自分の家に戻りたいと強く願っていたのです。
呼吸を始め、心をこめてその言葉を言い、また呼吸をして、集中しました。
毎朝、10分、夜10分というルーティンにしました。
その後、すぐ、1日のいつでも、1分間のミニ瞑想をできるようになりました。
瞑想は効果があった
そして変化を感じ始めたのです。身体が変わり、脳が、自然の鎮痛剤エンドルフイン、自然の睡眠薬であるメラトニン、自然の抗うつ剤であるセラトニンを分泌するようになりました。
懐疑的な科学者であった私は、数ヶ月のうちに、証拠を見つけたのです。
薬をやめ、完全になった気がしました。治ったと思ったのです。
新しい考え方と展望を手に入れた気がしました。
キャリアチェンジのために始めたハーバード大学のコースが、私の人生を劇的に変えたのです。
もうすぐ私は59歳ですが、39歳のように感じています。
他の人にも瞑想法を教えた
私の人生を変えたのは、BMW瞑想で、薬ではありません。
この瞑想で、何千人もの患者さんの人生を変えてきました。
自分の医療のやり方を180度変えました。心と身の関係をみて、それを統合し、人間を全体ととらえることで、患者の力になれるクリニックを共同で設立しました。
自分自身が解決の一部をになう方法です。
この方法がとても気に入っているので、「心と身体の治癒(the mind-body cure)」という本を書きました。
誰でも、自然に治癒できる力をもっていると信じているからです。身体と心に適切な環境を与えさえすれば。
この瞑想は効果があります。
ミシェルの体験
数年前、ミシェルという若い女性が私のオフィスを訪れました。
彼女は、深刻な悩みをかかえていたのです。
「パワ先生、メディカルスクールの入試に落ちてしまって、パニックになりました。
医者になる夢が打ち砕かれました」
彼女はとても落ち込んでいました。
ミシェルの自律神経系は、とても活性化していたので、私は、彼女を落ち着かせ、いっしょに呼吸をしてからこう言いました。
「ミシェル、瞑想は、注意深く、あなたの身体に秩序をもたらすことなのよ。心を整えて、自律神経をコントロールしなければならないわ」。
彼女は、帰宅してすぐにBMW瞑想を始め、神経系をリセットし、数カ月後に戻ってきました。
そして、試験で95%を取ったと言うのです。
何よりもすばらしいのは、現在、ミシェルは統合医療の専門医で、BMW瞑想を患者さんに使っていることです。
自分自身が自分の医者になる
瞑想をすれば、もう医者に診てもらわなくてもいいというわけではありませんよ。
本質的な治療を受けるためには、医者の診察が必要です。でも、考えてもみてください。
あなたの症状の多くがストレスから来るのなら、あなた自身が、自分の医者になれるということですよね?
自分の心のことを一番よく知っているのは自分だし、何がストレスになっているのか、そのストレスに身体がどう反応しているのかも自分でわかっています。
朝、瞑想をしてみよう
朝起きたら、スマホをさわる前に、瞑想を始めてください。
すでに、何らかの瞑想をしているなら、すばらしいことです。
でも、何もしていなかったら、ぜひ始めてほしいのです。1日10分で、その後の人生に大きな恩恵がありますから。
起きて立ち上がったら、BMWをします。
呼吸から始めます。深く吸って、はいて。
それから気持ちに意識を向けます。そして言葉を繰り返します。
「ピース、オム、アーメン」。どんな言葉でも、自分の心に響く言葉を言ってください。
10分後には、ずっと落ち着き、活力がわき、リフレッシュした気分になります。
慢性的なストレスからの解放
このような生活をして、休息と消化を心がけると、脳はもっと落ち着いて、理性的になります。
心を整え、自律神経系を制御することができるようになれば、あなたは、自分自身の最高の医者になります。
違いに気がつきますよ。気分がよくなり、治りもよくなります。ストレスホルモンに、組織を破壊されないですみます。
よりクリエイティブになり、立ち直りやすくなり、集中できるようになります。
心と身体がつながっていると、ほかの人とも、うまくつながれます。特に大切なパートナーと。
これからも、ストレスはなくなりません。誰もがその影響をうけます。
しかし、慢性的なストレスや不安、挫折のせいで、深く悩まなくてもいいのです。
どうぞ、ご自身のBMWで、家に帰ってください。健康とバイタリティー、喜びのある家に。
そして、残りのドライブを存分に楽しんでください。
単語の意味など
fight-or-flight 戦うか逃げるか反応。差し迫った外敵と戦うか、そこから逃げることができるように身体が反応すること。交感神経系が活性化され、血糖値、心拍数があがり、消化や免疫系の働きは二の次になります。
過去記事で何度もふれていますが、詳しく知りたいときは、こちらのプレゼンをごらんください⇒落ち着いて、注意を向けて、ありがとうと言う、その方法(TED)
rev up 活気づく
vagus nerve 迷走神経(第10脳神経)
迷走神経の説明はこちらのプレゼンを参考にしてください⇒腸はどのように脳をコントロールしているのか? 腸の状態が脳の病気を予防する(TED)
diaphragm 横隔膜
パワ先生の著書です。
ストレスに関するほかのプレゼン
なぜストレスは身体によくないのか、どうやってストレスに強くなるか(TED)
毎日疲れているあなたに。心の境界線を引いてストレスを減らし、自由になる(TED)
ケリー・マクゴニガルに学ぶストレスと友だちになる方法(TED)
思考というエネルギーをうまく使って人生の質をあげる(TED)
自分でできることがある
8月半ばに、隣人のことで悩んでいる読者Pさんから、メールをいただきました。
木造アパートに住む隣人の、窓や扉の開閉音や振動、聞こえよがしに言う言葉(にPさんには思える)にとてもストレスを感じているそうです。
Pさんのご主人は、特に音は気になっていないとのこと。
新型コロナウィルスのせいで、ふだんは家にいないはずの人がずっと家にいるようになったため、こうしたストレスに悩んでいる人も多いかもしれません。
Pさんに、考え方を変えることなど、いくつか助言を書いて返信したら、
「気にしない」ということが、自分にできたらどんなにいいか、主人のように全く気にならない性格がうらやましい
という返事をいただきました。
これって、つまり、自分にはできそうにない、ということですよね?
でもね。自分の考え方を変えることは、隣人の行動を変えることより、ずっと簡単なんです。
Pさんは、モーニングページを書いたり、瞑想をしてみたりするといいと思います。
ネガティブ思考改善にモーニングページがいい~今月の30日間チャレンジ
そして、今回のパワ先生のプレゼンや、過去に紹介したストレスに関するプレゼンの記事をもう一度、よく読んでください。
現代社会は、ストレスが多いから、自分でうまくストレスマネジメントをするべきです。
ほかの人に何かしてもらうのを待つのではなく。
パワ先生は、交通事故で重症を負い、治療に7年もかかり、さらに後遺症に悩んでいました。妊娠中だった子供を失い、仕事も失っています。
そんなつらい目にあっても、立ち直ることができたのだから、Pさんだって、今よりずっと楽になれますよ。
コツは、「私にはできない」と思うのではなく、「できるかもしれない。できることからやってみよう」と思い、行動することです。