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思い込みが強すぎて、現実を客観的に見ることができない人(人間はみなそうですが)の参考になるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、3 Kinds of Bias That Shape Your Worldview(あなたの世界観を形作る3つの偏見)。プレゼンターは、気象学者でジャーナリストの、J・マーシャル・シェファード(J. Marshall Shepherd)さんです。
科学的に実証された事実であっても、一般の人はなかなかそれを信じることができない。それは、3つの偏見があるからだ、という内容です。
3つの偏見:TEDの説明
What shapes our perceptions (and misperceptions) about science? In an eye-opening talk, meteorologist J. Marshall Shepherd explains how confirmation bias, the Dunning-Kruger effect and cognitive dissonance impact what we think we know — and shares ideas for how we can replace them with something much more powerful: knowledge.
何が、科学に対する認識(あるいは誤解)を作るのでしょうか? 目からうろこが落ちるようなこのトークで、気象学者のJ・マーシャル・シェファードは、確証バイアス、ダニング=クルーガー効果、認知的不協和が、自分が知っていると思うことに影響を与えると説明します。
さらに、こうした偏見を、もっと強力な知識に置き換える方法も語ります。
収録は2018年の3月、プレゼンの長さは12分20秒。日本語字幕はありませんが、英語をはじめ、20ヶ国語ぐらいの字幕があります。
動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプトはこちら⇒J. Marshall Shepherd: 3 kinds of bias that shape your worldview | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
迷信と科学は違う
私は気象学者で、人にいろいろ質問されます。
そのうち、確実に正しく答えられるのは、「マーシャル、きみ、どのチャンネルに出てるの?」という質問だけです。
「明日の天気はどうなる?」とか、「娘が9月に結婚するんですけど、その日雨でしょうか?」という質問には答えられません。それは科学には関係ありませんから。
「シェファード博士、地球温暖化を信じてますか?」という質問されることもあります。
これは、質問自体がおかしいです。科学は、それを信じるかどうかを問題にするものではありませんから。
私の息子は10歳ですが、トゥースフェアリー(歯の妖精)を信じています。
「バンク・オブ・アメリカのビルの屋上から、ボールを投げたら、下に落ちますかね?」という質問は誰もしません。なぜなら、重力は現実にあるからです。
「重力を信じていますか?」という質問はないのに、なぜ、「地球温暖化を信じていますか?」という質問が出るのでしょう?
科学者と一般人の認識の違い
アメリカ科学振興協会が、さまざまな科学的事実について、科学者と一般大衆に質問した研究結果を見てください。
遺伝子組み換え食品、動物実験、人類の進化など、いろいろありますが、実際にこういうことを研究している人たちの考え方は、赤い帯で示され、一般大衆はグレーですが、大きく違います。
どうしてこんなことが起こるのでしょうか?
87%の科学者が、人の行いが気候の変化を引き起こしていると信じていますが、そう思っている大衆は50%だけです。たった50%です。
いったい何が科学に対する認識を形作るのでしょうか? これは、とてもおもしろい質問であり、私がよく考えていることです。
考えに影響を与える偏見
大衆の科学に対する考え方を決めるものの1つに、信念の体系や偏見があると思います。
具体的には、確証バイアス、ダニング=クルーガー効果、認知的不協和です。
