海をいくコンテナ船

TEDの動画

最終更新日: 2020.10.3

あなたの知らない海上輸送の話(TED)

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物を買いすぎない暮らしをしたい人の参考になるTEDの動画を紹介しています。

きょうは、私たちが日頃、職場や家庭で使っているものを生産地から運んでくれる船とその業界に関するプレゼンを選びました。

タイトルは Inside the secret shipping industry (秘密の海運業界の内部)。邦題は、「あなたの知らない海運業界の内へ」

プレゼンターはジャーナリストのローズ・ジョージ(Rose George)さんです。



あなたの知らない海運業界の内部・TEDの説明

Almost everything we own and use, at some point, travels to us by container ship, through a vast network of ocean routes and ports that most of us know almost nothing about. Journalist Rose George tours us through the world of shipping, the underpinning of consumer civilization.

私たちが所有し使っているほとんどすべての物は、ある時点で、コンテナ船を使って私たちのもとに運ばれます。私たちが知らない海洋ルートや港の大きなネットワークを通じて。

ジャーナリストのローズ・ジョージが消費文明を支える海運の世界を紹介します。

収録は2013年の10月。動画の長さは11分20秒。日本語字幕あり。ローズさんはわりとゆっくり話しています。

動画のあとに抄訳を書きます。

☆トランスクリプトはこちら⇒Rose George: Inside the secret shipping industry | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

ふとしたことがきっかけで海運に興味を持った

数年前、ハーヴァードビジネススクールが、その年のベストビジネスモデルを発表しました。

ソマリア沖の海賊行為です。

ほぼ同じ時期に、544人の船員が船上で囚われ、その多くが見晴らしのよいソマリア沖にとどまっていることを知りました。

この2つのことがきっかけで、「海運ではどんなことが起きているのかな?」と興味を持ったのです。

こんなことは、ほかの業界では起きないですから。

ジャンボジェット機の中で544人のパイロットが何ヶ月も囚われている、とか、バスの中に運転手が544人、閉じ込められている、なんてことはありません。





私たちの生活は海上輸送に依存している

ちょっと調べてみたら、もっと驚く事実を発見しました。42や43歳になるまで知らなかったほうが驚きだったのですが。

私たちが、いかに、海運に依存しているのか、ということです。

多くの人は、海上輸送は古い輸送方法だと考えています。帆かけ船に荷物を載せて運ぶモビー・ディックやジャック・スパロウの世界だと。

実際は違います。海運は私たちにとってはなくてはならないものです。世界の交易の90%が船によって行われています。

海運の規模は1970年から4倍になりました。かつてないほど、私たちは海上輸送に依存しているのです。

10万もの船が行き来している大きな業界なのに、海運のことはほとんど知られていません。

シンガポールでこんな話をすると変に聞こえるでしょうけれど。ここでは船はおなじみのものですから。

けれども、世界の別の場所で、海運について何を知っているのか一般の人に聞いても、きょとんとされるだけです。

ふつうの人は海や海上輸送に無関心

道行く人に「マイクロソフト」を知っているかと聞けば、たいていの人がイエスと言うでしょう。

ですが、「マースク(Maersk)」を聞いたことがあるかと聞いたらどうでしょうか? 知らない人も多いでしょう。

マースクはマイクロソフトと同じくらいの売上(602億ドル)をあげているのですが。

なぜこんなことになるのでしょう?

2,3年前、イギリスの海軍本部のトップの人にお会いしました。 彼は、「西側の工業国は、海が見えていない(sea blindness)」と言っていました。

産業や仕事の場としての、海のことを何も知らないのです。海は、飛行機で乗り越えるもの、地図の上の青い部分に過ぎないのです。

そこで、もっと目を開けて海を見るために、数年前、マースク・ケンダル号に乗り込みました。

中規模サイズのコンテナ船で、7000個のコンテナを運んでいます。英国の南海岸にあるフェリックストウからシンガポールまで、5週間ほど船に乗りました。

この体験は、とても気づきの多いものでした。5つの海と、2つの大洋、9つの港を航海するうちに、海上輸送についてたくさんのことを学びました。

乗組員は意外と少ない

乗船して、まず最初に驚いたのは、人があまりいない、ということです。海軍の友だちから、1度に1000人の船員が乗り組むと聞いていましたが、ケンダル号のクルーは21人だけです。

