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日々、もっと幸せを感じて暮らす方法を教えてくれるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、Hardwiring Happiness(脳に幸せを組み込んでいく)。講演者は、神経心理学者の Dr. Rick Hanson(リック・ハンソン博士)です。
hardwire (ハードワイヤ)は、配線する、組み込むという意味です。よい体験を脳に組み込めば、より幸せを感じられる脳に変えることができる、という内容です。
幸せを組み込む、TEDの説明
Hardwiring Happiness : The Hidden Power of Everyday Experiences on the Modern Brain. How to overcome the Brain’s Negativity Bias.
ハードワイヤリングハピネス:近代的な脳に対する、日々の体験の隠されたパワー。脳がネガティブに傾くのをいかに克服するか?
動画の長さは13分45秒。収録は2013年。英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDトークの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ハンソン博士は、おだやかでユーモラスなしゃべり方をする人なので、講演を聞いているだけで、ほんわかと幸せな気分になります。
脳によい体験を刻み込む
過ぎ去った体験を、脳の中で、いつまでも残る、意味のある構造にする、シンプルだけど強力な方法をお話します。
べつの言葉で言うと、体験を、幸せや立ち直る力、内的な強さに変える方法です。
神経科学に基づいたやり方です。
大学にいるとき、たまたまこの方法を発見しました。
つらいことが多かった子供時代
私は、愛情あふれた家庭で育ちましたが、かなり小さいときに学校に行き始めたこともあり、恥ずかしがり屋でダサいタイプでした。
やせていてメガネをかけていて、一番最後に野球チームに選抜されるような。
仲間はずれにされて、みなに馬鹿にされる体験をよくしたのです。
私の身に起きたことは、他の人の体験にくらべると、たいしたことないでしょうが、誰もが、大事にされたい、尊重されたいと思っています。
人間は社会的な種族だし、自然の中で進化してきたので、追放されるのは、死刑と同じです。
自分が求めているもの(ニーズ)を与えられない生活は、うすいスープを飲みながら生きるようなものです。
生きながらえることはできますが、心の中にぽっかり穴があきます。
悲しい体験をいっぱいした結果、私の心の中は、いやな考えや感情でいっぱいになりました。
大学でしたある発見
その後、大学に行ったのですが、ここで、とてもパワフルでおもしろいことに気づきました。
ごく小さいけど、いいことって起こりますよね。
エレベーターに乗り合わせた女の子が自分にほほえみかけたとか、学内のフットボールでボールをキャッチしたとき、ある生徒が、「ナイスキャッチ! ハンソン」と言ってくれたとか。
誰かがピザに誘ってくれたりとか。
日常よく起こるささいなことですが、こうした体験をすると、仲間に入れてもらえた、自分は人に求められている、大事にされていると感じます。
問題は、こうした体験をどうするか、です。
いつものように、無視したり、そのまま流したりすると、私はあいかわらず孤独でだめな人間と感じ続けます。
いつもとは違って、10秒ほど、その体験と共にいると、本当にいい気分になることに気づきました。
これを繰り返しているうちに、どんどん気分がよくなり、より自信をもつようになりました。
一つひとつは小さなできごとですが、いいことが、自分の中でだんだんたまっていったのです。
考えていることが脳を変える
何年もあとになって、神経心理学者になり、大学時代、自分がやっていたことの意味がわかるようになりました。
私は、気持ちを変えるだけでなく、脳も変えていたのです。
その理由は、神経科学者の言葉で言えば、「ニューロンはともに発火してつながる(Neurons that fire together, wire together)」からです。
つまり、移ろいいく気持ちが、いつまでも続く、神経の特徴になるのです。
私は少しずつ、脳にそういう神経を織り込んでいき、その結果、人生も変わっていきました。
考えていること(mental activity 心の活動)が、脳の構造を変える例はたくさんあります。
ロンドンのタクシーの運転手
レーニングを終えたあとのロンドンのタクシーの運転手は、視覚と空間の記憶(visual-spatial memory)をつかさどる海馬が、より厚くなります。
慢性のストレスが脳にすること
ストレスを感じると体内でコルチゾールが分泌され、脳に伝わります。コルチゾールは、脳の警報機(アラームベル)にあたる、扁桃状部を、少しずつ刺激するので、警報機はより大きく、早く鳴るようになります。
さらにコルチゾールは、海馬にあるニューロンを弱め、殺してしまいます。
海馬は視覚・空間の記憶をつかさどるだけでなく、扁桃状部をしずめて、ストレスをやわらげる働きがあります。
つまり、ストレスを感じると、特にそれが慢性的で、中から大のストレスであると、しだいに脳の構造がかわっていき、よりストレスに敏感になっていくのです。
これを知っておくことはとても役にたちます。
私たちがもとめている、内的強さ、つまり、幸せ、ポジティブな感情、決断、愛情、自信、善、実行することは、みな、脳で作られるからです。
ポジティブな体験が内的な強さを養う
どうやったら、こういう内的な強さをもつ脳にできるのでしょうか?
