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日々の生活や人生の質が向上するインスピレーションになるTEDの動画を紹介しています。
今回は、心理学者のガイ・ウィンチ(Guy Winch)の「感情にも応急手当が必要な理由」を紹介します。
原題は、 Why we all need to practice emotional first aid(なぜ私たちは皆、感情の応急手当をすべきなのか?)です。
「感情にも応急手当が必要な理由」TEDの説明
We’ll go to the doctor when we feel flu-ish or a nagging pain. So why don’t we see a health professional when we feel emotional pain: guilt, loss, loneliness? Too many of us deal with common psychological-health issues on our own, says Guy Winch. But we don’t have to. He makes a compelling case to practice emotional hygiene — taking care of our emotions, our minds, with the same diligence we take care of our bodies.
インフルエンザのような症状があるとき、私たちは医者に行きます。ならば、感情的な痛み、たとえば罪悪感、喪失感、孤独を感じているとき、専門家に診てもらってはどうでしょうか?
あまりに多くの人が、精神的な健康にまつわる問題を自分自身で何とかしようとしています。
こうガイ・ウィンチは言います。
しかし、実はそうしなくてもいいのです。ウィンチは「感情の衛生」のケアをすること、つまり自分自身で心や気持ちのケアをする症例について、とても納得できる説明をしてくれます。
心の傷も肉体的に怪我をしたときと同じようにケアすべきなのです。
ウィンチの主張を一言で言うと、人は肉体的な怪我の手当てのしかたは自分で知っているし、自分でできることはしているが、心が傷ついたときの手当の方法は知らないどころか、そういうことがあることを想像すらしない。
かえって心の傷に悪いことをしている。もっとみんなが心の傷のケアの大切さを知れば、人生はよくなる、ということです。
動画は17分ほど。日本語の字幕がついているのを貼っておきますので、字幕なしや、英語、その他の言語の字幕にしたいときは、プレイヤーの設定を変えてください。
動画のあとに抄訳をつけます。
スクリプトはこちら⇒Guy Winch: Why we all need to practice emotional first aid | TED Talk | TED.com
TEDの説明はこちら⇒もう自己啓発本を読む必要なし~成功するため8つの秘密とは?(TED)
肉体的な傷に比べると、ないがしろにされている心の傷
私は双子の兄と育ちました。双子だと、えこひいき(favoritism)を見つける達人になります。兄のクッキーが自分よりちょっと大きいのをすぐに発見してしまうのです。
心理学者になったとき、別のタイプの「えこひいき」を発見しました。人は、心より身体のほうをずっと気にかけているということです。
私は大学で9年学んで心理学者になりました。しかし多くの人が私の名刺を見ると「ああ、心理学者。本当のお医者さんではないのですね」と言うのです。
心より身体を優先してしまう「えこひいき」はどこにでもあります。
友人の家で、5歳の男の子の歯磨きの場面に居合わせました。寝る前の歯磨きをするために、洗面台の踏み台に立っていたんです。
彼は、踏み台から落ちて、足をすりむきました。少し泣きましたが、すぐに起きて、また踏み台にのって、バンドエイドの箱をとり、自分で足に貼りました。
まだ靴ひもも結べないのに、傷にばんそうこうを貼ることを知っているのです。1日、歯を2回磨くことも。
からだの健康(physical health )のケアのしかたはみんな知っています。5歳のときから。ところが精神的な健康のケア(psychological health)はどうでしょうか?
何も知りません。子供に、このことについて教えていますか?何も教えません。歯磨きは教えるというのに。
なぜ身体の健康の管理ばかり重要視されるのでしょうか?
