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身体に悪い食品がはびこっている現状を伝え、この問題の解決法を提案しているTEDの動画を紹介します。
タイトルは、Why we can’t stop eating unhealthy foods(なぜ私たちは身体に悪い食べ物を食べるのをやめることができないのか?)
プレゼンターは、砂糖学者で、健康政策の教授の Laura Schmidt(ローラ・シュミット)さんです。
健康によくないのに食べてしまうわけ・TEDの説明
Sugar scientist and UCSF professor of health policy Laura Schmidt questions whether consumers really do have freedom of choice – and what policymakers can learn from corporations in nudging consumers toward healthier behaviors.
砂糖学者で、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)の健康政策の教授であるローラ・シュミットは、消費者に選択の自由が本当にあるのか問いかけ、より健康的な行動を消費者に、促すために、政策立案者が企業から学べることを伝えます。
UCSFは、医学が専門の大学院からなる学校です。
収録は2015年の11月、動画の長さは13分29秒。自動生成の英語の字幕があります。動画のあとに抄訳を書きます。
シュミット先生はとてもゆっくりしゃべっているので、わかりやすいと思います。
私たちが朝一番にすること
朝起きて、何をするかは、自由に決められるはずですよね?
でも、朝起きて、あなたが最初にすることは、スマホに手を伸ばすことではないですか?
スマホがあれば、いつでもネットをできます。バーチャルなカジノ、ゲームアプリ。買い物も気がすむまでできます。
正直に言いましょう。私も、その1人です。テキストが入ってピンと音がするとスマホをチェックせずにはいられません。
私は、朝一番にスマホをチェックしてからでないと起きられないアメリカ人の78%の1人なのです。
時にはスマホに手を伸ばしていることに気がついてすらいません。
自動的にそうしてしまいます。
粉末のアルコール
さて、あなたのポケットには入っていないだろう製品を紹介します。
粉末のアルコール(powdered alcohol)です。ジョークじゃないですよ。パルコホール(Palcohol)という名前です。
今年、市場に出る予定です。
これを持ち歩けば、いつでもカクテルを作れます。
朝のコーヒーに入れて、スパイスアップするなんてことも。
私が言いたいのは、人類史上、こんなにも、依存させるためにデザインされたものに、人間が囲まれていたことがないということです。
企業は、くせになる製品を作ることを競争していて、それは食品でも起きています。
習慣性のある食べ物の開発
食品会社は、科学者を雇って、抵抗しにくい習慣性をもつ食品を開発しています。
現在、彼らが頼りにしているのは砂糖です。
企業は、、依存症の治療のために、脳の中を見る技術を使って、どうやったら依存させることができるのか研究しているのです。
ここであなたに質問です。
1日24時間、1年365日、科学的に習慣になってしまう食べ物に囲まれているとき、あなたに、本当に、選択の自由があるのでしょうか?
自然のままなら安全なのに
さて、中毒性のある物質の大半は、自然の中にある形では、とても安全です。
ヘロインはケシの実から、コカインはコカの木から取ります。
アルコールは、果物と穀物から作ります。
アンデス山脈の高地では、何世紀にもわたって、農民はコカの葉をかんでいました。
コカの葉は、マイルドな興奮剤で、コーヒーを飲むようなものです。
コカの葉をかじると、長時間労働や、高地での活動を助けてくれます。
生涯、コカの歯をかじって起きる最悪なできごとは、歯が悪くなることぐらいでしょう。
精製されると身体に悪いものになる
ところが、コカが工業的に加工されると、もっと悪いことが起きます。
コカの葉を精製して、もっとも濃縮し、白い粉の塊にすると、害のないコカの葉が、依存性をもち、命にかかわる薬物のクラックになります。
おもしろいことに、20世紀になるまでは、コカインは今日の砂糖のように、無害な白い粉でした。
人々は、コカインをいろいろなものに入れていました。
ドラッグストアで、コカイン入りの鎮静効果のある液体を買うことができました。
咳止めシロップにコカインを入れて、子供に飲ませもしました。
コカ・コーラは、現代の歴史の中で、もっとも成功した製品の1つです。
1880年代に作られたのですが、会社の創設者たちは、自分たちの特別なレシピに誇りをもっていて、絶対製法を変えないと言っていました。
しかし、あるとき、コカ・コーラ社は製法の変更を余儀なくされました。
1903年に、コカインが非合法のドラッグに変わったからです。
このとき、コカ・コーラ社は、コカ・コーラからコカインを除きました。変わりに、カフェインという別の依存性のある物質を入れましたが。
濃縮された砂糖と濃縮されたカフェインの組み合わせ。快楽も2倍なら、中毒になる可能性も2倍です。
麻薬取締法に違反さえしなければ、食品会社は、より習慣性の高い食品を自由に作ることができるのです。
悪を避けなければならない街
仕事で、サンフランシスコのテンダーロインに行くことがあります。
大都市には必ず、こんな場所がありますよね?