おもしろいことに、私たちの健全なこころの資質、たとえば、困難に対処する力や、他人に与えられるものをたくさんもつこと(やさしさ)は、そうしたことをしたときのポジティブな体験から作られます。
もっと自信をもちたいなら、何かを達成したり対処した体験をもっとすればいいのです。
もっと愛ある人になりたいなら、他人にもっとやさしくする練習をします。
ただ、こういう体験を脳に入れるためには、脳にしっかり組み込まれている、ネガティビティバイアス(negativity bias)に勝たなければなりません。
ネガティビティバイアスとは?
ネガティビティバイアスとは、脳がいやな体験から学ぶことにとても優れていて、逆に、よい体験からはあまり学ばないことです。
よい体験をしても根付かないのに、いやな体験は深く刻み込まれます。
人間の祖先は、悪いニュースに、より注意を向ける必要があったので、ネガティビティバイアスが生まれました。
サバイバルするためには、悪い体験を覚えておく必要がありますよね?
親しい人との関係を考えてみてください。一緒に住んでいる人や職場の同僚など。
その人との間で、1日に10のできごとがあったとします。
そのうち5つがよいできごとで、4つがニュートラル、1つがいやなできごとだったとき、寝る前に思い出すのは、いやなできごとです。
だから、長期的によい関係を続けるには、少なくとも、ポジティブなできごと5つにつき、いやなできごとが1つという割合であるべきだ、というリサーチ結果がたくさんあります。
ネガティビティバイアスは、脳を変える邪魔をします。
私のような心理学者であろうと、教師やトレーナー、コーチ、親であろうと、ポジティブな感情をおこすことはうまくできますが、それを、見ている人の脳にインストールするのは難しいものです。
よいできごとを脳にしみこませる
よいできごとを取り出し、ネガティビティバイアスをうまく手なづけ、その体験を脳や人生に組み込んでいく方法をちょっとやってみましょう。
自分のことを大事にしてくれた人のことを思い出してください。
ペットでもいいし、複数の人からなるグループでもいいし、過去の人生で出会った1人の人でもいいです。
よい体験をすることをめざしてください。大事にしてもらえたと感じるのです。
いったん、それを感じられたら、今度は、その体験と共にいるようにします。その体験を短期記憶から長期記憶にするために。
その体験が、自分の中に入っていくと思えるように、愛されているという気持ちが、しみこんでいくように、その体験を感じます。
これを10秒から20秒したところで、いきなり人生は変わりません。しかし、少しずつ積み重ねると、大きな違いが生まれます。
HEALのステップ
やり方はとてもシンプルです。忘れないようにアクロニム(頭字語)を考えました。
第1ステップ:H Have a good experience.
まず、よい体験をします。体験を活性化するのです。
脳は、録音するために音楽をプレイする必要があった、昔のカセットテープレコーダーと似ています。
実際い、その体験をしなければなりません。
ステップ2:E Enrich the experience.
活性化した感情を脳にインストールするために、その体験を豊かにします(強化します)。
ステップ3:A Absorb it
次にその体験をしみこませます。それが自分の中にしみこんでいくようすを感じてください。
ステップ4:L Link the positive experience with something negative (オプショナル)
最後のステップはオプショナルです。
ポジティブな体験を何かネガティブな体験と結びつけます。
ネガティブな感情にハイジャックされないように気をつけてくださいね。
ネガティブなできごととポジティブな体験を結びつけて、ポジティブでいられたら、ネガティブな感情はなだめられ、だんだん、ポジティブなものに置き換えられていきます。
ポジティブな体験をネガティブな体験を結びつける方法は、自分自身、子供、顧客、学生、その他誰でも、あなたが大事にしている人々について使うことができますよ。
昔の痛みや無視された体験をいやすことも可能です。
以上のステップを、HEAL(ヒール、治す)と覚えておくと忘れないでしょう。
よい体験を楽しむ
複雑に見えるかもしれませんが、誰でも、よいできごとやライフ・レッスン、他の人とのよい体験を取り込むことはできます。
その体験を定着させることができるのです。
これまでお話したことをまとめると、4つの言葉になります。Have it and enjoy it (体験して楽しめ)です。
とくに、それを楽しんでください。楽しめば、あなたの一部になります。
これは、ネガティブな真実をおおいかくすことではありません。
楽しいことをよりたくさん取り込めば、悪いこともよく見えるようになり、それを対処するようになります。
この方法は、石器時代に生まれた脳のバイアスのせいで、21世紀のいま、悪いことに意識を向けすぎて、過剰に心配する状態をコントロールすることです。
何度も繰り返すことが大事
1度やったからといって、人生は変わりません。しかし、何度もやれば変わります。
日常生活のおりおりに、または、寝る前や、瞑想やワークアウトの直後など、時間を決めてやっていけば変わります。
チベットにこんなことわざがあります。
If you take care of the minutes, the years will take care of themselves.
