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家が片付かないのは自分が怠け者だから。こう思い込み、苦しんでいる人におすすめの動画を紹介します。
家事がつらいとき、自分を責めずに暮らしを回すための考え方がわかります。
タイトルは、How to do laundry when you’re depressed (うつ状態のときどうやって洗濯をするか?)。
セラピストの KC Davis(ケーシー・デイヴィス)さんのトークです。
家事や自分のケアができなくても「悪い人」や「ダメな人」ではない。自分に合うようハードルを下げれば、生活も心ももっと楽になる、という内容です。
この動画に出てくる care task (ケアタスク)は、掃除・洗濯・歯磨きなど生活を維持する行動全般を指します。
うつ状態のときどうやって洗濯をする?
収録は2022年10月、動画の長さは13分。日本語の字幕もあります。
◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ユーモアがあり主張もシンプルなので、わかりやすいプレゼンです。
読者からもらったメール
本を出版してしばらく経ったとき、メールをもらいました。
「あなたの本のおかげで自殺せずにすみました。あなたは私の命を救ってくれました。」こう書かれていました。
でも、私の本は「掃除の仕方」についてなんです。だから、ちょっと変ですよね?
けれど、もし、掃除に関するまったく新しい考え方が、心の健康に役立つとしたらどうでしょう。
私はインテリアデザイナーでも、ライフスタイル系のインフルエンサーでもありません。
ADHDを持つセラピストです。
産後の計画がだめになる
2020年2月に第二子を出産しました。
第一子のときに産後不安があったし、夫がすごく忙しい仕事に就いたばかりだったので、今回の産後のために綿密な計画を立てていました。
・最初の60日間は家族に交代で来てもらう。
・月に1回、掃除のサービスに来てもらう。
・新米ママのサポートグループに夕食を届けてもらう。
・上の子はプリスクールへ行く。
この完璧な計画を、とても誇りに思っていました。
ところが、始まる前にすべて崩壊しました。
2020年2月といえば、コロナのロックダウンが始まった時期。
用意していたサポートは、一晩で完全に消えてしまったのです。
そこからは、目の回るような日々でした。母乳トラブル、幼児のかんしゃく、そして深い抑うつ。
シンクには何日も食器がたまり、洗濯物は山のように積み上がり、部屋が散らかって、まともに歩けないことさえありました。
本当なら寝て体力を回復すべき時間に、私はベッドに横になりながら毎晩こう考えていました。
「私はダメな人間だ。2人の子どものいい母になれる気がしない。」
家の様子をTikTokに投稿した
ある日、私はTikTokに「家が大惨事」という冗談めいた動画を投稿してみました。
散らかった部屋や洗っていない食器などを、リズミカルな音に合わせて映しただけの、泣きたい気持ちを笑ってごまかすような動画です。
すると、コメントがつきました。
– 怠け者
グサッときました。
でも私は懲りないタイプなのか、その後も散らかった家の様子や、片付けようと工夫しているところを次々と動画にして投稿し続けました。
圧倒される気持ちを何とかしながら、小ワザや対処法を紹介する動画をいくつも投稿し、批判が増える覚悟もできていました。
ところが、まったく違うことが起きました。
コメント欄に、何百もの体験談が寄せられたのです。
ケアタスクに苦しんでいる人びと
たとえばアマンダ。
彼女は妊娠中期に赤ちゃんを失い、シンクの前で固まったまま、食器の洗い方を忘れてしまいました。
ルラは、慢性的な持病と抑うつのせいで、歯を磨くことに苦労していました。
うつ、ADHD、自閉症、バーンアウト、喪失のせいで、多くの人が、日々のケアタスクで苦しんでいました。
人によっては、「こんな簡単なことに苦労するなんて」と思うかもしれません。
ですが、本当に簡単なのでしょうか?
洗濯という複雑なタスク
洗濯について考えてみましょう。
自分の洗濯物の山を思い浮かべてみてください。
今、着られるきれいな服はあと何枚ありますか?
明日洗濯すればいい? それとも今日するしかない?
仕分けは必要? 前処理する服は?
そもそもやり方を誰かに教わったことはありますか?
洗剤が切れている。
仕事を3つ掛け持ちしている。
いつ買いに行ける?
ようやく買い物に行けました。
支払いはできる?——できる。
では、どの洗剤を選ぶ?
家に持ち帰って、洗濯機の設定を選ぶ。
どれを選べばいい? わからない。Google で調べる。
しかも、あなたは物忘れをします。
だから、回したはずの洗濯物のことを3日後に思い出すのです。
洗濯物は洗濯機の中で カビ臭くなっています。
大丈夫、もう一度洗えばいい。
そして乾燥機へ。
でも、それも取り出すのを忘れてしまい、今度は しわだらけ。
また乾燥し直す。
あとは取り出して畳むだけ。
ですが、あなたには 小さな子どもが3人います。
最後に一人になれたのはいつだったか思い出せないほど前です。
やっと一人になれたその瞬間、あなたは選ばなければなりません。
洗濯物を片付ける? サンドイッチを食べる? 少し寝る?
