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リタイヤメント(定年退職後の生活)のイメージを変えるときがきた、という内容のTEDトークを紹介します。
タイトルは、Redefining Retirement(リタイヤメントを再定義すること)
キャリアコーチでブロガーの、Dean Waggenspack(ディーン・ワゲンスパック)さんです。
リタイヤメントの再定義:TEDの説明
What do you think of when you think of “retirement”? Is it about slowing down, stepping aside, withdrawing into an extended period of leisure? As Dean explains, this typical view of retirement is a historical anomaly, based upon the experience of a single generation in American history: the Greatest Generation. With the increases in life expectancy and economic insecurity, it’s time to rethink what we expect retirement to mean.
「リタイヤメント(定年退職)」というと、何を思い浮かべますか?
のんびりする、身を引く、長期間の余暇にどっぷりつかることでしょうか?
ディーンが説明するように、このよくある退職に対する考え方は、アメリカの歴史においては異例のものです。「もっとも偉大な世代」と呼ばれるたった1つの世代の経験に基づいているのです。
平均寿命が伸び、経済的に不安定な今こそ、リタイアメントの意味を考え直すときです。
収録は2019年の10月。動画の長さは9分。自動生成される英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDについて⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
シンプルなコンセプトに加え、ディーンさんは、はっきり、ゆっくり発音しているので、聞き取りやすいプレゼンです。
退職後の生活のイメージ
リタイヤメント。
フロリダの勝ち組、孫と過ごす時間、コミュニティでのボランティア活動。のんびりし、脇により、ほかの人に任せるとき。
大人になってやりたいことって何? という質問の答えをようやく手に入れられるときだ、と思う人もいるかもしれません。
辞書にあるリタイアメントの定義は、離脱、取り除かれること、撤退することです。
こんなことを30年も続けたいと思いますか?
みんなで、リタイアメントについて考え直しましょう。
この人生のステージが、どんなものなのか、考え直して、イメージを変えるのです。
生涯現役の起業家であるニックは、数年前、同僚と、若い起業家の成功を支援するコンサルティング業務を始めました。
当時、ニックは98歳でした。
ニックは引きこもったりしません。
日本には、リタイアメントに当たる言葉がありません。
人生の後半を意味する言葉は、「生きがい」です。ざっくり英語に訳すと、生きがいとは、朝起きる理由です。
社会から撤退するよりずっといいですね。
リタイアメントのイメージができた背景
なぜ、アメリカ人は、リタイヤメントは、退くことだと定義するのでしょう?
実は、この定義は、アメリカの歴史における、たった1つの世代に基づいているのです。
「もっとも偉大な世代」(the Greatest Generation)です。
この世代の前も後も、同じようなリタイヤメントはありません。
昔はリタイヤメントなんてありませんでした。1883年に、プロイセンのビスマルク首相が、初めて年金制度を作るまでは。
この年金制度は、65歳以上の、働くことを希望しないドイツ人に、経済的な支援をするために生まれました。
でも、ビスマルクは馬鹿じゃありませんでした。当時のドイツ人の平均寿命は47歳でしたから。
前世紀まで、リタイアメントは誰にとっても、ほぼ同じでした。
人は、働けなくなるまで働き、そして死にました。
もっとも偉大な世代
しかし、その後、例外が起きたのです。
1920年代に生まれた、もっとも偉大な世代は、大恐慌を生き抜き、第二次世界大戦で戦い、その後、報われました。
1936年に社会保障制度が始まりました。
企業は、アメリカの歴史上はじめて、そして唯一、年金と終身雇用を提供したのです。
GI法により、大学教育が無償になり、この3つが経済的安定をもたらしました。
州間の高速道路が整備され、エアコンのおかげで、快適に旅行できるようになりました。
そして史上はじめて、平均寿命が65歳を越えました。
もっとも偉大な世代は黄金時代を過ごしましたが、このとき、今のリタイアメントの定義が生まれたのです。
仕事をせずに、経済的な安定を得られる人生。
この世代のあとの世代にとってのリタイアメントは、ずいぶん違います。
同じ会社で長期間働き続ける人は少なく、年金制度はなく、多額の学生ローンのせいで、経済的安定が損なわれます。
平均寿命は10年延び、高い教育を受け、身体的負担の少ない仕事につくことができたから、人生の後半で、もっといろいろなことができるのです。
私たちの世代は、もっとも偉大な世代のリタイアメントとは、全く異なる老後を送ることになるでしょう。
しかし、人生の後半に、きつい仕事をする代わりに、時代遅れの定義に邪魔されることなく、社会に歓迎される、独自のリタイアメント生活を創造できます。
高齢期の再定義
リタイヤメントを再定義することは、高齢期を再定義することでもあります。
60歳以上の人々は、1つの均質なグループではありません。
考えてもみてください。
私たちは、人々を段階ごとに分けています。
子供時代は、乳児、幼児、青少年、年齢が違えば、成長具合も違います。
成人期は、若者、中年、エンプティネスター(empty nester、子供が巣立った親、老夫婦)で、名前も、ニーズも、ゴールも違います。
ところが高齢期はどうでしょう? 92歳の私の義理母も、65歳の隣人も、リタイヤしていて同じです。
実際は、違うのに。
いろいろなリタイヤメントがある
高齢期の人たちは、さまざまなニーズや関心をもっています。
多くの人は、人生の後半になっても、働き続け、経済的安定を得たいと思うでしょう。
仕事に行かないために起きる社会的孤立を克服したいと思う人もいるでしょう。
ニックのように、肉体を酷使しない仕事をする人もいるでしょう。
もっとも偉大な世代のリタイヤメントと同じような引退生活をできる人もいるでしょう。
高齢者のリタイヤメント生活は、こうした要素の組み合わせが、時間とともに変化します。
このような、違いを認識してはどうでしょうか?