海上輸送はとても効率的に行われるのです。コンテナ輸送のおかげで、自動化されている部分がたくさんあるため、人は少ないのです。

ですが、人員が少ないぶん、船員はみな、とても疲れています。近代的な海上輸送は、人間にとっては過酷なのです。

コンテナ船で働く船員は、港にとどまるのは2時間未満。休憩できる時間がありません。何ヶ月も船の上ですが、インターネットに接続できません。

いろいろな国の船員がいる

次に驚いたのは、いろいろな国の船員がいることです。

食堂で私の隣に座っていたのは、ビルマの人で、向かいにいたのはルーマニア人、モルディブ人、インド人。

となりのテーブルには中国人がいて、乗務員室にいたのは、全員フィリピン人でした。こうした船の上ではごく普通のことです。

過去60年のあいだに、便宜置籍船(べんぎちせきせん、open registry, flag of convenience)とシステムができたからです。

いまは、任意の国に船籍を登録できるようになっています。ボルヴィアやモンゴル、北朝鮮の旗をつけることもできるのです。

そのため、いろいろな国の乗組員がいます。

海賊のいる水域では緊張した

海賊のいる場所、バブ・エル・マンデブ海峡をくだり、インド洋に入るところで、船の様子はガラッと変わりました。

これまた私にはショックでした。船長に、「コンテナ船で海賊のいる場所に行くなんて、気が狂ってる」と言われたことを突然思い出しました。

もうデッキに出ることは許されません。海賊の見張りが2倍になりました。

当時、544人の船員が人質になっていて、そのうち何人かは、もう何年も囚われていました。便宜置籍船の制度を悪用した人がいた結果でもあります。

海上輸送も自然に負荷をかけている

船の煙突からは黒い煙が出ています。コストを下げるために、とても安い燃料を使っているからです。

バンカー重油(bunker fuel)と呼ばれる、油を精製したかすです。アスファルトに近いものです。

海上輸送は、輸送手段の中で、もっとも環境に負荷をかけません。トンあたり、マイルあたりの炭素(おもに二酸化炭素)の排出量は、飛行機のの千分の1、トラックの10分の1です。

けれども、輸送の量が多いので、炭素排出量の3~4パーセントをしめていて、これは飛行機と同じぐらいです。国ごとの炭素排出量にあてはめると、6番目で、ドイツに近い量です。

2009年の数字では、大きな船15隻で、車全体と同じぐらいの汚染をします。サステイナブル(持続可能)な航海をする動きも出てきたのはよいニュースです。

ですが、ようやく、という感じですね。

クジラへの悪影響もある

タイセイヨウセミクジラの状況を見るために、ケープコッドにも行きました。

漁業や乱獲が海に与える影響については、みな知っていますが、海の中で起こっていることについてはあまり知られていません。

実は、船の出す音が、海の生物の生態にダメージを与えているのです。光は、海の下のほうには届かないので、クジラやイルカ、その他800種類の魚は、音を使ってコミュニケーションしています。

タイセイヨウセミクジラの出す声は何百マイルにも渡って届きます。ザトウクジラの声も、大洋中に響きます。

超大型タンカーのエンジンの音も大きく、ときに、クジラの出す音の周波数と同じになるので、生態に影響を与えてしまいます。

うまく、繁殖したり、餌のある場所を見つけたりできなくなるのです。

タイセイヨウセミクジラが音を出して生活できる場所(acoustic habitat)は、90パーセント減ってしまいました。けれども、海上輸送による騒音を制限する法律はありません。

乗組員にとっては過酷な仕事

シンガポールについたとき、船から降りたくないと思いました。ケンダル号での暮らしが気に入ってしまったからです。

乗組員の人たちはとても親切でしたし、船長は陽気で話し好きでした。もう5週間、船に乗ってもいいぐらいだわ、と思いました。またもや、船長に、「気が狂ってる」と言われましたが。