気がつけば、時間切れ。
どれもできません。
ただ、壁を見つめます。
タスクを1人で背負って燃え尽きる
これは、決断疲れ(decision fatigue)です。
家のすべての仕事をひとりで背負って、燃え尽きています。
皆さんの中には、ケアタスクを自動運転(run on autopilot)のようにこなせる人もいるでしょう。
しかし、何百万人もの人の自動運転機能がこわれています。
もっと厳しい状況だったらどうでしょう?
母親が亡くなった直後、仕事を解雇されたばかり、あるいは、今日生き延びるだけで精いっぱいのとき。
そんな状態で、こうしたタスクを全部をやれと言われたら?
セラピーを受けていても、セラピストがあなたの洗濯について聞いてくれることはほぼありません。
私はメンタルヘルスの分野で10年ほど働いてきました。
セラピーを受けてきた期間はもっと長いのですが、料理、掃除、歯磨きといった日常のケアタスクについて話をしてくれた専門家に会ったのは、10代の頃、精神科の病院に入院していたときの一度だけです。
ところが、私の動画には何十万もの人がコメントを寄せ、毎日のケアタスクをすることが苦痛だと言うのです。
そこで、私はここから始めてみることを思いついたんです。
ケアタスクから始める。
日常のケアタスクのハードルを下げれば、もっと早くメンタルヘルスを改善できるんじゃないか。
ケアタスクは道徳とは関係ない
この2年間、私はメンタルヘルスとケアタスクの関係について投稿や執筆を続け、1つの哲学にまとめました。
それは、たったひとつのシンプルな考えから始まります。
料理、掃除、洗濯のようなタスクは、自分を、いい人や悪い人に分類しない。
ケアタスクは道徳的に中立(morally neutral)なものだ。
長年マーサ・スチュワートの番組を見たり、Pinterestで完璧な生活を伝える美しい画像を眺めていた人は、ケアタスクができないことは怠け者や無責任、未熟さの証(あかし)に見えるかもしれません。
でも、クローゼットが整っているからといって成功者ではないし、
床に山積みになっている洗濯物から服を引っぱり出して暮らしているからといって失敗した人ではありません。
着たいシャツがどこにあるかはわかっています。ただ、少し探す必要があるだけです。
本当のところ、道徳の問題ではありません。
暮らしが機能しているかどうかの問題です。
最低限暮らしが回ればそれでいい
皆さんの家が、皆さんにとって機能しているかどうかが重要です。来るかどうかわからない来客が、クローゼットをチェックしに来るわけではありません。
赤ちゃんを亡くしたあと、食器の洗い方を忘れてしまったアマンダのことをお話ししました。
夫が仕事に出かけると、アマンダは空っぽのベビーベッドの隣の床で横になり、こう考えていました。
「お皿ひとつ洗えない私が、家族にいったい何ができるというの?」
しかし、ケアタスクは道徳的な評価とは関係ないと理解した瞬間から、アマンダの状況が変わりました。
シンクにたまった食器は、もう失格した妻の象徴ではありません。
代わりに、彼女は食器の山を見て、「明日の朝、生活を回すために必要なものは何か?」と考えました。
そして、カップを2つ取り出して洗いました。
翌朝、コーヒーを飲むことができたので、床から少しだけ起き上がる力が湧きました。
自分に合う方法にカスタマイズする
私たちが「ケアタスクができる=いい人」「できない=悪い人」という考えを手放せば、正しいやり方やこうしなければならないという思考から抜け出せます。
代わりに、
・いまの自分なら何ができるか?
・どうすれば少しでも今日の生活がよくなるか?
こんな視点でものごとを考えられるようになります。
すると、自分に合った暮らしを自由にカスタマイズできるようになります。
たとえばルラの場合。
歯磨きができないことは、モラルとは関係ないとわかったとき、彼女は初めて歯科衛生士に相談する勇気が出ました。
そして、一緒に問題を解決する方法を考えました。
彼女は今、歯磨き粉付き使い捨て歯ブラシをデスクに常備し、フロスをリビングに置き、すすがなくてすむ処方された歯磨きペーストを使っています。
歯の手入れという一連の手順を細かく分解して、それぞれのステップを、ルラの心と身体の状態でも取り組める形にした結果、1年ぶりに、2週間連続で毎日すべての工程をこなすことができました。
「歯がきれいになってから、明日の心配が少し減った気がする。」ルラはこう言いました。
畳まなくていいものは畳まない
この方法は、自分が苦手などんなケアタスクにも応用できます。
自分に問いかけてみてください。
「私は何を実現したいのか? そして、それを自分なりのやり方でどう達成できるか?」
あるとき、めずらしく洗濯物を畳んでいた私は、赤ちゃんのロンパースを手に取ってふと思いました。
「そもそも、なんでこれを畳んでるの?」
赤ちゃんの服は、ほとんどシワになりません。
仮になったとしても、赤ちゃんの服が少しシワだらけだからって、誰が気にするでしょう?
