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自分と意見が違う相手とうまく話すコツを教えてくれるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、What does it take to change a mind?(考えを変えるために必要なことは何か?)
講演者は、ニュースサイトのファクトチェックをしている Lucinda Beaman(ルシンダ・ビーマン)さんです。
人の考えを変えるには? TEDの説明
As fact check editor at The Conversation, Lucinda Beaman sees first-hand the conflict between facts and beliefs. She offers a framework for understanding how we process information and how we can connect with those who disagree with us.
The Conversation でファクトチェックを担当する編集者として、ルシンダ・ビーマンは、事実と信念が対立する様子を間近で見ています。
彼女は、私たちがどう情報を処理しているか、意見が合わない人とどうやってつながるのか理解する枠組みを伝えます。
☆The Conversationは、専門家とリサーチャーが記事を執筆するノンプロフィットのニュースサイトです。
10カ国ほどバージョンがありますが、もともとはオーストラリアのメディアなので、オーストラリアのものにリンクします⇒The Conversation: In-depth analysis, research, news and ideas from leading academics and researchers.
収録は2018年の6月、動画の長さは13分15秒。自動生成の英語の字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ビーマンさんは、クールな感じの人ですね。
意見が合わないことはよくある
人生で、重要なことについて、あなたと意見が対立する人を思い浮かべてください。
どんなことで意見が合わないのでしょう。
同性婚の合法化、気候変動、経済、予防接種、移民についてでしょうか。
誰でも、意見が合わない人がいます。
意見が合わず、お互いに自分の意見を言い合うときの気分は、みな、知っていますよね。
相手の言い分を聞きながら、相手の意見を理解することよりも、反論する機会を伺っているんじゃないでしょうか。
誰しもそういうことがあります。
言い争っている間、私たちはこう考えています。
なんとか、相手に意見を変えてほしい、自分の言うことを聞いてほしい、そして、「そうね、あなたの言うとおりよ」と言ってほしいと。
信念を変えるのは難しい
ところで、みなさんが、自分の意見を変えた、一番最近のことって、いつですか?
ここにいるほとんどの人が、自分は心が広く、柔軟性があり、新しい情報を取り入れると思っているでしょう。
でも、実際は、みなさんは、自分が思っているほど、心は広くないのです。
私はファクトチェックをする編集者として、自分が信じていることについて、意見を変えるのがいかに難しいのか、よくわかっています。
たとえ、事実を突きつけられても。
何か重要なことに関する考えを変えるのは、時間も努力も必要です。
ときには、信頼や尊敬も必要です。共感や、弱い自分を見せること、そして何よりも勇気がいるのです。
これはスキルで、私たちのほとんどが、もっと上手になれるし、上手になる必要がある技術なのです。
あやまった情報にまどわされないために
私たちは、人類の知識全体が、急激に増えている時代に生きています。しかも、その知識の多くに指先ひとつでアクセスできます。
私たちは、その知識を本当に活用しているでしょうか? それとも、思い込んだら、一生そのままでしょうか?
ここでちょっとした問題があります。
矛盾したメッセージがたくさんあり、人をだまし、間違った方向に誘導する情報があふれています。
質のいい情報とそうでない情報を見分けることは、私たちが互いに教え合って共有し、子供たちにも伝えるべき、もっとも重要なスキルの1つです。
でも希望もあります。たくさんの人が、私たちに真実を伝えようと努力しています。
The Conversationでは、情報が健全に流されることにも、力を入れています。
私たち、ジャーナリストのチームは、世界中の研究者と協力して、学術的な研究に裏付けられたニュースや分析を発表しています。
通常なら学術専門誌に閉じ込められてしまう知識を外に出し、日々の問題に対応できるように。
正確な情報の共有は、健全な社会の基本だと信じているのでそうしています。
そして、誰もが自由に情報を得られるようにすべきだとも思っています。
オーストラリアのThe Conversationのファクトチェックエディターである私の仕事は、学術的な専門家と協力して、政治家や影響力のある人の言うことを裏付ける証拠や、反対意見を探ることです。
ファクトチェックの例
ファクトチェックは、有効か?