極度の貧困と都市の荒廃が見られる地域です。
どの角にも、酒屋があり、店の前では、麻薬の売人がたむろしています。
こうした場所を私たちは、「アルコールとドラッグで飽和している環境(alcohol and drug-saturated environments)」と呼んでいます。
テンダーロインには、「セーフパッセージ(Safe Passage 安全な通路)」というプログラムがあります。
ボランティアたちが、スクールバスに乗って帰ってくる子どもたちを拾って、家まで安全に送り届けるプログラムです。
麻薬の売人や、酒屋を避けるため、街中を迂回しなければなりません。まるで、障害物競走です。
砂糖と加工食品だらけ
加工食品と砂糖に関しても、私たちは障害物競走をする生活を送っています。
街角のどこにでも、どの店にも、どの職場にもありますから。
食料品店にある食品の74%に砂糖が入っています。甘く感じない食品の中にも。
なぜ、これが問題なのか?
私が気がかりなのは、世界的に肥満が増えているからではありません。ほかにも、心配になる現象が2つあります。
砂糖を摂りすぎて健康を害する子どもたち
1つは、子どもたちが成人病になることです。2型糖尿病は、砂糖のとりすぎ、とくに砂糖入りの飲料の摂取に関係があります。
この病気が、成人発症型糖尿病(adult-onset diabetes)と呼ばれるのは、私の親の世代では、大人しかならなかったからです。
ところが、現在、アメリカのティーンネイジャーの4人に1人が、糖尿病予備群か、糖尿病の患者です。
もう1つの気がかりは、どこからともなく現れた、新しい病気です。
非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease)という病気は、1980年代までは存在しませんでした。
この病気にも、糖分の大量摂取や、食生活の乱れが関係しています。
5年後の2020年には、この病気が、肝臓移植の原因の1位になることでしょう。
これは、人間の健康における地球温暖化です。
こうした徴候は、氷山が溶けることや、海面が上昇するのと同じ警告なのです。
食環境にとてもまずいことが起きていると私たちに教えてくれています。
食料の供給のせいで、重い病気になる人がいるのです。
教育ではうまくいかない
皆、「人々が、健康的な選択をするよう教育しなさい」と言いますが、この方法がうまくいかないことはわかっています。
もしうまくいくなら、なぜ、アメリカ人の48%が、甘い飲料を毎日1本かそれ以上飲んでいるのでしょう?
実際、私は、何度も何度も「そんなものを飲んではだめです。健康によくありません」と言ってきました。
誰だって、そんなことは百も承知なのです。
それでも、砂糖で飽和した環境にいると、目の前にある甘いものに手を伸ばしてしまいます。
それが、濃縮された快楽の源(みなもと)で、依存するように入念に作られた白い粉を入れた製品なら、それに抵抗するのは大変です。
多くの人は、ノーと言えないのです。
砂糖から自然に遠ざかる仕かけを作る
この問題をどうやって解決すればいいのでしょうか?
実は簡単です。
食品会社は、こっそりと、人を誘惑するのに長けています。
効果的な公衆衛生の戦略はその逆を行っています。私たちを不健康なものから、遠ざけるよう仕向けるのです。
たとえば、ソーダの会社は、わざと値段を安くして、たくさん買わせようとしています。このソーダに税金をかけて値段を少しあげれば、人々を遠ざけることができます。
食品会社が、子どもたちに、砂糖入りの甘いシリアルの広告を見せているのなら、そういう広告を放送しなければいいのです。
もし企業が、スーパーマーケットにお金を払って、子供の目の高さの棚にお菓子を置いているのなら、もっと高い棚に移動します。
企業が、有名なスポーツ選手にお金を払って清涼飲料水の宣伝をしてもらっているのなら、私たちもお金を払って、彼らに「私は水を飲みます」と言ってもらえばいいのです。
こうした小さな変化を積み重ねれば、環境が大きく変わります。
このことは、何十年にも渡る依存性のある物質の研究から明らかになっています。
公共政策による解決しかない
誰でも、何を食べるか、自分で自由に決められると信じたいでしょう。ですが、こうした甘いものだらけの環境の中でどこまで自由でいられるでしょうか?
