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暮らしをダウンサイズしたい方の参考になるグラハム・ヒルさんのTEDの講演を紹介します。
ハワイのマウイ島で行ったプレゼンです。
タイトルは Life,edited(ライフ・エディテッド)
edit は 編集する、校訂する、修正する。この場合は、「刈り込む」といったニュアンスです。「余計なものを取り除いた生活」と訳せるでしょう。
生活をエディティングする
グラハム・ヒルさんは以前も当ブログで紹介しています。
ニューヨークで、自分のデザインしたおしゃれだけど小さなアパート(40平米)に住んでいます。どちらかというと都会派の印象があるグラハムさんですが、彼の生き方はマウイ島でも適用できる、と話しています。
動画は8分ほどです。日本語字幕がないので抄訳を添えます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
イントロダクション
私はWebの仕事をしています。1995年に初めてのサイトを作りました。またデザイナーでもあります。さらにエンバイロンメンタリスト(環境保護主義者)です。treehugger.com というサイトを持っています。
私の次のプロジェクトは建築に関するものです。
きょうは、私たちが開発したアパートを紹介します。ニューヨーク・タイムズでも紹介されてうれしかったです。
アメリカのかかえる問題
現在私が解決しようとしている問題はこれです。
簡単に言うと、過去50~60年の間にアメリカは大きくなってしまいました。大きな車、大きな家、容量も大きくなりました。
昔のコーラは8オンス(約236ml)でしたが、今は20オンス(約590ml)です。2.5倍です。たいていの物が3倍ぐらいになりました。
スペースも同じで、1950年代の1000スクエアフィート(およそ30坪)から2500スクエアフィート(およそ80坪)に拡大。しかも、家族の人数は減っています。
ほぼ3倍の大きさです。スペースが増えたからゆったりするかと思えばそんなことはなく、物でいっぱいです。
個人用の倉庫業は、今、220億ドル(2兆6千億円ぐらい)のビジネスです。
スペースが広がり、物が増え、クレジットカードの借金が増え、住宅ローンが増え、私たちは昔に比べて4倍の資源を消費しています。
もしこれで、私たちが幸せならまだわかるのですが、そうではありません。
幸せ度は過去50~60年、ずっと同じです。
そこで私はもっとスマートなデザインをして、行動を変えれば、小さな暮らしができると思いました。少ないことは、より豊かなことなのです。
LESS STUFF, LESS SPACE = LESS CO2, MORE$, MORE:)
物を減らし、小さな場所に暮せば、二酸化炭素の排出量は減り、お金は残り、より幸せになります。
小さくて多目的なアパート
これはマンハッタンにある私のアパートです。420スクエアフィート(ざっくり計算して23畳ぐらい)です。
ここに2倍から3倍の広さのアパートの機能を持たせています。
メインスペース(リビングルーム)がいろいろな場所に変わります。引き出しを引き出せば、ホームオフィスになります。
ベッドは壁からひっぱり出せます。
お客さんが来るときは、真ん中の壁を動かして、反対側にスペースを作り、二段ベッドを引き出します。カーテンをひけば、プライバシーも保てます。
お客さんをもてなすときは、伸び縮みのできるテーブルを引っ張りだします。クローゼットから椅子を出せば、12人ぐらい座れます。
小さな暮らしをする4つの原則
小さな暮らしをする方法は4つあります。
1.デジタル化
本、音楽、映画、テレビ番組、書類はデジタル化できます。
2.取り除く
溜め込みがちな性分を直します。包丁は3本で充分です。ほかの物も同じ考え方で減らします。
3.小さな物を買う
従来のタオルの半分のかさで、吸収性の高いタオルを発見しました。このタオルを使えば、収納スペースは半分でいいし、洗濯物の量も減ります。
この椅子のように、重ねて収納できるものを選びます。
これは私がデザインしたシンバイク(thin bike)で、ハンドルを回すことができるので、幅が小さくなり、壁に立てかけたりクローゼットに収納できます。
4.多機能(マルチファンクション)の物を買う
1つの物で2つ~3つの役割を果たすものを選びます。
寝てるときは食べないし、食べているときは寝ないので、食べるのに使うものと寝るのに使うものを同じスペースに持ってきました。
ベッドをひっぱり出せば、ダイニングテーブルがその下に入り込みます。
マウイにおける小さな暮らしとは?