ある意味ではそうです。
世界中の信頼できる組織が発行するファクトチェックは、間違った話や有害な誤報を毎日くつがえしています。
1つ、例をあげましょう。
今年の3月、南アフリカの若い白人少女の写真が、インターネット上で、広く共有されました。
この少女はひどい怪我をしていました。
血まみれで、頬から頬まで引き裂かれていました。
この写真は、南アフリカで、人種間の緊張が高まっていた時期に公開されました。白人の農民に対する、人種的な動機からの暴力が非難されていたときです。
この写真は、「これが南アフリカで、野蛮人が白人の子供たちにすることだ。ジョーカーのスマイルを刻むのだ」という文章とともに流れました。
さらに、StopFarmmurders(農民殺しを止めろ)WhiteGenocide(白人の大量虐殺)というハッシュタグがついていました。
アメリカのファクトチェッキングサイトであるSnopesが示したように、この少女の怪我は、実際は、2017年に、家族の犬に襲われたときのものです。
この少女の傷は、もう治っていますが、どれだけの人が、いまだにこの話を信じ、その結果、どんなことがもたらされたのかは、わかりません。
ここオーストラリアでは、会話のファクトチェック部隊と編集者が、オーストラリアの指導者たちが主張したことを、何百もくつがえしました。
気候変動、移民の犯罪、エネルギー政策、同性婚など、あらゆる問題に関することです。
事実だけでは意見は変わらない
ですが、事実を提示することと、それを人々に信じてもらうことは、まったく別の問題です。
このポイントで、私の仕事が終わり、みなさんの仕事が始まります。
というのも、事実だけでは十分ではないからです。
事実は、社会問題と結びついていて、社会問題は、感情と結びついています。
その感情は正しい・誤っているという感覚や、それぞれの人生経験、仲間への忠誠心にもつながっています。
私たちは、何にも影響されず、客観的にその問題を評価し、最新の情報に基づいたうえで、自分の考えが正しいと感じているかもしれません。
しかし、新しい情報を取り入れようとするとき、心理的な要素や、社会的な要素が影響を与えることを知っておかなければなりません。
誰にでもある偏見
たとえば、心理の錯誤効果(illusory truth effect)があります。
ある主張を聞けば聞くほど、それが正しいと信じてしまうことです。
新しい情報ほど、脳は処理しにくいのです。
なじみのある情報であればあるほど、脳はその情報をたやすく処理します。
間違っていても、正しい情報だと信じてしまう可能性があがるのです。
確証バイアス(confirmation bias)や、動機づけられた推論(motivated reasoning)もあります。
自分がすでに信じていることを裏付ける証拠だけを探そうとし、反論する証拠は、疑問視・曲解・拒否する傾向です。
当然のことながら、私たちは、自分のコミュニティ(仲間やよく知っている人たち)から出た新しい事実を受け入れ、そうではないコミュニティから得られた事実を拒絶しがちです。
たとえ、それがまったく同じ情報であっても。
このようなバイアスは、教育や専門知識があっても、なくなりません。
ときには、もっとも教育を受けた人や、そのテーマについて、一番よく知っている人が、もっとも偏った見方をします。
事実を受け入れられない事情
仕事上、新たな事実を受け入れると、仕事のやり方を変えなければならないときがあります。
それがあまりにも大変だと思うときは、その事実を完全に拒絶するでしょう。
自分が本当だと信じていることが、コミュニティへの帰属意識の一部であることもよくあります。
これまで持ち続けていた信念をすべて変えてしまうような情報を、真実だと受け入れることは、処理が難しいというよりも、社会的なリスクをもたらします。
孤立してしまうかもしれませんから。それは本当に恐ろしいことです。
こうしたことのために、それを裏付ける事実がはっきりしているのに、正しいと受け入れることができないのです。
ではどうしたらいいのでしょうか?