難しげな言葉ですが、その内容を聞けば、思い当たることがあるはずです。
確証バイアス
すでに自分が信じていることを裏付ける証拠を探そうとする態度です。
私はTwitterを利用しています。雪が降ると、こんなツイートが入るんです。
「シェファード博士、温暖化が起きてるはずの庭に雪が20インチ(約50センチ)も積もってるんですけど? 気候が変わってるって、先生たち言ってるけどさ」。
実際、こういうツイートがたくさん入ります。
かわいいツイートですし、見るとくすっと笑ってしまいますが、科学的には根本的に間違っています。こういうツイートをする人たちは、天候と気候の違いをわかっていません。
私はよく、天候はあなたの気分で、気候はあなたの性格だと話します。
きょうのあなたの気分が、必ずしも、あなたの性格を表しているわけではありません。それと同じで、寒い日や暑い日が、気候の変化を示しているわけではないのです。
ダニング=クルーガー効果
コーネル大学の2人の研究者が、ダニング=クルーガー効果というのを見つけました。
簡単に言うと、人は、自分はいろいろなことを知っていると思うことです。つまり、自分が知っている以上に、よく知っていると思いがちなのです。
あるいは、じぶんが知らないことを過小評価します。
認知的不協和
最近、グラウンドホッグデーがありました。知性のある人が、ネズミの天気占いは正しいかどうか、私に聞くことは、認知的不協和のよい例です。
でも、この質問、よくもらいます。
ファーマーズ・アルマナックも同じです。皆に親しまれている本ですが、ペンシルバニア大学の研究によると、この本にのっている天気予報が正しい率は37%です。
いまは、かなり正しく天気を予想できて、予想が正しい率は、90%、もしくはそれ以上です。人は、まれに予報がはずれた時のことをよく覚えているのでしょう。
知識とあやまった情報にも影響される
さらに、知識やあやまった情報も影響があります。
2017年のハリケーンの時期に、天気予報に関するあやまった情報を無視するよう、メディアが呼びかけていました。当時、私も、ソーシャルメディアでこの問題の渦中にいました。
国立ハリケーンセンターが出していない予報を、人々がツイートしたのです。その情報はシェアされ、急速に拡散しました。
ジョージア大学に来る前に、私はNASAで12年働いていました。科学諮問委員会の会長で、データを見ていました。
これは人工衛星が送ってきた2017年のハリケーンの時期のデータです。
ハリケーン・ハービーが見えます。アフリカからほこり(煙?)が出ているし、アメリカの北西や、カナダ西部の山火事も見えます。これは、ハリケーン・イルマです。
ここまで科学的に解明できているから、これまでお話してきたような偏見の入る余地はないのです。私たちには知識があります。
ハリケーン・ハービーが上陸する1週間前に、私は、雑誌『フォーブス』に、「40~50インチ(約100~127センチ)の雨が降る見込み」と書いています。1週間前に。
ところが、ヒューストンの人たちと話をすると、「こんなに雨が降るなんて思ってもいなかった」と皆、言ったのです。
私たちは、自分が体験したことがないことを、なかなか想像できないものです。
ヒューストンでは、雨が多く、洪水もよく起きます。
ですが、ふつうなら1年で34インチ(約86センチ)の雨が降るところ、3日で50インチの雨が降るとは、とても想像できなかったのです。それは想定外のできごとだったから。
スノーポカリプス、スノーマゲドン、スノージラを覚えていますか? 何と呼ぼうと、降った雪は2インチ(約5センチ)です。
2インチの雪が、アトランタの街をまひさせました。多くの人は、ここまでひどくなるとは思っていませんでした。
「そんなにひどくないだろう」という認識は、事実を上向きに評価していたわけです。
客観的な視野を広げるには?
では、どうしたら、このような偏見を持たず、(視野の)半径を伸ばすことができるでしょうか? 半径を伸ばせば、エリアも広がります。
1)自分の偏見を洗い出す
自分が持っている偏見の棚卸しをしてください。
それはどこから来ているのか? 生育過程、政治的な見方、信仰。何が自分の偏見を形作ったのか。
2)ソースを調べる
その科学的な情報をどこから得たのか、調べます。
科学的な情報について、何を読んでいるのか? 何を聞いているのか?