私たちは身体の傷より、心の傷を負うほうが多いのです。挫折、拒絶、孤独など。
こうした傷を無視するとひどくなり、人生に大きなダメージを与えます。傷を治す科学的に証明された方法があるというのに、使わないのです。
治療すべきだと、思いつくことすらしません。
「気分がうつうつとするって?気にするなよ。気の持ちようだよ」なんて言います。足を折ったとき、「歩けば治るよ。足の持ちようだよ」なんて言いませんよね。
今こそ、身体的な健康と心理的な健康のギャップをうめ、双子のように扱うべきときなのです。
孤独が心と身体にもたらすもの
双子と言えば、私の兄も心理学者です。しかし、心理学者になるために、一緒に勉強したわけではありません。
私は、心理学の博士号を取るためにイギリスからニューヨークに引越しました。兄と離れたので、このときほどつらいことはありませんでした。
兄は故郷で家族と一緒。私は外国でひとりぼっち。
お互いにすごく寂しかったのですが、週に5分だけ電話で話すことにしていました。国際電話は高いですから。
誕生日が近づいていた週は特別に10分話すことに。電話がかかってくるはずの朝、部屋で待っていましたがかかってきませんでした。
待てど暮らせど電話がありません。「時差があるので、あとでかかってくるんだろう」と、さらに待ち続けました。
しかしやはり電話がありません。10ヶ月離れているあいだに、兄はもう私のことをそこまで恋しく思っていないのかもしれない、とすごく悲しくなりました。
その夜ほど悲しい夜はなかったです。翌朝、うっかり電話機を蹴って、電話線をはずしていたことに気付きました。
急いで電話線を差し込んだら、すぐに電話のベルが。兄でした。ものすごく怒っていました。
事の顛末を兄に話すと、兄はこういいました。
「馬鹿だな、なんでそっちから電話をかけなかったんだ?」と。
本当にそうです。どうして自分から電話をしなかったのでしょう。そのときはその理由がわからなかったのですが、今ならわかります。すごく簡単なことです。「孤独(loneliness)」だったからです。
「孤独」は心にとても深い傷を作ります。そして判断力や思考力をゆがめてしまうのです。
孤独を感じていると、ちゃんと人に気にかけてもらっているのに、そのように感じられないのです。
自分からアクションすることがすごく難しくなります。すでに孤独でいっぱいなので、それ以上傷つくのを恐れてしまうのです。
兄の電話を待っている時、私は孤独にとらわれていました。1日中人に囲まれていたというのに。だから自分から電話しようなんて全く思いつかなかったのですね。
しかし「孤独」というのは完全に主観的なものです。自分が社会と切り離されていると自分自身で感じるかどうかにかかっているのです。
「孤独」に関してはたくさんの研究結果があります。孤独は人をみじめにさせるだけでなく、殺しかねないのです。
冗談ではないですよ。慢性的に孤独を感じていると、早死する率が14%あがります。孤独だと高血圧、高コレステロールになり、免疫システムも弱めてしまうのです。
慢性的な孤独は人の健康と寿命に大きな影響があるのです。
だから、心理的な健康を優先することがとても大切なのです。心理的な傷を負っているということに自分で気づかないと、治療することすらできません。
失敗するとできないと思い込んでしまう。本当はできるのに
心の傷は孤独だけではありません。挫折(failure)も同じです。
あるとき託児所を訪れました。3人の小さな子供が同じプラスチックのおもちゃで遊んでいました。赤いボタンをスライドさせると、かわいい犬のぬいぐるみが出てくるおもちゃです。
ある女の子は、紫のボタンを押したり引っ張ったりしました。そして箱を見ました。犬は出てこないので、彼女の下唇はふるえていました。
それを見ていた隣の男の子は自分のおもちゃの方を向いて、いきなり泣き出しました。まだ何もやらないうちからです。
その一方で、別の女の子が、おもちゃに向かって、犬を出すためにありとあらゆることをしていました。赤いボタンをスライドさせたら、かわいい犬が出てきたので声をあげて大喜びです。