柔軟に考えるために
まずできることは、新しい証拠を提示されたあと、考え方を変えたリーダーを、即座に非難するのをやめることです。
こうした行動を、「態度をころりと変えた」と言ってはいけないのです。
よりよい情報を得て、考えを変える能力や意欲は、価値があることで、賞賛すべきです。
もう1つできることは、意見の相違をよしとすることです。
意見が違うのは、本質的には悪いことではありません。 知的プロセスには欠かせないものです。
意見が違うとき、自分の意見を守ろうとしますが、それが、よりよい考えを生み出すきっかけになります。
意見の相違をうまく扱う方法を知っていれば、意見が違うことを怖がる必要はありません。
実りある対話をするコツ
次に誰かと意見が違うとき、やってみてほしいことをいくつか挙げます。
相手の言うことを聞く時、理解しようとしてください。反論するチャンスを伺うのではなく。
好奇心や共感する気持ちをもちましょう。
誰かが信じていることを知ることと、なぜその人が、それを信じているのか理解することは、まったく違います。
好奇心や共感する気持ちがあれば、相手とつながる機会が生まれます。
自分が話す番になったら、その結論に至った過程を話しましょう。
どんなにささいなことでもいいので、意見が一致するポイントを1つは見つけるために、最大限の努力をしてください。
もちろん、一番いい証拠を、相手と共有してください。
私にファクトチェックを任せてくださってもいいけれど、チェックできるところはほかにもたくさんあります。
ここまで話したら、そこでやめておきましょう。
自分の考えであれ、他人の考えであれ、すぐに考えを変えることなんてできませんから。
議論に勝とうとしてはいけません。
そうではなく、新しい証拠の種が育つ環境を作ってください。
経済学者の、ジョン・ケネス・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith)はこう言っています。
「自分の考えを変えるか、そうしなくてもいい証拠を見つけるか、という選択を迫られたとき、ほとんどの人は、証拠探しにやっきになる」と。
私たちは、もっとうまくやれますよね。
自分が見たいと思う証拠だけでなく、可能な限り最良の証拠に手をのばす知性があることを証明しましょう。
実りある会話をするエモーショナル・インテリジェンスや、知識が増えたときに、考え方を変える知恵や勇気を持っていることも。
冷たくきびしい事実と、あたたかい共感を組み合わせれば、私たちは、自身の孤立した思い込みから抜け出し、みなの利益になる意思決定を共同で行えるようになるのです。
////抄訳ここまで////
単語の意味など
exponentially (増加のしかたについて)急激に
backflip うしろに宙返りすること、転じて、態度をころりと変えること
Emotional Intelligences 情動知能、自分や他人の情動や感情を理解し、その理解を自分の思考や行動に活用する能力。洞察力、想像力、共感力などを総合した能力。
こちらのプレゼンで説明があります⇒自分の気持ちをそのまま受け入れる勇気のパワーとその素晴らしさ(TED)
Snoupesのファクトチェックの記事⇒FACT CHECK: Did a Little Girl Have a 'Joker Smile' Carved Into Her Face in South Africa? 血まみれの女の子の写真があるので、見たくない人は見ないでください。
コミュニケーションに関するほかのプレゼン
自分は正しいと思っているとき、実は間違っている理由(TED)
他人とうまく会話する10の方法:セレステ・ヘッドリー(TED)
間違っているのに、自分が正しいと感じてしまうのはなぜなのか?(TED)
聞き上手になる。よく聞くための5つの方法・ジュリアン・トレジャー(TED)
最強なのは事実と思いやりの組み合わせ
このプレゼンで話題になっているのは、社会的な問題に対する意見が食い違う状況ですが、ルシンダさんのアドバイスは、家族や友人と意見が合わないときにも使えますね。
たとえば、物を増やす一方で、全く片付けない家族に考え方を変えてもらいたいとき。
いらない贈り物をしっかり断りたいとき。
他人の思考や行動はコントロールできませんが、自分の要望や意見を言うことは必要です。
そうしないと、「こんなことぐらい察してよ」と相手をうらむことになります。
自分の意見を言うときに、なぜ自分がそう思うのか、事実関係を提示しつつ話します。
このとき、相手の言うことをしっかり聞くことが大切です。
さらに、相手の話に耳を傾けて、相手の気持ちや立場を察する努力をします。
これ、すごく難しいですけどね。
無意識のうちに、相手を説得したい、言い負かしたい、自分の正しさを証明したいと思ってしまいますから。
私も夫と話すとき、そういうことがよくあります。
夫があまりにもわけのわからない理屈を言う時など。
意見の合わない人と、実りある対話をするのは、ルシンダさんの言うように、かなり高度なスキルですが、スキルなので、練習すればうまくなります。
やってみようと思うことが重要です。
エネルギーを消耗するだけで、何の実りもない、後味の悪い議論をすることに疲れた方はお試しください。