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先週紹介した、より幸せに暮らすための10の秘訣(TED)で、運動のメリットを説明している箇所で、名前があげられていた医学博士のジョン・レイティ(John J. Ratey)のプレゼンを紹介します。
タイトルは、Run, Jump, Learn! How Exercise can Transform our Schools(走れ、跳べ、学べ! いかに運動が私たちの学校を変えるか)
運動は認知機能に影響を与えるという内容です。
運動が学校を変えた:TEDの説明
While exercise in good for the body, Dr. John J. Ratey, MD, argues it is more important for the brain, especially when it comes to students in the classroom. Citing scientific studies and real world examples, this internationally recognized expert in the brain-exercise connection demonstrates how we can raise test scores, lower behavioral problems, and help the overall well-being of today’s students with fitness based physical education.
運動は体にいいのですが、ジョン・レイティ医学博士は、脳にとって、特に教室で学ぶ生徒には、もっと重要であると主張しています。
科学的研究と、実社会の例をあげながら、運動と脳の関連性に関する世界的に有名な専門家は、フィットネスに基づく体育の教育により、成績がよくなり、行動の問題が減り、生徒の全体的な幸福を向上させることを示します。
動画の長さは10分43秒。収録は2012年。英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
学校における運動の重要性がメインで語られていますが、もちろん、大人の脳にとっても運動は同じ作用をします。
ウォーミングアップ
皆さん、立ち上がって、ヒンズースクワットと呼ばれるエクササイズをしましょう。
ご存知の人、いますか?
ああ、いらっしゃいますね。
インドのムンバイで、500人のヒンズー教徒と話をしたことがありますが、誰も知りませんでした。
では、両手を前に出して、ぎゅっと引き戻します。
それからかがんで床にさわるか、椅子に座ってください。
もう1回。
前に出して、戻して、かがみます。
手を戻す時、「ブーン」と大きな声を出してください。そして、かがみます。
[何度か皆でヒンズースクワットをする]
はい、いいですよ。椅子に座ってください。
運動は脳にとてもいい
きょうは、運動が脳にとっていかに重要かお話します。
運動は脳を活性化させ、すばらしい作用を及ぼし、体が健康になるんです。
初めて運動の威力を知ったのは、ボストンで精神科の研修医をしていたときです。
ボストンマラソンがすごく盛り上がっていた時期で、皆、ランニングをしていましたが、怪我のせいで、人生で初めて、走るのをやめた患者さんと接するようになりました。
そういう人たちは、まず、落ち込みました。さらに、注意力が散漫になってしまった、うまく計画を立てることができなくなった、人生で初めて、先延ばしをしてしまってます、という声を聞きました。
その患者さんたちは、MITやハーバードの教授や、業界のリーダーたちだったんですが、彼らは、今で言うところのADD(注意欠陥障害)をこれまで経験したことがない人たちです。実は、日々の運動で、自分で治療をしていたんです。
このことがきっかけで、私は病気の治療法として、運動に興味を持ち始めました。
運動はうつ症状を軽減する
ヒポクラテスの時代から、運動がうつ病の治療に有効であることは知られていました。私は、運動を1回するのは、抗うつ薬を少し飲むようなもんだと言っていました。
数年後、デューク大学のメディカルスクールの研究により、私の説は科学的に実証されたんです。
運動は人の感情を向上させ、うつ病、不安症、攻撃性が改善されるという研究です。
この研究は大学病院にやってきた100人の患者を対象にして行われました。皆、座っている時間が長い生活をしていた人たちです。
患者は3つのグループに分けられました。
はじめのグループには、Zoloft(抗うつ薬)を投与し、その量を次第に増やしていきました。
次のグループには、週4回、30分の運動プログラムをしてもらいました。
3つ目のグループは、薬と運動の両方を用いました。
4週間後、うつ病のスコアはどのグループも同じレベルまで下がりました。
4ヶ月めの終わり、つまり、実験の最後ですが、まだこの変化が続いていたのです。
この研究のせいで、運動療法に興味を持ちました。
運動が生徒に与える影響
2003年、イリノイ州ネイパービルにある学校のことを知ったんですが、この学校でのリサーチがきっかけで、Sparkという本を書きました。
この本は、私に、教育システムを変えるという目的や使命を与えてくれました。遊びや運動を、子どもも大人にも、療法として復活させたいと思ったのです。
ネイパービルには、1万9千人の生徒がいます。ここでは、20年以上かけて、フィットネスを中心にしたすばらしい体育のカリキュラムを開発しました。
子どもたちは毎日、45分間、体を動かします。この学校が知られるようになったのは、太り過ぎの子どもが3%のみという現象がきっかけです。