同じおもちゃで遊んでいるのに、3人3様の反応です。最初の2人は赤いボタンをスライドすることができませんでした。なぜできなかったのかというと、「そんなことできっこない」と思い込んでしまったからです。
実は大人も同じような状況に陥ることがあります。というより、ちょっと失敗してフラストレーションを感じると、「できない」と思ってしまうのが普通なのです。
失敗したとき、心がどんなふうに反応するか気づいていますか?もし何か失敗して、心が「自分にはできない」と言ったら、人はそう信じてしまうのです。
無力感を感じ、もう1度試すのをやめてしまいます。あるいはそもそも試すことすらしないでしょう。
そうしてますます自分にはできないと思い込んでしまうのです。だから、大勢の人が、本当の能力を発揮できないままでいるのです。たった一度の失敗で、自分にはできないと思いこんでしまうのです。
思い込みはなかなかくつがえせないが、方法はある
いったん、自分で思い込んでしまったら、その気持をくつがえすのはとても難しいです。
ティーンエイジャーのとき、こんな体験がありました。ある夜、兄といっしょに車に乗っていたら、警察官に止められました。そのあたりで盗難があったのです。
警察官は運転している兄を懐中電灯で照らし、つぎに後ろにいた私の顔を照らしました。彼は驚き、「君の顔を前にどこかで見たが、どこだった?」と私に聞きました。
「運転席です」と私は答えました。
しかし警官は理解できず、私が薬を使っていると思い込んだのです。私を車からひきずりだし、パトカーのところに連れていき、私に犯罪歴がないことを確かめました。
私が運転席にいた兄を警官に見せたのはその時です。しかしその後も、警官は納得せず、私が何か隠していると思い込んでいるようでした。
いったん何かを思い込むと、本当に変えることは難しいのです。だから失敗したあと、挫折感にとらわれてしまうのは無理はありません。
しかしここで「自分にはできない」と思い込むべきではないのです。無力感と戦わなければなりません。状況をコントロールし、この種のネガティブな感情のサイクルをこわすべきなのです。
みんな自分で自分の傷を深くしている
心と感情は私たちが思っているほど、「信頼できる友だち同士」というわけではありません。気分屋の友だちと言えるでしょうか。心はあるときは感情のサポートをしますが、あるときは、ひどいことをします。
私がこのことに気づいたのは、20年の結婚生活ののち、ひどい離婚を体験した女性の治療をしていたときです。
つらい体験のあと、その女性は初めてのデートにこぎつけました。インターネットで、感じがよく、成功していて、彼女のことをとても気に入っているらしい男性と出会ったのです。
彼女はとても喜び、新しい服を着て、ニューヨークのおしゃれなバーで彼と会いました。
ところが、会って10分後、男性は立ち上がり「興味がありません」と言って、立ち去ってしまいました。
女性にとってこの拒絶はとてもつらいものでした。すっかり心が傷つき、身動きできませんでした。彼女は友だちに電話しました。
友だちはこう言いました。「まあ、いったい何を期待していたの?あなた、おしりが大きいし、話はつまらない。ハンサムで成功している男性があなたのような負け犬とデートするわけないじゃない」。
驚くべきことです。この友だち、残酷すぎますよね。でも、これを聞けば、さほど驚かないでしょう。
この言葉を言ったのは、友だちではないのです。女性が自分自身に言った言葉だったのです。
こうしたことは私たちがいつもやっていることです。特に拒絶されたあとに。
拒絶されると、自分のまずいところや、至らなかったところを考えて、自分自身の悪口を言うのです。そこまでひどいことは言わないでしょうが、多かれ少なかれ自分を責めます。
自分のセルフイメージはもうしっかり傷ついているのに、なぜさらにダメージを与えようとするのでしょうか?
身体的に傷ついた時は、こんなことしませんよ。腕に切り傷を作ったあと、傷の上にナイフを当てて、「よし、どこまで深く傷をつけることができるかやってみよう」なんてことは。
ところが心の傷にはこういうことをいつもやってしまうのです。なぜでしょうか?それは精神衛生についての知識がないからです。精神的な健康をないがしろにしているからです。
拒絶されたら最初にすべきことは?