中毒になってしまうように念入りに作られた食品が、絶えず、私たちを取り囲んでいる環境の中で。
テンダーロインの子どもたちは、「食の砂漠」と呼ばれる場所で生きています。
そばに食品店がありません。本当です。
ジャンクフードだらけで、全体の74%に砂糖が入っている食品を置いている店は、食品店ではないのです。
健康の専門家たちは、「スーパーの周辺で買い物をしなさい、そうすれば真ん中にあるジャンクフードを避けることができます」と言うでしょう。
これは、テンダーロインにいる麻薬の売人のところに、子どもたちが行かないようにするのと同じやり方です。
もっといい方法があるはずです。企業の操作によって、太ってしまい、その結果、不健康になり、医療費がかさむことを嘆く環境に住む必要はありません。
子どもたちが、大人の病気になって苦しむのをだまって見ている必要もありません。
この環境を逆に操作して、安全にすればいいのです。
これは、もはや、個人的な選択の問題ではありません。公共の選択なのです。
単語の意味など
shop till you drop 倒れるまで買い物をする、買い物に明け暮れる
jazz up 盛り上げる、飾り付ける
be blue in the face 長時間うまくいかないことを行う、精根尽き果てる
food desert 食の砂漠、フードデザート。低所得者など、社会的弱者が住む地域で、スーパーマーケットがなく、栄養のあるものが手に入りにくい場所。
rig 人為的に操作する
砂糖に関するほかのプレゼン
子供たちに食育をして肥満と戦おう~ジェイミー・オリヴァーに学ぶ(TED)
体に悪くないお菓子を製造、販売した少年に学ぶ、世界を変える方法(TED)
自分で選択するコツ
このプレゼンの内容をまとめると、
砂糖が入った食品やジャンクフードは、人が中毒になってしまうように作られているし、そういう製品がそこら中にあるから、自分の意志で、それらを食べないようにするのはほぼ無理だ(特に子供は)。だから、公共政策の問題として取り扱い、環境を変えていこう
こうなります。
実際、今、甘いものに税金をかける動きはあります。
ただ、大手の食品会社は、お金をものすごくたくさん持っているから、政治や各種団体に対する影響力が強くて、甘いものだらけの環境を変えるのは、そんなに簡単ではないでしょう。
砂糖の大量摂取は明らかに身体に悪く、砂糖が入った製品の流通を減らせば、無駄に医療にお金がかからないのに、ジャンククフードやスナック菓子の宣伝はなくならないし、そういうものを提供する店もなくならないし、スーパーには加工食品が山のように並んでいるし、コンビニスイーツのランキングなども、ポジティブなものとしてメディアで提供されています。
甘いものは「必要悪」と言う人もいます。
よって、当面は、個人的に、砂糖を避ける戦略を立てたほうがいいと思います。
どうやればいいかは、過去記事にたくさん書いているので、興味のある方は、「砂糖」で検索して読んでください。
2016年に書いたものなので、最近の記事は入っていませんが、まとめ記事もあります⇒砂糖の害について書いた記事のまとめ
コツは、自分で選んでいるのではなく、選ばされていることに気づくことです。
シュミットさんは、78%のアメリカ人が、朝一番にスマホをチェックしていると言っていますが、この人たちは、自分がそういうふうに何者かに、飼いならされていることに気づいていないと思います。
自らの意志で、スマホをチェックしていると思っているのです。しかし、実際は、中毒性のある製品を手にしてしまったがために、そういうふうに仕向けられているのではないでしょうか?
この点に気づいて、「あ、でも、これって本当に私のやりたいことなのかな?」「これって、本当に私の食べたいものなのかな?」と振り返ることが重要です。
本当にやりたいことをして、食べたいものを食べていくことが、砂糖漬け、スマホ漬けの生活から抜けだすことにつながります。