当時、33%の子どもたちが太り過ぎでした。
高校に通う7500人の中に肥満児はひとりもいませんでした。
運動が行動を改善する
驚くべきなのは、TIMSSテストのスコアです。
これは国際的な科学と数学のテストで、各国で3年毎に受けることになっていますが、アメリカは、いつも、下から真ん中あたりの順位です。
ところが、この学校は、1つの国としてこの試験を受けて、科学では世界で第1位、数学で6位という順位を獲得していました。
私は飛行機に飛び乗り、この学校に向かいました。運動は、メンタルヘルスだけでなく認知にも影響があると思ったんです。
ほかの学校でも似た現象がありました。
南カリフォルニアのとある学校には、体育館が1つ、体育の先生はひとりという状態でした。
この先生は、体育館に8つのステーション(場所)を作って、4年生から8年生までの生徒を30分ずつ運動させました。
ある場所では、バスケットボールをして、別の場所では、縄跳び、ポーゴー(竹馬に似たもの)、フラフープなどをします。
運動をローテーションするから、子どもたちは飽きません。
これを始めて4ヶ月で、素行の問題が83%も減りました。
運動は、エネルギーを消費するだけでなく、脳を活性化させたのです。
運動のおかげで意欲的になった生徒たち
北オンタリオの別の学校でも、同様の取り組みをしました。
ここには、25人の不良少年のための特別クラスがありました。
この少年たちは、すごく授業の邪魔をするのです。喧嘩したり、物をこわしたり、ひどく授業の邪魔をしたりするたびに、学校側は、停学にせざるを得ませんでした。
この状況を改善するために、朝、生徒が運動できるプログラムを考えました。
結果をグラフで見てください。
前の学期では、この生徒たちは、95日間、停学処分を受けていました。ところが、運動プログラムを始めたら、それが5日間にまで減ったのです。
さらに出席率も上がりました。この子たちはすごく荒れていたのに、単位を取るため、コースを終えるため、学業に参加するために学校に来るようになったのです。
運動は前頭葉を活性化する
運動をすると、脳の前の部分が活性化されます。脳内で最後に進化した部分で、脳のCEO、または前頭前野と呼ばれる部分です。
ここには前頭葉の実行機能がありますが、運動したり、体を動かしたりすると、この部分が活性化されるのです。
さらに、神経伝達物質がたくさん作られます。
それは、精神科の薬を用いて、作り出している物質です。
BDNF(脳由来神経栄養因子)という物質も作られます。私はこの物質のことを、「脳のミラクルグロ(肥料の名前)」と呼んでいます。
というのも、神経細胞が点火されると(動くと)、BDNFが生まれるんです。
この物質のおかげで、脳細胞は若く元気でいられます。
運動が認知機能の衰えやアルツハイマー病の発症を予防する理由の1つは、この物質の発生が促されるからです。
脳細胞が成長しないと学べない
新しい情報を取り込むためには、脳細胞の成長が必要です。
だから、運動は学習者の能力向上にすばらしい威力を発揮するのです。
運動すれば、注意や記憶の体系が活性化され、小さな脳細胞を芽吹き、成功します。
これは、何かを学ぶ唯一の方法です。
ここカリフォルニアで、過去12年にわたって、5年生、7年生、9年生の子どもたち100万人をテストしています。
その結果を表したグラフがこれです。
6つのフィットネスレベルに分けて結果を表しています。
フィットネスレのレベルをたくさん達成していくにつれて、スコアもあがっています。
これは算数の結果ですが、国語やアートでも同じです。
子どもたちが運動し、体調がよくなるにつれて、学習能力が高まるわけです。
もっと動こう
私のミッションは、国中を回って、さらに世界に向けて、「見て、運動すると、脳がよりよくなるよ。より学べるようになるし、感情をコントロールできるようになるし、やる気が出る。今の学校では、そういう話はしないけどね」と発信することです。
学校を再び元気にしなければなりません。椅子に座っている子どもたちを立たせて、動かすべきなのです。
//// 抄訳ここまで ////
ジョン・レイティさんの著書です。
運動や脳に関するほかのプレゼン
新しい脳細胞を増やす方法(TED)大人になってもニューロンはできます。
幸せになれる動きとは? 姿勢や動作が気持ちに与える影響(TED)
ウォーキング・ミーティングのススメ。健康にいいし仕事もはかどる(TED)
なぜ運動するのを面倒に感じるのか?あるいは断捨離を始められないのか?(TED)
運動は大事
運動は健康にいいだけでなく、脳にダイレクトに作用し、認知機能をアップさせる、という内容のプレゼンを紹介しました。
先進国の人は、全体的に、座る時間が長く、動かない生活をしていますが、実はこれは、脳にとってはあまりよくありません。
少なくとも、せっかくの脳の機能を眠らせてしまうことになります。
座って、スマホで脳トレパズルみたいなものをするよりも、体を動かしたほうが、脳は活性化されます。
気分が落ち込む、集中できない、イライラする、物事を覚えられないという自覚があるときは、運動を生活に取り入れてみてください。
私もスロージョギングを始めて、調子がよくなりました。
50歳の私がスロージョギングを始めたらみるみる健康に~そのメリットとは?
さらに、ジョギング中や、ミニトランポリンをしているときに、いろいろなアイデアを思いつくのですが、
脳内で神経細胞が活発に動いているからなのでしょう。
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私が通っていた小学校は、毎朝、「かけ足」の時間があり、朝礼の前か後か忘れましたが、校庭をぐるぐる走ることになっていました。
私はかけ足するのが嫌いでしたが、脳のためにいいことをしていたのですね。