しかもお昼までに4回くらい着替えさせますよね。
これは畳む必要がない。
思わず声に出てしまったので、洗濯物警察に通報されるのでは?と思ったほどです。
洗濯には「こうすべき」という暗黙のルールがあります。
でも、私はその瞬間初めて、洗濯はこうあるべきだという考えを捨てて、自分にとって機能的なやり方を考えるようになったのです。
そのとき気づきました。
フリースのパジャマ、下着、ショートパンツ、タンクトップ……ほとんどの服は、そもそも畳む必要がない。
それ以来、私は一切畳んでいません。
家族全員の服をランドリールームのそばにあるクローゼットに移して、種類ごとに、そのままボックスに放り込む方式にしました。
完璧にやる必要はない
私の新しいモットーはこうです。
「十分できていれば、それは完璧だ」
「やる価値のあることは、半分だけでもやる価値がある」
少しだけやってもいい。
手を抜いてもいい。
ルールを破ってもいい。
自分にその許可を与えることが必要なのです。
そして、「私は失敗している」という心の声を、「私は今、とてもつらい状況にいる」という言葉に置き換えてください。
つらい状況にある人には、思いやりが必要です。
今日、シャワーが無理なら、赤ちゃん用のウェットティッシュで体を拭けばいい。
普通のやり方ではないかもしれないけれど、あなたには清潔でいる権利がある。
夕食を作るのがつらいなら、温めた冷凍食品を紙皿にのせればいい。
また、料理も洗い物もできる日が戻ってくるでしょう。
今日はそうではないだけです。
その間も、あなたには食べる権利があります。
皿洗いが無理なら、ジップロック(2ガロンサイズ)を1つ寝室に置いてください。
その袋に汚れた皿を入れて口を閉めれば、虫は寄りつきません。
キッチンに戻れるようになるときまで、皿は待っていてくれます。
ベッドから起き上がれない日でも、あなたは清潔な環境で暮らすのにふさわしい人です。
自分仕様でやればいい
ケアタスクが道徳の物差しではなく、自分のためにカスタマイズしてよいタスクだとわかったとき、
そして、自分に思いやりのある言葉をかけられるようになったとき、人は驚くほどクリエイティブになれます。
私はその例を何百と見てきました。
メンタルヘルスの治療をここから始めるのはどうでしょう?
ケアタスクは、あなたの価値を測るものではなく、道徳とは関係のない作業で、自分仕様でやればいいのだと考えたらどうでしょう?
どんなに苦しい状況でも、皆さんは機能する空間で暮らすのにふさわしいとしたら、皆さんには他にもふさわしいことがあるはずです。
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Davis さんの本は翻訳版があります。
オリジナルはこちら(現在、Kindle Unlimitedで読み放題対象本です)
家事が重荷に感じるときに役立つ他のトーク
自分の気持ちをそのまま受け入れる勇気のパワーとその素晴らしさ(TED)
セルフコンパッション(自分にやさしくする)の実践で人生を変える(TED)
つらいことがあったとき、自分で応急手当する方法。心の傷をないがしろにしてはいけない(TED)
大々的に変えようとしないこと。小さな習慣から始めよう(TED)
恥ずかしいと思わなくていい
今、SNSで美しく整った部屋や日常が充実している人の様子を見ることが多いので、「そういうふうにできない私は、ダメな人」と考えてしまうことがあります。
実際はべつにダメな人ではなく、ただ、さまざまな事情からケアタスクをする気力や体力がないだけです。その結果、部屋が散らかっています。
この問題を解決する方法は、2つあります。
・その状況を恥だと思わない。現実を客観的に見る
・今の自分ができるところまで、タスクを簡単で小さなものに細分化して実践する
デーヴィスさんが言うように、ケアタスクができるかどうかは、自分の人間としての価値とは関係ありません。
うまくできないとしたら、それは脳の処理能力の問題です。
以下の状態が起きていると、タスクをうまくこなせません。
・決断疲れ⇒気持ちに余裕がないときは、決断疲れを防いでみよう。やり方を7つ紹介します。
・実行機能の低下(うつ・不安・ADHD)
・身体的な疲労
・感情の消耗
SNSで見るような完璧な部屋を、それがあたりまえだとか、みんなそうしなければいけないと思わないことが重要です。
そのうえで、今の自分でもできる小さなタスク、もしくは、どうしても今日やる必要があると思う最低限のタスクだけやって、自信をつけていきましょう。
大切なのは、できない自分を恥だと思わないこと。苦しいときはその気持ちを押し込めずに、正直に言葉にします。
そして、自分にやさしい言葉をかけてください。













