「10分を大事にすれば、これからくる年月が、自分を大事にしてくれる」。
人生で大事なのは、次の1分です。その時間は大きなチャンスにあふれています。
人生でもっとも大事なその1分に、あなたは何をしますか? 利用できるよいできごとをどうしますか? 無駄にしますか?
それとも、1日に何回か、自分の中に取り込みますか?
人生のもっとも大事な1分について、仏教徒がこんなふうに語っています。
Do not think lightly of good, saying, it will not come to me. Drop by drop is the water pot filled. Likewise, the wise one, gathering it little by little, fills oneself with good.
「善を軽く考えてはいけない。それは自分のところにはやって来ない。一滴ずつ水が落ちれば、かめの中がいっぱいになる。それと同じように、賢い人は、善を少しずつ集め、それで自分を満たすのである」。
私も、みなさんも、少しずつ自分をよいことで満たしていきましょう。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
resilience 回復力、立ち直る力
dorky ダサい、ばかな、やくたたずの
Serengeti セレンゲティ国立公園 タンザニアにある自然保護を目的とした公園。
dozen or so 10ばかりの、10ほどの
neuron 神経細胞 シナプス(接合部)を介してほかの神経細胞と連結して情報を伝達する。
amygdala 扁桃状部
釈迦の言葉:
「その報いは私には来ないであろう」と思って善を軽んしてはならぬ。水が一滴ずつ滴り落ちるならば、水瓶でも満たされる。気をつけている人は、水を少しずつでも集めるように善を積むならば、やがて福徳に満たされる」
リック・ハンソンさんの本(Hardwiring Happiness)は翻訳されているので、HEALのやり方に興味がある方は読んでください。
内容について詳しく書いているレビュアーがいるので、参考になるでしょう。
脳に関するほかのプレゼン
落ち着いて、注意を向けて、ありがとうと言う、その方法(TED)
マインドフルネスのパワー:いつもやっていることが育つ(TED)
腸はどのように脳をコントロールしているのか? 腸の状態が脳の病気を予防する(TED)
頭をよくするシンプルな5つの方法。脳を活性化して最大限に使うには?(TED)
人はネガティブ思考を引きずるようにできている話と、そこから抜け出す方法(TED)
片付けられる人になる方法
ネガティブなことばかり考えていると、ネガティブなものの見方をするくせが強化され、逆に、ポジティブなことをよく考えていると、前向きなものの見方をするくせが強化される。
これを、脳科学的に(そんなにむずかしくありませんが)、説明しているのが、このプレゼンです。
人間は、脳とこころを分けて考えますが、こころという臓器はなくて、自分が考えていることは、ほぼ脳が、体内のほかの臓器や神経、ホルモンなどの影響を受けながら、動いている結果です。
脳には可塑性(脳が学習して構造が変わること)があり、脳内の化学物質が変化したり、新しいニューロン(神経細胞)ができたり、神経回路の配線が変わったりする、と脳の専門家は言っています。
だから、「私はこころが汚い」「臆病だ」「貧乏性だ」「意地悪だ」「欲が深い」「しっと深い」「他人軸だ」「片付けられない人間だ」と、自覚していたとしても、本人がその傾向を変えたいと思ったら、変えることができるのです。
片付けられる人になりたかったら、実際に片付けて、よい気持ちになる体験を何度も積み重ねればいいわけです。
簡単ですよね?
ただ、プレゼンでも言っているのように、ネガティビティバイアスがあるから、何度も、何度も、片付けて、スッキリした体験や、家族が喜んでくれた体験をしつこく思い出し、脳にしみこませる必要があります。
それこそ、水瓶(みずがめ)に1滴ずつ水をためていくように。
考え方のくせはなかなか変わらないので、「これでもか!」としつこくやることが求められるでしょう。
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楽しい体験を頭の中にしみこませるHEALを、私はモーニングページでやっていました。
ネガティブ思考改善にモーニングページがいい~今月の30日間チャレンジ
モーニングページを始めたころは、毎日3つの感謝と、ポジティブなできごとを書いていたのです。
このプレゼンの影響です⇒成功すると幸せになるのではなく、幸せだから成功する~ショーン・エイカー(TED)
私のもって生まれた気質は、「悲観的で心配性」だと思うのですが、これをやっていたせいか、いまは、周囲の人に「筆子さんて、前向きですね」と言われることが増えたし、自分でも、そうなってきつつあると思います。
私の夫は、ものすごくネガティブなので、その反動もあるかもしれません(「こうはなりたくない」と思います)。
感謝することも心がけているし、「情けは人の為ならず」といいますが、誰かに親切にしたり、感謝したりするのは、すべて自分に返ってくると実感しています。
私と同じように、心配性でストレスの多い方は、HEALをやってみたり、感謝してみたりすると、もっとリラックスして暮らせると思います。