けれども、私は、フィリピン人の乗組員のように、9ヶ月乗っていたわけではありません。彼らによれば、この仕事は、「ホームシックになることの対価」です。

給料はよいのですが、孤独で危険な仕事です。

私たちが使っているものの90パーセントを運んでいるのに、ろくに認められず、感謝されることもない彼らに敬意を表します。海を行ったり来たりして仕事をしている10万の船にも、敬意を示したいです。

同時に一般の皆さんに、もっと海上輸送に関心を持ってもらいたいのです。とてもシンプルなことですが、意味のあることです。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

seafarer 船員、船乗り

Mersk マースク A.P,モラー・マースク
デンマークのコペンハーゲンに根拠をおく、海運会社(コングロマリット)。コンテナ輸送に強い、売上高世界一(2006年)の企業です。

Sea Lord イギリスの海軍本部委員

flag of convenience 便宜置籍船(べんぎちせきせん)
船主が船籍を、(船主の国籍に関係なく)税金や船員の資格、労働条件などの面で有利な外国に登録している船。

置籍国で多いのは、パナマやリベリアです。

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いらない物を買いすぎない暮らしのすすめ

多くの人が、物をためこみすぎて、断捨離に苦労していますが、そもそもの原因は、物を買いすぎたことにあります。

それも、本質的には不用な物を。

そのおかげで、経済が回っている、ともいえますが、このやり方は、結局は人間の首をしめています。

地球がずいぶん汚染され環境が変わり、動物たちの生存を脅かす結果になってしまったのですから。

時々、この調子で大量生産、大量消費を続けると、地球はどうなってしまうのかなあ、いや、壊滅的なことが起きる前に核戦争が起きて、どっちみち人類は滅亡するのかなあ、なんて考えることがあります。

新しい世界にいくためには、何かを手放すことが必要なので、人間が、ガラリと違った生活をする前に、たくさんのものが犠牲になるのかもしれません。

それにしても、もういい加減、地球を痛めつけるのはやめたいものだ、と思い、この動画を紹介しました。

人類が生きていくために、どうしても環境にダメージを与える分はしかたないとしても、あとになって捨てるのに苦労するものを買うことで、環境に負荷をかけることは、今すぐやめられます。

いかに、買う瞬間(だけ)、楽しかったとしても、です。

楽しみは買い物以外にもありますからね。

****

タイセイヨウセミクジラは絶滅危惧種として保護されています。昔は数万頭が生息していた北西大西洋に、今いるのは350頭(2017年)。タイセイヨウセミクジラすべての数は、450頭です。

水質汚染物質、騒音、餌になる生物の減少、地球温暖化のせいで、どんどん数が減っています。数が減った一番の原因は19世紀末から20世紀に行われた捕鯨ですが。

もともと警戒心のないクジラみたいで、ある意味人懐こいというか、船が来ると、「あれ? 何かな? 何かな?」と近づいていき(イメージです)、たくさん捕鯨されて数が減りました。泳ぐのは遅いので、それもつかまりやすい要因です。

先祖や仲間がたくさん殺されたのに、好奇心が強い習性なのか、近年は、船に近づき、ぶつかって死ぬことが多いです。

また漁具にからまって怪我したり死んだりします。WWFのページによれば、タイセイヨウセミクジラのうち8割が、一生のうちに、1回は漁具にからまっているそうです。

去年(2017年)の6月に、カナダのセントローレンス湾で、3週間のうちに6頭も死んだので、ニュースになっていました。その後も9月までにちょっと死んで、この夏、全部で12頭亡くなりました。

350頭ぐらいしかいないのですから、12頭も死んだら大事です。アメリカの海でも5匹死にました。

検死の結果、船にぶつかったことや、漁具にからまったことが原因だそうです。

ほかにもいろいろな要因が重なって、健康なクジラが突然死ぬのでしょう。決して、生きやすい環境ではないですから。





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