自信がないとき、ストレスや心配をよけい感じやすいことや、失敗や拒絶にあうとよけいに傷つくことがたくさんの研究からわかってます。そして、その傷が癒えるのにとても長い時間がかかることも。
そこで、拒絶されたとき、1番最初にすべきことは、自信を取り戻すこと( to revive your self-esteem)なのです。よけいに、傷つけることではなく。
つらいときは、大事な友だちにするのと同じように、自分にもやさしくしてあげるべきです。よくない習慣を断ち切り、変えるべきなのです。
人がやりがちでもっとも不健康な反応に、「反すう(rumination)」があります。反すうとは常にそれについて考えることです。
上司に怒鳴られたり、大学の授業で、みんなの前で教授に自分は馬鹿だと思わされり、友だちと大げんかをしたとき、1日中そのことについて考えるのをやめられません。時には何週間も。
これが反すうです。
反すうは時に大きなダメージがあります。いやなことや、ネガティブな感情にばかり意識を向け、時間を使っていると、うつ病やアルコール中毒、摂食障害、心臓病を引き起こす可能性があるのです。
何かつらいことがあると、反すうしたい衝動はとても強いので、断ち切るのは難しいです。
私は体験からわかっています。1年ほど前、同じことを私もしていました。双子の兄が、リンパ腫のガンのステージ3と診断されたからです。
身体中に腫瘍ができ、きびしい化学療法を開始しなければなりませんでした。私は、彼がどんなにつらい思いでいるのか考えないではいられませんでした。どんなに苦しいのだろうかと考えることがやめられなかったのです。
実際は兄は「つらい」なんて一言も言っていなかったのに。兄は1度も弱音を吐かず、驚くほど前向きでした。
精神的に兄はとても健康でした。私は肉体的には健康だったけれど、精神的にはひどい状態だったわけです。
でも私は何をすべきか知っていました。反すうの習慣を断ち切るためには、たとえ2分間でも、何か別のことで気を紛らせばいいのです。そこで、心配やネガティブな感情に気づいたら、無理やり何か別のことを考え、ネガティブな感情がひくのを待ちました。
これを1週間やったら、私の気持ちは変わり、より前向きに、希望を持っていられるようになりました。
兄が化学療法を始めてから9週間後、腫瘍はすべて消えました。まだ3回化学療法を受けることになっていますが、私も兄も、病気は治ると確信しています。
孤独なときは自分から行動を起こし、失敗したときは自分の反応を変え、自信を失ったときは自分を保護し、ネガティブな感情に襲われたときはそれと戦うことで、心の傷を治すことができるし、より精神的にタフになれます。
100年前、人は衛生に気をつけるようになって、数10年後に平均寿命が50%以上のびました。これと同じように「感情の衛生」に気をつければ、人生の質は驚くほど向上すると信じています。
もし、みんなが精神的により健康になったら、どんな世界になるか、想像できますか?こんなに孤独やうつはない世界です。
もし人々が、失敗を克服する方法を知っていたらどうでしょう。自己評価があがり、より自分の感情をコントロールできるようになったとしたら?より幸せで充実感を感じているとしたら?
私は想像できます。だってそういう世界に私は生きていたいからです。兄もそうです。もしあなた方が、心の傷のケアのやり方を知っていて、小さな習慣を変えれば、みんなそういう世界で生きられるのです。
—– 抄訳ここまで —–
自分にやさしくすることの大切さ
抄訳と言いながら、けっこう細かく訳しました。
とういのも、ウィンチ先生の言っていることはとてもよいことだと思うからです。
人は悲しいときやつらいとき、なんとかがまんしようとしますね。そして、自分のせいでこうなった、自分がだめなんだ、とさらに自分を痛みつけてしまいます。
ウィンチ先生の言うように、心が傷ついていると感じたら、親しい友だちにしてあげるように、自分自身にやさしく、温かい気持ちですっぽり包み込んであげられるといいですね。
いつもがまんしていると、あるとき線がぷっつり切れて、本格的な心の病になってしまいます。しかも、心臓病や免疫の低下まで引き起こしてしまうのです。
さらにたった1度の失敗でくじけてしまうのも、自分の心がそうさせているのです。失敗したとき、誰しもすごくショックを感じているでしょうが、それは一時的な心の傷。
考え方を変えれば再チャレンジできます。
この動画でおもしろいと思ったのは、脳(心)と感情を切り離しているところです。
感情は脳が生み出しているけれど、それは反射的なもので、思考の結果に影響されるのです。
ということは、自分の思い込みを変えればいいのですよね。
私たちは、感情に突き動かされて生きているように思えますが、実はそれをセーブすることができる、ということです。
そのためにはちょっと思考法を変えるだけでいいのです。これは心の断捨離にもつながることだと思います。