3)声にする
自分が持っている偏見や、ソースについて語ります。
アメリカの有名な気象学者であるグレッグ・フィシェルの40秒のクリップを見てください。彼は、地球温暖化に懐疑的でした。
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最近まで気づかなかった自分のあやまちは、自分の考えを裏付ける情報のみを探していたということです。そうでない情報には興味を持っていませんでした。
ある朝、起きたとき、こんな疑問が心の中に浮かんだのです。
「グレッグ、確証バイアスを持っているんじゃないのか? すでに信じていることをサポートする情報だけを探しているんじゃないのか?」
自分に正直になってみると、確かに私はそういうことをしていたのです。
科学者たちと話をすればするほど、専門誌を読めば読むほど、ペンシルバニア大学の学生だったとき教えられたように行動しようとすればするほど、私たちの行動が、(地球温暖化に)影響を与えていないと言うのは、とても難しくなってきました。
どのぐらい影響があるかは、議論の余地のあるところですが、「全くない」と言うのは、科学者としても、人間としても、無責任でした。
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グレッグ・フィシェルは、科学の認識に関する半径を拡大したことを語ったのです。
半径を広げるとは、よりよい未来を作ることではなく、自分の知っている人生を保つことです。半径を広げることは、アテネやジョージア、アトランタだけでなく、ジョージア州にとっても、世界にとっても重要なことです。
皆さんも、半径を広げてください。
単語の説明など
tooth fairy 歯の妖精。
乳歯が抜けたら、枕の下に置いておくと、寝ているあいだに、歯の妖精がきて、硬貨を置いていってくれるという迷信があります。
もちろん、お金を置くのは親です。サンタクロースやイースターバニーの仲間と言えましょう。
American Association for the Advancement of Science; AAAS アメリカ科学振興協会
その名のとおり、科学を振興する組織。科学教育をサポートしています。
superiority complex 優越感
cognitive dissonance 認知的不協和
自分が信じていることに反する情報を得たときに感じる不快感。不協和を解消するために、人は新しい理屈を考えだします。
詳しくはこちら⇒初心者でも大丈夫、ミニマリストになる2つの方法はこれ
Groundhog Day グラウンドホッグデー、2月2日。
この日、冬眠から目覚めたグラウンドホッグ(ウッドチャック、モルモットみたいな動物)が自分の影を見たら、春はまだ遠い(いまだに冬だ)とか、冬が長引くと判断する天気占い。
Farmers’ Almanac 古くからある冊子(カレンダー)
天気や、天文に関すること、ちょっとした暮らしの知恵、ガーデニングに関すること、季節のレシピなど、農家の人に有益な情報がのっています。「◯◯をするのにいい日」という情報もあり。
go viral ソーシャルメディアで爆発的に拡散されること。
日本語でも『バイラル』という言葉はよく聞かれます。viral は「ウイルスの」という意味で、ウイルス感染のように、どんどん広がることです。
climate skeptic 地球温暖化に懐疑的な人
peer-reviewed literature 出版される前に、専門家が審査した(査読した)専門誌
Snowpocalypse、 Snowmageddon、Snowzilla いずれもこの世が終わりそうなほど破壊的な威力を持つ大吹雪のこと
思い込みに関するほかのプレゼン
間違っているのに、自分が正しいと感じてしまうのはなぜなのか?(TED)
あなたはなぜ不幸なのか?期待と現実のギャップが大きすぎると幸せから遠ざかる(TED)
我々は本当に自分で決めているのか?ダン・アリエリーに学ぶ、選択のミス(TED)
確証バイアスのワナ
シェファードさんのプレゼンは、科学的事実に関する捉え方についてですが、「偏見や思い込みを持っているんじゃないのかな」、と疑うことは、ふだんの生活でする意思決定をよりよいものにするのに、効果があります。
特に自分に都合のいい情報しか求めない確証バイアスは、視野をせばめてしまうので、気をつけたいところです。
確証バイアスとは、すでに持っている自分の信念を強化する情報のみを探し、見ようとすることです。
たとえば:
・何かしたいことがあるけれど、恐ろしくて、行動に出られないとき、それをしないほうがいい情報を好んで探す(やらない理由探し)
・誰かを嫌っているとき、いかにその人がひどい人か話している人たちのところに積極的に寄っていく(義理母を嫌いな人が、同様に義理母の悪口を言っている掲示板を読みふけるとか)
・断捨離中、「もしかしたらそのうちいるかも」「捨てるとあとで困るかも」と思うとき、ネットで、「捨ててからあとで困った物」という情報を探す
確証バイアスが強すぎると、最初に持った信念を修正することができないため、自分の行動を客観的に振り返るチャンスがあっても、それをいかすことができません。
特にいまは、インターネットでありとあらゆる情報を、何時間でも見ることができるため、どんどん深みにはまります。
そうすることが、自分のためになっているのか、時々見直したいですね。
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私のブログの読者の中にも、「筆子さんのブログは愛読していますが、砂糖に関する記事は無視しています(お菓子をやめたくないから)」とか、「お金に関する記事はスルーしています(お金について考えるのを避けているから)」とか、
「TEDの記事だけは読みません(英語が苦手だから)」という方がいます。
もちろん好きな記事だけを読んでいただいてかまわないのですが、何かを強く、かたくなにこばんでいるとしたら、そこに確証バイアスがひそんでいるかもしれませんので、ちょっと立ち止まって考えてください。
TEDの記事は、98%ぐらいは日本語ですから、英語が好きとか嫌いとか、全然関係ありません。