さて、こういう考え方をマウイの生活に適用できるでしょうか?
もちろんです。
これは都会だけの話ではありません。
マウイは素晴らしい土地であり、どんどん人がやってきています。一人ひとりが自分のガレージや庭、家を持つ郊外型のライフスタイルにすると、だんだん土地がなくなります。
車が増え渋滞し、ショッピングモールができるような文化になってしまいますね。
ニューヨークのウエストビレッジにある公園は有名です。とても美しいのですが、あんなところには大金持ちしか住めません。
これよりもっといいアイデアがあります。
車を使わなくても移動できる島ってどうですか?自然がいっぱいで、環境にもダメージを与えない島。
どんな人でも住める広々とした島。マウイ島はこんな場所がふさわしいです。
2つのことをすれば、これが実現します。
1.密度(density)
2.シェアリング(sharing)
1.密度をあげる
もし世界の人が、ニューヨークの人口密度で住むとすると、全員がテキサス州のスペースにおさまります。ほかの場所は空き地になるわけです。
できるだけ狭い場所に大勢の人が住めるように考えればいいのです。
これは100~200スクエアフィート(9~18平方メートル)のタイニーハウスです。タイニーハウス専用の場所を作る提案もあります。庭など共用できるものはシェアします。
するとふつうの場所より4~5倍の密度になります。
オハナユニットやアクセサリードゥエリングユニット(accessory dwelling unit)もいいアイデアですね。
1つの地所にシングルファミリーホームを3つ作ったり、マルチユースのビルを作って、上は住居、下はレストランや店をもうけるのもいいと思います。
2.どんどんシェアする
物をシェアすることも大事です。
ジップカー(zipcar)や自転車をシェアするシステム、エアビーアンドビー(Airbnb)のようなスペースをシェアするシステム、物のある図書館のサービスなどは、ぜひやるべきです。
所有することよりも、利用しやすさを考えるべきです。
そうすれば、環境にダメージを与えないし、お金も場所も節約できます。
以上のことを考えればマウイはもっとよくなるでしょう。
人は車を運転するより歩く方がハッピーだという研究があります。家の中にいるより、外にいるほうが幸せなのです。
人生とはいろいろ経験したり、人とかかわることであり、物を集めたり、買い物することではないのです。
より小さな生活をすれば、そんなにお金がかからず、環境を脅かすこともありません。シンプルな暮らしをすれば、時間や心のゆとりが生まれ、より幸せになれます。
うまく減らせば、より豊かな暮らしになると信じています。
— 抄訳ここまで —-
グラハムさんが自分のアパートの内装を詳しく紹介している動画です。1分40秒。
彼のもう1つのプレゼンはこちら⇒『ものは少なく、幸せは多めに』~グラハム・ヒルに習う「小さく暮らす」メリット
タイニーハウスとは?⇒小さな家(タイニーハウス)に住むことは自分の夢を叶える糸口になる(TED)
ADUなどに関する補足
footprint 「足跡」のことですが、シンプルライフの文脈では、人の活動が温室ガスを出して、どれだけ環境を踏みつけたか、という意味で使われます。
大きな家に住んでいる人のほうがタイニーハウスに住んでいる人よりもたくさんフットプリントを残しています。
accessory dwelling unit(ADU)
アクセサリードゥエリングユニット。敷地のあいているところに立てる小さな家です。メインの家ではないから、アクセサリー(付属の)の家です。
タイニーハウスの一種です。タイニーハウスはトレーラーでひっぱる移動型が有名ですが、ADUは庭などに建てる固定型です。
離れみたいなものですね。
庭に建設したり、ガレージの上に小さな家を付け加えたりします。
オハナユニットはADUの一種ですが、住人はメインの家に住んでいる人の家族でなければいけない、という規定があります。
2015年にオアフでオハナユニットを作ってもいいと許可されました。オアフ島はとてもホームレスが多いので、政府はこの問題を解決する1つの手段として、住居費が安くあがるオハナユニットを導入したのです。