高齢でもふつうに働く
ここに2人の人がいます。2人とも、ある組織で、長いあいだ働いていましたが、自分のビジネスを始めるために、仕事をやめました。
2人はブロガーで、地域のボランティアもしています。2人とも、週に40時間、働いていません。
ここからがおもしろいのですが、1人は、38歳のローズで、起業家です。もう1人は62歳で、私のことです。
たいていの人が、私は、引退した人だと言いますが、それは理屈に合いません。
リタイアメントを再定義することは、人々の思い込みや、口にする質問も考え直すことです。
若いカップルは、こんな質問をされてうっとうしいと感じるものです。
「お子さんはまだですか?」
こんな質問をするのは、社会的な誤りですよね?
ところが、ある程度の年齢の人たちに、「もう、引退したの?」と聞くことは、問題にされません。しかし、これも、同じように迷惑な質問です。
ある人たちにとっては、毎日、友人とコーヒーを飲んだり、湖に行ったり、65歳で引退できる日を数えて待ったりするのが、理想の充実した生活かもしれません。
素晴らしいことです。
でも、これが私のやりたいことだと、決め込まないでください。
新しいリタイアメントの定義
皆さんに、社会からの排除や撤退というリタイヤメントの定義を根本的に見直してほしいと思います。
そして新しい定義をしましょう。給料、情熱、目的(pay, passion, and purpose)という定義です。
「給料」とは、経済的なニーズを満たすために、収入を得ることです。人によっては、人生の後半になっても、働き続ける必要があったり、働き続けたいと思ったりすることを認めましょう。
「情熱」は、自分にとって、大事なことをすることです。
それはゴルフかもしれないし、コンサルティングかもしれません。
「目的」は、コミュニティのために何かをすることです。
他の人を助けたり、価値ある目的のために献身したりすること。
目は弱くなり、髪に白髪が増えても、私たちの中には、心の中で火を燃やしている人がいます。
リタイアメントを再定義して、高齢者が、社会から身を引くことを期待するのをやめましょう。
自分独自の「給料、情熱、目的」のために生きる人の場所を作るのは、賢明なことです。
大人になってやりたいことって、そういうことだと思いませんか?
//// 抄訳ここまで ////
リタイアメントに関する他のプレゼン
年をとるほど幸せになる理由とは?:ローラ・カーステンセン(TED)
60歳以降は可能性に満ちている「人生の第3幕」ジェーン・フォンダ(TED)
思い込みが可能性をつむ
「給料、情熱、目的」という定義、べつにリタイアメントに限らず、人生のどんなステージにいても、使える定義ですね。
何らかの理由で、働かなくても経済的な保障がある人は、「給料」の部分は、なくてもいいかもしれませんが。
引退後の生活はこういうものだと決め込んでしまうと、そうじゃないことをやりたいとき、がまんしたり、あきらめたりする結果になります。
だから、新しいイメージを持つことには私も賛成です。
リタイアメントに対して、新しいイメージを持つことは、自分のためにも、社会のためにもなります。
高齢者でも、まだまだ社会に価値をもたらすことができますから。
私は62歳で、このトークをしているディーンさんと同じ年ですが、彼と同様、引退、隠居、余生という気分には全くなれません。
年をとって変わったな、と思うのは、今のところ、老眼になったことぐらいです。
見かけは大いに変わって、おばあさん然としていますが、行動することにおいては、まだ、何の支障もありません。
リタイヤメントに限らず、物事に関するイメージは、状況に合わせて、柔軟に変えるべきですね。
現状に合わない古いイメージを固定化してしまうと、自分で自分の可能性の芽を摘んでしまいます。