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TEDトークスから興味深いプレゼンテーションをご紹介するシリーズ。
今回は貯蓄の話です。人がしゃべる言語と貯蓄行動には関係があるという、行動経済学者、キース・チェンの動画をごらん下さい。
タイトルは
Could your language affect your ability to save money?
あなたの言葉は、お金をためる能力に影響を与えるか?
言語がお金を貯める能力に影響を与える
内容を一言で書くと、未来形(未来時制)のない言語を話す国の人は、そうでない人(つまり未来時制のある言語をしゃべる人)に比べて、30%貯蓄率が高い、というお話です。
貯蓄とは、将来の喜び(furure preasure)のために、現在の苦しみ(current pain)を取る行動です。
未来時制のない言語をしゃべる人は現在も未来もひじょうに近い感覚なので、将来の喜びというより、今の喜びとして貯金をしているらしいのです。
反対に、未来時制と現在時制がしっかり分かれている言語(たとえば英語)をしゃべる人は、未来の話をするとき、現在と切り離しているので、貯蓄は遠い先の日のためのことであり、今は、貯蓄をしにくい、というロジックです。
実は日本語も未来時制がない言語です。
貯金をしたい人だけでなく、語学が趣味の人にも興味をひかれるプレゼンです。日本語字幕つき。動画のあとに要約を書いています。
※TEDトークスについてはこちらをどうぞ⇒もう自己啓発本を読む必要なし~成功するため8つの秘密とは?(TED)
【要約】あなたの言葉がお金を貯める能力に影響を与えている?
同じような経済状況と制度を持つ国なのに、貯蓄率が違うのはなぜでしょうか?
私は言語の構造と貯蓄をする行動に関係があるという仮説をたてました。
OECDに加盟している国々は世界でも豊かな先進国ばかりですが、GDPの3分の1以上貯蓄している国もあれば、ギリシャのように毎年、10%に満たない貯蓄率の国もあります。
この貯蓄率の違いは、その国で話されている言語に関係があると私はみています。
各言語には根本的な違いがあるのです。例をお話しますね。
私は中国系アメリカ人ですが、英語で話す時「おじさん」はuncle でいいのに、中国語では、叔父、伯父、舅舅、姑丈など、いくつかの言い方があります。
ただのおじさんではなく、母方のおじさんなのか、父方なのか、姻戚なのか、血縁なのか、父の兄なのか、弟なのか、具体的に示さなければなりません。単に「おじさん」という時、こういうことを毎回考える必要があるのです。
同様の違いは「時」の扱いにも見られます。
英語で「雨が降る」と言いたい場合、
過去に起きたのなら、 It rained yesterday. (きの雨が降った)
今、降っているなら It is raining now. (今、雨が降っています)
未来のことなら Il will rain tomorrow. (明日、雨が降るでしょう)
と違う表現をします。
しかし、中国語は、いつも「雨が降る(下雨)」と言えばいいのです。
過去は 昨天下雨、今は 現在下雨、未来は 明天下雨 です。
私は、この各言語の「時」の扱いが、貯蓄する行動に影響を与えるという仮説をたてたのです。
英語の話者は、未来のことを話すときはいつも、現在と未来を完全に切り離しています。つまり未来は現在よりずっと遠く、違ったものだと意識しているので、未来のためにお金をためるのが難しいのです。
未来時制のない言語をしゃべる人は、現在も未来も似たようなものなので、貯蓄することがさほど難しくありません。
これはすごく突飛な仮説です。しかし、未来時制のない言語をしゃべる民族が集まっている国は、貯蓄率の高い国と一致しているのです。
とはいえ、それぞれの国はいろいろな面で違うので、できるだけデータを集め、国ごとの違いを排除して、本当にこの仮説が成り立つのか検証してみました。すると、やはり相関関係があると言わざるをえない、という結果でした。
未来形のある言語とない言語の両方が使われている9カ国から、属性や、所得レベル、学歴などを考慮して、できるだけ類似している家庭をそれぞれの言語話者から選び、比較しました。
すると、未来形のない言語を話す人々のほうが貯蓄率が30%高かったのです。
健康に関するデータもあったので喫煙についても調べてみました。喫煙は、ある意味、「マイナスのほうに貯蓄する」ようなものです。
貯蓄が、「将来の喜び」の代わりに、「現在の苦しみ」をとる行為なら、喫煙は、その逆で、「現在の喜び」と引き換えに、将来苦しむことになりますす。
結果は、未来形のない言語を話す人々のほうが、喫煙率が20~24%低かったのです。
私は同僚たちと、人が言葉を使うたびに、将来の捉え方、そしてその行動に影響を与えているという事実の研究を始めたところです。将来的には、言語がどのように私たちの選択に影響を与えるのか解明し、人々がもっと貯蓄できたり、賢い投資ができるような方法をお伝えしたいと願っているのです。
//// 要約ここまで ////
行動経済学とは?
行動経済学は、実際に人が、どんな状況で、どんな意思決定をし、行動して、その結果どんなふうになるのか研究する経済学です。
これに対して、従来の経済学は、人間は利益を得るために、常に合理的で一貫した行動をとるという前提のうえで展開されています。
日本語にも未来時制はない
このプレゼンは内容のおもしろさもさることながら、すごく構成がすっきりしていてわかりやすいと思います。
中国語の「おじさん」の例は日本語と似ています。兄弟姉妹を言い表す言葉は、英語では brother(ブラザー) sister(シスター)の2つしかないけれど、日本語には兄、弟、姉、妹があります。
英語で、特に兄や弟と言いたいときは、形容詞をつけます。ふだん brother, sister と言っているときは、年齢など意識していないということです。つまり、日本や中国では、それだけ、年齢という情報が重要なのです。これは、年長者は敬わなければいけないという、儒教の文化が背景にあるからだと思います。
日本語も、時制という点では、中国語に似ていて、時制がないというか、相当あいまいな言語です。さすがに過去のことは過去形を使いますが、現在と未来は、時を表す副詞をつけて違いを表しているだけです。
ただ、人が母国語をしゃべっているときは、文法とか、時制なんて何も考えず、反射的にしゃべっています。もし、その言語が、行動に影響を与えているとしたら、潜在意識の奥の奥のほうでやっていそうな気がします。
だとすると、相当強力な影響力かもしれませんね。
貯金体質になるために
この動画を見て、「でも未来時制のない日本語をしゃべっている日本人の中にも、貯蓄をする人がいるし、しない人がいるじゃないか」と思う人もいらっしゃるかもしれません。
貯金をしない人は、未来が今とつながっているという意識が希薄なのかもしれませんね。筆子もそうですが。
さすがに50歳を過ぎた今は、老後がせまってきて、「このままじゃまずい」と思っていますよ。
こんな本も読みました⇒阿部絢子の「モノ・人・お金 自分整理のすすめ」の感想~50歳からはお金にシビアになるべし | 筆子ジャーナル
私がこの動画を見て考えたことは、未来の生活をできるだけ具体的にビジュアライズすることができれば、もっと貯蓄ができるんじゃないか、ということです。
ビジュアライズできるということは、より今の現実として捉えているということですから。
たとえば、豊かな老後を送りたいのであれば、豪邸に住んでいるところをより具体的にイメージする。あるいは、自分が今、老後にやりたいと思っていることを、実際やっているところを想像してみる。
そうすると、未来の夢のために、貯金しなくちゃ、という気になって、実際貯金してしまう・・・そんなにうまくはいかないでしょうか?