家のサイズなど、細かい規定があります。
ハワイはものすごくホームレスが多いです。生活費が高いからです。もちろん家賃も高いです。それなのに、賃金はとても安いそうです。
また、温暖な気候なので、本土のホームレスがハワイに引っ越すこともあるとか。確かに、カナダのような寒冷地では、冬場は長時間、外にいられません。
ジップカー(Zipcar)
1999年にボストンでできたカーシェアリングシステム。今は北米の各地で利用できます。カナダにもあります。
レンタカーとは違って、1時間から7日間まで借りられます。
利用したい人は、まずメンバーになります。会費は月7ドルか年間70ドル(ですが今見たら、35ドルでした。期間限定でしょうか?)を支払うとIDカードがもらえます。
車が必要になったら、ウエブで予約。スマホからもできます。そして、近所のジップカーの駐車場に行き、車の窓ガラスに貼ってあるカードリーダーに自分のカードをタップすれば、ドアが開きます。
車のキーは車内にあります。使ったらまた近所のジップカーの駐車場に返しにいきます。簡単ですね。
物を集めることではなく、物を使うことにフォーカスする
「何もかも自分で所有しよう」とすると、ものすごく物が増えます。「借りられれるものは借りよう」とか「いかに買わずにすませるか」と考えれば、物は減っていきます。
まあ、物が多い人は、まず「複数ではなく1つか2つにする」という考え方をし、ダブっているものはみんな処分するといいでしょう。
すると、かなり物の絶対量が減ります。その後、たった1回使うためだけに何かを買うのはやめて、借りられないか、ほかのもので代用できないか考えるクセをつければ、無駄な買い物もしなくなります。
私も、自分の服を最小限にしてから、数回、娘の服を借りたことがあります。
こう書くと、「筆子さんはケチ」とか「他人に迷惑をかけている」「社会の寄生虫」という意見が出るのですが、家族のものを借りて、何が悪いのであろうか、物の有効活用ではないだろうか、と思います。
娘はスパッツ(ヨガパンツ)を持ちすぎて、ほとんどたんすの肥やしにしているのですから、使っていない物を着るのは悪くないと思います。
家の中にある物をじっくり見ると、家族で共用できるのに、必要以上に個人個人で持っている物がたくさんあるのではないでしょうか?
動画の最後のほうで、グラハムさんは、You can make accessibility more compelling than ownership 「所有することより、アクセスのしやすさのほうが大事だ、と納得できます」と語っています。
持っていても使わなかったら意味がないのです。
また、持っている数が多すぎて、必要な物にアクセスしにくいのも本末転倒です。
物をたくさん溜め込む人は、数を集めることだけに意識が向いており、あまり物を使うことにフォーカスしていません。
それならば、最初から「私は物を使うために買っているんじゃない、ただ集めたいだけなんだ」と納得した上で買い物をし、その生き方を貫けば、あとで断捨離とか老前整理とかごちゃごちゃ考えなくてもすむかもしれませんね。
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グラハムさんはミニマリストだと思うのですが、さまざまなプロジェクトで成功し、たいへんな金持ちなので、一部の人たちの反感を買っています。
「それだけたっぷりお金があれば、何でも簡単に捨てられて当然だ。必要な時はまた買えばいいのだから」と。
また、「自分のアパートを見せびらかしている」という意見もあります。グラハムさんのようにライフスタイルをビジュアルで紹介する人は、日本では受けると思いますが、アメリカでは、「ナルシスト」と言われたりします。
いろいろ批判する人は、カチンとくるそのポイントが自分の「痛い所」かもしれません。
「お金持ちすぎだろ」と批判する人は、とてもお金がほしいのであり、「ナルシスト」と怒る人は、自分も目立ちたいのではないでしょうか。